流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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七夕回です。
急に思いついて一気に書き上げました。


スターライト・シャワー

「七夕祭り?」

 

「はい。庭に笹と短冊を飾って、皆で天の川を眺めるんです」

 

 7月7日。夕方。

 俺が執務室で仕事をしていると、五月雨が麦茶を持ってきてくれた。冷蔵庫から出したばかりなのか、キンキンに冷えている。それを火照った体に勢いよく流し込むと、とても気持ちいいのだ。体にはあまりよくないだろうけど。

 流刑鎮守府は僻地中の僻地で、日本のようなはっきりとした四季の移り変わりがない。だが季節を体で感じてしまうのは日本人の性なのか、暦が7月になってから妙に蒸し暑く感じてしまうのだ。

 そんな感じで俺が麦茶を一気に飲み干した直後に、五月雨はそう言ったのだ。

 しかし俺は七夕という行事が存在することをすっかり忘れていた。社会人になってから、全く顧みることのなかったイベントだからな……

 

「七夕なんて子供の頃以来だよ。懐かしいな……短冊か……じゃあ皆願い事を書くのか?」

 

「はい! 皆で星にお願いします!」

 

 むふーっと鼻息荒く、五月雨は言った。女の子だし、やっぱりこういうイベントが好きなんだろうなぁ。

 

「そういえばいつも騒がしい皐月と谷風の姿が見えないけど、もしかしてそれが原因?」

 

「はい。二人とも中庭で明日の準備をしていますよ」

 

 普段の仕事は不真面目なくせにこういう時は真面目になる奴らだ。

 

「もう仕事も終わるし、二人で降りてみるか?」

 

 五月雨に何気なく言うと、彼女は花のように笑った。

 俺は残った書類を素早く片づけると、五月雨を伴って足早に中庭へと降りていく。

 心なしか五月雨の足取りは軽そうだった。

 

「あっ、司令官!」

 

 中庭に出ると俺たちの姿を見つけた暁が手を振ってきた。

 

「おう、暁。何をしてるんだ?」

 

「今ね! 皆で短冊に願い事を書いていたのよ」

 

 トテトテとこちらに駆け寄ってきた暁は、手に持った短冊を俺に見せながら元気よく言った。

 現在、中庭にはテーブルと椅子。さらにどこから持ってきたのかわからない、大きな笹が置かれていた。それらの端々には折り紙で作られた色とりどりの七夕飾りが、綺麗に飾り付けられている。

 

「へぇ、それはいい。ちょっと見てもいいかい?」

 

 俺がそう尋ねると暁は元気よく頷いて、桃色の短冊を差し出してきた。

 

「どれどれ……『早く一人前のレディーになれますように』」

 

 成る程、暁らしい願いだ。

 

「叶うといいな」

 

 暁に短冊を返して頭を撫でる。

 彼女はくすぐったそうに笑った。

 

「七夕に願いか。なんだか微笑ましいな」

 

 暁の可愛いお願いにほっこりしながら、笹の方に目をやる。よく見ると、既に幾つか短冊が吊るされていた。興味本位で手に取って、書いてある願いを読んでみる。

 

 ――ニンテ◯ドーSwitch欲しいな 皐月

 ――鬼平犯科帳全巻 谷風

 

「…………」

 

 チラリとこれを書いた二人の方を見ると、俺に向かって媚びるような視線を送ってきた。

 

「今度の出る夏のボーナスで買いなさい」

 

「ケチ!」

 

「男気がないねえ! 男気が!」

 

「あのな、七夕のお願いだぞ。そんな俗っぽい願いじゃなく、もっとロマンチックなやつ書けよ……ほら、ここに不知火の短冊がある。これには」

 

 ――司令官がお酒を辞めますように 不知火

 

「……」

 

 俺は無言で短冊を元あった場所に戻した。

 

「不知火の願いが叶うかどうかは、貴方次第ですよ」

 

 いつの間にか背後にいた不知火が、俺の肩をポンと叩いた。

 

「ぜ、善処するよ」

 

 不知火と目を合わせないようにしながら俺は答えた。

 

「そういえば、長月と五月雨の短冊が無いな」

 

 強引に話題を変える。また禁酒になんてなったりしたら不味いしな。

 

「五月雨はこれから書きますね」

 

 当の五月雨が短冊片手に言った。というと長月も後で書くのかな。

 

「しかし願い事はともかく、飾り付けは綺麗だな。これ、皆がやったのか」

 

 笹のあちこちに紙で作った星やぼんぼんが飾られていた。手作り感あふれる飾りであったが、それが逆に微笑ましい。

 

「へっへっへっ……谷風さんのお手製さ。どうだい? 上手なもんだろう?」

 

 得意げに鼻を擦りながら谷風は言った。

 

「意外に手先が器用なんだな。谷風」 

 

 そういえばよく変なコスプレしてたから、裁縫とかもしてたのかもしれないな。

 

「まあ、ほとんどが去年の使い回しだけどね~」

 

「おい皐月! それは言わないのが粋ってもんだろう!」

 

 皐月に内実を暴露され、谷風は顔を赤くして抗議する。

 まあ去年のがあるなら一から作るより、使い回した方が楽だよな。

 そんなことを考えていると中庭の端に段ボール箱を見つけた。

 なんだろうと興味が湧いたので、見に行ってみることにした。

 中身を見てみると何かが入っている。

 手に取ってみるとそれは紙で作られたお飾りだった。

 成程、これが去年の飾りか・・・・・・なんとなくそれらを見ていると奥から短冊が出てきた。

 これも去年のか。だがこういうもんって川に流したり、焼いたりして処分するんじゃなかったっけ。まあ、この鎮守府でそれらをするのは少々、骨が折れそうだが。

 そんな軽い思いで俺は去年の短冊を手に取った。

 

 ――私達の鎮守府に提督が着任しますように 五月雨

 

 思わず息を呑む。

 そのまま他の短冊にも目を通していく。

 

 ――司令官が早く来ますように 皐月

 ――提督着任 長月

 ――司令官がほしい 暁

 

 ・・・・・・そういえば長月が前に言っていた。

 この鎮守府には提督がずっといなかった。だから俺が着任して嬉しかったと。

 普段生意気言ってるあいつらも、去年はこんな風に提督が来るのを待っていたのだ。

 俺のようないい加減な男が着任して、皆はどう思ったのだろうか。

 自分で言うのも何だが、俺は世間一般でいうような提督像からかけ離れている。

 海の男としての豪胆さも、軍人としての優秀さもない。

 ただの30間近のおっさんである。

 そんな俺が何かの間違いでこの流刑鎮守府に来てしまった。

 もしかして皆はガッカリしてしまったのではないか――

 

「提督! 五月雨も書けました!」

 

 背中から五月雨の元気な声がぶつけられた。

 振り返ると、そこには短冊片手にあどけない笑みを浮かべる五月雨がいた。

 

「五月雨のお願い、どうですか?」

 

 彼女が指しだしてきた短冊には、五月雨らしい小さく柔らかみのある筆使いで、こう書かれていた。

 

 ――みんなが仲良く元気でいられますように 五月雨

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ふぁっ!? どうしました提督!?」

 

 俺は五月雨の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「いや、特に意味は無いぞ。ただ愛おしかっただけだ」

 

「いとおっ・・・・・・」

 

 五月雨の頬が朱色に染まる。

 さすがに子供みたいに頭を撫でたら恥ずかしかったのかもしれない。

 そうだ。

 俺は何を女々しい事を考えていたのだろう。

 彼女達に認められる提督になる。

 それだけでいいのだ。そのために頑張ればいいだけの話じゃないか。

 

「皆、素麺と天ぷらを持ってきたぞ・・・・・・どうした司令官? 五月雨と抱き合ったりなんかして」

 

 お盆にざる一杯の素麺と天ぷらを乗せた長月が首を傾げて言った。

 気が付くと辺りも暗くなり始めている。

 不知火が中庭を照らす外灯のスイッチを入れていた。

 

「いや、何でも無いぞ。旨そうだな」

 

「七夕だからな! 奮発したんだ」

 

 小さな胸を大きく張って、長月は料理をテーブルに並べていく。

 

「おお! 今日は豪勢だねぃ!」

 

「海老天! いか天! かしわ天!」

 

 谷風と皐月のコンビが早速、反応した。

 

「それに今日は酒もこれを持ってきたぞ」

 

 長月はそう言って琥珀色の液体が入った、大きな瓶を取り出した。

 

「これは・・・・・・梅酒か?」

 

「ああ。この季節の風物詩だ。いいだろう」

 

 そういえばそんな季節か。

 長月は梅酒を人数分の小さなグラスに注いでいく。

 こんな少量なら暁や五月雨も呑めそうだ。

 

「一年に一度の七夕だ。こういう行事は大切にしないとな」

 

「そうだ、な」

 

「では乾杯の音頭を。司令、お願いできますか」

 

 不知火がいつの間にか隣にいた。

 俺は梅酒の入ったグラスを手にとって天高く掲げた。

 皆もグラスを持って、同じように掲げていく。

 

「今日は七夕。天の川を見ながら皆で楽しもう。かんぱーい!」

 

『かんぱーい!』

 

 7つのグラスが重なった。

 一気にグラスの梅酒を呷る。

 どろりとした感触と共に、濃厚な甘さと梅の香りが口の中いっぱいに広がっていく。

 

「・・・・・・旨いな」

 

「そうだろうそうだろう」

 

 長月が嬉しそうに頷いた。

 

「暁、ピンクの麺!」

 

「じゃあボクは黄色の麺を確保!」

 

 珍しい色の素麺を囲い込む暁と皐月。

 

「やっぱり天ぷらには天つゆと大根おろしだねぇ」

 

「不知火は塩で頂くわ」

 

 谷風と不知火は仲良く天ぷらをつついている。

 

「星が見えてきましたね。綺麗・・・・・・」

 

 五月雨が空を見上げて感嘆を漏らした。

 確かに空の色は既に黒く染まり始め、点々と星が輝きだしていた。

 

「この島はよく星が見えるな」

 

「まぁド田舎だからな」

 

 長月が苦笑する。

 

「ちなみに長月は短冊に願いを書かないのか?」

 

「ああ、書いたぞ。ほれ」

 

 長月が渡してきた短冊には太い文字で『世界平和』と書かれていた。

 らしいといえばらしい願いだった。

 

「叶うといいな」

 

 心の底からそう思った。

 楽しそうに談笑する皆を見て、少しでも悩んでしまった俺が馬鹿らしくなってくる。

 これからも頑張っていこう。

 この流刑鎮守府の提督として、皆に認められる提督になるために。

 

「そういえば司令官はお願い書かないの?」

 

 皐月が素麺を頬張りながら尋ねてきた。

 

「そうだな・・・・・・」

 

 俺は短冊を手に取り、懐からペンを取り出した。

 五月雨のお願いと被ってしまうけど、俺の正直な願いを書こう。

 

 ――来年もまた、皆で天の川を見れますように

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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