流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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禁酒回です。
これを書いている時、自分も酒を飲まずに辛かったです


さらば優しき日々よ

 酒は常に俺と共にあった。

 学生時代は飲み会に明け暮れ、朝まで友達と飲み明かすなど日常茶飯事。

 社会人になってからは日々の激務の合間にある心のオアシス。

 そしてこの鎮守府に来てからも、俺は艦娘たちとよく酒を飲んだ。

 見た目はちっこいが酒の味が分かる皐月・谷風・長月。彼女たちと飲むのは本当に楽しかった。

 前の世界では女性と飲むことなんて、職場のおばちゃん達しか無かったからな。

 

「つまりな、不知火。酒は俺にとって、己の半身のようなものなんだ」

 

「駄目です」

 

「俺と酒は一心同体。どちらかが無くてはならない存在なんだよ」

 

「駄目です」

 

「二人で一人。バロロームなんだよ。分かってくれたかい。ぬいぬい」

 

「駄目です。あと、ぬいぬいは辞めて下さい」

 

「頼む! いきなり禁酒は無理だ! 許してくれ!」

 

 遂に俺は床に土下座して懇願した。しかし彼女はそんな俺の様子を、恐ろしく冷たい視線で見下ろしていた。

 

「もはや依存症の域ですね。理解しました。この不知火。徹底的に貴方から酒を排除いたします」

 

 俺にとっては死刑宣告でしかない言葉が放たれた。

 

「なに、司令官。ずっと禁酒というわけではない。まずはそうだな・・・・・・一週間。一週間、禁酒にチャレンジしてみよう」

 

 さすがに哀れんだのか、長月がそう言って俺の方を叩いた。

 

「それなら頑張れるだろう?」

 

「長月・・・・・・」

 

「不知火だって司令官の体のことを想って言っているんだ。だから我慢してくれ。この私も一緒に禁酒するから。な?」

 

「ながつきぃ・・・・・・」

 

 まるで聖母のようだ。俺は思わず涙ぐんだ。

 

「えい」

 

「ぐぼっ!?」

 

 突然、不知火に蹴られた。

 

「な、何を・・・・・・」

 

「いえ、別に」

 

 ぷいっとそっぽを向く不知火に、苦笑する長月。

 こうして俺の辛い禁酒生活は始まったのであった。

 と言っても俺だって昼間っから飲むほど、アル中ではない。

 お昼は普段通り業務をこなし、艦娘とじゃれあったりしながらも無事過ごした。

 やがて日は暮れ、夕飯の時間が近づいてくる。

 そしてこの時間になると不思議と酒が欲しくなるのだ。

 普段なら仕事を終わらせて風呂へ直行。風呂あがりに腰に手を当てて冷えた缶ビールをくいっとやるのが定番だったのだが、今日は我慢だ。

 そんな事を考えているときだった。

 

「司令官! 禁酒したんだって?」

 

 タオルを肩にかけた寝間着姿の皐月が、缶ビール片手に現れた。

 これはいつもの皐月・風呂上がりスタイルだ。

 

「きついだろうけど健康のためだし、頑張らないとねぇ」

 

 そう言いながら皐月は缶ビールのプルトップを開けた。

 プシュっと小気味良い音と共に白い泡が缶から漏れる。

 それを皐月は腰に手を当てて一気に呷っていく。

 

「ぷはぁーっ! キンキンに冷えてるー!」

 

 ゴクゴクと喉を鳴らしながら豪快にビールを飲む干す皐月に、殺意を覚えてしまうのは何故だろう。

 おっといかんいかん。ここは心穏やかに済ませないと。

 俺が禁酒しているからといって、皆が酒を飲むのを止める権利は俺にはない。

 皆は酒を楽しんで欲しい。

 

「いやぁ、こんな美味しいビールが飲めないなんて辛いねぇ・・・・・・司令官の分もボクが飲んであげるよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「て、提督・・・・・・どうしたんですか般若みたいな顔して」

 

 横にいた五月雨が怯えた声で言った。

 

「いや何でも無いぞ五月雨。何でもな・・・・・・」

 

 いかんいかん。殺意が顔に滲み出ていたようだ。

 平常心。そう、平常心だ。

 

「ちょっと風呂行ってくる。また後で」

 

 俺は残った仕事を素早く終わらせ、足早に風呂場へと向かうのだった。

 そして数十分後。

 

「駄目だ。全くリラックスできなかった・・・・・・」

 

 風呂上がりの一杯が無いなんて・・・・・・

 畜生、こんなに辛いモノだなんて思わなかったよ。

 さっさと食堂で飯食って、寝よう。そう思って食堂へと向かった。

 

「やあ、司令官! 一杯どう・・・・・・ってそうか! 禁酒してたんだったね!」

 

 ビール片手に早速煽ってくる皐月をスルーして、食卓に座る。

 すでに長月・五月雨・不知火が席に着いていた。

 俺の禁酒事情を知っているのか、五月雨と長月は苦笑いしている。 

 不知火は戦艦すら沈められそうな眼光を皐月にぶつけている。

 

「皆ー! 呉の浜風達から差し入れだぜぃ!!」

 

辛い空気を吹き飛ばすように、元気良く谷風が飛び込んできた。その手には小包が握られている。

 

「浜風と言うと、第十七駆逐隊のか」

 

「そうさ! 谷風さんとは刎頸の友さ」

 

「なら今度、うちの鎮守府に招待してくれよ」

 

「それとこれとは話が別だねぇ」

 

 そんな事をいいながら、谷風は小包の梱包を剥いでいく。まあまあ大きいな。一体なんだろうなと様子を伺っていると、中から出てきたのは一升瓶だった。

 

「おっ! これは雨後の月! かぁーっ! 地酒とは粋だねぃ!! 提督も日本酒好きだ――」

 

「喧嘩ボンバー!!」

 

「ぐべっ!?」

 

 俺の渾身のフェイバリットが炸裂し、谷風は酒瓶片手に吹っ飛んでいった。

 

「はっ!? 俺は一体何を!?」

 

 気がつくと谷風にラリアットを決めていた。一体何故……た俺が戦慄している合間に、谷風は長月に抱き起こされていた。

 

「谷風……司令官が禁酒中だとは知らなかったのか……」

 

「あう……ひでぇよぅ……提督……谷風さんが何をしたっていうんでぃ……」

 

「す、すまん谷風。つい感情が昂って……」

 

「と、とりあえず、このお酒は保管庫に持っていきますね」

 

 気を利かせた五月雨が、酒瓶を持って部屋から出ていった。

 なんとなく気まずい空気が流れる。

 

「全くダメだなぁ司令官は。こんなんでイライラしてたら、これからもたないよ」

 

 そう言いながらも、ビールを呷る皐月に段々と殺意が湧いてくる。

 

「はい、谷風も。ヒドイよねー司令官」

 

「ううっ……谷風さんは提督が喜ぶだろうと思って持ってきたのに……あんまりだよぅ……」

 

 皐月から缶ビールを渡された谷風は、それを一気に飲み干し、啜り泣き始める。

 

「ご、ごめん谷風。本当に……すまない」

 

「いいってことよ……提督が禁酒中だって知らなかった谷風さんにも非があらぁ」

 

 谷風に対して罪悪感が募る。そんな彼女に皐月がどんどんビールを勧めていく。

 

「司令官が飲まない分、ボク達でパーっとやろう! それがお酒に対する礼儀だよっ!」

 

「そうかな……そうかもしれねぇなぁ……」

 

 皐月に煽られ、谷風もどんどん杯を重ねていく。二人の頬は朱に染まり、顔も緩み始めていた。

 そうだ。これで谷風の機嫌が直るならそれでいいじゃないか。飲めない俺は我慢しても、飲める彼女たちには楽しんでもらいたい。そう思っていたのだが。

 

「いやー、やっぱり一日の終わりにビールは最高だねーっ! こんな美味しいものを飲めない人がいるなんて、悲劇っー!」

 

 ――ピギッ。

 

「かぁーっ! たまんないねぇ!! 冷えた麦酒を流し込む、この感覚!! 生きてるって感じだねぇ!!」

 

 ――ピギピギッ!

 

「ビールもいいけど日本酒もいいよね! 今夜は冷酒~♪」

 

「ポン酒にはつまみだねぃ! 谷風さんのとっておきのスルメイカ、だすしかないねぇ!」

 

 ――ピギピギピギッ!

 

「だ、大丈夫か? 司令官」

 

「ああ、心配するな長月。ただ殺意の波動に目覚めかけているだけだ」

 

 憎しみで人が、殺せればっ……!!

 

「司令官。あちらを見ても辛いだけです。不知火と一緒にご飯を食べましょう」

 

 そう言って不知火が、茶碗いっぱいに盛られた白米を持ってきた。そういえば不知火はあまり酒を呑まなかったな……ここで二人の飲酒する姿を観るよりはいいだろう。

 不知火の隣に座る。すると長月がすぐにおかずを置いてくれた。そうだ。飯を食おう。酒が無くても長月のご飯は美味しいんだから、別にいいじゃないか。

 

「司令官! 暁が司令官のためにいいモノを持ってきたわ!」

 

 今度は暁が食堂に入ってきた。その手には何やら瓶らしきものが握られている。

 

「お酒が飲めないって聞いたから、これを暁と一緒に飲みましょ!」

 

 そう言って不知火とは反対側の俺の隣に座ると、目の前に瓶らしきモノを置いた。

 

「こ、こどもの飲み物・・・・・・」

 

「どう? ビール程じゃないけど、これも美味しいのよ」

 

 い、いや気持ちは大変嬉しいけど、味とかそれ以前の問題というか・・・・・・アルコールが入ってないと・・・・・・

 

「はい、司令官! いっぱい飲んでね!」

 

 満面の笑顔でジュースが並々に入ったコップを渡してくる暁。彼女に皐月のような悪気はない。ただ純粋な厚意なのだ。

 

「ありがとう。暁・・・・・・」

 

 俺は暁からコップを貰うとそのまま一口。甘い味が口の中に広がっていく。うん、美味しい。美味しいんだけど見た目がビールに似ているだけあって、物足りなさを感じしまう。

 

「美味しい? まだまだいっぱいあるから、遠慮無く言って頂戴!」

 

「うん、美味しいよ暁・・・・・・」

 

「ぷぷっ・・・・・・よかったね司令官! ああ~ビール美味し~」

 

「皐月、貴様・・・・・・」

 

 俺の怒りが爆発寸前、初めて艦娘に殺意が湧いたよ・・・・・・

 

「五月雨、戻りましたーわあ、美味しそうですね-」

 

 そこに五月雨がのほほんと戻ってきた。

 うん、やっぱり五月雨はぽわぽわして可愛いなぁ・・・・・・待てよ。

 

「五月雨。谷風が日本酒を飲むらしいから、お酌してあげなさい」

 

「え・・・・・・どうしたんですか、提督」

 

「まぁまぁ。俺の分まで気持ちよく飲ませてあげたいからさ」

 

 そう言って俺は彼女を谷風の元へと送り込む。

 

「ありがたいねぇ・・・・・・ほんとなら提督に注いでほしいとこだけど」

 

 谷風は何の疑問も抱かずに酒瓶を五月雨に渡した。

 

「はい、じゃあいきますよ・・・・・・って、あああああっ!?」

 

 そして酒を注ごうとした五月雨は躓き、豪快に転んだ。

 よし! さすが五月雨! 安定のドジっ娘GJ! 俺の目論見通りだ!

 五月雨の持っていた酒瓶は何とか彼女がキャッチしたため無事だが、中身は盛大に床に零れてしまう。

 そこに俺はすかさず直行した。

 不知火の手前、盗み飲みは出来ないだろう。だがさすがの不知火もこの俺が零れた日本酒を呑むとは思えまい!

 ほのかに香る、日本酒の風味。いざ・・・・・・

 

「恥を知れ、恥を!」

 

「ぐばっ!?」

 

 長月に思いっきり蹴られた俺は、酒を飲むことなく地面をゴロゴロと転がった。

 

「て、提督そこまで・・・・・・」

 

「もうアル中じゃん・・・・・・」

 

「こりゃあひでえ」

 

 俺の行動にさすがの五月雨も引いているようだ。皐月と谷風もドン引きしている。

 いや、君たちの気持ちも分かる。

 だが! いつも呑んでいる酒を断つということは本当に苦しく辛いんだよ。

 

「どうやら不知火は甘かったようです。まさか司令官が、ここまでアルコールに執着しているとは」

 

 背後にゆらりと不知火が立った。声がいつも以上に冷たい。

 怖くて後ろを向けない。そんな俺の襟元を不知火が掴んだ。

 

「これは・・・・・・荒療治が必要ですね」

 

 死に神の鎌が首元に当てられた。

 そんな気が、した。

 

「司令官・・・・・・覚悟してくださいね」

 

 底冷えするような不知火の声が、耳に張り付いていくようだった。 

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「やめろっ! 辞めてくれ・・・・・・!!」

 

「まさかこんなに隠し持っていたとは・・・・・・予想外ですね」

 

 そう言う不知火の手には俺がベッドの下に隠していた日本酒があった。

 俺は縛られ、床に転がされている。

 そんな俺の前には今まで集めてきた日本酒やウイスキー。買いだめしていた缶ビールや缶チューハイが並べられている。いつか飲もうと、取っておいた数々のお酒達。

 

「こんなものがあるから、司令官は駄目になるんです」

 

 その内の一本の蓋を開け不知火は。

 

「処分します」

 

 ドバドバと排水溝に捨てた。

 

「ああああああああああああああっ!! 辞めろ! 俺の酒だぞ・・・・・・俺の酒だぞぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

「落ち度まみれだ! この人殺し! この人殺しぃぃぃぃぃっ!!」

 

「そうだよ、不知火。お酒がもったいないよ。ここはボク達で飲んであげよう!」

 

「そいつはいいや! えへへ、悪いね提督!」

 

 悪びれもせず俺の酒を飲み漁っていく、皐月と谷風。何だろう・・・・・・寝取られというか、妻や娘が敵兵に蹂躙されている男の気分だ・・・・・・

 

「お、おい。やり過ぎじゃないか?」

 

 さすがに長月が止めに入る。しかし。

「いえ、司令官のためです。不知火は心を鬼にして、司令から酒を抜き取ります」

 

 不知火も俺のためにやっているので、さすがに長月もそれ以上は強く言えないようだった。

 

「そうさ! これも司令官のため! ボクも司令官のために鬼になるよ! せーいぎのためなら~」

 

「谷風さんは~おーにーとーなる~」

 

 あの二人はいずれ殺す。

 

「し、司令官! 頑張って!」

 

「五月雨、応援します!」

 

 五月雨と暁に慰められながら俺は血涙を流して、己の集めた酒の顛末を見送るのしかなかった。

 ちなみに日本酒はほぼ皐月谷風コンビが飲み干し、残ったモノは不知火が没収してどこかへ隠しましたとさ。

 

 ・・・・・・・・・・・・その晩、俺は深夜に目を覚ました。

 無論、酒を盗み飲みするためだ。

 禁酒を頑張ろうと思ったが、皐月や谷風にあんなに煽られては飲まなきゃやってられん!

 ふふふ、実はこの鎮守府には酒の隠し場所はいくらでもある。

 俺の部屋の酒は全て没収されたが、あそこの酒はまだ大丈夫だろう。

 そう思い、俺は音を立てないようにしながら、慎重に夜の廊下を進んでいった。

 かつて節分で皐月たちと戦った時、白兵戦用の武器が保管されている小さな部屋を不知火に教えられた。

 そこに何かあったときのために、こっそりと酒を隠したのだ。

 ここはまだバレていないはず・・・・・・そう思いながら進み数分後、俺は目的地へと辿り着いた。

 さて、いよいよご対面だ。

 後ろめたさもあるが、やはり俺は酒とは切っても切り離せない関係なのだ。

 そう自分に言い聞かせながら、扉を開けた。

 

「――辞世の句を聞いておきましょうか」 

 

 後頭部に冷たい感触が突きつけられた。

 不知火の感情のこもってない声と硬い主砲の感触が直に伝わってくる。

 

「・・・・・・不知火よ。一つだけ・・・・・・一つだけいいか?」

 

「何ですか?」

 

「一口だけでいい。酒を・・・・・・」

 

 乾いた音が夜の鎮守府に響き渡った。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「結局、司令は酒を盗み飲もうとして不知火に粛正されたか・・・・・・」

 

「あれ、皐月ちゃんと谷風ちゃんは何処へ?」

 

「あの二人は急にお酒を飲み過ぎたせいで胃を悪くして、本土へ緊急入院しましたよ」

 

「もう・・・・・・随分お騒がせね」

 

「あはは・・・・・・」

 

 呆れかえる長月と暁。困ったように笑う五月雨。冷たく言い放つ不知火。

 その横で俺は酒を全て失った悲しみで、机に突っ伏していた。

 

 結論。お酒は程々にしましょう。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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