この作品は基本、提督の一人称ですが、彼がいないときは三人称で進みます。
かつて3月14日とは、憂鬱な日であった。
ホワイトデー。バレンタインデーに女の子からチョコを貰った男が、そのお返しに何か女子にプレゼントするという行事である。
俺もよく職場の人からチョコを貰っていたので、この日は何かお返しを渡さないといけない。しかしプレゼントといっても、所詮社交辞令。安すぎず高すぎない洋菓子を選び、それを人数分購入して、一人一人に渡していく。面倒くさい、本当に面倒くさいイベントなのだ。
だが今年は違う!
何せ相手は可愛い可愛い艦娘なのだからなぁ!
……と言ってもこの手のイベントに疎い俺は、何を買ってあげれば喜ぶのか分からない。そもそも皆、個性的で一人一人欲しいものは違うわけだし……だが艦これの世界にはとても便利なアイテムがある。
それは。
「間宮特製艦娘へのクッキーか・・・・・・ふむ」
悲しい事実だが俺は料理が出来ない。社会人時代はずっとお惣菜だった。
そんな俺にとってこのアイテムは非常にありがたい。
下手に凝って変なモノを渡すよりよっぽど受けはいいだろう。
しかし、明石のアイテム屋。原作のゲームでは本当にゲームで使うアイテムを売っていたのだが、ここでは生活用品から嗜好品まで様々なモノが販売されている。
まるで大きな通販だ。
これでちょくちょく漫画とかお菓子とか嗜好品を買っている。
しかしいろんなモノがあるな・・・・・・ネットサーフィンが進むぜ。
とりあえず、クッキーをウチの鎮守府の人数分注文し、あとは気ままに色んな商品を物色する。
そんな時、俺の目がふとある文字を捉えた。
――Rー18。
「・・・・・・・・・・・・」
待て、落ち着け。
いかに明石のアイテムショップとはいえ、軍属の組織。そんな卑猥な商品を置いているわけないだろう。
そう自分に言い聞かせながら、クリックする。
瞬間、画面は桃色に染まった。
が、ガチガチのAVじゃないか!
いいのか、日本政府!? こんなモロに販売していいのか!?
・・・・・・後から分かった事だが、鎮守府に勤務する提督は基本的にそこで生活するために性的な鬱憤が溜まりやすい。それをこじらせて艦娘に手を出す提督が続出したために、こういうガス抜きに使う商品を販売し始めたらしいい。
何でも艦娘と提督がそういう関係になるのは悪いことでは無いらしいが、それが原因で艦娘同士の仲がこじれたり、鎮守府内で揉めたりしたことも多いらしい。
だからこういうものを使って提督に性的不満を発散させて欲しいという意図があるらしいのだが・・・・・・
「買うか」
そんなことはどうでもいいのだ。
俺だってまだ若い。エロい事に興味はあるし、ムラムラする事もあるのだ。
しかし、俺の鎮守府に所属する艦娘は駆逐艦。それも外見はほぼ子供の娘ばかりだ。
彼女たちに興奮はしないし、手を出すなんてもっての外だ。
だからこそ、こういものが必要なのだ。
そう、これは正に必要悪!
そんな軽い気持ちで俺はAVを購入した。
これが後に凄まじい惨劇を引き起こすことになるとは、当時の俺は全く知らなかったのである・・・・・・
時は進み、3月14日。
俺はいつものように提督業務をこなした後、執務室を出てからこの鎮守府唯一の波止場に向かっていた。
理由は勿論、本土から来る荷物を自らの手で回収するためだ。
この流刑鎮守府は絶海の孤島であるため、生きるために必要な生活物資は全て外から船で運ばれてくる。
さらにここは主な海上ルートからも外れているため、船が来るのも二週間に一回だけ。
そのために一回の輸送で大量の物資が送られてくるのだ。
何故こんな面倒なことをしてまでこの不便な土地に鎮守府を開いているかというと、ずっと前にこの近海で大規模な深海棲艦の群れが現れたからだとか。
・・・・・・もっとも俺がこの鎮守府に着任してから、一度も深海棲艦なんて現れていない。島のヘンテコな鳥とかの方がよく目につく有様だ。
閑話休題。
俺は入荷のチェックなどの仕事もあるため、一緒に荷下ろしに立ち会うのだ。手伝ったりもするしね。
その間に自分の頼んだものを秘密裏に回収するのが、これからの使命だ。
ホワイトデーのお返しなんて出来るだけ艦娘に渡すまで知られないようにしたいし、AVなんてもっての外だ。
そんな下心を潜ませながら波止場まで向かうと、既に船は来ていて、荷物を降ろしていた。
長月と谷風が共に荷下ろしを手伝っている。
「おお、司令官。来てくれたか」
「まあな。しかし今日はいつもより早かったみたいだな」
「もう半分くらいは降ろしちまったぜぃ」
「そうか、どれ」
元々少人数のため、荷下ろしはすぐに終わった。
業者さんの伝票にサインして出航する船を三人で見送る。
「さてと、鎮守府まで運ぶか・・・・・・って二人とも、俺宛に荷物が届いていなかったか?」
「ああ・・・・・・それなら五月雨が先に持って行ったぞ」
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
「珍しく提督宛に来た荷物だから早く届けるって走ってたよ」
「谷風・・・・・・悪い、俺ちょっと用事を思い出した。すまんがこの荷物頼む」
「おおぅ!? ちょ、ちょっと提督!? これ、おも・・・・・・」
「ごめん!」
荷物を谷風に渡し、俺は執務室にダッシュで向かった。
あの真面目な五月雨は人の荷物を勝手に開けたりはしないだろう。しかし、彼女は生粋のドジっ子。転んで荷物が床に落ちて、中からAVがコンニチワしてしまう可能性だって充分あり得る。
そのような被害を防ぐため俺は一直線に執務室に向かっていく。
彼女どころか誰ともすれ違わずに執務室の前まで来た。
ということは五月雨はこの中か。
そう思いながら、俺は執務室のドアを開けた。
「あー司令官おかえりー」
俺のベッドに皐月が寝っ転がっている。
さらにその手元には開封されたポテチと俺の漫画が置かれていた。
「ついでに次の巻とってよ」
俺の方を向きもしないで皐月は単行本を渡してくる。
俺は無言で彼女に後ろからアイアンクローを決めた。
「痛たたたた! ちょ、ちょっと何するのさ司令!」
「人のベッドの上で菓子を食うな」
「ううーなんだよー非番の日くらい、優しくしてよ-」
「俺のベッドで漫画を読むことは許可しているだろ。ポテチはカスで汚れるから辞めてくれ」
「ケチ!」
「ポテチの油でベトベトになった手で単行本を触られる俺の身にもなってくれ」
全くこいつは・・・・・・まあそれはさておき。
「皐月、ここに五月雨が来なかったか?」
「んん? そういえばさっき来たよ。司令官がいないって知ると探しに行っちゃったけどね」
「うお、入れ違いか・・・・・・まあいい。ちょっと五月雨探してくる。もしここにまた来たら俺が探してたって伝えてくれ」
「はいはーい。分かったから早く続きとってよ」
「お前・・・・・・俺、一応お前の上司だぞ?」
「わかってるよー。ほら、これ位距離が近い方が上手くお仕事できるでしょ?」
「一歩間違えれば無礼だぞ」
「まあまあ、それにこんなに可愛い美少女がこんなに仲良くしてくれるなんて、男の人にとっては天国じゃないかな?」
「何がこんなに可愛い美少女だ。お前なぞ部屋に勝手に侵入してきた猫と変わらん」
「あーっ! それは非道いよ! ボクをなんだと思ってるのさ!」
抗議するように皐月は俺をポコポコと拳で叩いてきた。
こうしてみると本当に近所の子供って感じだな。
俺は指で皐月の喉を撫でてみる。
「ふ、ふわっ・・・・・・くすぐったいよ~」
そう言いながらも気持ちよさそうに目を細める皐月。やばい、マジで小動物に見えてきた。
「まあ、食いカスはこぼすなよ」
「むう~最近、ボクの扱い雑じゃない?」
「気のせいだろ、では失敬」
俺はそのまま執務室を出た。さてと早いところ五月雨を・・・・・・
「あ、司令。ここにいましたか」
「おう不知火。ちょっと聞きたいんだが・・・・・・」
「探しました司令官。実は海軍本部から連絡がありまして」
「何、それは本当か」
「ええ、これから通信で緊急会議があるそうなので、至急執務室に」
「お、おお・・・・・・」
マジか・・・・・・まあしょうがない。
さすがにこれは無視できないからな。
「不知火、もし五月雨を見つけたら、俺の荷物を持っているだろうから、預かっといてくれ」
不知火はドジはしないし、勝手に中身を見たりしないだろう。
「あれ、どしたの司令官。今でてったばっかりなのに」
「本部からの命令でな。緊急会議があるそうだ。漫画は全部貸してやるから、部屋から出てってくれ」
「えー」
ぶーたれる皐月の首根っこを掴んで、外に出す。本当に猫みたいだ。
「じゃあ頼むぞ不知火」
「はっ、かしこまりました。ほら、行くわよ皐月」
「むー」
頬を膨らませた皐月を引きずっていく不知火を見送ってから、俺は執務室に入った。
あのデンモクみたいな装置を引っ掴んで椅子に座る。
スイッチを押すと画面から立体的な映像が浮かび上がった。
・・・・・・そういえば俺がここに来てから海軍本部とかと、連絡していないな。
大丈夫だろうか。俺はここに突然やって来たのだが、そのへんのつじつま合わせは大丈夫だろうか。
そんな不安を抱えつつ、俺は画像のボタンをタッチした。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「ちぇー、折角いいとこだったのにな」
「仕事なんだからしょうがないでしょう。ほら、行くわよ」
地団駄踏む皐月に不知火がそう言った時、第三の声がかけられた。
「あれ? 皐月ちゃんに不知火ちゃん」
「お、五月雨。司令官が探してたよ」
「え、そうなんですか? 実は五月雨も提督を探していたんです」
「へえ、じゃあ入れ違いになったんだね」
「残念ですが司令は本部から緊急の連絡があって、今はそちらの対処をしているわ。今は無理ね」
「うう・・・・・・それは残念です。提督宛の小包が届きましたので、渡そうと思って持ってきたのですが」
「へえ。司令官が個人名義で何か頼むなんて、珍しいね。漫画かな?」
「お酒かも知れないわ」
「うーん。五月雨も分からないです。でもこの箱、軽いですよ」
「じゃあお酒ではないかな。どれどれ」
皐月は興味深そうに箱を五月雨の手から持ち上げた。そのまま上下に持ち上げたり揺すったりして、中の感触を確かめている。
「わかんないなぁ。何だろう、これ」
「辞めなさい。司令官個人の所有物よ。私から司令官に渡すから貸しなさい」
「まあまあ、不知火だって気になるでしょ? 司令官がこっそり何を頼んだのか」
「べ、別に私は」
「お前たち、そこで何をしている」
長月の声がした。三人が振り向くと荷物を持った長月と谷風がこちらを向いて立っている。
「手が空いているなら手伝って欲しい」
「提督が荷物ほっぽりだしていっちまってねえ。おかげで谷風さんたちがこの有り様よ」
嘆息する谷風の両手には、段ボール箱がいくつも乗っていた。
「お、ちょうどいいところに! 実は見て欲しいものがあるんだけどさ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「で、これが司令官宛に届いた荷物と」
他の荷物を無事に整理し終わった後、一つだけ残った提督宛の荷物を、六人の艦娘がぐるりと囲んでいた。
場所は一階の食堂。
暁も呼んで、流刑鎮守府の艦娘が全員集まっている。
彼女たちの視線の先には、提督宛の段ボール箱が置いてあった。
「なんだと思う? ボクはおつまみかなって思うんだけど」
皐月が口火を切った。
「いや、司令官が好む酒の肴は、刺身や肉じゃがといった料理だ。菓子はあんまり食べない」
「さすが毎日、提督におつまみを作ってるだけはあるねえ。長月は」
「よせ、谷風。照れる。だが人の荷物を探るのはあまり気乗りしないな・・・・・・」
「じゃあ辞める?」
「いや・・・・・・ここまで来たら私も興味が湧く。暁はどう思う?」
「暁はきっと服だと思うわ! もうすぐ衣替えだし!」
長月に振られた暁は自信満々に答えた。
「確かに暦上ではそうでしょうけど、この島は常に暖かく、衣替えの必要は無いわ。それに司令はそういうものに無頓着」
「うう・・・・・・」
不知火の容赦ない突っ込みに、暁が涙目になる。
「そういう不知火はどうなのさ。何か予想はある?」
「そうね・・・・・・うーん・・・・・・」
「はうっ!」
突然、五月雨がそんな声をあげた。
「ど、どうしたんだい、五月雨。いきなり素っ頓狂な声を上げてさ」
困惑する谷風に、五月雨は頬を紅く染めながら言った。
「もしかして・・・・・・ゆ、指輪・・・・・・とか・・・・・・」
「なっ!?」
五月雨の口から放たれた言葉に、皆の顔が一斉に赤くなる。
「ま、まさか! ケッコンカッコカリは練度が最大上限じゃないと出来ないぞ!」
「谷風さんたちはまだまだ練度が低いからねえ」
「そ、そうですよね・・・・・・五月雨、早とちりしてしまいました」
「・・・・・・カッコカリでなく、本当の指輪なら練度は関係ないわね」
不知火がぼそっと言った一言に、さらに皆は浮き足だった。
「ど、どどどどうしよう!? 不味くない、これ? 一体、何が入っているの?」
「お、落ち着け皐月! ま、まずは深呼吸してだな・・・・・・」
「司令官がケッコン・・・・・・はわわ・・・・・・」
「落ち着いて、暁ちゃん! まだ決まったわけじゃないし・・・・・・」
「でももしそうだったら・・・・・・一体誰と・・・・・・」
「ああ、もうガマンできないや! ボクは開く! この箱を開くよっ!」
「まて、皐月! それは流石に不味い!」
箱を無理矢理こじ開けようとする皐月とそれを止めようとする長月に不知火。
食堂はまさに大騒ぎになっていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ようやく本部との通信が終わった。
何でもとある鎮守府が所謂ブラック鎮守府と化していたので、そこの提督を解任。艦娘達はメンタルケアのため、本土に戻るらしい。
そしてこれを機に艦娘達がちゃんと生活できているのか、本部から人が来てチェックするのだそうだ。
「まあ、俺の鎮守府には関係ないか・・・・・・」
提督が艦娘を恐怖で支配するのがブラック鎮守府だが、俺の所は艦娘が好き放題してからなあ。
そんなことを考えながら執務室に戻る途中、一階から何やら声が聞こえてくる。
何だろうと降りてみると、食堂から賑やかな声が聞こえてきた。
「おい、どうした皆」
「し、司令官!」
俺が食堂に入ると、皆が一斉に立ち上がった。心なしか、顔が赤い。
「ど、どうしたんだ皆、雁首そろえて・・・・・・っていうかそれ」
俺はそこで中央に置かれた自分宛の荷物に気が付いた。
「ご、ゴメン! 司令官! 実は中身が気になって持ってきちゃんだ・・・・・・」
皐月が真っ先に頭を下げた。悪戯好きのこいつにしては珍しいな。
「そ、それでさ・・・・・・誰に・・・・・・渡すつもり?」
「は?」
「だ、だからさ! それを誰に渡すつもりんだよっ!」
見れば皆が固唾を呑んで俺を見守っていた。
そうか・・・・・・ばれちゃったか。
「誰にって皆に決まってんだろ」
「み、皆・・・・・・って・・・・・・それってジュウコン・・・・・・」
「なに訳わかんないこと言ってんだ。ほら」
こっそり用意してサプライズ風に渡そうと考えていたが、ばれちゃったものはしょうがない。
俺は箱を開けて、クッキーを取り出した。
「あ、それ・・・・・・」
知っているのか五月雨がそう言った。
「そう、間宮特製クッキー、ホワイトデーのお返しだ」
綺麗に包装されたクッキーを人数分取り出し、全員に配る。
「皆、バレンタインはありがとうな! ささやかだけど、お返し」
俺がそう言ってクッキーを渡すと、六人の顔が輝いた。
「ふぇ? ボクにくれるの? 相変わらずかわいいなあ・・・・・・! ありがとう、司令官!」
「チョコレートのお返しですか。まぁ、有難くはありますね。頂いておきます」
「お、提督なんだい? チョコのお返しかい? くぅぅ、粋だねぇ! ありがたいよ―♪」
「う・・・・・・お返しされる理由はないのだが…。すまん、来年は必ずちゃんとしたチョコレートを用意する」
「司令官、レディーに対するチョコのお返しは・・・・・・これね! あ、後で開けるわ!」
「提督・・・・・・ありがとうございます! 五月雨、感激です!」
皆、何だかんだ言って、喜んでるようで何よりだ。
買った甲斐があったってもんだ――あれ、何か忘れているような・・・・・・
「あれ? もう一つ、何か入ってます」
五月雨がそう言って箱から小さな包みを出した。
そこで俺は思い出した。
そもそも何故この荷物を自分自身で確保しようとしたかを。
「開けてみますね」
「ま、待て!」
俺の叫びも虚しく、五月雨によって封は切られた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・それからのことは上手く説明できない。
ただ、とても酷い事になった。
最期に俺が彼女たちから言われて言葉で、特に印象に残っているものを羅列しようと思う。
『ほう・・・・・・巨乳女優大集合、か・・・・・・』
『不潔! 不潔よ、司令官! うえ・・・・・・うええぇん・・・・・・』
『泣かないで暁ちゃん・・・・・・うう・・・・・・ううう・・・・・・』
『司令官ってさ・・・・・・本当に・・・・・・ほんっとーに、かわいいね・・・・・・』
『情けねえ・・・・・・情けないねぇ・・・・・・』
『司令・・・・・・不知火は悲しいです。貴方を・・・・・・この手にかけることが』
ヒトヨンマルマル。
刑は執行された。
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい