機動戦士ガンダム0081 赤い刃と金の流星   作:T K

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第三話 ズィーガーの背

「……っっ…!!」

 

怒濤というにふさわしい勢いでリヴァーレが近づいてくる。

恐ろしい。

リオの心の中でそう思った。

人は、死ぬ瞬間が近づくと脳の記憶領域が格段と増えて、世界が全てスローモーションに見えると聞いたことがあったが、それは本当だったようだ。

モニターに映されているリヴァーレがゆっくりゆっくりと近づいて来る、リオにはそう見えた。

まるで、それは自分をあの世に送りに来た死神のようで、リオにとって、現在のリヴァーレはそれ以外の何者にも見えなかった。

 

だが、死神の鎌よりもリオの生への執着心は強かった。

 

「死ねるかっ!こんな所で…!!」

 

咄嗟にホバリングを使い、機体を右に肩幅一つ分、水平移動させる。

その瞬間、ズィーガーの左腕はビームサーベルに切り落とされた。

逆に言えば、左腕を切り落とされただけ、だった。

 

「…てやぁ!」

 

その場でズィーガーの右足から蹴りを繰り出し、リヴァーレを少しの距離、退けさせる。

 

「U.T.K、メテオールフィードバック率50%に上げろ」

 

冷静にそう告げる。

その途端、AIがモニターに長々しい文章を表示する。

字の色は黄。

そう、これは注意勧告だ。

メテオールシステムの稼動は通常時なら30%である。

このパーセンテージは、各センサーからパイロットに送られる情報量を指し、この場合、AIによって情報量は減らされ、メテオールシステムは30%分しか動いていないと言うことだ。

しかし、何故システムのフル稼働が抑制されているのか?それはGの問題も勿論ある。

システムの解放度合いによってバーニアの出力も制御が外され、スピードが上がる分、パイロットに高Gが襲いかかってくる。

だが、問題は別にもある。

メテオールシステムは搭載した機体の性能を恐ろしく上げる。

だが、機体が高性能になりうる分、それを扱うためのハードルも高い。

システム起動時の様々な情報によるフィードバック、それはパイロットに『適正』があればとてもプラスになる。

だが、『適正』の無いものがシステムを起動させるとなるとベクトルは逆を向き、マイナスと化す。

パイロットがその膨大な情報量に押し潰される、それが適格な表現だ。

頭の中に溢れる情報、それを脳が処理しきれずに、精神崩壊などを起こし、最悪死ぬか植物人間になるかだ。

これがズィーガーの欠点。

リオは元々、そのフィードバック適正があるとされ、この機体の強奪を命じられたが、その適正もどこまでのレベルに耐えられるかまでは知らない。

だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

先ほどの死神の接近からリヴァーレになにか寒気のような、見えないナイフを向けられているかのような悪寒が絶えない。

これはニュータイプのみが放つプレッシャーのようなものと聞いたことがある。

本来ならニュータイプ同士でなければ感じることはないが、メテオールシステムのフィードバックによってその体感を可能にしているのだろう。

 

メテオールのフィードバックを50%にしたことによりズィーガーの目が黄色から赤に変化する。

その変化にリヴァーレがサーベルを構え直し警戒の色を見せる。

もう武器は残り少ない。

ライフルは腰にかけているが、リヴァーレのあのスピードでは射撃の適正距離を保つことは不可能だ。

となればもう近接戦しかないだろう。

一本サーベルを失ったがこの機体にはリヴァーレと同じくサーベルが二本備えられている。

もう一本のサーベルを抜き、構える。

 

「…うるぁあっ!!!」

 

スピードを0から今のズィーガーが出せる最大へと上昇させ、リヴァーレへと詰め寄る。

Gは想像以上の圧力をリオに与える。

だが、それに耐えうる自信がリオになんとなくあった。

 

「今度はオレが死神だっ!!」

 

リオはそう叫ぶ。

だが、流石はリヴァーレ、流石はニュータイプ。

このスピードでも行動を間に合わせ、競り合いの形へと持ち運ぶ。

 

『…ちぃっ!!』

「負けるか!!」

 

サーベルでの競り合いから両者は同時に後退。

そしてまた両者は同時に近づき、競り合う。

それを何度も何度もスピードを維持しつつ競り合いを繰り返す。

 

 

 

「なんだ、あいつら…!!?」

「ば、化け物かよぉ!?」

 

辺りで戦闘を繰り広げていた両軍の量産機のパイロット達は思わずそれぞれを見てそう叫ぶ。

ガンダムの導入には敵と味方の心的作用を狙っているというのも理由のひとつだが、このようになってしまえば単なる恐怖の対象でしかない。

 

「…あの黒いガンダムは奪取目的の…」

 

周りのパイロットたちがガンダム二機の戦いを見て動揺しているなか、蒼いザクがその様子を冷静に見ていた。

 

「あのバカが…」

 

その蒼いザクのパイロットである、白髪混じりの灰髪をしたオールバックの兵士がそういい、呆れていた。

見た目は35から40歳であろうか。

蒼いザクは一騎討ちで相手をしていたジムを難なく切り伏せ、撃破されたジムが爆発を起こす。

それが収まると、その兵士はリオに向け通信を飛ばし、叫んだ。

 

 

 

『おい!リオ!お前の目的はその黒い悪魔の奪取だ!ニュータイプ専用機の撃破ではないっ!』

 

「………!!」

 

コックピット内を男の怒声が支配し、リオはハッと我に帰り、冷静さを取り戻す。

 

「…うわ、やりすぎたな、これは」

 

リオは思わずため息をつく。

 

「これは帰ったら説教だな…」

 

先ほどの怒声の主は自分の部隊長であるヴァルド・ベスティオ。

豊富な戦闘経験を生かし、ニュータイプほどではないものの、抜群の操縦感覚を持っているパイロットだ。

 

競り合いの末、離れたガンダム二機。

 

「ニュータイプ、残念だがここでお別れだな」

 

リオはそう短く告げ、ズィーガーはバーニアによる後退を行おうとする。

本来なら強奪対象はリヴァーレも含むのだが、あのニュータイプパイロットが乗ってしまっている。そうなれば先程の戦闘からして部隊の者全員でかかっても隊員は殆ど残りそうにないと思えた。

 

『待て!!逃がすものかああ!!』

 

レイが叫び、リヴァーレがズィーガーを追おうとする。

が、それは叶わなかった。

 

ズドオオン!!

『なにっ!?』

 

その瞬間、リヴァーレの目の前にクラッカーが炸裂した。それは蒼いザクが投げたものだった。

リヴァーレに損害こそ無かったが、ズィーガーの離脱には充分な時間を与えてしまった。

 

 

クラッカーが炸裂し終え、薄い煙の膜が消えると、リヴァーレのモニターにはズィーガーが点のように小さく映っていた。

 

「………くっ」

 

強奪を阻止することはできなかった。

そう理解すると、レイは操縦桿を強く殴り付けた。

 

 

離脱ラインを越えると、リオは一息つき、ズィーガーのバーニア出力を他の機体のスピードに合わせて緩める。

しばらくすると、連邦のガンダムを強奪する作戦の為に組まれた隊の仲間が集まってくる。

それを確認した隊長、ヴァルド・ベスティオは通信を隊員に向けて開く。

 

『各員、帰投せよ』

 

 

 

レイは、離れていき今や点となったズィーガーの背を見ながら、操縦桿を殴りつけた拳を痛いほど握る。それでも悔しさは紛れない。

 

「くそっ…くそっ…!くそっ…!!」

 

女性管制官の通信が聞こえる。

 

『カテナ基地より出撃中の全機体に通達。ガンダムズィーガー強奪部隊の追跡は他の部隊が行うので、全機帰投して下さい。繰り返します。ガンダムズィーガー強奪………』

 

操縦桿を握り、リヴァーレを基地へと向けて歩かせる。その間もレイは呟く。

 

「今度会ったら必ず、必ず…!!」

 

それから数十分後。

カテナ基地の兵士居住区の真ん中ほどの部屋、いわゆる自室のベッドに座り、レイは自分を責めていた。

 

「何がニュータイプだ、何が期待のエースだ!期待されたって、俺はどうせこの程度しかできない。こんなんじゃ、誰も守れない……!」

 

レイは自分が嫌いだった。力を持っていながら、何もできなかった自分が。両親を助けられず、その後も目の前で人の命を助けられなかったことがある。人はそれを仕方ないと言う。だが、それでもレイは自分を許せない。レイは悩む。

 

「(俺はニュータイプ。人よりも優れているのに、なのに守れなかった。なぜ、なぜなんだ?)」

 

そんな負の思考に陥っているレイの耳にドアが開く音が聞こえた。

 

「あっ!やっぱりここにいたんだ、レイ」

 

入り口に、缶ジュースを両手に持った茶髪でショートカットの少女が立っていた。

 

「なんだ…マキアか…」

「なんだとはなによー。せっかく励ましに来たのに。はい、お疲れ様!」

 

少女、マキア・ハレリー小尉は片方の缶ジュースを差し出してきた。受け取ったレイはとりあえず礼を言う。

 

「ありがとう…」

「まーた自分責めてるんでしょう?ほら、元気出して!いちいち落ち込んでたらキリないよ」

「俺は、ズィーガーを逃がした。あとちょっとで取り返せたかもしれないのに…!」

「今更そんなこと言ったって仕方ないよ。それより次のチャンスを物にしようよ!」

 

マキアは懸命にレイを励ます。

 

「今、偵察部隊がズィーガー強奪部隊の行方を追ってて、強奪部隊の拠点が分かったら出撃するらしいよ。それまでに、リヴァーレの調整とかしちゃおうよ!ほら立って、立って!」

 

手を引っ張られて立たされる。レイはその手を振り払って言う。

 

「なんで俺を責めないんだ!甘いだろ、マキアも、みんなも!」

「レイは責められたいの?そうじゃないでしょ?レイはネガティブに考えすぎなんだよ」

「ネガティブ、か……」

「そうだよー。レイはニュータイプだし、ウチのエースの一人かもしれないけど、まだまだ新人だもん!私もレイも!」

「新人……そういえばそうか。ここに来て二ヶ月くらいだもんな」

「そうそう!だから気にしないで!取られたら取り返せばいいんだもん!」

 

マキアとレイは士官学校からの親友で、その頃から笑顔でレイを励ましている。軍に入った今でもこんな感じで。レイもここまで言われたら、立ち直らないわけにはいかないようで、

 

「分かったよ。じゃあ、格納庫に行くか」

「よおし!レイのリカバリー完了!」

 

レイたちが部屋から出ようと出入口に近づき、自動で開いたドアから出ると、廊下に黄色い髪をした男が立っていた。

 

「あっ、隊長!お久しぶりです」

「やあ、少年。立ち直ったようだな」

「隊長…俺は少年じゃないですって。せめて青年にしてくださいよ」

「いや、君はまだまだ少年だ」

 

そこにいたのは、レイが所属するブレイブ小隊の隊長、グリフス・リカン少佐だった。グリフスは隊長という立場の中では若い、25歳である。その若さ故か、顔立ちも整っており、ロマンチストな性格も相まって、女性にモテるとか。一年戦争当初、ジオン軍に所属していたが、ザビ家の横暴が気に入らず、連邦軍へと下り、終戦まで戦った強者である。そしてなぜか、レイを時々『少年』と呼ぶ。

後ろのマキアも気づいたようで、すかさずあいさつする。

 

「あっ!グリフス隊長!二週間ぶりですね。試作機のテストパイロットの仕事は終わったんですか?」

「ああ。その試作機とともに先程到着した」

「おおー!その試作機、見せてくださいよ!」

「いいだろう。レイ君もどうだ?リヴァーレの調整ついでに見ないか?」

「あ、はい!俺も興味あります」

「よし、ではいこうか」

 

三人は格納庫に向けて歩き始めた。

 

「そういえば、レイ君。話によると、ズィーガーが強奪されたらしいな」

「はい、俺が不甲斐ないばかりに…」

「いや、私は君を責めるつもりはない。むしろ誉めようと思っていたところだ」

「誉める、ですか?」

 

マキアが首を傾げる。

 

「イーシャ君の見解では、敵の作戦は恐らくズィーガーとリヴァーレの二機を強奪するというものだと言っていた。少年、君はその片方の強奪を阻止したそうじゃないか」

「あれは…リヴァーレに乗ろうとする怪しい奴がいて、近づいたらナイフ振ってきたんで、返り討ちにしただけですよ」

「ええー!そんなことあったの?すごいじゃん!」

「でも、ズィーガーが奪われて…」

「思考を切り替えろ、少年。君は君でリヴァーレを死守した。それ以上の戦果を求めるような野暮な人間は、この基地にはいない。だから気にするな。いいな?」

 

グリフスがレイの肩にポンと手を置く。

 

「はい、わかりました…」

「だけど、なんで敵はズィーガーを奪ったんですかね?」

「敵は十中八九、ジオン軍の残党だ。一年戦争終結から一年五ヶ月ほど経ったが、いまだに諦めを知らない彼らは、戦争時に占領した工場などでMSを製造している。だがしかし、規模が小さいがゆえに限界はある。当たり前だが、規模の大きい連邦の開発スピードのほうが断然早いわけだ。するとジオン残党はどう動くと思う?少年」

 

突然話を振られたレイは、考えつつ答える。

 

「造れないなら奪えばいい、と考えますね。連邦のほうが金があって設備も充実してるんで、出来上がる機体も相当なモノですから、リスクを冒すだけのメリットがあるかと。となると敵は、連邦にスパイを送り込み、新機体の情報をつかむ。その配備時期、配備される基地を特定し、そこを狙って襲撃し、強奪することを画策する。それがこの作戦の全容ですか?」

「さすがだな、少年。大した洞察力だ。恐らくそんなものだろう。ジオンから連邦に寝返ったとでもすれば、スパイはそう難しいことでもない」

「なるほどー。そういえばさ、ジオンも連邦も大変だけど、所属がいきなり変わっちゃったズィーガーも大変だろうねー」

「ズィーガーにはAIが載ってるしな。パイロットに振り回されて困ってるんじゃないか?メテオールシステム使いまくったりとかな」

「ズィーガーを使いこなすパイロット、一度会いたいものだ」

 

そんな話をしていると、三人は格納庫に着いた。

 

「格納庫にとうちゃーくっと、あっ!あれは!」

 

いち早く見つけたマキアが驚いている。見るとそこには、見たことの無い機体があった。見たところジムコマンドがベースのようで、全体に白、所々にアクセントのように赤色が使われている。

 

「隊長、あれが例の試作機ですか?」

「そうだ。その名もネクサス。新しく開発された武装を多く積んだ、野心的な機体だ」

 

よくよく見ると、左側頭部のアンテナ、凹凸の多いバックパック、腰と腕に装備されたビームサーベルが、今までの機体とは違うことを強く主張している。

 

「カッコイイですね、隊長!」

「そうだろう?あのカラーリングにはこだわったぞ」

 

そんなカッコイイ機体の隣には、左手修理中のリヴァーレが立っていた。

 

「(こいつも俺のせいで傷ついたんだな)」

 

レイがそんなことを考えていると、グリフスも気になったのか話しかけてきた。

 

「左手を吹き飛ばしたか。かなりの激戦だったようだな」

「生きるためとはいえ、コイツには悪いと思ってます」

「まあ、仕方がない。軍人とはそういうものだ」

 

レイは正直な気持ちを吐露する。

 

「俺はコイツを、リヴァーレを使いこなせますかね?」

「私には分からない。だが、君にならできると信じたいな」

 

すると、ネクサスを見尽くしたのか、マキアが近付いてきた。

 

「こんなすごい機体が二機もいて、エースの二人がいて、他にも仲間がいるんです。次は絶対取り返せますよ!」

「ああ、ジオンの連中に目にもの見せてやろうじゃないか。なあ、少年!」

「はい!今度こそ、ズィーガーを取り戻してみせます!」

 

そう言ってレイは、リヴァーレの調整のため、そのコックピットへと向かった。




バトルシーンが終わり、今度は主人公たちの周りを書いていこうと思います。次回は主にリオ視点で
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