言い訳させてもらえるなら、文章はできていながら、投稿するための編集が色々あって長引いてしまい遅れました。これも二人で書いているが故のデメリットと心に刻み、もっと投稿頻度上げていきたいと思う所存です。
前書きで長文失礼しました。
カテナ基地からのズィーガー強奪から三時間ほど経った頃。
ズィーガーとその強奪部隊の機体、及びパイロット達はユーコン級潜水艦によってカテナ海の海中を進行していた。
そんな潜航中のユーコン級潜水艦MS格納庫。
リオは専用ヘルメットを脱ぎ、ズィーガーのコクピットから下りると自分の姿を改めて見てみた。
「……ん?」
リチャード・オッドとして連邦に潜入した為、リオが着ているのはジオンの軍服ではなく、しかも自分とは全く縁のない整備士の服を着ている。
「……」
リオはふと思った。
今になって改めて考えてみると、整備士としての能などあるはずのない自分がよく整備士として連邦に潜り込み、強奪の直前までばれなかったものだと。
「…いや」
だが、リオが演じていた連邦のリチャード・オッドという人間は、おどおどとした文字通り役に立たない人間のため、意外と不自然はなかったのかもしれない。
「………」
リオは自分の格好を見ながら一人、ズィーガーを背にそんなことを考えていると、いきなり拳骨が頭の上に落ちてきた。
「いたぁぁっ!?」
ゴンッというような鈍い音が響き、頭に衝撃が走り、脳が揺れるような錯覚に襲われるリオ。
いや、実際に揺れたのではないだろうか、そう思うほどに強い衝撃だった。
痛みに耐えつつ、相手を睨みつけようと自分も体を左に向け、顔を上げる。
「なんだ?その反抗的な目は」
「…!?」
拳骨を落とした人物を理解した途端、リオは慌てて好戦的な目つきを直した。
リオの目の前には、明らかに機嫌が悪そうな表情の男性が立っていた。
その人物が誰なのか。部隊にいる者なら分からない訳がない。
彼こそは、ズィーガー強奪部隊の隊長、ヴァルド・ベスティオだ。
「リオ・アークライト、お前の戦闘中における瞬発的判断力と適応力の高さは俺も認めよう、だがな」
「うっ、はい…」
ヴァルドは大きくため息を吐くと、ブツブツとなにか言い始めた。
恐らく、説教だろう。
ヴァルド・ベスティオ。
彼は今作戦『月の種』作戦における特殊部隊『蒼の牙爪』の隊長である。階級は大尉。
愛機は自分用にチューンと改造が施された専用機のザク。名はザクⅡBE。
ヴァルドの目と同じ蒼色のその機体は、部隊の人間でさえ詳しい性能を知られていない謎の存在であった。
性能の高さは勿論、機体に付いているBEの二文字の意味も分からない。
分かるのは、機体の外見が通常のザクのそれと違い、全体的にゴツめにまとめられているという事くらいだ。
そんな機体のパイロットであるヴァルドはいかにもダンディと言う言葉がピッタリのもので、灰色髪のオールバックの似合う40代のベテランパイロットだ。
性格はとても面倒見がよく、厳しい時は厳しく、とても頼りになる人柄は、まさに隊長という立場に適任であった。そんな性格のおかげで彼の部隊につくものは皆、彼を慕っている。
見事、理想の隊長像に当てはまっている彼に不満など何一つないようにも思えるが、そんな彼への不満は1つだけあるのだった。
それは、
「…作戦において重要なのは…おい、リオ!聞いているのか?」
「…あ、はい!もちろん!」
そう、これ。
「説教なげぇよ…」
「なにかいったか?」
「い、いえ!?なにも!!」
思わずリオは口に出してしまった。
そう、ヴァルドの始めた説教は長い。永遠に思えるほど続く。
そんな時、1人のライトグリーンの髪と目の色をした、ボサボサとしたショートヘアの女性隊員が二人に近づいてきた。
「あり?リオ?あんたこんなとこでなにしてんの?」
ヴァルドの説教中にもかかわらず、お構いなしで喋りかけるという荒業を成し遂げたその女の名はオレット・エメラフィア。
部隊の中で珍しい女性で、リオと同じ20歳の隊員。
性格はガサツ、適当、破天荒という容姿以外はザ・男。
だが、その性格のおかげか、男が多いのが当たり前の軍でもうまく馴染め、特に本人も何の不満を感じることはないようだ。
「説教されてんの?あんたまた何を…あーなるほど…」
何があったか説明をする前に、リオの背後にある左腕無きズィーガーを見てなにか納得したようで、リオに冷たい眼差しを向けてきた。
「あんた、誰がこれ直すと思ってんのよ?」
「う、いや、な?ちょっとリヴァーレと戦っててスイッチ入ったというか…」
オレットは深いため息をつく。
機体の修理やチューンを行うのは整備士なのだが、オレットはその整備士とパイロット、両方の役割を兼用していた。
だが、決して部隊に整備士が不足しているからではない。
では何故そんな事をしているのかというと、彼女曰く、趣味でやりたいから、楽しいからやっている、らしい。
素人がそんなことをしても、と最初はリオも思った。
だが、趣味とは言うものの、彼女の仕事っぷりには目を見張るものがあり、その技術レベルは趣味の範囲を越え、実質、蒼の牙爪の整備班長はオレットと言っても過言ではない。
そして、もちろん部隊の主要メンバーと彼女の愛機にも精一杯のチューンが施されている。
オレットの愛機は、塗装パターンがメインカラーのエメラルドグリーン、サブカラーとして肘や膝、手の甲などに黒色が使われている彼女の姓を取ったザクⅡエメラフィアである。(ちなみにこのザクⅡエメラフィアは正式名称ではなく、あくまで勝手に自分で名付け、呼んでいるだけであり、このように自機に勝手に改名を行う者はこの部隊において少なくない)
だが、整備士に専念しているにも関わらず、なぜ死亡率が格段に上がるパイロットまでしているのかという疑問が浮かぶのだが、そこにはもちろんちゃんとした理由がある。
「…オレット・エメラフィア、お前もリオに言えた口か?」
「…え、あはは」
ヴァルドに指摘され、乾いた笑いを見せるオレット。
リオがざまあみろと心の中で呟き、笑いを少し漏らすと、オレットは軽く睨んできた。
「今回の任務、ズィーガーだけが強奪対象だったか?」
「あ、いえ、リヴァーレ、も…デス」
「リヴァーレの強奪に失敗したのはだれだ?」
「えと、ア、アタシです…」
ヴァルドのさらなる指摘にオレットの声は、じきに尻すぼみとなっていく。
だが、それでもヴァルドの鋭い追求は止まない。
こういう厳しいところは厳しくするのもヴァルドが隊長である所以なのだろう。
ヴァルドの追求にしぼんでいくオレットが面白かったので言葉の針をリオも投げてみた。
「普通、連邦の奴にナイフ向けるか?それじゃ自分は敵ですって言ってるようなもんだぞ?そこは気になったので整備を、とか言って難を逃れるべきじゃ無かったのか?」
「………!!!」
言葉に反応してリオだけを睨んでくるオレット。少し後ずさるリオ。
「(こいつ、オレには突っかかるのかよ。たちが悪いな。いや、決してビビッた訳じゃないぞ、決して)」
今回の作戦『月の種』はリヴァーレとズィーガーの強奪が目的である。
だが、ズィーガーに対してリヴァーレはニュータイプ専用機。オールドタイプが操縦する場合、出せる性能には限界がある。だが、別にジオンが、リヴァーレがニュータイプ専用機だという情報を持っていなかった訳ではない。
「だって急に連邦の人がこっちに向かって走ってくるんだから!驚いてナイフ向けても仕方が無いでしょ!」
そう、この言い訳を並べているオレットこそがリヴァーレの強奪を行うはずだった。
何故この人選なのか?何を隠そう彼女は軍でも希少なニュータイプなのだ。
そのわけあって、パイロットをしており、蒼の牙爪の隊員にも選ばれた。本人曰く、整備士はあくまで趣味で本職はこちら、だそうだ。
「それでパイロットに背負い投げをかまされた訳か。オレがズィーガーで基地から脱出するときに助けなきゃ捕虜だったな」
「…いや、うん、まあそこは?…助かったけどさ?」
もごもごと口ごもり、一応と言った感じで感謝をリオに伝えるオレット。
悪いことをしたという感覚は少なくとも感じているようである。
そのやり取りを見て、ヴァルドがため息をつき口を開く。
「まあいい。こうして左手無くともズィーガーが手に入ったんだ。作戦の大前提はズィーガー強奪で、リヴァーレは可能なら強奪だからな。半分成功というところだろう。だが恐らく、リヴァーレがズィーガーを追いかけくるだろうな。その時ニュータイプとリヴァーレの相手はリオ、そしてズィーガー、お前らじゃなければできないだろう。まあ、俺からは、死ぬな。それだけ言っておく」
そう言い残し、MS格納庫から出ていくヴァルド。その顔にはいつもの優しい笑顔があった。
「(なんでだ?どうしてこの隊長はこんなにもキマるんだ?てか、渋いなオイ)」
そんなことを考えたあとにズィーガーを一度見る。
「……あ」
左腕が相変わらずない。
付けるとしても取れた腕は今は密林のどこかに落ちているだろう。つまり、回収は不可。
さて、どうするかと考え込むリオ。
片腕のないズィーガーで整備されたリヴァーレの相手ができるとはとても思えない。
すると、オレットが真剣な面持ちでズィーガーに近づいていく。
「とりあえず腕の修理だけなら短時間で出来るだろうからやってみるよ」
「…は?腕ってったってこいつの左腕は密林に落っことしてきたんだが…どうにかなるのか?」
「いや、腕と言っても色々あるでしょ?幸い、ここにはグフやらなんやらの機体があるでしょ?」
「あ、なるほど…」
つまり、腕だけを代用するということである。
「まあ、装甲や性能の低下は否めないけど性能に関しては一部だし、ないよりマシでしょ?」
腕が直るのに越したことはない。そもそも拒否権はリオにはないわけで。
「そうだな、頼むな」
「りょーかい。助けられたのはこれでチャラね」
「却下だ」
「オイ、コノヤロー」
女とは思えない低い声と共にまた睨まれた。
「(冗談のつもりだったんだが、余計なことは言わないほうが良さそうだな)」
そんなやり取りの後、オレットはズィーガーの修理に取り掛かる。
この短い会話でリオは改めて彼女の整備士としての才能の片鱗を見た気がした。
「スパイはてんでダメなのにな」
「うるさい」
聞こえないように言った小声だったが聞こえていたようである。
リオは思った。まったくニュータイプとは恐ろしいなと。
場所は変わってカテナの密林地帯。
「ねぇねぇ、イーシャ。強奪部隊ってどこ行ったの?」
少し揺れながら密林の中を進む軍用トラック。その荷台に乗るマキアは隣に座る銀髪ツインテールの少女に問う。
「マキア、あなたブリーフィング聞いてなかったの?」
彼女の名は、イーシャ・グレイシー。階級は大尉。レイやマキアと同じ士官学校出身で、その高い作戦指揮能力と情報処理能力を買われ、ブレイブ小隊の参謀に抜擢された優秀な人。(ちなみに、隊長よりも階級は下だが、作戦指揮はほとんど彼女が行うため、他の兵士より断然偉い)
イーシャは冷ややかな目で睨む。
「ごめんごめん。仮眠とってたー。テヘ!」
「テヘ!じゃないわよ!あなたそれでも軍人なの?」
「これでも軍人でーす!それでさ、どこいったの?」
イーシャは溜め息をつきながら答える。
「先行偵察部隊の報告では、ズィーガーと強奪部隊は河口付近に隠れていたユーコン級潜水艦に格納されたみたいね」
「それを追って私たちも海にレッツゴーってわけね?」
「そうよ。私たちブレイブ小隊に『ズィーガー強奪部隊を追え』っていう指令が来たから、沿岸部にあるライバー基地からヒマラヤ級対潜空母に乗って奴らを追うの」
「MSほとんど基地に置いてきたけど、いいのかな?」
「そ・れ・は!水陸両用のMSが向こうにあるからいいの!ついでに言うけど、今、横を歩いてるMSは水中もいけるからついてきてるのよ。わかった?マキア」
「うん、バッチリ!ありがと、イーシャ」
そう言ったマキアはそばを歩く、左腕を直したリヴァーレに視線を移した。
「あとさ、レイとリヴァーレのズィーガーとの戦闘、参謀としてどう思った?」
「…………」
イーシャはブレイブ小隊の参謀として、ズィーガーが強奪された際も率先して指示を出していた。
少し考えてイーシャは答えた。
「まあ、ニュータイプとニュータイプ専用機ってだけあって、さすがね。機体の機動力、出力、パイロットの反応速度、操縦技術。どれを取ってもずば抜けてる。けどそれは敵も同じね。AIとメテオールシステムの備わったズィーガー、それを使いこなしてたパイロット。ただ者じゃないわね。結果どっちも互角ってところね」
イーシャの冷静な分析を聞いたマキアは、なにか遠くを見るような目で言う。
「やっぱりレイってすごいね。あんなにさ、心が不安定なのに、やる時はやるもん。私も見習わなきゃ…」
少し弱気になるマキア。それを見たイーシャはマキアの両頬を引っ張る。
「んー!ひーふぁ、なにふるのー!」
「あんたにそんな顔は似合わないの!ほら!あんたも立ち直りなさい!」
「わふぁっははら、てをはなふぃへー!」
あっさりと手を離すイーシャ。笑いながら頬をさするマキア。
「あはは、ありがとね、イーシャ」
「ふふ、どういたしまして。マキアの弱気な顔なんて見てたって面白くないもの」
互いに微笑み合う少女二人に天からの声、ではなくリヴァーレからのレイの声が聞こえた。
『おい、マキア、イーシャ!海が見えたぞ!』
「おー!ついに船旅だー!」
「…なんでこの二人は微妙にハイテンションなの?」
そんなよくわからない高揚と確かな緊張を抱いて、ブレイブ小隊はライバー基地で軍用トラックからヒマラヤ級対潜空母に乗り換え、ズィーガー強奪部隊の追跡へと向かうのであった。
深く暗い海の底を現在、潜航中であるユーコン級潜水艦の中。
黒い片腕なきズィーガーのコックピットブロックを調べているオレットの横でその過程をなにが面白いのかとリオは見ていた。
「面白いか?これ?」
リオが思った事をそのまま尋ねると、オレットは返事はしなかったが首を何度も縦に振って答えた。口笛を吹きながら作業をしている様子を見るとさぞかし面白いのだろう。
オレットはコクピットハッチを開け、座席に座り何かを調べ始めた。
「これは…うん、んで、これが…」
何をしているのリオにはまったくわからなかった。
「(多分、機体のプログラミングの何かについてどうにかして調べようとなにかをしているだろうが…うん、まったく分からん)」
「うわっ…ナニコレ!?」
「ん?」
すると、突然オレットが驚いた声を発した。気になったリオは、MSにしては少し広めのコクピット内に入り、オレットの座っている座席の後ろのスペースにまわった。
「ちょっと、リオこれ何?」
途端、オレットにまたまた睨まれるリオ。本日何度目であろうか。
オレットが指を指すところを見るリオ。
そこはモニターの中心部分。
そこには赤字でエラーの表記があった。
「…え?」
「これ、あんたじゃなきゃAIが起動しなくなってる。」
何かオレはやらかしたのかと汗を浮かべながらエラー画面を見るリオに、オレットは睨みながらそう言った。
訳が分からず、さらに疑問符を飛ばすリオにオレットはもうひとつ言葉を飛ばす。
「この機体のAIが最初に乗ったパイロットを記憶してそれ以外のパイロットは受け付けないっていうプログラムが組まれてるよ」
「はぁあっ!?」
その言葉に驚愕するリオ。
「(なに、一途なの?このAI?)」
たしかにモニターには、
―――初期登場パイロットの指紋、声紋の認証をしてください―――
と、映されている。
どおりでズィーガーの強奪があっさりと進んだわけである。
オレット曰く、この機体に間違えて乗ってしまえば、解除するにはパスワードを打ち込む必要があるそうだ。
そのパスワードは連邦の開発者でもない限りは知りようが無い。
恐らく、本来のパイロットが乗る前にリオが乗ってしまったということだろう。
「ははは…いや、オレ声紋は取られても指紋認証なんてしてないぞ?」
乾いた笑いで誤魔化そうとするリオへ、オレットは短く、「操縦桿のハンドル裏」と短く告げた。
まさか、そんなばかな、そう思い指示されたところを恐る恐る覗き込むリオ。
そこには指紋認証待機中だと言わんばかりに青く発光している部分が一箇所ずつあった。
「…まじかよ」
オレットはため息をついた。
「仕方ない。ここで徹底的にバラすとなれば緊急時にズィーガーの離脱ができなくなるし、安全な所に運ぶまではどうしようもないね。どうせ、リヴァーレが追いかけてきたときの相手にはズィーガーしか太刀打ちできないんだし」
そう言い、いつもの明るい表情に戻るオレット。完全にバラす時を楽しみにしているのだろう、その顔には笑みがあった。
リオは呟いた。
「…なんてメンドーな機体だ」
その後、リオはユーコン級潜水艦の中にある自室に戻り、ベッドに寝転がって、思考をめぐらせていた。
「…………」
最初に浮かぶのは現在の任務。
月の種作戦。
この作戦は端的に言うと連邦で秘密裏に建造された新型MS二機の奪取が目的である。
「………」
そこでリオは顔をしかめる。
奪取した後にジオン軍は何がしたいのか、そこがリオの頭をよぎる。
もちろん、リオたちに何も知らされてはいない訳ではない。
ヴァルドの口から蒼の牙爪の隊員伝えられた目的。それは、連邦の最新技術で作られた機体を強奪し、技術を解明、吸収。今までのジオンのMS製造のノウハウと掛け合わせ、戦力を増強。そしてジオンを復活の足掛かりにしようという作戦である。
「…でも、なんか、な」
何かこの作戦には引っかかるものがある。そう、強奪目標のズィーガーについての情報量が多すぎるのだ。スパイであるリオにシステム面でここまで知られているのは、ジオンの情報収集能力を鑑みても違和感を感じる。
これは直感で何の根拠もないのだが、リオはこの作戦に薄々ではありながらも疑問を感じていた。
「こういう時にニュータイプならニュータイプの勘とかなんとか言って説得力つくのに、オールドタイプは不便だなオイ」
そういって自虐的に一人笑うリオ。
すると、
「何1人でヘラヘラ笑ってんだ、気持ち悪い。恋人のことでも考えてるのか?」
部屋の中にリオではない声が響いた。
「!!?」
慌てて寝ている体を起こし、声のする自室の入口方向を見る。
「よぅ」
そこには軽そうな笑顔を向け片手をあげて挨拶する青年がいた。
青年は軍にいるものとは思えないセミロングの長さの髪をした銀髪で、銀目の大人びた美形な容姿をしていた。
彼はアルン・レリオ。
22歳で、年齢的にはそこまで離れてはいない為、リオやオレットにとって先輩のような立場の人間である。
愛機は連邦から鹵獲されたジムコマンドをグレーとライトグレーで塗装された機体で、主にバーニアによる高速移動を駆使し、敵を攪乱して誤射や、弾切れなどのミスを誘発し、そのスキを突くという戦法を得意とする。
(ちなみにこれはオレットによるバーニアの燃費改良と出力強化によって可能にしているのだという)
なぜ彼が連邦の機体を使っているのかというと、彼曰く、俺はモノアイよりはツインアイやゴーグルアイが好きだ、だそうだ。
「どうしたんですか、急に?」
リオが尋ねるとアルンはガシガシと頭を掻きながら言う。
「いやね、オレットちゃんにね?」
「はい」
「スリーサイズをな?」
「うん、帰れ」
いきなり何を言い出すのか、そう思ったリオはアルンの言葉を一蹴した。が、アルンの目はいたって真面目だったのでリオは一応、再度耳を傾けた。
「いや、真剣な話」
「…」
「スリーサイズを聞いたらな?」
「……聞いたら?」
「怒られた」
「当たり前だろ!!てか、何が真剣な話だよ、もう帰れよ!!」
説明しておくと、アルンの特徴はとても軽い男だというのが第一である。
過去に女性との関係を持ちまくり、二股まではよしとしても三股、四股説まで浮上している。
「ってわけでさ、」
「…」
「オレットちゃんのスリーサイズを教えてくれ!もしくは聞いてきてくれ!」
「知るか!!てか、戦闘中に後ろから撃たれそうで怖くてそんなこと聞けるかっっ!!」
「ところで例の機体すごいな、オレットちゃんがいつもの10倍近くは力入れて修理やらメンテナンスしてたぜ?」
「いや、せめて話題はひとつに絞れよ!!」
この会話でわかるようにアルンは頼りになる時はなるのだが、典型的な軽男でかなりの自由人。
その性格故にリオを振り回すこと多々であった。
さすがに今までの経験上もういくら言っても無駄だと分かっているのか、諦めてリオは話を聞くことにした。
それから数分間、話題も尽きずにしゃべり続けたアルンに今度は話題を振ってみた。
「アルンさんはどう思いますか?」
「ん?オレットちゃんのスリーサイズ?そうだなー、あれは…」
「ちげぇよ!!だからオレットに苦手意識もたれるんだよお前は!」
またアルンのペースに持っていかれそうだと感じたリオは一度、咳払いをし、真面目な顔つきで話を始めた。
「…今回の作戦についてですよ」
「ん?あー、お手柄だな、リヴァーレは持ってこれなかったとしても作戦は成功したようなもんだ」
「いや、その作戦についてなんですが、自軍の意図が読めないんです」
リオの言葉に首を傾げるアルン。
リオは自分が先ほど考えていたことをそのまま伝えた。
「ふん、なるほどな」
「で、どう思いますか?」
アルンの返答をじっと待つリオ。
リオはアルンがこれでもこういったことには勘が鋭いことを知っていた。だから何かアルンも感じ取っているのでは、と思ったのだ。
アルンは一度頷くと、
「馬鹿馬鹿しいな」
「は?」
リオの考えを一蹴した。
「え、いや、でも」
あきらかに戸惑うリオを見て笑いをこらえるアルン。
要するにからかわれただけらしい。
「いや冗談だ、すまないな、笑って」
「…」
「オイオイ、そんなに睨みつけるなよ」
リオに睨み付けられたからか、それともリオをこれ以上からかうのは飽きたのか、アルンは真剣な顔つきにもどり、リオに尋ねた。
「リオ、長考ってしってるか?」
「へ?」
不意打ちの質問にリオは素っ頓狂な声を出す。
「日本ていう国の囲碁っていうオセロみたいなテーブルゲームに使われる言葉なんだけどな?」
「はい」
何が関係する話なのか分からなかったがリオは黙って聞いてみることにした。
「その長考ってのはな、自分の思い通りに事が進んでるときに使うもんなんだよ」
「…?」
「つまり、どうせ連邦からの追撃部隊が来るだろうから考えるのは生き延びてからにしろってことだ」
「は?」
アルンの言葉と長考の話とリオの話が一致し無さすぎている為、リオは疑問符で頭を覆う。
「まあ、自分の利の方向に進みすぎているのなら深く考えることは悪くないってことだ。あと、結論は自分で出せよ?」
「は、はあ…」
そう言うとアルンはリオの自室から出ていった。そこに残されたリオはただただ頭に疑問符を飛ばすだけであった。
近いうちに第五話も投稿する予定なので、読んでいただけたら嬉しいです。