恋人はマリアさん   作:とりなんこつ

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第9話

ちょ、ちょっと待って。OKOK、落ち着こう。

あのさ、カレーがそれだけ売れたってことだろ? 売れりゃなくなるわけで、何が問題なのさ?

 

そういうと、受話器の向こうの小金井の声はほとんど泣きそう。

 

「それが…出ちゃったの」

 

出ちゃったって…まさか!

 

カレーがメインといえ、もともとの母体はメイド喫茶だ。

メイドさんとの遊びというかサービスというかそんな感じで、メイドさんとじゃんけんして勝てばクジが一枚引けるというイベントを行っている。

およそ千枚のクジの中にある数十枚の当たり券は、お代半額、コーヒー1杯サービス、スマイルプレゼントといった他愛のないものばかりだ。

ただ、そんな千枚の中にたった一枚だけ入ったプラチナチケット。

 

「そう、お代わり無料無制限が出ちゃったの…」

 

い、いやいやいや。それが出たとしても、せいぜい食べて3杯程度だろ?

そんな半分近く無くなるまでって、プロレスラーか相撲取りでも来たのか?

 

「ううん、リディアンの制服を着た、とっても仲の良さそうな二人組。その片方の子が、美味しい美味しいって本当に物凄い勢いで…」

 

そのあまりの食べっぷりのよさに、店員らクラスメートたちは、ただただ呆気にとられるしかなかったという。

 

しっかし、リディアンの制服で仲良さそうな二人組ね…。

 

目前の切歌と調を見る。さすがにいま僕たちといるんだから、彼女らはシロだろう。だいたい切歌だってそんなに食えないだろうし。

 

「どうしたの、ハルト?」

 

心配そうなマリアさんに、掻い摘んで説明する。

 

リディアンの女生徒に、無料お代わりでしこまたカレーを食べられてしまったと説明したくだりで、

 

「あ」

 

と三人そろって口を開けてくれた。

続けて気まずそうな顔つきになる三人に、何か知っているな? と思ったけど詮索は後だ。

 

とにかく、売れてカレーが無くなるのは基本的に当たり前で結構なことだ。

しかし、お代わり無料券でたらふく食べられてしまえば、当然その分は売り上げには直結しない。

ここで仕方ないと諦めるには、僕らは綿密な売り上げの計画を建てすぎている。

このまま売上が不足すれば、打ち上げの駅前の焼肉食べ放題の予約がフイになってしまうだろう。

 

…実際のところ、十分すぎるほどカレーを準備した僕に責任はないと思う。

だからといって何もしないわけにはいかないだろ?

 

…すみません。僕はこれから教室へ戻らなきゃいけないんです。

 

―――だから今日のデートはここまでに。

そう続けようとした僕を遮るようにマリアさんの声。

 

「わかったわ。わたしに何か手伝えることはある?」

 

いいんですか?

 

「彼氏が困っているんだもの。彼女が協力しないでどうするの?」

 

…ッ! …ありがとうございます。

 

「それじゃあ、アタシたちはそろそろ」

 

いや、おまえらも手伝え。

 

「え?」

 

原因は同じリディアンだからな。連帯責任だ。

 

「そんな理不尽デースッ!」

 

 

 

 

 

 

 

僕らのクラスの教室は2/3を区切って食堂にし、残りの1/3が厨房というかスタッフルームになっている。

スタッフオンリーと張り紙のしてあるドアを開けると、一瞬だけ僕らに視線が集中。

驚いた小金井はメイドさん姿で、結構可愛いと思う。

そんな僕の個人的な感想なんぞ押し流して、またぞろ溢れ出す喧騒とカオス。

 

「じゃあ、どうすんだよ? このカレー売り切っても、赤字かトントンだろ?」

 

「その分、メイド喫茶で補填できないか?」

 

「ガレットの売り上げを増やせれば…」

 

「いや、もう色々と無理だろー」

 

「あたし、焼き肉店に予約のキャンセルしてこようか!?」

 

あの、現状はどれくらいカレーは残って、客の入りはどんな感じなんだッ!?

 

僕が声を張り上げるも、皆の悲観的な声の波に飲み込まれて消える。

 

その時だ。

 

「うろたえるなッ!」

 

ピンと芯の通ったマリアさんの声。

視線がマリアさんへと集中する。

 

「ご、ごめんなさい」

 

すかさずぺこりと頭を下げるマリアさんだったけど、せっかく束ねてもらった視線を僕は逃さない。

 

誰か! 現状の報告と確認を頼む!

 

弾かれたように顔を上げたのは小金井。

 

「え、えーと。今残っているカレーは、鍋一杯ぶんくらい? お客の入りと捌け具合からして、あと一時間はもたないと思う…」

 

時計を見る。12時過ぎの掻き入れ時だ。小金井の推察は正しいと思う。

なら、そのおよそ一時間で、何をするべきだ?

決まっている。新たなカレーを作って売り抜けるしかない。

 

材料は、何がどれくらい残っているっけ?

 

「ご飯は多めに準備しているけど、ルウも材料も、あまり残ってないはずだよ…」

 

悲観的な声を出すメイドさん2号。

 

なら、材料の買い出しを!

 

「それはダメなんだよ」

 

斉藤の声。

 

「以前、文化祭実施中にバックれた連中がいてな。文化祭中は生徒が学校の敷地内から出るのは御法度になったんだ」

 

そんな…ッ! さすがにこの材料だけじゃ追加のカレーは作れないぞ!?

 

「だったら…諦めるしかないのか…?」

 

項垂れる斉藤に、僕は顔を上げる。ここでグジグジ悩んでいても仕方ない。

 

取り敢えず、今のカレーは捌けるだけ捌いてくれ。

僕は家庭科室に行っているから、手隙の人は一緒に来て!

 

僕が教室を出ると、四、五人の生徒がついてきてくれた。もちろんマリアさんたちも一緒だ。

無人の家庭科室は、先日まで煮込んでいたカレーの匂いがまだ残っている。

匂いはともかく、まずは材料がどれだけ残っているかを把握しなくちゃ。

…玉ねぎは結構残っている。他の野菜はほんの少しずづで、スパイスは風味づけ程度。肝心要のルウは…くそ、やっぱり少ししか残っていないのか。

 

「これだけでも一応作れないデスか?」

 

そりゃ作れるよ? でもある程度の量を作らなきゃ駄目なんだ。

 

「じゃあ、薄めたらどうかな?」

 

ジャバジャバのカレーじゃ、ご飯にかけても。

 

切歌と調の提言に耳を傾けながら、僕は必死で頭を回し続ける。

やっぱり限られた材料で少しの量でも追加のカレーを作るしかないのか? せめてもっと材料があれば…。

 

「いっそ、他のクラスから買ってくるか? E組は確かハヤシライスだったろ?」

 

「ばっか、そんなの買ってきて売ったとしても赤字になるだろうが」

 

「そこは、ほら、メイドさんの付加価値を付ければなんとかなるんじゃない?」

 

ついて来たクラスメートたちの会話に、僕はハッと顔を上げる。

 

…斉藤。

 

「ど、どうした?」

 

よそのクラスから、足りない材料を購入するのは違反にならないのかな?

 

「そりゃ違反にならないだろうけどよ、買ってきたものを右から左へ流すのは色々とヤバいだろ?」

 

ああ、もちろん分かっているさ。

 

テーブルの上に文化祭のパンフレットを広げる。探すのは、食べ物系の店舗を運営しているクラスだ。

 

…よし! 誰か、表のバスケ部の屋台から焼き鳥を買ってきてくれ! 正肉を出来るだけ!

 

他に、B組のうどん屋から出汁をわけてもらってきて。インスタントでもなんでもいい!

 

それと、茶道部が甘味処をやっているな? 確か葛餅を出すっていっていたから、葛が余ってないか訊いて、余っていたら譲ってもらってきて欲しい!

 

あとは、料理研が天然酵母のパンを売りに出している。バケットっぽいのがあったら買ってきてくれ!

 

「わ、わかった。任せとけ」

 

僕の矢継ぎ早の命令に、斉藤を筆頭に次々とクラスメートたちが家庭科室を出て行く。

残ったのはマリアさんと切歌に調だけ。

 

じゃあマリアさんはお湯を沸かしておいて貰っていいですか?

そんで、切歌と調には、この玉ねぎを…。

 

「わかったデス! 細かく切っておくデスね!?」

 

いや、卸金で摩り下ろしておいて。

 

「なんデスと!?」

 

叫ぶ切歌に詳しい説明をしている暇はない。

 

「とりあえず、買えるだけ買ってきたぞ!」

 

さっそく焼き鳥を抱えた斉藤が到着。

 

OK、塩味で上等だ。

 

マリアさんと協力して串から鶏肉を外していく。

 

「出汁を貰ってきたよ。顆粒だけど」

 

よしよし。

 

「とりあえず使わなかった葛、余ってたの全部貰ってきたけど…」

 

…よしッ! これでなんとかなりそうだッ!

 

「ハルト、あなた何を作ろうとしてるわけ?」

 

マリアさんの台詞に、まあ見てて下さいよ、と僕は煮え立つお湯に出汁を注ぐ。それからルウを溶き、心持ち胡椒を強めに利かせた。

そこに焼き鳥串から外した鶏肉を放り込んで少々煮込めば、即席の和風出汁のチキンカレーになる。

 

「でも、こんなシャバシャバじゃ…」

 

調が心配する通り、これをこのままご飯にかけちゃ、お茶漬けみたいな感じになるだろう。

圧倒的にルウが足りない上に、一緒に野菜などを入れて煮込んでないので、トロミがないからだ。

もちろん今はそんな時間も材料も不足してるので、僕が次善の策で用意したのが、この葛だ。

これを溶かしこむことによって、トロミを即席で付加してやるってわけ。

なんか半透明で天津飯にかける中華餡みたいな感じになるけれど、これでライスの中に浸透してシャバシャバになることはない。

 

ほら、マリアさん。試食してみてくださいな。

 

「…あっさりしているけど確かにチキンカレー風で美味しいわ」

 

よしッ、取りあえず代替えがこれで一つ。

コクは足りないだろうけど、そこはマリアさんも言った通りあっさり風味で売りに出そう。

 

切歌、調! そっちの方はどうだ?

 

「玉ねぎを摩り下ろすと、滅茶苦茶目に染みるデス! 涙が止まらないデスよ~!」

 

「あ、切ちゃん、摩り下ろした手で目を拭っちゃあ…」

 

「ぴぎゃあああああああああああああ!?」

 

悶絶している切歌を横に、たっぷりとタッパに摩り下ろされた玉ねぎを見る。

くわ、すげえ目に来る。

急いで蓋をしながら礼を言う。

 

ありがとう。これをニンニクと炒めて、あとは…。

 

「パン買ってきたけど、これでいいの?」

 

食パンタイプだね。それじゃあこれを薄切りにして、そこから更に四等分にしよう。

 

指示を出しつつ、でかい鍋の底にオリーブオイルを引き、摩り下ろした玉ねぎを炒めて行く。

 

あ、残った野菜も全部入れちまうか。…マリアさん、みじん切りでお願いできますか?

 

「了解。任せて」

 

凄い手際をマリアさんが発揮し、野菜は見事なまでに細かく切断されていた。

その野菜も加えて、さらに炒めて行く。

炒まったところにお湯を注ぎ、固形スープも溶かす。残していた焼き鳥と一緒にありったけのローリエをぶち込んだ。

そうしておいて、これまた残ったルウを一欠けらも残さず投入。

これでスープカレーは殆ど完成。

塩コショウで味を調え、深みを出すために、残っていたケチャップやソース、醤油もありったけ入れちゃえ。

 

じゃあ、今度は調、味をみて。

 

「うん。…あ、玉ねぎの甘味があって、これだけでも美味しく飲めそう」

 

…よし! 和風チキンカレーから教室へ運んでくれ!

スープカレーの方は、レモンティー用のレモンの薄切りがあるだろ? それを三枚くらいと、パンとセットで別皿で提供するんだ!

スープカレーには、お好みでレモンを絞ってもらえば、よりさっぱり食べられるように仕上げてあるからッ!

 

僕の指示に従い、家庭科室から鍋が教室まで運搬されていく。

とりあえず、出来ることはやりきった。細工は流々とはいえないけど、あとは天命を待つしかない。

 

 

 

 

 

 

結果から言ってしまおう。

僕らのクラスのカレーとガレッドは、ランチタイムも終わる14時少し前に無事完売。

即興で作った割には、和風チキンカレーもスープカレーもソコソコ好評だった。

僕的には不本意な出来だったから、牛スジカレーに比べて少し値段を下げたのも功を奏したのかな?

売上的にもどうにか目標を達成して、打ち上げもキャンセルせずに済みそうだった。

 

ホッと肩の荷が下りた僕はマリアさんと再び文化祭を堪能。

切歌と調は、後片付けをしている教室で、クラスの女子からメイド服を着せられたりして遊ばれていたから、二人きりでゆっくりと回る。

13時からの軽音部のライブも聞きたかったけど、残念ながら終わっていた。

 

いや、五人組の女の子がやってるんですけどね。左利きでギターを弾きながらツインヴォーカルやっている子がいるんだけど、マリアさんに声がそっくりなんですよ? まあ、歌唱力を比較するのは烏滸がましいですけど。

 

「へえ~」

 

マリアさんも興味深げな声を出してくれたけど、これはまたの機会に譲るしかない。

替わりに体育館のステージではベストカップルコンテストとかってのが催されていた。

飛び入り上等とかであやうく僕とマリアさんもステージ上にあげられそうになったけどこれは割愛。

そんで、ベストカップル最優秀賞に選ばれたのは、なんとリディアンの制服を着た女の子の二人組。

仲良く手を繋いでいる姿は、同性同士なんだけど不思議と違和感がなくしっくりくる。

 

まあ、いまや時代はジェンダーフリーですからねー。

 

僕がそういうと、マリアさんの顔つきが微妙そのものって感じになっていた。

ふと、リディアンの制服を着た仲の良さそうな二人組の片割れがカレーをしこたま食べていった、と伝えたときのマリアさんらの反応を思い出す。

 

…もしかして、あの子たちって、マリアさんの知っている人だったり?

 

「…ええ。よーく知っている子たちよ」

 

溜息をついて肯定したあと、マリアさんに手を引かれて体育館を出た。

こっちが見つかると面倒臭いことになるんだって。

 

「ごめんなさいね、色々と」

 

気づけば、すっかり日が暮れつつある校庭の片隅で。

一緒にベンチに座りながらマリアさんに謝られてしまった。

 

別に謝られることはないですよ? むしろこっちこそ手伝ってもらって助かったし…。

 

不思議に思ってそう問い返す。

 

「いいえ。大元はあの子がカレーを食べすぎちゃったことが原因だと思うし」

 

どうやら、知り合いが迷惑をかけたと責任を感じている模様。

 

まあ、あれも文化祭につきもののハプニングってことで。結果良ければ全て良しじゃないですか?

 

慰めるというより、笑い飛ばす風に言ってみた。

 

「…そうかもね。結果として、わたしもハルトたちのクラスメートの一員として文化祭に参加出来たみたいに思えたし。それに」

 

それに?

 

「あなたの格好良いとこも見られたしね」

 

へ? 僕の格好良いところ?

 

「あの土壇場を、凄い機転で乗り切ったじゃない」

 

い、いやいやいや! あれは単に行き当たりばったりが上手くいったというか!

 

つんと鼻を指で突かれた。突いたマリアさんが笑っている。

 

「このわたしが褒めているんだから、素直に受け取りなさいな」

 

…はい。光栄至極です。

 

トップアーティストとして頂点を極めたマリアさんからお墨付きを貰ってしまった。

これはこの上ない名誉で自慢だね。

 

夜の風が吹く。

運んできたのは冷たい空気ばかりでない。木の焼ける熱と匂いも運んでくる。

校庭の中心では、いまや赤々とキャンプファイヤーが燃えていた。

今日の文化祭のクライマックスにして最後の締めくくり。

薄暗い中、その周囲を、たくさんの生徒たちが輪になって踊っている。

見ればクラスメートたちもいて、小金井や斉藤の姿もあった。

 

…そういえば、あの二人。

文化祭の準備をしている放課後に、人目につかない廊下の奥で、斉藤が泣いている小金井を宥めている姿を見た。

痴話喧嘩かな? と僕は急いでその場を離れたけれど、今はああやって一緒に踊っているんだ。きっと仲直り出来たんだろうね。

 

「ねえ、ハルト。わたしたちも踊らない?」

 

マリアさんが言ってくる。

 

いえ。

 

断っておいてベンチから立つ。

それから座ったままきょとんとしているマリアさんに向かって、恭しく手を差し出す。

 

僕からお願いさせて下さい。踊っていただけますか、マリアさん?

 

「…ええ、喜んで」

 

そういうわけで、僕たちもキャンプファイアーの輪へと加わった。

もちろん僕にダンスの心得はなく、終始マリアさんにリードされっぱなしだったけどね。

でも、格好悪くたって構うものか。

オレンジの炎に照らしだされたマリアさんはずっと笑顔で、そしてとても綺麗だったんだから。

 

かくして、僕の念願だった目的は果たされ、青春の1ページは永遠となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもって今回の話のオチ。

 

翌日の月曜日は振替休日なわけで、その夕方。

学校帰りの切歌と調に、僕はスイーツバイキングへと連行されていた。

 

「労働に対する当然の対価デース!」

 

いや、まあ、奢るのは構わないけどね…。

 

僕も実は甘いものは苦手じゃない。

けれど、男一人ではなかなか入りづらいので、二人の提案は渡りに船だったりする。

 

「って、なんでここでもカレー食べているの?」

 

調に驚かれる。

 

最近のこの手の店は、サイドメニューでピザやパスタ、カレーの食べ放題付きは鉄板だし。

味もなかなか侮れないしね。

 

「はあ。もうハルトの好きにするデース」

 

諦めたように切歌はケーキにパクついている。

 

それよか、二人に訊きたいことがあるんだけど。

 

実は先日のクラスの打ち上げを、僕はバックれていた。あの後、マリアさんと電車に乗って横浜に中華を食べに行っている。

バックれた件を咎める連絡や、不思議とマリアさんに関する質問的なメールもなかったんだけど、代わりにクラスの男どもから幾つもメールを貰っている。しかも内容は全部同じ。

 

あのさ。リディアンの知り合いがいるなら誰か女の子を紹介してくれって言われてんだけど…。

 

誰か心当たりない? って尋ねたけど、切歌も調も首を振るだけ。

まあ、考えてみりゃ、僕とこの二人の付き合いも短い。

はっきりいってそんな浅い伝手を期待されても困るってこった。

 

クラスメートへの義理は忘れ、僕もケーキを頬張る。

ケーキ。カレー。ケーキ。カレー。

 

うん、甘いものばかり食べ続けるのはさすがにキツいけど、合間合間のカレーが良い口直しになるわー。

 

「…そうなんデス?」

 

興味を示す切歌に、

 

「駄目だよ、切ちゃん。カレーまで食べちゃさすがにカロリーが危険で危ないことに…!」

 

と調。

 

あ、カロリーが気になるなら、二人ともミルクティーとか甘いの飲まないでウーロン茶飲もうよ。口の中もさっぱりするし、脂肪をつけない効果もあるらしいぜ?

 

「なら、ウーロン茶に切り替えればもっと食べられるってことデスね?」

 

目を輝かせる切歌に、ちょっとからかってみたくなる。

 

えーとね、もう30年以上前に流行ったんだけど、カロリーゼロ理論って知っている?

 

「なにそれ?」

 

調が興味を向けてきた。

 

白いモノはカロリーゼロ。丸いものはゼロだからカロリーゼロってヤツさ。

 

「本当デスか!?」

 

他にも、ほら、いま切歌が食べているシフォンケーキなんかふわふわしてるじゃない? ぎゅっと潰せば、全然厚さもなくなって薄っぺらになるでしょ? そんなものにはカロリーは存在しないって考え方なんだよ。

 

「うおおおッ!? ホントデス! こんなに小さくなっているデス!」

 

「こんなに薄くなるってことは、それだけ栄養がないってことだよね!」

 

調こそ栄養がないから部分的にそんなに薄いんじゃなスミマセンなんでもないです。

 

「そもそもホールケーキが丸いからカロリーゼロデスねッ!」

 

「パンナコッタなんて真っ白だからカロリーゼロなのッ!」

 

おーい、二人ともー。それって冗談だよ、ジョークだよー。おーいってば。

 

皿の上のものを猛スピードで平らげて、切歌と調はケーキコーナーへと走って行ってしまった。

 

…ま、いいか。バイキングだもん。好きなだけ食べればいいよ。

 

 

 

 

そんでもって翌日、二人からまた文面が一緒のメールが来た。

 

『嘘つき嘘つき嘘つきッ!』

 

 

 

いや、もうほんと学習しないねキミたちは?

 

 


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