「とりあえずは…」
連邦の整備士リチャード・オッド、と名乗っていたジオン兵、リオ・アークライトはズィーガーのコックピット内に座り、座席付近に掛けられていたズィーガー専用のヘルメットをかぶり、操縦桿を握った。
なんとも簡単に強奪への一歩が決まってしまった。
そう思い、彼は首を振り、目が悪いでもなく変装の為にと掛けていた眼鏡を振り落とす。
「(いや、強奪という任務はまだ始まったばかりだ、キツいのはこれからか)」
「よしっ…行くか!」
そんな気合の入れる為の声を放つリオ。
そして、ズィーガーを起動させる。
それとともに自分の目の前に景色が広がる。
そこは連邦の格納庫。
機体のカメラが異常なく作動しているのを確認するとリオは機体を数歩、歩かせる。
いきなりズィーガーが動き始めた為に、連邦の軍事関係者たちが口々に驚き、声を上げている。
それをリオは当然の事と軽く流し、1人の少女を探すために辺りを見回す。
「…ん?」
見つけて、リオはため息をついた。
「(あいつ、捕まってるじゃねぇか…)」
そこにはリオと同じくガンダム強奪の任に着いていた仲間。女性らしいとはあまり言えないボサボサとしたエメラルドグリーンの髪の女性隊員。名前はオレット。
現在、近くにいる連邦の兵士に投げ技でも決められたのだろう。床に横たわっている。
その光景に軽く呆れていると、その兵士と視線がぶつかった。
その瞬間、オレットが兵士の拘束の手が緩んでいたのか、拘束を振り切って駆け出す。
これはチャンスだ。
瞬間的にそう思い、リオは一度閉じていたコックピットハッチをまた開く。
「(この場合、もう一機の強奪対象は諦めて、オレットの回収を優先させるのがよさそうだな)」
今回の任務は迅速な行動が最重要なのは言うまでもないのだが、この作戦のために作られた部隊の隊長は、任務よりも部隊員の命を優先させるという今時には珍しい信条を持つ人だった。
リオもそれに少なからず賛同している。
その証拠にリオは、スピーカーで自分の声を響かせ、拘束を抜け出した仲間に言の葉を飛ばした。
「乗れっ!じゃじゃ馬娘!!」
数分後……
「…ここら辺に…おっ、あったあった」
あの後、バーニアをフル稼働させて全速力で基地を出た。
この状況に置いて、あまりノロノロとするのは任務の成功確率を下げるだけ。そう思った上での行動だ。
エネルギーの消費はとんでもないが、仕方がない。
リオは機体を膝立ちにさせてコックピットを開き、オレットがいつでも降りられるようにする。
ズィーガーが地面に着いた膝の手前には密林の草木に溶け込み、カムフラージュされたシート。
そこから少しはみ出た部分に見えるエメラルドグリーンの塗装した装甲から、オレットの機体であろうとリオは思った。
もし、強奪に失敗した場合はこの場所にある機体でもう一機の作戦エリア脱出を手伝うなり、追っ手の迎撃なりを行えと出撃前のブリーフィングで聞かされていた。
だが、このシートの下には見る限り一機しかなく、あるのはオレットの機体だけ。オレットが失敗するのを見越したような準備だが、そこは言わないでおくべきだろう。
「それじゃあ、必ず持って帰ってきなよ?」
「おう、勿論だ」
それだけ短く言葉を交わすとオレットはコックピットから飛び降りる。そしてシートの中の機体に向かい、コックピットに入り込んだ。
オレットの機体、ザクが起き上がり、こちらに親指をたてる。
御武運を、そんな感じだ。
そしてバーニアを展開し、こちらに向かってくる敵機の迎撃へと向かい、消える。
その背中に自分も親指を立て、ズィーガーを作戦エリアの離脱ラインに向かわせた。
そのまま高速移動を行い、あと少しで離脱ラインがみえてくる。
「……よし、もう少しだな」
軽く安堵し、バーニア出力を緩めた所で――それは現れた。
「………!!」
咄嗟に機体の向きを180°ターンさせ、飛んできたビームをシールドで防ぐ。
そこには、こちらへ一直線に、単独で、他のジムなどとは比べ物にならないスピードで、こちらに飛んでくるMS、通称『ガンダム』。
今回のもう一機の強奪対象。
名前はたしか、リヴァーレ。
こちらの機体とは真逆のニュータイプ専用機。
「(…こいつばっかりは、逃がさせてくれないか)」
ニュータイプ専用のガンダム、それは一筋縄ではいかない事を示す。機体も、それに乗る者も。
だが、別に撃破をしなくてもいい。戦闘中に隙を見つけて離脱ラインまで逃げ切ればそこで終了だ。
そう考え、リオは敵意を、ズィーガーは銃口を向けた。
お互いにバーニアを使いながら、ライフルを撃ち合い、避け合い、サーベルを引き抜く。
リヴァーレとズィーガーのビームサーベルがぶつかり、火花を散らす。
リヴァーレの連邦パイロット、レイがスピーカー越しに叫ぶ。
『そこのお前!ズィーガーを返せええ!!』
ズィーガーのジオンパイロット、リオが答える。
『取ったものを意味もなく返すなんて、それは馬鹿のやることだ。俺はそんな馬鹿じゃない…!』
ズィーガーはビームライフルを数発撃つ。
『そんなもの、当たるかよ!!!』
リヴァーレはビームサーベルでビームを弾きつつ避けてみせる。
ビームサーベルを左手に持ち、右手のビームライフルを撃ちながらズィーガーが迫る。リヴァーレはビームを避けつつ、ビームサーベルを構え、ズィーガーに突撃する。
『くらえっ、ニュータイプ!』
『はあああああ!!』
ズィーガーとリヴァーレのビームサーベルがぶつかり合い、電流が流れるような独特の音を響かせる。
競り合いの末、両者は離れる。射撃戦には近く、近接戦には遠すぎる曖昧な距離を保ったまま、お互い動こうとしない。
この状況、不用意に動けば直ぐにこの機体は大破の道を辿ることをリオは感じ取っていた。
相手はニュータイプ、かたや自分はオールドタイプ、これがどういう意味をなすのかわからないほど馬鹿ではない。
先ほどからリヴァーレは異常とも言える動きを見せており、放たれたビームはそのビームサーベルで弾かれ、避けられ、一発も当たってはいない。
繊細な操縦を意味する俊敏な動きはリオに圧倒的不利を告げていた。
「(さすがニュータイプってところか。反応速度、攻撃の正確さ、すべてが異常だ)」
だが、おかしい。
先ほどからずっと自分の口角は上がってしまっている。離脱する隙を見計らっていたのは最初だけだ。
「………くく、くくくく、ニュー…タイプ!」
純粋にこの戦いを、命の駆け引きを楽しむ自分がいた。
それがわかると、余計に笑いは止まらず、一人でコクピット内で笑い続ける。この状況で笑いをこらえられない自分はきっとどうにかなってしまっているのだろう。こんな所を部隊のやつらに見られてしまうとドン引きどころではすまないだろう。
まだ一部残っていた冷静な自分がこの不利を打破する方法を考えていると、
シュイン
澄んだ音をたててモニターの左下に邪魔にならない程度で見やすい文章がならんだかと思うと、そこに小さな目と口が着いた黄色い球体が写った。
「そうか、こいつは…」
自分の頭の中に閃光が走り、頭が冴える。
忘れていたが、この機体にはAIが積まれている、名前は、U.T.K(ウトク)。
「…ズィーガーの機体性能は確かに高い。特に重装甲が取り柄だが、同時にネックにもなる。戦闘において動きが鈍重になるのは的であるのと大差ない。だが、それはズィーガーの機動力の殆どに鍵が掛けられている時のこと。重装甲のネックを補って余りあるほどの機動力をメテオールシステムで引き出し、AIはシステムとパイロットの補助をする…」
リオはブツブツと何かを暗唱する。
それはこの機体の特性についてだ。
言葉にしてリオは気づく。
この状況を打破する方法がここにあると。
一分の不動の時間がまるで一時間のように長く感じ取れた。
不動の時間を立ちきるかのようにリヴァーレはライフルをズィーガーに向けて撃ってくる。
自分が撃ったときより、正確な射撃。
何もかもあのニュータイプは自分を越えている。
そう思うと何故か笑いそうになる。リオは息を大きく吸い込んだ。
このままではコクピット直撃は確実。
それを避けるための選択として、リヴァーレの性能と互角になるために、このニュータイプに追い付くために、リオは――――
「U.T.K、コードメテオール、システム起動!!」
叫んだ。そして、
―――I'm ready.―――
短い文章がモニターに現れる。
途端、ズィーガーの目は一瞬光り、重い身なりからは想像もできないスピードのホバーでビームを避ける。
機体の各部にある様々なセンサーを通して得た情報を専用のヘルメットを介してパイロットの脳に送る。それらの情報を受け取ったパイロットには機体に起こっていることが瞬時に理解でき、まるで自らの手足のように動かせる繊細な操縦感覚の獲得を可能にし、同時に鍵の掛かったバーニアを解放して機動力も得られるシステム。
付けられた名が、メテオールシステムである。
これが起動してしまえば、パイロットは疑似的なニュータイプに、機動力はリヴァーレに匹敵する。
「…ニュータイプ、これで互角だ…!!」
ズィーガーに直撃すると思われたビームは、ズィーガーが横にホバーしたことで、当たらずにどこかに飛んでいってしまった。
「っ!!あの射線を通るビームを避けるなんて…まさか!」
ズィーガーが回避する直前、その目が一瞬光ったのが見えた。何の理由もなく目が光るわけがない。ズィーガーに何かが起きたのは確かだろう。
すると、今が好機とみたのか、ズィーガーは左手のシールドを身体の前に構え、右手にビームサーベルを持った。敵パイロットの声が聞こえる。
『…ニュータイプ、これで互角だ…!!』
ズィーガーが動く。迎撃のためにビームライフルを撃つが、機敏な動きで避け、直撃もシールドで防いでくる。そして、リヴァーレの周りを旋回し始めた。その間もビームライフルを撃つが直撃は無い。レイは撃ちながら考える。
「(あの格段に上がった機動力、動きのキレ。間違いない…噂のメテオールシステムか!!)」
連邦の一人の天才博士がズィーガーと共に造り上げた、ニュータイプにも匹敵するというシステム。ズィーガーの機体コンセプトの要である。とすると、メテオールシステムとパイロットの補助として搭載されているAIも作動しているだろう。
「早くも使いこなしてるってことかよ。くそっ!システムなんかに!」
ズィーガーは何かを待つように旋回している。ニュータイプであるレイにはその狙いが分かってしまった。だが、気づくのは遅く、その時が来てしまった。
ビームライフルの引き金を引いても、ビームが出ない。ビームライフルのエネルギーが尽きてしまったのである。緊急出撃が仇となったようだ。
『迂闊だっ…!』
そう言った敵パイロットは旋回するズィーガーに急制動をかけ、こちらに向けて接近、ビームサーベルを降り下ろそうとしてくる。反射的にシールドで防ぐ。
だが、大きく重いズィーガーが体重を掛けてくるため、シールドを両手で支えなければならず、退くに退けない状況に陥った。
『その状態がいつまで続くか、楽しみだな!』
敵の言う通り、このままではもたない。シールドはいつか切り裂かれる。この距離でのビームサーベルはニュータイプであろうと回避不可。死を待つのみだ。
だが、レイは諦めはしない。
「くそっ!まだ俺は!負けるわけには、いかない!こんなところで……!」
レイの脳裏にある場面がよぎる。
燃えるコロニーの街
逃げまどう人々
知り合いの顔、友達の顔
クラッカーを投げるザクⅡ、応戦するジム
人々の悲鳴
通信機器から聞こえる憤怒、悲嘆の声
父さんと母さんが作り上げたリヴァーレ
血塗れで動かない父さん
怪我してるのに無理に笑顔を浮かべる母さん
リヴァーレに乗せられる俺
崩壊し、父さんと母さんを押し潰す研究所
俺が泣き叫び、猛り狂う声
「こんなところで!!死んでたまるかああ!!」
意識を現実に戻したレイは、自然な動きでビームライフルの下に取り付けてあったグレネードランチャーをシールドの裏にあて、その引き金を引いた。
「いっけええ!!!!」
ズゴオォォン!!
シールドを左手ごと、ズィーガーのビームサーベルも巻き込んで吹き飛ばした。
敵は一瞬の動揺を見せる。
今のレイには、それで十分だった。
少し距離をとり、使い物にならなくなったビームライフルを捨てる。空いた右手でビームサーベルを抜き放ち、ズィーガーへ再度突撃する。
「はああああああ!!!」
まだまだバトルシーンは続きますよー。