流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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広島遠征編これにて完結です


シークレット・デザイアー

 呉鎮守府の敷地は広く、本土に出張してくる提督用のホテルも用意されていた。

 俺と不知火は割り当てられた部屋に向かい、一旦離れた。着替えるためである。何せ俺は詰襟の軍服、不知火は陽炎型の制服だ。流石にこの格好で市内を歩いたら、目立ってしょうがないだろう。

 まあ私服と言っても俺は自身の服など持っていない。着の身着のままでこの世界にやってきたからな。なので俺が用意した服は、軍服と同時に作った背広である。ちょっと堅苦しいかもしれないけど、まあ軍服よりはいいだろう。

 そんなことを考えながら袖を通していく。身支度を整え、ネクタイを締めた時だった。

 

「お、お待たせしました・・・・・・」

 

 不知火が着替えを終えて戻ってきた。

 

「おお、不知火。すまん、コレで終わり・・・・・・」

 

 そこまで言って振り返ったとき、俺は目の前に飛び込んできた彼女の姿に思わず固唾を呑んだ。

 

「どうしました司令。不知火の顔に何か・・・・・・」

 

 不知火がそう言って俺はようやく我に返った。

 

「あ、いや、大丈夫だ」

 

 平静を装いつつ、俺は不知火の私服姿をじっと見つめた。

 グレーのパーカーに紺色のセーター。ショートのデニムからは黒いロングレギンスに包まれた健康的な足が覗いている。

 寡黙だが行動的な彼女にはピッタリの私服だった。

 しかし、俺ともあろうものが・・・・・・まさか不知火の可愛さに言葉を失ってしまうなんてな。

 いや不知火はいつも可愛いんだけど、それは妹とか娘に対するものであって異性としてみるのは倫理的に・・・・・・これ以上は止そう。

 何とか平常心を呼び起こして、彼女に向き直る。

 

「その服、似合ってるな。可愛いぞ」

 

「な、なな・・・・・・」

 

 顔を真っ赤にして不知火は体を震わせる。結構恥ずかしいのかもしれない。

 

「特に猫のファスナーがいいな。よく似合ってる」

 

「あ・・・・・・はい・・・・・・あ、ありがとうございます・・・・・・」

 

 顔を俯かせてゴニョゴニョ呟く不知火。褒められてないから気恥ずかしいんだろうな。

 

「・・・・・・じゃあ・・・・・・行くか」

 

「あ・・・・・・はい・・・・・・」

 

 俺も身支度を終え、不知火を伴って出発した。

 タクシーを捕まえ、本通りまで向かってくれと頼む。

 やっぱり呑むなら呉よりも広島市内の方が店も多いだろうと思ったのだ。

 暫くタクシーに揺られ、ようやく本通りに辿り着いた時にはすっかり日が暮れていた。

 とりあえず広電の原爆ドーム前駅の近くでタクシーから降りる。

 そしてそのまま本通り方面へと向かったのだが・・・・・・

 

「凄え人・・・・・・」

 

「多いですね」

 

 時刻は午後八時近くとはいえ、さすが広島の中心街。見渡す限りの人の群れだ。田舎の鎮守府で1年以上暮らしている身からすれば、これだけの人間が動いているだけでも圧巻に感じる。

 

「えっと・・・・・・不知火、何か食べたいものはあるか?」

 

「あ、いえ・・・・・・不知火は何でもいいので、司令の好きなモノでいいですよ」

 

「・・・・・・不知火。折角内地に来たんだ。たまには甘えてくれてもいいんだぞ?」

 

「え・・・・・・」

 

 普段、絶海の孤島でセルフサバイバルみたいな生活しているんだ。こういう時くらい、好きなモノを食べて欲しいしな。

 

「・・・・・・しかし、いきなり言われても難しいです・・・・・・」

 

 恥ずかしそうに不知火はゴニョゴニョ言った。

 

「うーむ。じゃあ肉と魚、どっちがいい?」

 

「えっと・・・・・・どちらかというと魚でしょうか」

 

「そうか。じゃあ魚だな」

 

 今の時代、スマホがあれば簡単に店が調べられる。俺は前もって調べておいた店の中から魚の美味しい店を探し、場所を調べた。

 

「よし、ここにしようか」

 

 俺は店を決めると不知火と共に歩き始めた。

 

「しかし凄い人だな・・・・・・」

 

「ええ、人に酔ってしまいそうです」

 

 出来るだけ不知火から離れないように歩いてはいるものの、予想以上に人が多い。特に人混みに慣れていない不知火は、足取りが重そうだった。何度も人にぶつかりかけながら、不知火と一緒に進んでいたときだった。

 

「あっ・・・・・・」

 

 不知火の体が大きく揺れた。咄嗟に手を伸ばし、彼女の右手を掴み、腰を支える。

 

「大丈夫か、不知火」

 

「は、はい・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

 いつも機敏な不知火が転びそうになるなんて・・・・・・まあ、それだけこの状況に慣れないんだろうな。

 

「あ、あの・・・・・・司令」

 

「ん、どうした?」

 

「・・・・・・手・・・・・・」

 

「て? あ、ああ、すまなかったな」

 

 言われて俺は不知火の手を握りしめたままの事に気が付いた。

 慌てて離そうとすると、小さな指が俺の手をぐっと掴んだ。

 

「え、どうした?」

 

「・・・・・・いえ、その・・・・・・は、はぐれてはいけないので・・・・・・もう少しこのまま・・・・・・」

 

 そこまで言うと不知火は顔を赤くして俯いてしまった。

 ・・・・・・まあ、確かにこの人混みの中ではぐれたら大変だから、手を繋ぐというのは間違いじゃ無い。

 年頃の女の子が30目前の男と手を繋ぐなんて嫌じゃ無いのかなと思ったけど、本人が大丈夫なら大丈夫だろう。

 

「じゃあ店までもう少しだから・・・・・・」

 

「あ、はい・・・・・・」

 

 不知火の手を握りしめながら歩いて行く。

 柔らかい感触が心地いい。そういえば女の子の手を繋ぐなんて小学校の時のフォークダンス以来ではなかろうか。

 不知火も動いているからか、汗がじんわりと滲みだしていた。手の何だか熱を帯びている。早く、目的地まで行かないとな。

 足を必死に動かし、ようやく店の前まで辿り着いた時、俺たちは手を離した。

 

「よし、この店だ。すまないな不知火。無理させて」

 

「・・・・・・いえ・・・・・・あの・・・・・・何でも無いです」

 

 余程人の群れの中が暑かったのか、不知火は真っ赤な顔で息を切らせていた。早めに店に入ろう。そう思い、俺は店の扉に手をかけた。

 そこは海産物が有名な居酒屋だった。

 俺たちは奥の座敷に通され、ようやく腰を降ろす。

 すぐに店員さんがおしぼりとメニューを持ってきてくれる。

 おしぼりで顔を拭くのはおっさんのやることと思いつつも、手と顔を拭いて一息ついた。

 そのまま飲み物のメニューに目をやる。

 

「俺は生ビールを。不知火は?」

 

「えっと・・・・・・カシスオレンジをお願い致します」

 

 店員さんは俺たちの注文を聞くと笑顔で去って行く。程なくして、注文した飲み物とお通しの乗ったお盆を持って、店員さんは帰ってきた。

 

「じゃあ、乾杯だな」

 

「あ、はい」

 

 俺はビールの入ったジョッキを掲げ、不知火もカクテルの入ったグラスを持ち上げた。

 

「乾杯!」

 

「乾杯・・・・・・です」

 

 ガチン、とコップの重なる音がした。

 俺はそのままビールを一気に呷る。火照った体に冷たいビールが流れ込んでいく。この感覚、のどごし、堪らねえな。

 

「かーっ! やっぱり仕事終わりの一杯は格別だな!」

 

「ふふふ、司令。谷風みたいな言葉使いになってますよ」

 

 不知火は微笑みながらカシオレを呑んでいた。表情も自然に緩く見える。

 

「よし、じゃあ早速、注文するとするか。この時期は美味い魚が多いからな・・・・・・不知火はどれが食べたい?」

 

「え・・・・・・で、では・・・・・・」

 

 それからいくつか注文して、お通しを摘まみながら料理を待つ。

 お通しは千切りになった大根に胡麻と魚卵が乗せられたモノで、これまた酒に合う。

 俺はすぐにジョッキ一杯飲み干し、お代わりを頼んだ。すると二杯目のビールと一緒に、料理がやってきた。

 俺が注文したのは、刺身三種盛り合わせと、寒ブリの刺身。不知火が注文したのはぶり大根と、だし巻き玉子だった。鰤が被ったのはしょうがない。だってこの季節、鰤が美味いもん。

 

「鮪に鯛に貝柱か・・・・・・これはビールによく合うな」

 

「あ・・・・・・この大根。凄い味が染みてます」

 

「だし巻きに乗ってるのは穴子か。面白いことするもんだ」

 

「寒ブリの刺身もすごく脂が乗ってますね。美味しい・・・・・・」

 

 不知火と二人、料理と美酒を楽しんでいく。

 普段は食べられないご馳走に不知火も嬉しいのか、いつもより喋ってくれる。

 あっという間に頼んだ料理は無くなった。

 追加の注文と同時に俺は日本酒にシフトする。寒いので熱燗だ。

 暫くして熱々のとっくりと御猪口がやってくる。

 

「司令、不知火が注ぎますね」

 

「おう、ありがとう」

 

 俺が御猪口を持つと、不知火がそこへ熱燗を注いでくれる。

 湯気と共に独特の香りを楽しむと、俺はそのままぐいっと飲み干した。

 体の奥から熱が広がっていくような感覚と共に、大きく吐息を吐き出しす。やっぱり冬は熱燗に限るな。

 俺が日本酒に舌鼓を打っていると、追加の料理が運ばれてきた。

 ハゲ(カワハギ)の煮付け。カンパチの刺身。天ぷらの盛り合わせ。

 日本酒に合うモノばかりである。

 その中からハゲの煮付けを摘まみ、一口。すかさず熱燗を呷る。

 

「うう・・・・・・はぁ・・・・・・やっぱ最高だな」

 

 思わず大きく溜息を吐く。

 魚って奴はどうしてこう日本酒に合うのだろう。

 

「・・・・・・司令、美味しそうに呑みますね」

 

「ああ、好きだからな」

 

 俺がそう言うと、不知火はじっと・・・・・・俺と日本酒の入った御猪口を見つめてきた。

 

「・・・・・・呑んでみるか?」

 

「あ・・・・・・いえ、不知火は強いお酒はちょっと・・・・・・」

 

「なぁに、一杯くらいなら大丈夫さ」

 

 俺はすぐにもう一つ御猪口を頼む。運ばれてきたそれに俺は熱燗を注いでいく。

 

「酒だけじゃキツいかもしれないから、何か肴と一緒がいいぞ」

 

 これは個人的な意見なのだが酒はそれだけでも美味いが、それに合うおつまみと一緒だと旨さは格段に跳ね上がる。

 だから俺は酒を勧めるときはおつまみと一緒にするようにしているのだ。

 

「で、では、煮付けを頂きます」

 

 そう言うと不知火はハゲの煮付けを摘まむと、パクリと口に入れた。そのまま熱燗をゴクリと飲み込む。

 すると不知火の頬が少しだけ緩んだ。

 

「・・・・・・美味しい、です」

 

「そうか、それは良かった」

 

 不知火はどちらかというと酒に弱い方だったが、少しくらいなら大丈夫だろう。

 

「・・・・・・もう一杯頂いてもよろしいしょうか?」

 

「いいけど、大丈夫か?」

 

「はい。おそらくは・・・・・・」

 

 本人がそう言うので、俺は彼女の杯におかわりを注いでいく。

 

「ちなみにこの中で俺のおすすめはハゲのキモだぞ」

 

「肝・・・・・・ですか。不知火はあまり・・・・・・」

 

「まあ、騙されたと思って一口、日本酒といってみろ」

 

 俺がそう言うと不知火は小さく肝を箸で取って、口に入れた。すかさず熱燗。

 

「あ・・・・・・美味しい」

 

「だろう? ささ、もう一杯」

 

 そのまま俺と不知火は料理と美酒を楽しんだ。

 不知火も熱燗を気に入ったのか、俺に付き合ってくれる。

 煮付けと刺身、天ぷら平らげた後、焼き牡蠣と〆の鮭雑炊を食べ満腹になった俺たちは大満足で店を出た。

 だがそこで問題が発生した。

 

「大丈夫か、不知火?」

 

「だ・・・・・・大丈夫・・・・・・です・・・・・・」

 

 不知火がすっかり千鳥足になっていた。

 油断していた。日本酒は足にくるのだ。いけるいけると思ってドンドン呑んでいたら、急に立てなくなることなんてよくある話である。

 だが不知火と呑むのが楽しくて俺も忘れていた。不知火もあまり表情に出さないタイプだし・・・・・・

 

「歩けるか?」

 

「ええ・・・・・・不知火に落ち度はありません」

 

「駄目そうだな」

 

 俺はタクシーを捕まえると、そのまま軍のホテルへ向かうように頼んだ。

 

「すまんな、不知火。俺も呑ませ過ぎた」

 

「いえ・・・・・・不知火も・・・・・・のみすぎました・・・・・・」

 

「もう少しでホテルに着くから、辛抱な」

 

 俺がそう言って背中を擦ると、不知火はボソボソと呟いた。

 

「お酒を飲んで・・・・・・ホテル・・・・・・これは・・・・・・皐月の言ってた・・・・・・」

 

 よく聞こえないが、かなり酔っているようだ。悪いことをしたな・・・・・・

 やがて目的地に着き、俺は不知火の肩を担いでタクシーから出た。そのままホテルに入り、不知火の部屋に向かい、彼女をベッドに降ろした。

 

「水、飲めるか?」

 

「・・・・・・はい、お願いします」

 

 不知火は弱々しく言った。

 コップに水を入れ、持って行く。不知火は何か唸っているようだった。

 

「ほら、不知火。起こすぞ。水だ」

 

 彼女の体を起こし、水を勧める。

 不知火は頬を朱色に染めて、上目で見つめてきた。

 

「司令・・・・・・」

 

 いつもの彼女とは違う表情に思わずドキっとしてしまう。

 

「の、飲めそうか?」

 

 俺がそう言うと不知火はコクンと頷くと俺の持つグラスへと手を伸ばす。

 指と指が触れる。視線が合った。宝石のような瞳がこちらを見ている。

 

「だ、大丈夫か? 今水を・・・・・・」

 

 瞬間、不知火の顔が目の前に迫った。

 彼女の吐息を感じる。

 胸がドキドキするのはアルコールのせいではないかもしれない。

 

「不知火は・・・・・・貴方が・・・・・・」

 

 そこまで言うと不知火はぽすんと俺の胸元に顔を落とした。

 

「し、不知火・・・・・・大丈夫か?」

 

 俺が覗き込むと不知火は小さな寝息を立て始めた。

 

「・・・・・・疲れたみたいだな」

 

 俺は不知火を抱き上げると彼女をベッドに寝かして毛布を掛けた。

 

「おやすみ、不知火」

 

 俺はそう言って灯を消して、部屋を出た。

 しかしさっきの不知火の様子はいつもと違って、妙に怪しかったな・・・・・・あの時、彼女は何を言おうとしたんだろう。

 

「まさか・・・・・・まさかな・・・・・・」

 

 もう寝よう。

 俺も隣に自分の部屋へと帰っていった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「うう・・・・・・全て・・・・・・不知火の落ち度です・・・・・・」

 

「いや、俺が呑ませすぎた。ごめんな」

 

 翌日。不知火は二日酔いで苦しんでいた。

 昨日の後半の記憶は無いようだった。

 

「まあゆっくり休んで、体調が戻ったら、鎮守府に帰ろう」

 

「申し訳ありません・・・・・・司令・・・・・・」

 

「いや、大丈夫。俺の責任でもあるしな」

 

 やっぱり酒を調子に乗って勧めてはいけない。

 

「司令・・・・・・」

 

「何だ?」

 

「・・・・・・昨日は楽しかったです・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

「・・・・・・おう」

 

 彼女が横になるベッドの近くに腰を降ろす。

 

「俺も楽しかったよ。付き合ってくれてありがとうな」

 

 広島遠征。

 色々あったけど、また行きたいな。そう思えるだけの思い出が出来たのであった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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