恋人はマリアさん   作:とりなんこつ

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第5話

学校から帰った僕は、すぐにシャワーを浴びる。

部屋着に着替えてリビングへ行くと、

 

ふぇっくしょん!

 

あー、さすがに10月も半ばになると夕方は冷えるなー。

そろそろシャワーだけじゃ限界で、お風呂張った方がいいかなー。掃除面倒くさいけど。

エアコンの暖房を入れるかどうかちょっと迷って、厚着して誤魔化すことにする。

さあて、今日の夕食はなんにしようかな~っと。

 

…ありゃ。

 

冷蔵庫の中のタッパーには、一皿分にも及ばない程度のカレー。おまけに具もほとんどなし。

ご飯も今朝は炊いてないから、冷ご飯が残っているだけ。

 

うーん、この組み合わせなら、カレーチャーハンが鉄板なんだろうけど…。

 

朝や昼はともかく、夕食ならもう少しガッツリ行きたい。

だとすると…。

 

よし!

 

フライパンに火を入れバターを溶かす。冷ご飯を投入して炒め、バターライスを作る。

これを耐熱皿に敷き詰めて、冷たいカレーを伸ばして載せる。

それだけじゃ寂しいので、ソーセージとミートボールをちょこちょこ。

最後にトロけるチーズをかけてオーブンで焼けば、簡単チーズカレードリアの出来上がり。

 

うん、焦げてぐつぐついうチーズが香ばしい。

では、頂きま~す…。

 

ピンポーン

 

…誰だろう?

 

インターホンに向かえば、元気いっぱいの声。

 

「ハルトぉ! 開けて下さいデス!」

 

「こんばんは」

 

切歌と調だ。どうしたんだろう?

まあ、いいや。

 

ほいほい、エントランスのロックは外したよ。僕の家まで上がってきてよ。

 

そして数分後、二人は僕の家のドアを叩く。

 

どうしたの、こんな時間に?

 

「えへへ、お裾分けデース!」

 

そういってビニール袋を手渡してくる切歌。

 

なにこれ? …生モツ?

 

「馴染みのお肉屋さんが、サービスだっていっぱいくれたの」

 

調はそういっているけど、牛の生モツって結構お高かったような。

つーか、女子高生が牛モツをどっさり持って歩いている絵面がすげえな…。

 

「これで牛モツカレーでも…ってすっごい良い匂いがするデース!」

 

止める間もなく僕の脇をすり抜けて玄関から上り込む切歌。

 

「あ、こら、切ちゃん!」

 

調と一緒に追いかければ、すでにリビングで切歌がカレードリアを頬張っているところ。

 

「うーん、熱々のチーズが堪らないデース!」

 

それ、僕の夕食なんだけどな…。

 

「ごめんなさい…」

 

いや、調が謝ってくれても。

 

「でも、量が足りないデス! お代わり希望デス!」

 

こっちは少しは遠慮って言葉を覚えようか。

 

調に「ステイ!」って切歌が正座させられている。

一応反省しているらしくシュンとしている切歌を横目に、僕はこの大量のモツの処遇を考えていた。

牛モツカレーも確かに美味しそうだけど、さすがにこの量を一人では持て余しそう。

 

…二人とも、夕食はまだなのかな?

 

「はい。切ちゃんは今食べちゃったけど」

 

それは分かったから。

 

答えつつ、僕は冷蔵庫を漁る。キャベツに、豚ニラカレー用のニラ、カレー炒め用のもやし。

うん、出来るじゃないか、大丈夫。

 

それじゃあ、今からモツ鍋作るから、一緒にどう?

 

「え?」

 

「いいんデスか!?」

 

もちろん。鍋はみんなで食べた方が美味しいからね。

 

 

 

 

 

鍋を用意し、キャベツを刻んでいると、切歌が面白そうにキッチンを見回している。

 

「へえ~。スパイスとかたくさんあるんデスね」

 

「そういえば、マリアが自分のためだけにオーダーしたカレーを作ってもらったって感激していたよ?」

 

調の言葉に、

 

ああ、そう。

 

ってクールに返したけど、内心ではガッツポーズを決めていた。一人だったら、間違いなく丸めた布団にジャーマンスープレックスをかけていただろう。

それは後で実行するとして、マリアさんがそんなこと言ってくれたなんて。

嬉しすぎて、指ごとニラを切り落としそうになった。危ない危ない。

 

「ん~。でも、ハルト。マリアのお好みでスパイスを調合したりして作るの、大変じゃないデスか?」

 

そりゃたしかに大変だよ? スパイスの組み合わせなんてほぼ無限だから市販のルウを使ったほうがハズレないんだ。

でも、独自の組み合わせとかが食材にピッタリハマった時が嬉しくてね。はっきりいって面倒くさいけど、その面倒くささが楽しいっていうか…。

 

「なら、アタシにもお好みでカレーを作ってくれないデスか?」

 

やだよ、面倒くさい。

 

「…………」

 

切歌が不機嫌そうに頬を膨らませている。

調が良く意味の分からないことを言ってなだめていた。

 

「切ちゃん、それはハルトの彼女にならなきゃ無理な相談だよ?」

 

「…アタシがねふぃりむだったら、ハルトを頭からバリバリ食べてるとこデスよ」

 

ところで、僕が作っているのは、もちろんただのモツ鍋じゃあない。

鍋の割り下は、濃いめの麺つゆ。そこに市販のカレールウを1/8ほど投入。

キャベツと牛モツの順で盛り付けて、天辺にはニラ。最後に唐辛子とカレーのスパイスを振って完成だ。

 

はい、特製カレーモツ鍋だよ~。

 

先ほどの不機嫌もどこへやら。ぐつぐつと煮える鍋に、ごくりと唾を飲み込む切歌。

 

「ハルト、どうせならマリアも呼んだら?」

 

調の提案に、僕は考え込む。

…ついこの間、自宅に呼んだばかりなのに?

でも、確かにこんな機会でもなけりゃ、呼べないよな。

つーか僕、マリアさんにこっちから電話したことないじゃん!

 

調の言うとおり、せっかくのチャンスだと思おう。

スマホを取りだした僕はおそるおそるマリアさんの番号を発信する。

掛けてから気づく。

いきなり掛けて大丈夫かな。忙しくないかな。断られたりしないかな…。

 

『…もしもし?』

 

あ、は、ハルトです! こんばんはッ!

 

『どうしたのいきなり? …でも、考えてみれば、あなたから電話もらうのはこれが初めてかしら?』

 

そ、そうですね! それでですが…。

 

テーブル前を見る。

調はじっと僕を見て、切歌は早く食わせろって感じの獣の目をしていた。

 

えーと、ですね。いま、僕の家に、調と切歌が来てまして…。

 

『二人が!? まさか夕ご飯をタカリに来たとか!?』

 

いえ、そうじゃなくて、たくさんの牛モツを差し入れしてくれましてね!

モツ鍋を作ったので、マリアさんも一緒にどうかと

 

そこまで言いかけたとき、切歌にスマホを奪われる。

 

「マリアも早く来ないと、ハルトも一緒に食べちゃうデスよ!?」

 

お、おい、こら! スマホ返せッ!

えーと、マリアさん? 牛モツはたくさんあるんで…。

 

『―――10分で行くわ』

 

ガチャッ

 

あれ? マリアさん? おーい、マリアさん!?

 

「マリアはなんていってました?」

 

…多分来るんじゃないかなあ?

 

それでもさすがに10分では来られないだろう。

分かった分かったよ、切歌。先に食べてようぜ?

 

それぞれの小鉢によそい、割り箸も手渡す。

飲み物の冷たい麦茶も渡して、では頂きますか!

 

「ん~! ぷりぷりのモツがとっても甘くてジューシィデース!」

 

「カレーがモツの臭みを消して、更に旨味を増しているッ!?」

 

大喜びの二人に、僕も一緒に舌鼓を打つ。

うん、塩、みそ、醤油もいいけれど、僕は断然カレー派だぜ。

よし、じゃあ二杯目をよそうよ…?

 

ピーンポーン!

 

…あれ? マジで10分くらいしか経ってないんだけど、まさか!?

インターホンのディスプレイを見れば、

 

『こんばんは。開けてもらえるかしら?』

 

は、早いっすよ、マリアさん!? つーか、エントランスのキーは開けたつもりはないんですけど?

 

「ちょうど宅配ピザの人が来たから便乗させてもらったわ」

 

ドアを開けた玄関で、コートを脱ぎながらマリアさん。

 

…ここまでどうやって?

 

「ちょうど近くにいたから、タクシーを飛ばしてきたわ」

 

その包み紙はなんですか?

 

「焼酎よ。途中で買ってきたの」

 

…焼酎を買いつつ本当に10分で来るなんて、凄い行動力だな…。

 

「あ、マリア! 先に食べてるデスよ!」

 

「おかえりなさい」

 

なんか自宅みたいにくつろいでいるけど、ここは僕んちよ?

 

「ハルト、悪いけど、コップに氷とお水を貰えるかしら?」

 

はいはい。

それじゃあ、マリアさんも来たことですし、改めまして。

 

「いただきますデ~ス!」

 

つーか、切歌、おまえさっき僕の夕飯のドリアも食べてたじゃん!

 

「もつ鍋は別腹デ~ス!」

 

さいですか。

 

「でも、あまり食べすぎると太っちゃいそう…」

 

んー、モツのコラーゲンはお肌にいいみたいだし、唐辛子のカプサイシンとかカレーのスパイスには脂肪燃焼効果があるから、そんなに悩まなくていいんじゃないかな?

 

「そうなんデス!?」

 

「そうなの?」

 

そもそも調はもう少し肉を付けた方がスミマセンなんでもないです。

 

「うーん、モツ鍋には焼酎よね♪」

 

マリアさんもお気に召したようで何よりです。

 

「このカレーの味付けは絶品だわ」

 

ですよね? やっぱりモツ鍋ったらカレーですよね?

 

「それはともかく、なんか切歌と調までそろってお邪魔しちゃって、悪いわね」

 

いえいえ気にしないでください。鍋はみんなで食べたほうが美味しいですし。あ、追加のモツも入れますね。

 

「んー、このカレー味! 白いご飯が欲しくなるデスよ!」

 

あ、ごめん。ご飯ないんだ。それとも炊こうか?

 

「それはさすがに図々しいよ、切ちゃん」

 

まあ、とりあえず〆の一品はあるからさ。

 

「ずばり、うどんじゃないデスか!? カレーうどん!」

 

ふふふん、さあてどうだろ?

 

…よし! あらかた具材も食べ尽くしたね。

それじゃあ、これを投入だッ!

 

「これは!?」

 

「さっきからフライパンで何か焼いていたと思ったら!」

 

「お餅、デスとぉ!?」

 

さらにカレールウもほんの少し足して残ったスープの味と粘度を増す。

そしてトドメは、くらえッ!

 

「…トロトロになったお餅に、さらにトロけるチーズを載せるなんて! こんなの絶対美味しいに決まってるデス!」

 

へっへっへ、そーだろそーだろ! リゾットや麺類も悪くないけど、カレーチーズ餅こそが最強だね!

 

「…熱々のお餅がカレーとチーズに絡んで…!」

 

「とろけたお餅がホルモンの欠片と一緒に…もう最高デース!」

 

ふっふっふ、落ちろ! 落ちたな!

さて、マリアさんもお餅食べるでしょう? 幾つ行きます?

 

「わたしは一つにさせてもらうわ」

 

…賢明な判断かと。

 

ニヤリと笑いを交わし合う、僕とマリアさん。

 

「ハルトぉ! 激しくお代わりを希望デス!」

 

マジか? もう全部くったのか? はいはい、でも太ってもしらねーぞ!

 

「こうやってたっぷり唐辛子を振ってるから大丈夫デース!」

 

「唐辛子の辛味が、カレーとチーズのまろやかさを更に刺激して…!」

 

調も、そんなに食って大丈夫なの?

 

 

 

 

 

 

 

「…うぷッ。もう食べられないデース…」

 

ったりめーだ。1kgの切り餅パックの半分近く食べやがって…。

 

「切ちゃん、寝っころがっちゃはしたないよ」

 

「この家は凄く落ち着くんデスよ…。なんでだろ?」

 

知らんがな。つか、片付け手伝え。

 

「ごめんなさいね。わたしが手伝うから」

 

マ、マリアさんは座ってて下さいよ!

 

「どうして私は座ってちゃダメなの?」

 

調もいっぱい食べただろ? 食ったら働け!

 

マリアさんに調、三人肩を並べて後片付け。

もちろん部屋中にカレーのスパイシーな匂いがしているんだけど、ふわんとマリアさんからは良い匂い。

 

「ハルト、鼻の下が伸びている」

 

え、え?

 

調の指摘に慌てて触れると、手の泡がついちゃったらしい。

遠慮なくマリアさんと調に笑われた。

でも、悪くないな、こんなの。むしろ楽しい。

 

「またご馳走になっちゃったわね」

 

いえ。本当気にしないで下さい。

 

「…今回はデートにカウントしなくていいのかしら?」

 

悪戯っぽいマリアさんの目。

調がしゃがんで切歌の看病をしているのを確認してから、小声で答える。

 

…やっぱり、デートは二人きりがいいです。

 

僕なりに、精一杯の勇気を出した答えだ。頬は赤くなってないだろうか。

 

「おっけ」

 

そういって笑ってくれたマリアさんの笑顔はとっても素敵で―――僕の心臓は変なリズムを刻む。

…あれ? これって緊張している時とは少し違う…?

 

「さて。切歌も動けないみたいだから、タクシーを呼ぶわ」

 

そういってマリアさんが自分のスマホを耳に当てている。

ひっくり返った切歌を調が引っ張り起こそうとしていたので、僕は手伝うことにする。

 

「あ、ハルト。せっかくだから私と連絡先を交換しない?」

 

調からそう提案された。

 

「…アタシもするデース」

 

苦しそうに切歌。

 

分かった。こっちからもお願いするよ。

 

スマホを引っ張り出しながら、僕は否応もない。

マリアさんの家族ということで、有力な情報ソースになってくれる二人だ。

それを差し置いても、この二人とは良い友人関係を作れそうな気がする。

 

「下にタクシーが来たみたい」

 

マリアさんの声。

 

「それじゃあお邪魔しました」

 

「御馳走さまデース…」

 

切歌を支えて、よっちらおっちらと調が玄関から出て行く。

 

「今日はありがとうね」

 

残ったマリアさんが僕に向かって言った。

 

全然。僕も楽しかったですから。

 

そう答えると、マリアさんはじーっと僕を見てくる。

お酒を飲んでいたせいか頬は赤く、もつ鍋を食べたせいかプルンとした唇がすごく色っぽく見えて、その、困る。

 

「ハルト…」

 

マリアさんが僕の名を呼んだ。

 

はい?

 

返事をし、僕は続きを待った。しかし、それだけで、マリアさんは恥ずかしげに眼を伏せてしまう。

 

「おやすみなさい」

 

最後に、僕の顔を見ずにそう言ってマリアさんは帰って行った。

ふわんと良い匂いだけを残して。

 

…なんだろう? 何が言いたかったのかな?

 

リビングに戻れば、誰も居なくて静かだ。でも、さっきまで確かにいたんだ。切歌に調。そして世界の歌姫と呼ばれるマリアさんが。

これってやっぱり、無茶苦茶凄いことなんだぞ!?

 

ようやく実感がわいてきた僕は、喝采を上げながら飛び回る。

それから自室へ行くと、遠慮なく丸めた布団へジャーマンスープレックスを決めまくり、力尽きて寝た。

おかげで翌朝分のカレーの仕込みを忘れ、大変不本意ながらコンビニのカレーパンを齧りながら登校する羽目になった。

 

おまけに翌日に、調と切歌から初メールが来た。

そんで二人とも文面は一緒。

 

『嘘つき嘘つき嘘つきッ!!』

 

いや、あれだけ食べればねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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