流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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秘書艦回です。
皆さんは秘書艦は一人に固定していますか? それとも替えていますか?
私はリアルだとずっと長月です


my sweet heart

 艦隊を指揮して深海棲艦を打ち倒す。そのために提督は存在する。提督になった者なら、誰もがそうすることを望むだろう。だがこの流刑鎮守府はその名の通り、僻地中の僻地に存在する、場末の鎮守府だ。そんな場所に深海棲艦はほとんど、姿を現さない。なので俺の仕事は基本、デスクワークのみである。

 

「提督。コーヒーをお持ちしました」

 

 いつものように五月雨がコーヒーを持ってきた。仕事の合間に飲むコーヒーはまた格別である。さて、一息ついて五月雨のコーヒーを頂くとするか……

 

「さあ提督、どうぞって……あ、あれ~!?」

 

「ぐおっ!? あ、熱つつつつっ!!」

 

 五月雨が躓いて、豪快にコーヒーを溢した。熱々のブラックコーヒーが俺にダイレクトアタックし、思わず飛び上がってしまう。

 

「あああ~て、提督、申し訳ございませんっ!」

 

「い、いや……大丈夫だ。長月に言ってすぐに洗ってもらう」

 

 俺は馴れた手つきで軍服を脱ぎ、こぼれたコーヒーを拭いていく。

 五月雨はナチュラルなドジっ子なので、こうやってコーヒーをぶっかけられるのは一度や二度のことじゃない。最初はびっくりしたり腹が立ったこともあったが、もう馴れた。今ではなんだか微笑ましく感じるようになった位だ。

 

「提督の服、すぐに持っていきます! 本当に申し訳ありませんっ!」

 

 そう言って俺の服を受け取った五月雨は足早で執務室を出て……行こうとして転んだ。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「ご、ごめんなさいっ! すぐにっ!」

 

 起き上がって出ていった。

 

「相変わらずだなぁ、五月雨は」

 

 一部始終をソファーで寝転んで漫画を読んでいた皐月が、そう言った。

 

「提督もよく怒らないよね。大体、週3でコーヒーかけられてるじゃん」

 

「もう、馴れたさ。それより皐月。この前貸した聖闘士星矢返せよ」

 

「う・・・・・・し、司令官ってさ。ボクに比べて五月雨や暁に甘くない?」

 

「そ、そうか?」

 

「そうだよっ!」

 

 皐月はそう言って突然立ち上がった。

 

「大体、秘書艦だってずっと五月雨じゃん! ボクだって秘書艦やってみたいよ!」

 

「そ、そういえば・・・・・・確かにずっと五月雨が秘書艦だな・・・・・・」

 

 思えば俺が艦これを始めた時に選んだ初期艦が五月雨だった。

 その後もとりあえず五月雨が秘書艦だったし、こっちの世界に来てもその延長線上で彼女を秘書艦にしていた。

 でも冷静に考えれば、別に秘書艦は五月雨でなくてもいいのだ。

 何だかんだで秘書艦の仕事は忙しい。ほぼ一日俺に張り付いていないといけないわけだからな。五月雨も毎日じゃ息苦しいだろう。それに他の娘が秘書艦をやるとどんな風になるのか興味もあるし・・・・・・

 そんなことを考えていると五月雨が俺の着替え片手に帰ってきた。

 

「提督、五月雨ただ今戻りました! すぐにお着替えを・・・・・・」

 

「おう、ありがとう」

 

 俺は五月雨から着替えを受け取って袖を通しながら、軽く言ってみた。

 

「なあ五月雨。明日から秘書艦を少し休んでみるか?」

 

「え・・・・・・」

 

 何気ない感じで言ってみたのだが、五月雨は衝撃で固まってしまっていた。

 あれ、そんなに驚いたかな。そんな風に思っていると、五月雨の両目からポロポロと涙が溢れ始めた。

 

「さ、五月雨はドジですもんね・・・・・・仕方ありませんよね・・・・・・」

 

 青い瞳から宝石のような涙を流していく五月雨。健気で見ていて胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまう。

 

「あああ、違う! 違うぞ、五月雨! 五月雨がドジだとかそんな理由で秘書艦を変えるわけじゃないんだ!」

 

 すすり泣く五月雨の頭と肩を出来るだけ優しく撫でると、俺は諭すように言った。

 

「五月雨は俺が着任して以来、ずっと秘書艦をやっていただろう? 毎日大変だろうし、たまには少し休んで欲しいんだ」

 

「うう……本当ですか?」

 

「ああ、本当だ。五月雨もたまにはゆっくり羽を伸ばしてくれ」

 

 俺の言葉を聞いて五月雨は安心したのか両目をゴシゴシ擦ると、あうーと両手を伸ばしてきたので、抱きしめて頭をポンポン叩いた。

 

「・・・・・・やっぱり五月雨には甘い」

 

 背中に皐月のそんな声が聞こえてきたが、しょうがない。男は女の涙に弱いのだ。

 さて・・・・・・五月雨の代わりの秘書艦であるが、一番無難なのは長月だろう。だが彼女は現在、我が鎮守府の台所を取り仕切っている立場だ。ただでさえ忙しい長月に秘書艦業務までやれというのは酷な話だろう。となると次は……

 

「……(どやっ)」

 

 俺の方をチラチラ見ながら皐月がなにやらアピールしてくるが、スルーだ。やはり五月雨、長月と来たら次はあの艦娘しかいない。

 

「不知火!」

 

「はい、ここに」

 

 俺が名を呼ぶと、不知火はすぐに来てくれる。忠誠心は高いし、真面目でいい娘だ。ちょっと無表情で怖いけど、秘書艦にはうってつけだろう。

 

「不知火、悪いんだけど頼みがある。五月雨が明日から暫く秘書艦を休むから、代わりの秘書艦をお前にやってほしい。頼めるか?」

 

 俺の問いに驚いたのか、不知火は少しだけ目を見開いた。だがすぐにいつもの氷のような表情に戻って、

 

「はい。司令の命令とあらば」

 

 あっさりと了承してくれた。

 

「ちょっと! これまでの流れ的にボクが秘書艦をやるんじゃないの!?」

 

 皐月が何やら騒いでいる。

 

「皐月。人には得手不得手というものがあるんだ。俺は君を不得手な土俵にあげたりしないよ。安心してくれ」

 

「ヒドイ! 差別だ! 艦娘差別だ! 憲兵さんに言いつけてや……」

 

 そこまで言ったとき、不知火が皐月の目の前まで迫った。ちょうど不知火の表情は見えないが、皐月の青ざめた顔はここからでもはっきりとわかった。

 

「う、うん。やっぱり秘書艦は不知火が適任だね。ボクはそう思う。ボクはそう思うよ」

 

 ぷるぷる震えながら棒読みの如くそう言う皐月に、俺はこれ以上言及できなかった。ちなみに振り向いた不知火はいつもの無表情でした。

 

「司令、至らない点も多々あるかと思いますが、明日からよろしくお願いいたします」

 

 ビシッと敬礼する不知火の迫力に圧倒された俺は、無言で首を縦に降るのだった。

 

 それから次の日。

 前日に皐月と谷風と痛飲した俺は、ベッドで二日酔いぎみに眠っていた。

 

「司令。朝です。起きてください」

 

 そんな声が脳に響いた。

 不知火の声だ。なんでだろう……ああ、そういえば今日は彼女が秘書艦だった。だが俺は体もだるけりゃ、頭も痛い。もう少し寝ていたい……

 

「すまん不知火。あと10分」

 

「いけません、指令。起床予定の時間をオーバーしてしまいます」

 

「もう少し……もう少しだから……」

 

「……仕方ないですね」

 

 分かってくれたか……と安堵した瞬間――

 

「不知火、期待に答えてみせます」

 

 凄まじい爆音が執務室に鳴り響いた。

 

「うわあっっっ! な、なんだ!? 敵襲か!?」

 

「安心して下さい。空砲です」

 

 驚いて飛び起きた俺の目に入ってきたのは、主砲を構えた不知火の姿であった。

 

「く、空砲って……そういう問題じゃないと思うが……」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

「あ、いや、なんでもない。昔、早朝バズーカなんてテレビあったしな……ってまだ、朝の5時じゃねぇか!!」

 

 時計を見て時間を確認した俺は、思わず声を荒らげてしまう。我が鎮守府は朝食が7時からと決まっている。つまりその時間までに食卓に座っていれば問題ないので、それに間に合う時間に起きればいいのだ。だから俺はいつも6時前後に起きているのだが……

 

「まだ寝ていい時間だぞ! 起こす時間を間違えていないか!?」

 

「いえ、これが正しいのです。司令は自堕落が過ぎるので、これからはこの時間に起床して頂きます」

 

「なん……だと……」

 

「この不知火が秘書艦になったからには、司令の不摂生な生活を正させて頂きます。これも司令のため。不知火は全力でいかせてもらいますので、心してください」

 

 真顔で不知火は俺から掛け布団をひっぺがすと、無表情のままで言った。

 

「まずは早朝のランニングですね」

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「おはよー・・・・・・って司令官、どうしたの!?」

 

 食堂の机に突っ伏す俺を見た暁が驚いて言った。

 早朝のランニングっていうから油断してたが、がっつりグランド10週くらいの距離は走らされたのだ。

 30間近で不摂生の俺がそんな運動出来るわけもなく、完全にグロッキーになってしまった次第である。

 

「ああ・・・・・・俺って老いたなって感じてるんだよ・・・・・・」

 

 絶対明日筋肉痛になるわ。おっさんだもの。

 

「司令官、朝食だ。食べれるか?」

 

「・・・・・・頑張る」

 

 いつもなら喜んで食べる長月の朝食も、今日は食指が動くかも怪しい。

 ちなみに現在、食堂に流刑鎮守府の全員集まっているのだが、俺に気を使ってか皆食事に箸をつけようとしていない。

 

「司令官。食事の後も予定が控えていますよ。早く食べた方が賢明だと、不知火は考えます」

 

「そうは言っても体が受け付けな・・・・・・待て。もしかしてまだ運動するのか・・・・・・」

 

「はい。司令官は肥満の気がありますので。一日の大半は執務と運動に割いて貰います」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

「司令官の健康管理も秘書艦の責務ですので」

 

 や、やばい。さも当然といった顔であんなこと言ってる。

 日々の不摂生は確かに認めるが、急にこんなハードワークされたら体が持たない。

 

「この後、8時から10時まで書類整理。その後は12時の昼食まで運動。昼食後の13時から15時までは座学。16時に遠征部隊の出迎え。17時には報告と後片付けを済ませ、入浴。その後夕食です」

 

「そ、そこまで俺は管理されるのか!?」

 

 軍隊かよ。いや、軍隊なんだけどさ。

 

「ああ、それと」

 

 付け加えるように不知火が言った。

 

「健康のことを考えて、一日のお酒は発泡酒350ml・1本までとします」

 

 その言葉に俺の何かが切れた。

 

「チェェェェェェェェンジッ! 秘書艦、チェンジだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 不知火秘書艦は半日もたず解雇された。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「そんな・・・・・・一体、不知火に何の落ち度が・・・・・・」

 

「いらっしゃい不知火ちゃん。一緒にカルメ焼きでも食べよ?」

 

 食堂の端っこで机に突っ伏してブツブツ何か呟く不知火と、その肩を叩いて慰めている五月雨。

 というか五月雨は別に解雇された訳では無いのだが・・・・・・

 

「不知火ってさ。恋人とかガチガチに束縛しそうなタイプだよね」

 

「ううう・・・・・・」

 

 皐月の一言で不知火はさらに落ち込んでしまう。

 でも確かに不知火と付き合う男は大変だろうな、とも思った。

 

「で、不知火の次は誰が秘書艦をやるんでぃ?」

 

 谷風が納豆を混ぜながら尋ねた。

 そうだな・・・・・・確かに不知火の次となると・・・・・・

 

「・・・・・・(どやっ。どやどやっ)」

 

 皐月がこれ見よがしにアピールしてくる。

 正直、皐月がちゃんと秘書艦をこなせるのかは疑問だが、不知火ほど息苦しくないだろう。

 

「・・・・・・皐月、やってみるか?」

 

「待ってました! 任せてよ、司令官!」

 

 小さい胸を大きく張って皐月は勢いよく立ち上がった。

 まあこれだけ得意げに前に出るんだ。何らかの勝算があるのだろう。

 こうして不知火秘書艦は任命した当日にリコールされ、新たに皐月秘書艦が誕生した。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「はい、司令官! 頼まれた書類、終わったよ!」

 

 笑顔で皐月が書類の束を渡してきた。

 

「おお、早いな」

 

 とりあえずデスクワークの手伝いを皐月にさせてみたが、仕事が思った以上に早い。

 正直、こういった事務仕事は嫌う娘だと思っていたから意外である。

 

「へっへーん! ボクのこと、見直してくれた?」

 

「おう、見直したぞ。さつ・・・・・・」

 

 皐月を褒めようとした矢先、彼女の提出した書類を確認した俺は渋い声で言った。

 

「皐月・・・・・・ここの文字が間違っている。あと、ここは判子を押し忘れている。ここは・・・・・・」

 

 皐月の仕事はスピードは速いが、不備だらけであった。

 

「全部やり直し!」

 

「そんなぁ~」

 

 結局、手直しと確認作業でいつもの倍はかかった。

 まあでも初めての秘書艦だしこれくらいはしょうがないだろう。

 その後、二人で何とかして仕事を終わらせた。

 

「さてこの後は演習と遠征の編成だが・・・・・・」

 

「ふふふっ、それは大丈夫だよ司令官! こんなこともあろうかと、ボクが既に作っておいたのさ!」

 

「おおそれは凄い! 早速、見せてくれ」

 

 前準備がいい奴だ。感心しながら俺は皐月が作った部隊表に目を通す。

 

「・・・・・・皐月」

 

「何? 司令官?」

 

「お前の名前が全く見当たらないのは気のせいか?」

 

「ぎくっ・・・・・・」

 

 遠征部隊の中にも演習部隊の中にも皐月の名前が無い。

 秘書艦とはいえ、この小さな鎮守府ではどちらかに参加しなければ回らない。

 実際に五月雨は合間合間に演習や遠征をこなしていた。

 

「そ、それはほら。秘書艦特権・・・・・・じゃなくて、秘書艦は司令官の側にいなくちゃ駄目だよねって」

 

「貴様・・・・・・楽をするために秘書艦に立候補したな?」

 

「・・・・・・さ、さぁ何のことかな・・・・・・ボク、ちょっとお茶でも煎れてくるね!」

 

「逃がすかっ!」

 

 あれほど秘書艦をやりたがっていたのはそれにかこつけて、他の職務をさぼるためか!

 全く、なんて奴だ!

 俺は逃げようとする皐月を後ろから羽交い締めにして持ち上げた。

 

「さつき~ちょっと司令官とお話ししようか? 大丈夫、すぐ終わりからさぁ」

 

「ひっ、司令官顔が怖いよ! だ、誰か! 司令官がセクハラする! 助けて!」

 

「誰がお前のような子供にセクハラなんてするか! あと10年してから出直してこい!」

 

 皐月秘書艦は不知火秘書艦とほぼ同スピードで解任された。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「皐月ちゃんも来たんだね。うぇるかむだよ・・・・・・」

 

「思ったより早かったわね。歓迎するわ、皐月」

 

「嬉しくない歓迎ありがとう、二人とも」

 

 昼食時。部屋の隅で暗いオーラを出している五月雨と不知火の元へ皐月が合流した。

 

「なぁ司令官。解任されるスピードが早すぎないか?」

 

 昼食を並べながら長月が言った。今日のお昼は素うどんか。美味しそうだな。

 

「まあ、何ていうか、色々あってな・・・・・・不知火じゃ俺がきついし、皐月は邪な目的がダダ漏れだし・・・・・・」

 

 そう言いながらチラリと横を見る。

 美味しそうに素うどんを啜る谷風と暁。残る秘書艦候補はこの二人か・・・・・・

 

「谷風」

 

「ん? どったの提督? ワサビならそこにあるよ」

 

「いや、谷風。お前、秘書艦をやってみないか?」

 

「ええ・・・・・・谷風さんがかい? 正直。性に合わねぇし、他に当たった方がいいと思うがねぃ」

 

「となると暁の出番ね! 一人前のレディーである、暁に任せて!」

 

 立ち上がってどや顔を決める暁。

 うーん・・・・・・ぶっちゃけ暁よりは谷風の方が適任だと思ったが、谷風は乗り気じゃ無いんならしょうがないな。

 

「じゃあ、暁。頼めるかい?」

 

「了解よ司令官! 暁に任せておいて!」

 

 暁は元気いっぱいにそう言った。

 それから昼食も終わり。

 

「じゃあ暁。残った書類を頼めるか?」

 

「分かったわ! 一人前のレディーにどーんと任せておいて!」

 

 嬉しそうに暁は書類を受けとると、すぐさま作業に入った。

 そして数分後。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 頭をこっくり、こっくりと揺らし始めた。

 どうやらおねむの時間のようだ。

 もうすぐにでも船を漕ぎ出しそうだ。

 まあ昼ご飯の後だもんな・・・・・・うっつらうっつらしながらも、懸命に眠気に耐える暁は可愛かった。

 あ、落ちた。

 完全に寝落ちしてしまった暁に、俺は毛布を掛けた。

 さて、暁の分まで頑張るか・・・・・・

 寝息を立てる暁に頬を緩ませながら、職務を進めること数時間。

 午後3時を示す時計の音が鳴った。

 すると長月が3時のおやつであるクッキーと紅茶を持って、執務室に現れた。

 

「司令官、差し入れを持ってきたぞって・・・・・・なんだ、暁。ふふふ」

 

 長月もスヤスヤ眠る暁に対して、柔和な笑みを浮かべた。

 

「起こしてやるか?」

 

「いや、折角、気持ちよさそうに寝ているんだし、このままの方が・・・・・・」

 

 俺がそう言った時だった。

 

「ん・・・・・・いい匂い・・・・・・」

 

 暁が目を覚ました。

 

「おはよう、暁」

 

「ふえ・・・・・・あ、しれいかん・・・・・・」

 

「暁、涎が垂れてるぞ」

 

「え・・・・・・ああ・・・・・・」

 

 長月に指摘され、ようやく意識がしっかりしてきて自身の現状がを把握したのか、暁の顔が段々と赤くなっていく。

 

「司令官のばかばかばか! 寝てるの気づいたなら、何で起こしてくれないのよ!」

 

 ぽかぽか俺を叩く暁に心が和む。

 そこに慈母のような微笑みを湛えた長月が、湯気立ちのぼるマグカップを暁の使っている机に置く。

 

「暁。紅茶に砂糖は入れるか?」

 

「ば、馬鹿にしないで! レディーは大人にのんしゅがーなのよ!」

 

 ぷんすか怒って暁はふーふーしながら、熱々の紅茶に口を付けた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そのまま渋面を作って固まった暁に長月は苦笑しながら、持ってきた角砂糖を差し出した。

 

「長月、俺にも砂糖を貰えないか? やっぱり紅茶には砂糖とレモンだ」

 

「分かっているさ。ほら」

 

 俺が普通に紅茶へ砂糖を入れるのを確認すると、暁も何食わぬ顔で砂糖を入れて啜り始めた。

 

「美味しいか、暁?」

 

「うん! 美味しい!」

 

 元気よく答える暁の頭をなでなでする。くすぐったそうに彼女は笑った。

 ・・・・・・うん。 

 暁は秘書艦には向かないな。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

「うううう・・・・・・暁、頑張ったのに・・・・・・」

 

「暁ちゃんも、来たんだね・・・・・・」

 

「同志が増えて不知火も嬉しいわ」

 

「何て不毛なやりとりなんだろう・・・・・・」

 

 テーブルに突っ伏す暁を慰める五月雨と不知火に、呆れ声でそう言う皐月。

 ごめん暁。でもしょうがないんだ。

 君が秘書艦だと、俺が駄目になっちまうんだ。

 

「と、いうわけで谷風。あと少ししか無いが、秘書艦をやってくれないか?」

 

「ええ・・・・・・まぁ、しょうがないとはいえ、交代の回転が速いねぇ」

 

「もうちょっとで終わるからさ。頼むよ」

 

「そこまで言われちゃあ谷風さんも、断れないねえ。いっちょ、やってみっかぁ!」

 

 腕まくりをした谷風は元気よく啖呵を切った。

 まあ谷風は皐月よりは真面目だろうから、何とかなるだろう。

 そう軽く考えていた俺であったが・・・・・・

 

「おう提督。ここ間違ってんぞ」

 

「あ、本当だ。すまないな」

 

「こっちもあったぞ。直しといたからこれで大丈夫だぞ」

 

「おう、サンキューな」

 

 谷風は想像以上に秘書艦業務を上手くこなしていた。

 元々彼女は、何だかんだでしっかりしていて面倒見がいい子だ。

 案外、この仕事向いているのかも知れない。

 

「よし・・・・・・これで終わりだな」

 

「お疲れ様だねえ」

 

 サクサクと残っていた仕事も終わり、二人で一息つく。

 

「谷風、お前秘書艦向いてるな。びっくりしたよ」

 

「おっと、おだてても何も出ないぜぇ。へっへっへ」

 

 照れくさそうに鼻を擦る谷風の頭をガシガシと撫でる。 

 ふと時計を見るとまだ五時にもなっていなかった。

 

「なぁ、谷風。時間もあるしちょっとクイっとやるかい?」

 

 ふと魔が差した。

 俺は御猪口を口へ運ぶジェスチャーをする。

 

「おっいいねえ! じゃあ谷風さんは何かつまめるモノを持ってくるよ」

 

 谷風もそれに乗ってくる。

 

「よっしゃ、じゃあ落語でも見ながら一杯やるか!」

 

「合点でい! 勿論、酒は日本酒、肴はスルメと鮭とばだねぇ!」

 

 肩を並べて二つの杯に酒を注ぐ。

 

「いくぜ、かんぱーい!」

 

「おうよ、かんぱーい!」

 

 小気味良く二つの杯が重なり合う。

 夕食の前までちょっとだけ息抜きするとするか・・・・・・

 

「で、そのまま酒盛りしたと?」

 

「・・・・・・はい」

 

「二人で泥酔するまで痛飲し、寝落ちしたと?」

 

「・・・・・・はい」

 

 数時間後。

 鬼の形相を浮かべる長月の前で、俺と谷風は正座して陳謝していた。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「五月雨。この書類にサインしといてくれ」

 

「はい、かしこまりました」

 

「あとこっちの伝票の確認も頼む」

 

「はい・・・・・・あの、提督」

 

「ん、どうした?」

 

「えーと・・・・・・ど、どうして五月雨を秘書艦に戻したんですか?」

 

「どうしてって・・・・・・元々、少し休ませるだけっていっただろう?」

 

「そ、そうですけど・・・・・・提督は・・・・・・」

 

「なんだ?」

 

「提督は・・・・・・五月雨のような者が秘書艦でいいのですか? ドジですし、いつもお茶を零しちゃいますし」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「五月雨なんかより、もっと相応しい子がいると思いま・・・・・・ふぁっ」

 

 俺は五月雨のおでこをちょんと小突いた。

 

「あのな。自分をそんなに卑下するんじゃない。俺にとって秘書艦は五月雨が一番なの」

 

 友達に勧められてこのゲームを始めた時、初期艦として五月雨を選んだ。

 何故彼女を選んだのか。当時は自分でもよく分からなかった。ただなんとなくとしか、説明できなかった。

 だが今なら分かる。

 こっちの世界に来て、五月雨と直接出会った今なら。

 五月雨の可愛いところ。真面目なところ。ドジだけど頑張り屋さんなところ。

 彼女のいいところをいっぱい知っている。

 この鎮守府の艦娘は皆いい子だが、秘書艦として近くに置いておきたいのは、何だかんだいってもやっぱり五月雨なのだ。

 

「だから俺はこれからも秘書艦をお前に任せるぞ。わかったか?」

 

「うう・・・・・・かしこまりました。五月雨、これからも精一杯、頑張ります!」

 

 五月雨は滲み始めていた涙を拭うと、花のように笑って敬礼した。

 俺も微笑み返して、頭を撫でる。清流を思わせるような五月雨の蒼い髪は、相変わらずサラサラで気持ちよかった。

 

「さて、これで書類仕事も全部終わったし、あとはこれを本部に送るだけだ。下に行くか」

 

「ハイ! 五月雨もお供いたします!」

 

 二人で古い木製の廊下を歩いて行く。

 俺がふと五月雨の方を見ると、彼女もニコっと笑った。

 

「あ、あああああっ!」

 

 瞬間、五月雨は躓いて転んだ。

 顔を真っ赤にして涙目で立ち上がる彼女を見て、俺は五月雨らしいなぁと笑うのだった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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