流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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新メンバー清霜。

皆さん、よろしくお願いします


鎮守府駆逐喧嘩バトル ぶちギレ暁

 気が付くと俺は花園の中心に一人、立っていた。

 澄んだ青空に囀る小鳥たち。のどかなお花畑だ。でも一体、何でこんな場所に俺は一人で佇んでいるんだろうか。

 

「提督~提督~」

 

 不意に俺を呼ぶ声が聞こえてきた。声のする方向に顔を向けてみると、そこには――

 

「提督~こっちこっち~」

 

 金剛・榛名。蒼龍・五十鈴・・・・・・かつて俺がゲーム内でケッコンカッコカリした巨乳艦娘たちが俺に向かって手を振っていた。

 な、何故彼女達が!? 俺は神の悪戯か何か知らないが、流刑鎮守府という名の貧乳駆逐艦オンリーな監獄に入れられたハズなのに・・・・・・

 

「提督~こっちネー」

 

「早く来て下さーい」

 

 そうやって俺を手招きする少女達。そうだ。そんなことどうでもいい。俺には巨乳艦たちが待っているじゃ無いか。

 

「おう、今そっちにいく!」

 

 よく考えればブラック企業の社畜だった俺が折角艦これの世界に転移したのに、貧乳だらけの鎮守府に送られた事自体が間違いだったのだ。

 そう、これから俺の巨乳艦これライフが始まるのだ!

 俺が勇んで一歩を踏み出した瞬間、

 

「何処に行くんですか、司令官?」

 

 何者かに足首を掴まれた。

 ぎょっとして足元を見ると、俺の足首を小さな両手がガッシリと掴んでいる。

 

「し、不知火・・・・・・」

 

 なんと不知火が俺の足首を締めながら、恨めしい視線を俺に向けていた。

 

「司令官がいるべき場所はここでしょう?」

 

 この世の終わりみたいな汚泥から湧き出した不知火はそのまま俺を、闇の中に引きずりこもうとする。

 

「離せ、不知火! 俺はあっちへ・・・・・・光溢れる、世界へと行くんだぁぁぁっ!」

 

「そんな場所はないよ、司令官・・・・・・」

 

「提督は谷風さんたちと一緒だぜぃ・・・・・・」

 

「さ、皐月! 谷風! 貴様らもか・・・・・・」

 

 さらに皐月と谷風が抱きついてくる。

 

「提督はずぅぅぅっと五月雨と暮らすんですよ・・・・・・」

 

「あんたはこの長月のモノだ・・・・・・」

 

「しれーかん、大好き・・・・・・皆でここにいよ・・・・・・」

 

 五月雨、長月、暁まで俺の体に引っ付いてきた。。

 まるで蟹座のデスマスクに纏わり付く亡者のようだ。

 だが俺は黄金聖闘士ではない。30手前のおっさんだ。駆逐艦とはいえ艦娘を振り切る体力は無い。

 それでも俺は足を前に出した。

 たとえ魑魅魍魎達に絡まれようと、行かなければならないエデンがあるのだから・・・・・・

 

「司令官ーっ」

 

 その時、頭上からそんな声が聞こえてきた。

 何だろうと顔を上げてみると、空から人影が俺に向かって落ちてきた。

 

「清霜もきたヨーっ」

 

 清霜がそんなことを言いながら降ってきた。

 六人の駆逐艦に掴まれた俺に逃れる術は無い。

 そして彼女は俺の顔に向かって一直線に落ちてきて――

 

「いだっ!?」

 

 激痛と共に俺は目覚めた。

 ズキズキ痛む体を擦りながら起き上がった俺の視界に入っていたのは、執務室のソファーだった。

 その奥、本来なら俺が使うはずのベッドを見る。そこには気持ちよさそうにスヤスヤ眠る、清霜の姿があった。

 

「そうか、そうだった・・・・・・」

 

 昨日、俺は念願の戦艦レシピを回したのだ。だが色々あって、生まれた艦娘は戦艦ではなく駆逐艦の清霜だった。

 鎮守府で建造して生まれた艦娘はよっぽどの希少種でも無い限り、その鎮守府にそのまま配属される。なので清霜も目出度く我が流刑鎮守府のメンバーになった。

 だがここで問題が一つ発生した。

 新しい艦娘が来るというのに、俺はその子を受け入れる準備を全くしていなかったのだ。

 着替えもなければ、寝床もない。

 生活必需品は妖精さん達が急ピッチで進めてくれるいるが限界はある。

 そういうわけで、眠る場所がない清霜に俺のベッドを貸し与え、そのままソファーで就寝したのだった。

 

「時間は・・・・・何だかんだでもう6時半か」

 

 あと30分で朝食か。じゃあもう起きるか。

 そう思い立って俺は寝間着を脱いで、軍服に着替える。

 チラリと清霜の様子を見るが、全く目が覚めそうな素振りはなかった。

 しょうがない。起こしてやるか。

 俺は彼女によって占領されたベッドに近づいた。

 寝間着を持っていない清霜はとりあえず谷風の浴衣を一枚借りて、気持ちよさそうに爆睡している。

 帯ははだけ、可愛らしいおへそや小さな足がだらしなく露出していた。

 

「清霜、清霜、起きろ」

 

 ゆっさゆっさと小さな体を揺さぶると、清霜は「ううん・・・・・・」と吐息を漏らす。閉じていた瞳がゆっくりと開くと、宝石のような瞳が俺の方を向いた。

 

「んん・・・・・・しれーかん・・・・・・おはよーござまいまふ・・・・・・」

 

 寝ぼけ眼を腕で擦りながら、そう言って清霜は起き上がった。 

 

「おう、おはよう。とりあえず服がはだけているから、早く着替えなさい」

 

「うん・・・・・・なおしゅ・・・・・・」

 

 まだ眠たいのか、清霜は欠伸混じりに浴衣を脱ぎ始めた。

 ・・・・・・暁と同レベル、いやそれ以上のお子様に見えるな。

 本当なら戦艦と重巡とかが来ていたはずなのに・・・・・・そう考えると気持ちが落ち込んだ。

 

「あれ、司令官、どうしたの?」

 

 いつの間にか着替え終わった清霜が、俺の服の裾を引っ張ってきた。

 目も醒めたのか、先程までのダウナーさが消えて本来の元気いっぱいの清霜になっている。

 

「いや、なんでもない。一緒に顔を洗いに行こうか」

 

「うん!!」

 

 力一杯頷くと清霜はそのまま扉を開けて、廊下をずんずんと進んでいく・・・・・・洗面所とは逆方向に。

 

「お、おい、洗面所の場所分かるのか?」

 

「知れないけど、大丈夫! ばっちり、ばっちりよ!」

 

 俺は頭を抱えて、清霜の腕を取った。

 

「昨日来たばかりなんだからバッチリなわけ無いだろう。ほら、こっちだ」

 

 清霜の手を引いて、反対へと進み出す。

 しかし、なんだ。清霜がアホの子であることはゲームで知っていたが、やっぱり直に触れると想像以上だな。

 ただでさえ問題児の多い流刑鎮守府だが、また強烈な子が入ってきたものである。

 

「あ、司令官」

 

 洗面所前まで行くと、ちょうど洗顔と歯磨きを済ませた暁が出てきた所だった。

 

「おう、暁、おはよう。ほら、清霜も挨拶しろ」

 

「うんっ! おはようございます!」

 

 俺に言われて清霜は元気よく頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 しかし暁は何も言わず怪訝な顔でじっ・・・・・・と俺たちを見ているだけだった。

 

「ど、どうした暁?」

 

「・・・・・・手・・・・・・」

 

「て?」

 

「・・・・・・お手々繋いでる・・・・・・司令官と清霜・・・・・・」

 

 何だか不機嫌そうだ。小さなほっぺたが段々、膨らんでいく。

 

「ああ、清霜は来たばかりだからな。案内してやったんだ・・・・・・どうしたんだ?」

 

「・・・・・・べつに。何でもないもん」

 

 ぷいっとそっぽを向くと暁は食堂の方へ足早に去って行った。

 

「何なんだ、あいつ」 

 

「司令官! 清霜の歯ブラシとコップが出来てる!」

 

 洗面所で清霜が嬌声をあげた。

 現在、彼女の生活用品は妖精さん達によって急ピッチで製造されている。この鎮守府で生活するのに必要な物は、数日で出来上がる手筈となっているのだが、歯ブラシとかは小さいから早く出来たのかな。

 

「よかったな」

 

 水色のコップと歯ブラシを持って喜ぶ清霜の頭を撫でながら、俺は自分の歯ブラシに手を伸ばすのだった。

 そのまま歯を磨き、髭を剃って顔を洗う。髪をセットしてから清霜を連れて食堂へと向かう。

 食堂に入ると他の皆は全員、揃っていた。

 漂ってくる朝餉の良い匂いに目を細めながら、席に座る。

 清霜はとりあえず、横に座らせた。

 既に茶碗や箸は妖精さんが作ってくれたのか、可愛らしい小さな食器が用意されていた。

 

「さ、皆揃った所で朝食を始めるか」

 

 長月が音頭を取り、朝食が始まった。

 今日の献立は塩鮭にひじきの煮物、漬物にワカメの味噌汁。だし巻き玉子に白ご飯だ。

 いつもよりちょっとおかずのの品目が多い。もしかしたら清霜の歓迎も兼ねているのかもしれない。

 

「いっただっきまーす!」

 

 元気よく清霜が言ってご飯をかき込んでいく。

 

「おいしい! おいしいです、なぎゃつきしゃん!」

 

「飲み込んでから喋れよ」

 

 長月が苦笑して言った。

 その間も清霜はおかずを頬張っていき、本当に美味しそうに咀嚼している。

 

「司令官ももりもり食べて、一緒に戦艦になろう!」

 

 ずいっと空になった茶碗を突き出してくる清霜の頭を俺は苦笑しながら撫でた。

 

「ちゃんと噛めよ」

 

 清霜はもぐもぐしながら頷くと、長月におかわりをよそおって貰っていた。

 

「清霜、ボクのもあげるよ」

 

 皐月が自分の漬物が入った小鉢を、清霜に差し出した。

 

「ゴチになります!」

 

「騙されるな、清霜! 奴は嫌いな物をお前に押しつけただけだ!」

 

「さぁて、何のことかな?」

 

 とぼける皐月だったが、そんな彼女の茶碗に無言で長月が漬物を大量にぶち込んだ。

 

「な、何するのさ! 長月!」

 

「ペナルティだ」

 

「そんなぁ~」

 

「あれ? 皐月さん、何か悪いことをしたの?」

 

 皐月に渡された漬物を頬張りながら、清霜が首を傾げた。

 

「いや、なんでないぞ。いっぱい食えよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「あれ? 暁ちゃん、どうしたの?」

 

「・・・・・・・・・・・・なんでもないもん」

 

 何だかご機嫌ナナメな暁に五月雨が話しかけている。

 だが暁はますます機嫌を悪くして、そっぽを向いた。

 暁の仕草に違和感を覚えながらも、俺たちは朝食を終えた。

 朝食が終わると俺は仕事で艦娘達は演習か遠征な訳だが、今日は勝手が違った。

 

「ねーねー、司令官。清霜は何をすればいいの?」

 

 清霜の存在だった。

 昨日着任したばかりでいきなり遠征や演習は無理だろう。

 というわけでとりあえず、五月雨に鎮守府を案内して貰ったのだが、流刑鎮守府は狭い。僅か十数分で終わり、二人は執務室に帰ってきたのだった。

 

「うーん、皆は遠征に行っちゃったしなぁ」

 

「じゃあ、司令官! 戦艦になるためのトレーニング! 一緒にいっきまっすかー!」

 

「戦艦になるためのトレーニングって何だよ」

 

「まずはグランド10週!」

 

 鼻息荒くそう言う清霜に俺は頭を抱えた。

 

「あのな、清霜。何でそんなことを・・・・・・というかどんな事をしても駆逐艦は戦艦にはなれんぞ」

 

「やってみないとわかりませんっ! よーし、がんばるぞぉ!」

 

 そう言いながら、清霜は全力で外へと走って行った。

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「うーん。清霜ちゃんも艦娘ですから大丈夫だとは思いますが・・・・・・」

 

 時間もあるし見に行ってみるか。

 そう思って俺がグランドに向かうと、そこには地面に突っ伏す清霜の姿があった。

 

「だ、大丈夫か清霜!?」

 

 駆け寄って抱き起こすと、清霜は顔を真っ青にして言った。

 

「うう・・・・・・気持ち悪い・・・・・・脇腹いたい・・・・・・」

 

「朝、あんなに食べたのに激しい運動するから・・・・・・」

 

 俺はそのまま清霜を抱え上げると、執務室まで戻ってソファーに寝かせた。

 五月雨が薄い毛布をそっと掛ける。清霜は本当に気持ちが悪いのか、うんうんと唸っていた。

 

「・・・・・・思っていた以上にアホの子だな」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

 五月雨に耳元で言うと、彼女は困ったように笑った。

 暫くして正午に迫った頃、遠征部隊が戻ってきた。今日の旗艦は谷風である。

 

「艦隊が帰投したよ、お疲れぇい・・・・・・って、どうしたんでい、清霜!?」

 

 ソファーの上で悶えている清霜の姿を見て、谷風が驚いていった。

 

「随分とグロッキーだね」

 

「大丈夫か?」

 

 続いて皐月と長月も清霜の顔を覗きこんで尋ねた。

 

「飯食った後に全力ダッシュして、気持ち悪くなったらしい」

 

「うわ・・・・・・」

 

「おう・・・・・・」

 

 流石の皐月と谷風も絶句していた。

 長月は苦笑いしながらも、清霜にブランケットを掛けてあげていた。

 

「ううん・・・・・・調子悪ぅ・・・・・・」

 

「これじゃあ昼食は無理そうだな」

 

 苦しそうに身悶える清霜の様子を見て、長月が言った。

 そうかもうそんな時間か。

 

「司令官! これ、今回の遠征の収穫!」

 

 すると暁がドラム缶を目の前まで持ってきて降ろした。

 中には今回の遠征で持ち帰った燃料がたっぷり詰まっているはずだ。

 

「おう。よくやったな暁。お疲れさん」

 

 俺はそう言ってポンポンと肩を叩いた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 すると暁は何だか不満そうにじーっと見てきた。

 

「ど、どうした?」

 

「・・・・・・ふんだ。失礼しちゃうわ」

 

 だが俺が声をかけると暁はぷいっと顔を背けるとそのまま出て行ってしまった。

 

「なんだあいつ・・・・・・今日は妙に機嫌が悪いな」

 

「反抗期じゃない?」

 

「暁にゃ早すぎるだろう」

 

 皐月も首を傾げている。

 

「さ、私達もさっさと着替えるわよ」

 

 不知火に促され、皐月たちも執務室を出て行った。

 

「俺たちも行くか」

 

 俺も五月雨を連れて、執務室を後にするのであった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「清霜、ふっかーっつ!」

 

 昼食を終え、暫く談話室でまったりしてから執務室に帰った俺が見たのは、元気よく決めポーズをとる清霜の姿だった。

 

「おう、もう大丈夫なのか」

 

「うん! 清霜、絶好調です!」

 

 むふーっと鼻息荒くする清霜。先程の不調が嘘のように、軽快に拳を出したり引っ込めたりしていた。

 

「あ、そういえば司令官お昼ご飯は食べたの?」

 

「え・・・・・・ああ、食堂でオムライスを食べたぞ」

 

「オムライス!? い、いいなぁ・・・・・・」

 

 昼食を食べ逃した事を悟ってしょんぼりする清霜だったが、それを見た長月が取っておいた分を持ってきてくれた。

 

「ほら、ちゃんと清霜の分もあるぞ」

 

 長月がそう言って小さなオムライスを渡すと、清霜は瞳を輝かせて皿を受け取った。

 

「やったぁ! ありがとう、長月さん!」

 

 大喜びでオムライスを頬張る清霜は何だか小動物みたいで可愛らしい。

 俺は自然に彼女の頭へと手を伸ばし、頭を撫で――

 

「ちょ、ちょっと! さっきから清霜ばっかりズルいわ!」

 

 突然、暁が叫んだ。

 あまりの大声に俺も清霜も、他の艦娘も驚いて体を強張らせてしまう。

 

「ど、どうした暁。いきなり何を言ってるんだ?」

 

「どうしたもこうしたもないもん! 今日の司令官ったら、清霜のことばかりじゃない!」

 

「え、そ、そうか?」

 

「そうよ! 全然構ってくれないし、頭だってなでなでしてくれないし・・・・・・」

 

 半泣きでそう訴えてくる暁に、俺はどうしていいか分からなくなってしまった。

 暁はきっとヤキモチ的な何かを清霜に抱いているんだろう、多分・・・・・・

 だが俺は別に清霜を特別扱いしているつもりはないのだが・・・・・・

 

「司令官、あんたも罪な男だねぇ」

 

「女の子泣かせるなんて、サイテ-」

 

「不知火。ちょっとバカ二人を黙らせてくれ」

 

「は、承知いたしました」

 

 俺の勅命を受けた不知火は、すぐに谷風と皐月の口を封じた。

 なにやらもがいているが、今は暁の方が大事だからスルーしよう。

 

「ねえ、しれーかん。暁ちゃん、どうしたの?」

 

 純粋に清霜が俺に聞いてきた。

 まあ彼女からしてみれば突然、先輩がキレた訳だからそんな反応にもなるだろう。

 だが、清霜の発言は暁の怒りの火に油を注ぐだけだった。

 

「け、決闘よ!」

 

 顔を真っ赤にして暁が、清霜に言い放った。

 

「暁の方がお姉さんだってこと、教えてあげるわ!」

 

 ビシッと指を指して言う暁に、清霜も立ち上がった。

 

「何だかよく分からないけど・・・・・・受けて立つよっ!」

 

 多分、深く考えずに暁が喧嘩を売って、それに輪をかけて何も考えていない清霜が喧嘩を買った。

 そんな適当なノリで暁VS清霜の決闘が約束されたのだった。

 

「・・・・・・で、演習か」

 

「これが一番手っ取り早いだろう」

 

 数分後、俺たちは流刑鎮守府の目の前に広がる内海の近くまで来ていた。

 海上には艤装を纏った暁と清霜がいる。これから一対一で演習を行うのだ。

 審判は不知火。

 残りのメンバーは見学である。五月雨が気を利かせて、お茶を配ってくれた。

 

「勝負は一本勝負。先に相手を大破させた方が勝ちです。よろしいわね?」

 

 不知火の問いかけに、二人は大きく頷いた。

 

「それでは・・・・・・始めっ!」

 

 不知火が空に向かって空砲を撃つと同時に、二人は動いた。

 水の上を艦娘達が走る音と水しぶき、続いて砲弾の音と硝煙の香りが辺りを漂い始める。

 

「・・・・・・しかし、冷静に考えたら、暁が勝つよなコレ・・・・・・暁は普段から演習してるけど、清霜は昨日来たばっかりで艤装を纏ったことすら少ないし・・・・・・」

 

「いえ、意外とそうではないんですよ?」

 

 隣でお茶を呑んでいる五月雨が言った。

 

「何でだ?」

 

「清霜ちゃんは私達と違って生まれながらの艦娘です。元々、普通の女の子だった私達と違って、清霜ちゃんは生まれながらに艦娘の戦い方を覚えているんです」

 

「悔しいことだが、先天性の艦娘は強い。誕生した直後から、深海棲艦とやり合えるからな。おまけに清霜は夕雲型。最新鋭だ」

 

 長月も複雑な顔で言った。

 そうか、同じに見える艦娘にもそういった違いがあるのか・・・・・・

 実際に清霜は暁の砲撃を次々と躱していた。

 暁が焦って平常心を失っているのもあるが、それでも初めてで攻撃を避けきるのは確かに規格外としかいいようがなかった。

 

「お、清霜が押してる! よーし、そのままいっけぇ! 谷風、今回はボクの勝ちのようだね!」

 

「ぐぅぅぅぅ・・・・・・だが江戸っ子はやっぱり大穴狙い・・・・・・暁ぃ! 谷風さんの今月のお小遣いがかかってるんだ! 勝てよぉ!」

 

 いつの間にか二人はこの勝負で賭けをしていたようだ。

 だが皐月の言う通り、清霜が徐々に暁を押し始めていた。

 

「夕雲姉さん達にだって、負けませんから!」

 

 清霜はそう叫ぶと、水柱の中を一気に暁に向かって進んでいく。

 暁には露骨に焦りが見えた。

 何度も主砲を放つが、空を切るばかりだ。

 接近。

 清霜が主砲を放った。

 爆音と同時に、暁の体からが白い煙が上がった。

 清霜はすぐに距離を取って、そのまま足を振り上げる。

 魚雷だ。

 水面に放たれた魚雷は一直線に暁に向かって進んでいき、爆発した。

 

「な、なんなのよ~」

 

 そんな情けない声と共に、ボロボロになった暁が煙の中から現れた。

 

「暁、大破。勝者、清霜。完全勝利です」

 

 不知火の号令と共に、演習は終わった。清霜の完全勝利という結果で。

 

「ふふーん。どぉ? これがこれが清霜の実力だって。分かったなら、このまま戦艦にしてくれてもいいのよ?」

 

 得意げに胸を張って俺の元に清霜は帰ってきた。

 

「ほ、本当に強いんだな・・・・・」

 

「ああ、私達もうかうかしてはいられんな」

 

 戦慄する俺の横で長月も、ちょっとだけ汗をかいていた。

 

「やったーボクの勝ちーっ!」

 

「かぁーっ、ちくしょうっ! これじゃおまんま食いっぱぐれちまうよぉ!」

 

 あの二人の事は何も言うまい。

 

「あ、暁ちゃん・・・・・・」

 

 五月雨が心配そうに見つめる先には、無言で波止場に帰投する、暁の姿があった。

 

「・・・・・・あ、暁」

 

 さすがに心配なので声をかける。すると、

 

「う、うえ、うええええええええええええええっん!!」

 

 暁は大きな瞳から宝石のような涙を流すと、大声で泣き始めた。

 

「ど、どうしたの、暁ちゃん! お腹痛いの?」

 

 そう言って駆け寄った清霜に向かって、暁は感情を爆発させた。

 

「何よ! 来たばっかりなのに司令官にちやほやされて! ずるいわ! 後から来たくせに強いだなんて、ずるいんだからぁっ!」

 

「え、ええ・・・・・・」

 

 号泣する暁に困惑する清霜。

 だがまさか暁がこんなに拗ねるだなんて、思わなかったな。さすがに止めないと。

 そう思った時、清霜が暁の背中を擦って言った。

 

「あ、暁ちゃん、本当にどうしたの? 清霜、ずるくないよ?」

 

「ひっく・・・・・・そういうところも生意気なんだから・・・・・・それに・・・・・・暁は先輩なのよ・・・・・・『ちゃん』呼びなんて失礼よ!」

 

「え、そうなの?」

 

 何だか話がズレてきたな。

 

「そうよ! 暁は年上なんだから、先輩とかお姉ちゃんって呼びなさいよ!」

 

「そ、そうなんだ・・・・・・ごめんなさい、暁お姉様・・・・・・」

 

「え・・・・・・」

 

 暁の涙が止まった。

 

「ごめんなさい、暁お姉様・・・・・・あたし、失礼なことしちゃったかも」

 

 一方的に喧嘩を売られた挙げ句、逆ギレされたのに素直に謝る清霜は、純粋にいい子だと思う。

 片や暁は先程までの怒りから一転、何だか目をキラキラさせ始めた。

 

「今、何って?」

 

「え、暁お姉様?」

 

「っ・・・・・・」

 

 暁の体がビクッと震えた。

 涙は完全に止まり、何やら頬が緩み始めた。

 

「も、もう一回・・・・・・」

 

「え?」

 

「もう一回、呼んで」

 

「・・・・・・暁お姉様?」

 

「っ~~~~~~~!」

 

 感極まったように暁は拳を握りしめると、清霜の肩をガッチリと掴んだ。

 

「貴方の勝ちよ、清霜! ごめんね、お姉様が悪かったわ!」

 

 すっかり笑顔になった暁が清霜を抱きしめていった。

 

「えへへ、よく分からないけど、よかったぁ」

 

 清霜も最初は困惑したが、深く考えない性分が幸いしたのか、すぐに笑顔に戻った。

 

「・・・・・・暁、お姉様って呼ばれたかったのか・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、この鎮守府じゃ末っ子扱いだったからな。その立ち位置を清霜に奪われそうだと焦ったみたいだが、妹分が出来たことに気が付いてチャラになったというわけだ」

 

 長月がとても分かり易い解説をしてくれた。

 そういえば、ゲームでも響たち暁型の妹たちは基本、呼び捨てだったしなぁ。普段からお姉さんとして頼ってほしい願望のある暁がお姉様なんて言われたら、そら嬉しいだろう。

 

「司令官に皆も、ごめんなさい! 暁、お姉様なのにちょっと変だったわ」

 

「そ、そうか」

 

「レディーとしての慎みを失ってたみたい。もう大丈夫よ!」

 

 すっかり機嫌が直ったらしい暁は、清霜の肩を組んで帰ってきた。

 

「えへへ、司令官。暁お姉様ってかわいいね」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

 清霜が笑顔でそう言ったが、これ若干余裕無いか?

 まあ、暁と清霜が仲良くなって本当によかった。

 

「さ、二人とも。おやつがあるから皆で食べましょうね」

 

「おやつ!」

 

「いこいこ! お姉様、早く!」

 

 五月雨の言葉に目を輝かせた二人はそのまま仲良く、鎮守府へと戻っていった。

 

「一件落着なの・・・・・・か?」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 不知火も陸地へと戻ってきた。

 

「長月お姉様~ボク疲れちゃった~おんぶして~」

 

「ふざけるな! というかお前の方が姉だろう!」

 

「不知火お姉様~お金貸してくれ~無一文になっちゃってよぉ」

 

「野垂れ死になさい」

 

 睦月型コンビと陽炎型コンビもそんなふうにじゃれ合いながら、戻っていった。

 俺も戻ろう。

 そう思って坂を上がっていく。

 何にせよ、新入りの清霜は皆に受け入れられたようだ。それが分かっただけでも、今回は良かったとしよう。

 

 その後、暁と清霜は互いに一人前のレディーと戦艦になることを固く誓い合い、義姉妹の契りを交わしたらしい。

 清霜の布団も完成し、六人の部屋で彼女は眠ることになったのだった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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