流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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夏の海回です。

リアルで海に行けない鬱憤を爆発させました


夏の流刑鎮守府は忙しい

 季節は夏真っ盛りを迎えていた。

 最もそれは暦上の話であり、ここ流刑鎮守府は季節などない。

 常春の国マリネラならぬ、常夏の鎮守府なのだ。

 だから夏の暑さなど、ここには存在しない・・・・・・存在しないはずなのだ。

 

「暑い……」

 

「暑いね……」

 

執務室の机に俺は汗まみれで突っ伏していた。その近くのソファーには同じく汗だらだの皐月が仰向けになって、ぐだっている。よほど暑いのか、制服や靴下も脱ぎ捨て、下着だけになっていた。

 

「皐月、お前なんて格好してんだ。せめて服は着ろ」

 

「今日は非番だからセーフ……ねぇ、まだクーラーは直らないのかな……」

 

「何せ古いからな、妖精さんががんばってくれているが……」

 

 そもそも事の始まりは我が流刑鎮守府のクーラーが壊れたことであった。元々、この鎮守府は全体的に老朽化が進んでおり、設備はみんな古いものばかりだ。それはクーラーも例外ではない。一応、業務用の物らしく一台でこの鎮守府全体を冷やしたり暖めたりできる優れものなのだが、いかんせん古いのでよく止まる。そして直そうにもあまりにも古すぎて俺たちでは手に終えないのだ。何度か本部に新調を掛け合ってみたが、こんな場末の鎮守府にそんな予算はないらしく悉く却下。妖精さんが直せるので、それでいいだろうとのことなのである。

 

「折角司令官の漫画借りに来たのにさ、暑くて読む気も無くなるよ……」

 

「汗で書類が腕にくっついてやがる。ちくしょう」

 

 暑くて意識が朦朧としてくる。軍服ってやつはどうしてこう通気性があるので悪いのか。

 

「ていとくーおちゃをおもちしまひたー」

 

 五月雨が執務室に入ってきた。その手にはアイスティー入りのグラスが乗ったお盆がある。

 どうやら暑さにやられているのか、呂律が上手く回っていない。顔も赤いし、視線も宙を彷徨っていた。

 

「おい大丈夫か五月雨。少し休め」

 

 俺は五月雨が持ってきたお盆を受けとると、そのまま彼女をソファーに座らせた。

 

「ほら、これでも飲んで……」

 

 そう言いながら俺は五月雨が持ってきたグラスを掴んだ。よく冷えていて気持ちいい。数は皐月の分も合わせて三つある。俺は一つを五月雨に差し出し、もう一つを自分の口元へ持っていきグイッと――

 

「ぶばっ!? なんじゃこりゃ!?」

 

 口に入れた瞬間、お茶とはかけ離れた凄まじい塩辛さが舌先を包んだ。咄嗟に吐き出して、臭いを嗅いでみる。これは・・・・・・

 

「め、めんつゆ・・・・・・」

 

 キンキンに冷えためんつゆだった。

 きっと冷蔵庫に入れていた麦茶あたりと間違えたのだろう。

 ドジな五月雨ならやりかねない。

 

「おい五月雨これ・・・・・・」

 

「あーおいしいですー」

 

「暑い日にはこれが一番だよね-」

 

 顔を赤くしながら冷えためんつゆを満面の笑みで啜る二人に俺は絶句する。

 これはヤバい。暑さで正気を失っている。

 

「二人とも大丈夫か!」

 

 パンパンと頬を叩いてみるが、二人はぼーっとしたままだ。

 俺は二人を担ぎ上げると、そのままダッシュで一階の入渠施設(お風呂)に向かう。 

 脱衣所を抜け、空の湯船に辿り着くと俺は二人に冷水シャワーをぶっかけた。

 

「ひゃわっ!? あ、提督。一体、なんですか?」

 

「ぷはっ! ふえ? ボク何してたの?」

 

 頭が冷えて正気を取り戻した二人はキョロキョロと周りを見渡した。どうやら大丈夫らしい。

 

「よかった。心配したぞ二人とも」

 

 ほっと一息つく。しかし安心したからかまた暑さがぶり返してきた。

 俺も冷水ぶっかぶろうかな・・・・・・

 

「提督ーっ!! ここにいるかーいっ!!」

 

 俺が朦朧とし始めた中で変なことを考えていると、後ろから谷風の元気な声が聞こえてきた。

 

「どうした谷風」

 

 俺が振り向くと谷風は汗まみれの顔でニヤリと笑って言った。

 

「海へ行こうぜ?」

 

「果てしない海へ?」

 

 俺がそう返すと谷風は親指をグッと立てる。

 

「こんな暑い日に仕事なんて野暮だろう? ここはぱーっと皆で海へ涼みに行こうよ!」

 

「それは・・・・・・いいかもな」

 

 確かにこの熱帯地獄でまともな思考なんて出来ないし、クーラーの修理が終わるまで海で休むのもいいかもしれない。

 仕事といってもぶっちゃけそんなに忙しくないし。

 

「谷風、鎮守府中に放送してくれ。今日は海に行くぞ! 提督命令だ!」

 

「合点! うーみよーおーれのうーみよ~」

 

 谷風は元気よく走り去っていった。

 

「では五月雨も海に行く準備をしてきますね」

 

「ボクもすぐに用意してくるよ!」

 

 海に行くと聞いてテンションが上がったのか五月雨と皐月も、元気よく走っていった。

 さて、俺も準備するか。確か水泳練習用の海パンがあったな。

 そんなことを考えながら、俺は大浴場を後にしたのだった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 輝く太陽。白い砂浜。青い空に澄んだ海。

 まるでリゾート地のように美しい光景。ド田舎の流刑鎮守府の数少ない良いところだ。

 そこで俺はビーチパラソルと敷物を用意して、皆を待っていた。

 クーラーボックスにはキンキンに冷えたビールとジュース。夏の嗜みである。

 

「しれーかーん!」

 

 遠くから暁の元気な声が聞こえてきた。

 振り返ると暁を先頭に水着に着替えた流刑鎮守府の艦娘たちがいた。

 

「おう、皆揃ったか」

 

 よく知った顔の艦娘たちも、いつもと違う格好だからか新鮮に見える。

 皆、それぞれの個性が出ていて視覚的に楽しいな。

 

「じゃーん! どう司令官? レディーの水着は?」

 

 そう言って胸を張る暁だが着ている水着はオーソドックスなスクール水着だった。胸に縫い付けられた『きつかあ』の文字が微笑ましい。

 

「うんうん、よく似合っているぞ」

 

 幼児体型の暁にはぴったりだ。

 

「いきなり海とはビックリしたが・・・・・・たまにはこういうのも悪くないな」

 

 競泳水着を身につけた長月は、持ってきた荷物を降ろして言った。

 蒼い生地に白いラインの入ったシンプルなデザインは、引き締まった長月の身体によくフィットしている。

 

「ええ、暫く運動もしていなかったし・・・・・・谷風にしては良い提案ですね」

 

 長月に相槌を打つ不知火は桃色のビキニに白いホットパンツという活動的な水着姿であった。

 また純白のパーカーを羽織っているのが何だか大人っぽい。

 

「ひでぇな不知火! 仮にも妹艦である谷風さんにちょっと厳しすぎやないかい?」

 

 不知火の言葉にぶーたれる谷風はライトグリーンのビキニを身につけていた。

 さらに頭には水中ゴーグル、腕には浮き輪。自分から海に行こうと提案していただけあって、用意周到だ。

 

「よーし! 今日はめいいっぱい遊ぶぞー!」

 

 気合いを入れてそう叫ぶ皐月は黒いビキニを身に纏っていた。

 金色の髪と白い肌の皐月に黒色の水着は絶妙なコントラストになっていて、美しい。

 

「提督、お待たせして申し訳ありません。着替えに時間がかかってしまって・・・・・・」

 

 五月雨は水色のリボンが付いた白いビキニ姿だった。

 清楚なデザインが彼女によく合っている。

 

「いや大丈夫。これで皆揃ったな」

 

 元々美少女ばかりなだけあって、皆可愛らしいな。

 ここに一人でも巨乳の娘がいれば・・・・・・いや、贅沢は言うまい。

 

「皆、ちゃんと準備体操してから海へ入れよ。それと遠くに一人で行かないこと。いいな」

 

 俺がそう言うと皆は元気よく返事をして、浜から海へ散っていった。

 さてと俺も浜辺でゆっくりするか・・・・・・

 

「司令官! 折角海に来たんだから、一緒に泳ごうよ!」

 

 すると皐月が俺の腕を取って誘ってきた。

 

「い、いや俺は・・・・・・」

 

「いいですね。司令官は運動不足で肥満の気がありますので、一緒に身体を動かしましょう」

 

「そうそう! 水平線の終わりには~ぁぁぁ~虹の橋があるんだぜぃ」

 

 加えて不知火と谷風が俺の背中を押していく。

 うお、この陽炎型二人、こういう時だけガッチリと協力しやがって。

 

「なんか乗り気じゃないねぇ提督」

 

「泳ぐのはお嫌いですか、司令官?」

 

「あーもしかして司令官って泳げない?」

 

 ニヤニヤしながら皐月が尋ねた。

 なんか舐められたみたいで腹が立つな・・・・・・しかし。

 

「泳げないっていうか・・・・・・泳げたんだけど、今は分からないというか」

 

「へ?」

 

「いや、泳ぐなんて10数年ぶりなんだわ」

 

 最後に泳いだのは小学六年生の水泳授業以来である。

 その後進学した中学高校にプールは無く、夏休みでもインドア派だった俺は皆と泳ぎに行くより、集まってゲームする事が多いような友人ばっかりだった。

 気づけば全く泳がないまま、これまで生きてきたのだ。

 え、社会人になってから? そもそも休み自体が(以下略)。

 

「昔はちゃんと泳げたけど今は大丈夫かなぁ」

 

「一度泳げたらなら大丈夫でしょう」

 

「そうかなぁ・・・・・・」

 

 そう言いながらおっかなびっくりで海へと入っていく。冷たい海水が心地いい。

 

「少し浅いところで軽く流してみてはどうだ? 暫くそうしていれば勘も戻るだろう」

 

 長月もいつの間にか近くにきていて、そう助言してくれる。

 

「そうだな・・・・・・久々に身体を動かしてみるか」

 

 俺は意を決して、そのまま海面へとダイブした。うおっ・・・・・・意外に波が強い。それに思ったより身体が浮かない・・・・・・

 

「足だ! 足を動かせ!」

 

「手もしっかり動かして、もっと早く!」

 

 長月と不知火の怒声が飛ぶ中、俺は必死に手足をバタつかせていく。

 最初はかなりきつかったが、やがて昔の勘を思い出したのか、少しは泳げるようになった。

 

「おお、結構様になってるねぇ!」

 

「司令官! 泳げてる! 泳げてるよ!」

 

 一時間も経たないうちに俺は何とか人並みには泳げる状態に戻っていた。

 

「ぷはっ! 思ったよりも楽しいもんだな! 水泳ってのは!」

 

「おおう、言うようになったねぇ」

 

「だったらさ、ちょっと沖の方まで出てみない?」

 

 皐月がそう言って指を差した方向には水面からぴょこっと突き出た小さな岩礁があった。

 

「お、いいな。ちょっと頑張ってみるか」

 

「司令官、この長月も同行しよう」

 

「勿論、不知火も参ります」

 

「おお二人も来てくれるなら安心だな。よーし」

 

「あ、それだったら皆であそこまで競争しない? ビールでもかけてさ!」

 

「おっ! そいつはいいねぇ! 谷風さんも全力で乗っからぁ!」

 

「ビールといわれては俺も黙ってはいられないな」

 

 というわけで俺と皐月と谷風で競争することになった。

 長月と不知火はレースには参加しないが、一緒に付いてきてくれるらしい。

 ちなみに五月雨と暁は波打ち際でパチャパチャ遊んでいた。

 

「ではよーい・・・・・・」

 

 長月が手を天高く挙げて、

 

「スタートっ!」

 

 勢いよく振り下ろした。

 直後、皐月と谷風が勢いよく海へ突っ込んでいく。

 不味い! 出遅れた!

 俺も水面にダイブして必死に泳ぎ始める。が、相手は若い二人中々距離が縮まらない。

 クソ! 軽く引き受けた勝負だが、いざ始まると負けたくないと思ってしまう。

 俺は一気にペースを上げ巻き返しを図る・・・・・・

 

 ――ピギっ!

 

 瞬間、右足に電流が走った。

 筋肉が一気に硬くなって裏返ったような感覚と共に、激痛が襲ってきた。

 その痛みに思わず叫ぶと、口の中に海水が入ってくる。

 しょっぱい。苦しい。そうか息が・・・・・・

 

「司令官!」

 

 長月の叫び声が聞こえたところで、俺の意識は途絶えた。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「司令官! 起きて司令官! うぇぇぇぇぇぇんっ!」

 

「暁ちゃん落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから・・・・・・」

 

「とりあえず砂浜まで戻ってきたからひとまずは大丈夫だろうが・・・・・・」

 

 足をつって溺れた提督を長月が抱えて、陸まで泳いできたのだ。

 そのまま仰向けに砂浜に寝かせるも、意識はまだ戻っていない。 

 そんな提督を艦娘全員で囲んでいた。

 

「・・・・・・人工呼吸が必要かもな」

 

 長月が言った。

 呼吸が止まっているわけではなかったが、弱々しい吐息だったからだ。

 だが『人工呼吸』の単語を聞いて、周りの数人が何故か狼狽え始めた。

 

「だったらボクがやるよ! こんなことになったのはボクが競争しようなんて言い出したからだし」

 

「いや待てい。それなら海に行こうなんて言ったのは谷風さんだ。ここはこの谷風さんが責任持って・・・・・・」

 

「雑な貴方たち二人に任せられると思う? ここは不知火がやるわ」

 

「お前達、こんな時に何を争っている。全くもう・・・・・・」

 

「ちょっと長月! 何勝手にやろうとしてるのさ! まだ誰がやるか決めてないでしょ!」

 

「うるさいぞ皐月。時は一刻を争う。この長月に任せておけ」

 

「後生だぜ長月! ここは谷風さんに責任を取らせてくれぃ!」

 

「何が責任なのかしら。邪な考えが丸見えよ、谷風」

 

「なにぃ!? だったら不知火だって動機が不純じゃねえか!」

 

「不知火はただ司令官を早く助けたいだけよ。それ以外の理由なんて無いわ。さ、長月。そこを空けて頂戴」

 

「不知火とはいえここは譲れんな。司令官の命がかかっている」

 

「そう言って本当は司令官とちゅーしたいだけなんじゃないの?」

 

「なっ!? いい加減なことをいうな皐月!」

 

「怪しいなぁー下心がないんだったら、ボクに譲れるはずだよね?」

 

「そういう貴様こそスケベ心丸出しじゃないか!」

 

「す、スケベ!? 言っていいことと悪いことがあるんじゃない!?」

 

 グロッキーな提督を尻目に口論し合う四人であった。

 しかし。

 

「――がはっ!? ごほっ! ごほごほ・・・・・・うう、ここはどこだ・・・・・・」

 

 その提督は自然に息を吹き返した。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「司令官っ!」

 

「提督! よかった~!」

 

 暁と五月雨が飛びついてきた。

 

「うおっ・・・・・・いきなりなんだお前達・・・・・・ていうか足が痛い・・・・・・」

 

 泣きながら抱きつい乗りすいたのかも試練てくる二人の背中を撫でながら、俺はようやく意識をしっかりとさせ始めた。

 確か海で泳いでて突然、足がつって・・・・・・それで溺れたのか・・・・・・

 運動不足だったからかな・・・・・・調子に乗りすぎたのかもしれん。

 

「ごめん、皆。心配をかけた」

 

 そう言って頭を下げると暁と五月雨は泣きじゃくりながら、顔を俺の身体に埋めてきた。

 こんなに心配させるんて。猛省しなくては。

 

「長月に皐月。それに谷風と不知火もゴメン、そしてありあとうな。四人がここまで俺を運んでくれたんだろう?」

 

 俺は少し離れた所にいた四人にも頭を下げた。

 

「・・・・・・うん。よかった。よかったよ、司令官が無事で」

 

「すまねえ提督。谷風さんはぁ今、あんたに合わせる顔がねえ・・・・・・」

 

「全て不知火の落ち度です・・・・・・本当に・・・・・・本当に・・・・・・」

 

「長月はとんだ俗物だったようだ。司令官、本当に申し訳ない・・・・・・」

 

 下を向いて何やらブツブツ言っている四人を訝しながらも、俺は無理な運動はしないようにしようと心に決めたのだった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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