ヒマラヤ級対潜空母は他の戦艦に比べると旧式であるが、対潜空母という名の通り対潜水艦には強く、潜水艦の探査も可能なため、今回の追跡用の戦艦に選ばれたわけである。ちなみにすでに先遣隊として索敵兼強襲用にドン・エスカルゴとザク・マリンタイプ数機を積んだ一番艦が先行しており、二番艦に乗るブレイブ小隊とそのMSはその後を追っている。
そんなヒマラヤの甲板でレイは風に当たっていた。船内は少し蒸し暑いからもあるが、部屋に閉じ籠もるより外の方が気分が晴れるだろうという考えもあった。
レイが考えているのは自分の性格のことだ。
ニュータイプであるせいなのか、レイという人間は少々、いや大いに激情的である。ズィーガーとの戦闘でもかなり熱くなっていた。そしてその後に落ち込む様はまさしく激情である。もっと冷静でいられれば、もっとマシに戦えるというものだが、性格は簡単には治らない。しかし、弱気になるよりマシではある。ズィーガーに追い詰められた時、あの瞬間の「死ぬわけにはいかない」というレイの強い思いが、その思考を洗い流し、頭の中をクリアにしたことで、最善手を導けたように思われる。
鬱々とレイが色んなことを考えていると、足音が聞こえた。そちらに顔を向けると、
「何を考えているんだ?少年」
「隊長ですか……」
そこにはグリフスがいた。
「悩み事か?それなら私が聞こう」
「悩み、というほどじゃないんですが、先ほどの指令が気になって…」
「先ほどの指令とは、軍上層部からの『機密情報保持のために、ガンダムズィーガーを破壊しろ』というやつだな。それがどうした?」
「取り返そうって言ってたのに、急に目的が破壊になって、戦うのは楽になりましたけど、ちょっと戸惑ってて。だってせっかく配備された機体だったのに、俺が渡したせいで破壊されるだなんて」
「仕方あるまい。いっそのこと、ジオン軍に悪用される前に楽にしてやる、と考えればいい」
「ガンダムの技術が悪用されたら、また多くの人間が死ぬかもしれない……人々を守るためにもやらなければならないですよね」
「ああ、そうだ」
「…破壊が目標なら、潜水艦ごと爆破してもいいわけですよね。でもそれじゃ、俺の心の収まりがつきません!」
「気にするな、と言っても無駄なのだろう?ならばこうしよう。潜水艦を沈めた後、ズィーガーが破壊されていれば、もう忘れろ。しかし、それでもズィーガーが存在しているなら、君が討て!」
「俺にやらせてくれるんですか…?」
「実質的に言うと、ズィーガーとあのパイロットに勝てるのは君か私くらいだろう。ならばズィーガーへの道は私が切り開いてやろう。君はその手でズィーガーを墜とし、人々を守ってみせろ」
それを聞き、レイは決意を固めた。
「分かりました。だったら、だったらやってやりますよ!必ず、ズィーガーを墜とします!守ってみせます!!」
「その意気やよし!だがな、これだけは覚えておけ」
なにやら意味ありげに言葉を切ったグリフスは、息を吸って、言葉を口にする。
「自分を信じ、仲間を信じて戦え、だ」
「誰かの受け売りですか?」
「まあ、このような言葉は月並みかもしれないが、真実でもある。例を挙げるとするなら、アムロ・レイやシャア・アズナブルだろうな」
「それって!あの一年戦争の英雄のアムロと赤い彗星のシャアですよね?」
軍人ならば誰もが知る二人の名前である。
「ああ、そうだ。前に話したかもしれないが、私は以前ジオン軍にいて、その後連邦軍に亡命した過去がある。私は両軍で彼らに会い、話したことがある」
「ええっ!本当ですか!?」
「彼らは軍も違えば、思想も違う。一年戦争では何度となく激闘を繰り広げてきた。同じ女性に好意を抱き、死なせたこともある。そんな彼らだが、私があることを訊いた時、二人とも同じことを答えてくれた」
「……どんなことですか?」
「私は訊ねた。何を信じて戦っているか、と。
二人の答え方は違えど、その中身は同じだった。自分と仲間の力、だそうだ」
レイは驚いた。対立していた彼らも信じるものは同じであったことを。
「彼らは類い稀なる操縦技術とニュータイプの力を持っていた。そしてそれらを発揮せねばならない困難と戦っていた。自分の力を疑う暇などない。やらねばならなかった。だからこそ信じきることができたのだろう。仲間を信じることもだ。アムロ・レイは成り行きで様々な戦いに巻き込まれていった。その中で仲間との連携はかなり重要なものであったはずだ。シャア・アズナブルは有能であるがゆえに、作戦指揮を受け持つことも多かった。その際にはやはり部隊の人間を信じねばならなかった」
「彼らは自分を信じ、仲間を信じることであのように強くなれたということですか?」
「一概には言えないが、それが理由の一つでもあるだろうな」
「勉強になりますね…」
「だがそんな彼らは今はいない。アムロ・レイはそのニュータイプの能力を恐れられ、シャイアン基地に事実上の軟禁状態にある。シャア・アズナブルは未だに生死不明だそうだ」
「伝説の戦士も戦いが終われば、消えてしまうってことですかね」
「だが私は忘れない。彼らの生き方に深く共感した私は、彼らに敬意を評するため、MSを赤と白だけの二色に塗装して戦っている」
「ああ!それであんな目立つ色だったんですね」
「それはさておき、このように歴史上の高名な戦士も、自分と仲間を信じて戦っていたというわけだ。君も頑張れ、少年!」
「なかなか強引な話に聞こえなくもないですが、大事ってことは俺にも分かります。自分を信じ、仲間を信じて戦え、ですね」
「それができれば、君はもっと強くなれる」
「ありがとうございます!隊長!」
「それでは出撃時にまた会おう」
そう言ってグリフスは去っていった。
かなり貴重な話を聞けて満足なレイが少しニヤニヤしていると、それを見て不思議に思ったのか遠くからマキアが駆け寄ってきた。
「どうしたの?ニヤニヤしちゃって」
「いや、なんでもない」
「ん?ならいいんだけど……それにしてもさ、きれいな海だねー」
「ああ、今が任務中とは思えないほど穏やかな海だな」
そして二人は海を見つめて黙った。
「(これはどういう状況だ?何か言えばいいのか?隊長だったらこういう時はセリフに苦労しないだろうなー)」
などとレイが雑念を浮かべていると、マキアから話しかけてきた。
「もう考えまとまった?」
レイには一瞬何を訊いているのか分からなかったが、すぐに分かった。恐らくはズィーガーの事だろう。
「もちろん!ズィーガーを必ず墜としてやるさ。あの力が悪用されたら、また誰かが死ぬからな…」
「そっか!じゃあ私も援護するから、頑張ってね!」
「ああ!……まあ、潜水艦ごと沈んだらそれで終わりなんだけどな」
「ははは、どうなるかな?」
すると、突然警報が鳴り始めた。
「っ!!なんだ!!」
「敵!?」
スピーカーから管制官の声が聞こえる。
『先行している一番艦より入電!ドン・エスカルゴのソノブイでの探査により、敵潜水艦の浮上を確認!こちらの迎撃を狙っていると判断し、一番艦はドン・エスカルゴとMSを全発進させている模様!』
続いてイーシャの指示が飛ぶ。
『我々二番艦も一番艦を援護するべく全速力で戦闘海域に向かいます!パイロットはMS内で待機!』
「ついにきたか……」
「そうだね…」
レイは少し自分の足が震えているのを感じた。武者震いか、それともびびっているのか。
だが、それでもやらなきゃならない。
そう自分を鼓舞するレイ。
「やってやろうぜ、マキア!」
「うん!頑張ろ!」
そう言ってレイ達は別れ、レイはリヴァーレに、マキアはザク・マリンタイプに乗り込んだ。
コックピットの中でレイは呟く。
「やってやる、やってやるさ……!ズィーガーをこの手で叩き潰す…!!未来で傷つくかもしれない誰かを、守るために……!!」
リオ・アークライトは全力で走っていた。ユーコン級潜水艦の中のMS格納庫に続く廊下を。
「…はぁっ、はぁっ、…はぁっ」
息も途切れ途切れなリオ。あれからアルンからのなぞなぞめいた問をずっと考えていると、急に艦内の警報が鳴り響いたのだ。
警報。だれが聞いても、いつ聞いても良いイメージなんか沸かないだろう。
それが敵から強奪した最新技術の塊である機体を載せている今なら尚更だ。
そう、この警報は付近の敵に発見され、交戦はまぬがれない。戦闘の準備をしろ。という感じの交戦準備警報とかいうやつだ。
その証拠に先程からオペレーターによる指示が天井のスピーカーから流れている。
「(まあ、自分のやるべきことがハッキリしすぎてて何一つ聞いていないが)」
少しふらつきながらMS格納庫に走り込んだリオ。
「はぁっ…!とおっちゃくっ!」
ズィーガーが置いてある方向に目を向けた。
「あ、あれ…?」
そして、目を疑った。
ガタガタ、ガガガガ等の機械音が今も溢れている格納庫。
その音の主な発信源は、ズィーガー。
どうやら改修作業は未だに進行中のようだった。
「おーい!オレット!!まだ終わらないのか!?」
ズィーガーに駆け寄り、リオは改修作業を行っている集団の中心人物である少女に話しかけた。
「えー?なにー?きこえなーーい!」
「だーかーらー!まだ終わらないのかーー!?」
「なーにーー?きこえなーいー!」
「………オレットの馬鹿野郎ーーー!!」
「何だとコノヤローー!!」
「………」
周りはズィーガーの改修作業による音に溢れており、ズィーガーのコクピットと同じ高さにある二階には(悪口を除いて)声が届かないようである。
観念したリオは二階に上がり、オレットに声をかけた。
「ズィーガーの改修はまだ終わらないのか?」
「あー、それがね、ちょっとスイッチ入っちゃって。徹底的なチューン施してたらここまで掛かっちゃった。あとちょっとだけ時間もらえない?」
リオはどうするか、と考え込む。
すると、すぐ隣で蒼いザクが動いているのが目に入った。ヴァルド専用ザクであるザクⅡBEだ。
リオがそのザクを見ていると、そのモノアイと目が合った。
『リオ、ズィーガーはまだ改修中のようだな。まあ、来れるようになってから来ればいい』
ザクのスピーカーを通してヴァルドが言う。
恐らくこちらの声は周りの騒音にかき消されるだろうと察したリオ。なにも言わず、敬礼で答える。
『まあ、お前はゆっくり休憩してから来いよ』
するとまた違う声がリオに話しかけてきた。
声の主の方向にはジオンの潜水艦には場違いなジムコマンド。手にはこれまた不似合いなマゼラトップ砲が持たされてあった。
乗っているのはアルンだ。そのアルンにヴァルドが通信を飛ばす。
『アルン、この潜水艦は出撃後、五分間だけ完全に浮上する』
『あー、だいたい見当つくよ。あれだろ?空飛ぶカタツムリを打ち落とせばいいんだろ?』
『ああ、その通りだ、ズィーガーを運ぶこの艦の一番の脅威となる対潜哨戒機のカタツムリだ、しっかりと料理してやれ』
『了解ですよ、隊長』
『それと、戦場の女に気を取られて墜とされるなよ?』
『ははっ、そいつは気をつけときますかね』
そんな通信が終わり、それと同時に格納庫の奥のスペースの出撃ハッチが開く。
ジムコマンドとザクの不釣り合いな二機は出撃へのスタンバイをする。
『ヴァルド・ベスティオ、ザクⅡBE、出る!!』
『アルン・レリオ、ジムコマンド、出るぜ!』
そうして二機は格納庫から出ていくと、他の隊員のMSも出撃を始めた。
それを見届けながらリオは改めてズィーガーを見た。
チューンにはあと少し、時間がかかりそうだ。
再度考えてみる。
オレットを説得して無理にでも出撃する。
最初に出てきたのはそんな案。
だが、 聞くだろうか?
いや、こうなったオレットを止めるのは不可能だ。それをオレは経験上知っている。
なら、指でもくわえてここでズィーガーの復活まで見ているか?
否。
そんなことする訳が無い。
「10分だ」
「え?」
オレットにそう短く告げるリオ。その言葉が理解できなかったオレットが聞き返してきた。
「10分でチューン完了、できるか?」
「もっちろん!」
本来は難しいであろう時間要求にもオレットは自信を表すように自分の胸を強く叩き、快諾する。
それは経験上により彼女なら可能で、そういうだろうとリオが期待していた答え通りだった。
ズィーガーをチューンしている他の整備士が非常に嫌そうな顔をしているが、リオは無視した。
「よし、よく言った!」
その返事を聞き届けたリオは一階へと降り、ズィーガーの前を通り過ぎる。
そしてたどり着いたのは、黒をメインに、サブカラーとして肘、膝、足、そして肩のスパイクを金色に塗装された、ズィーガーではないリオの機体。
この機体もまた、ブースター出力や燃費など様々なところにオレットのチューニングが施され、性能が向上している。
「ちょっと!隊長は出撃するなって!」
その機体の前で立ち止まったリオの意図が理解できたのだろう。オレットが止めにくる。
「いや、隊長は『来れるようになったら来い』といった。来るなとは言ってない」
「…でも、その機体はここんとこメンテナンスしてないし…」
なかなか食い下がり続けるオレット。
だが、いける。そんな不確かな自信がリオにはあった。
「大丈夫だ!お前のチューンがついてる!だったら折り紙つきだって!」
「…え!!?」
チューンについて言われ、少し固まるオレット。
その隙にコクピットハッチを開け、そこに飛び込むリオ。
リオはまたしても今までの経験を利用した。オレットは自分のチューンについて褒められると酷く照れるということを。
すこし罪悪感はあるが仕方が無い。そう割り切ってコックピットハッチを閉めるリオ。
「オレット!十分経てば戻る!その間にはズィーガー直しとけよ!」
そうスピーカーで言うと、オレットは親指を立てた拳ををこちらに向けてきた。
とても頼りになる動作だと、純粋に思った。
出撃ハッチの前に行き、出撃へのスタンバイを開始する。
「リオ・アークライト、グフカスタム、出るぞ!」
リオの黒きグフカスタムは海の戦場へと身を投げた。
水中戦さえもこなせるチューンがなされているらしい黒いグフカスタム。その活躍に乞うご期待!
そんな感じで終わる第五話ですが、初めて原作キャラを小説に出しました。(名前だけですがw)
自分なりに彼らの共通点を見つけて強引に話に入れました。まあ、これから先も原作キャラを入れる努力はしていこうと思います。
それでは、オレットのチューンの手伝いをさせられる整備士についつい同情しちゃう、TK一号でしたー。