流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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本部からの来訪者

 我が流刑鎮守府はそのまま名の通り、罪人が島流しにされてやってくるレベルの辺境だ。深海棲艦はおろか普通の船すら滅多にお目にかからない。

 平和な海原である。

 だが腐っても官軍。かなり性能のいい索敵レーダーが配備されており、常に鎮守府近海を警戒している。そのレーダーが本日、機影を一つ捉えたのだ。

「味方の船で間違いないんだな?」

 

「はい。はっきりと日本海軍所属の船だと信号を送ってきました」

五月雨は緊張気味に答えた。

何でもこんなことは初めてとか。

 

現在、流刑鎮守府の玄関ともいえる港の波止場に、俺達は集合していた。

その視線の先には水平線からこちらに向かってくる、小さな船。

見た目は普通の連絡船といった感じで軍艦には見えない。一体、どういうことか。

 

「皆、一応艤装だけは準備しておいてくれ」

 

俺はそう言って艦娘たちの後ろに下がる。もし戦闘になったら俺は邪魔以外の何物でもないので、こうしてすぐに離脱出来る位置にいなければならないのだ。

 

「安心しなよ、ボクたちがちゃんと司令官を守ってみせるさ」

 

「すまんな、皐月」

 

皐月はニカッと笑った。こういう時、彼女の底抜けの明るさはありがたい。

暫くして、船は波止場に到着した。

入り口が開く。皆、固唾を飲んでそこから何が出てくるのかを見定めている。その時、中から勢いよく何かが飛び出してきた。

 

「久しぶりね……皆」

 

 それは少女だった。

 しかもその姿には見覚えがある。

 深い海色の美しい髪をツインテールで纏め、巫女服を思わせるような色合いのセーラー服。

 勝気な印象を受ける吊り気味の両目に、すっと高い鼻。

 制服の布地から見える柔らかそうな腕と可愛らしいおへそ。むちむちの太腿。

 そしてなによりその豊満でボリュームの両胸は、動く度に悩ましく揺れ、その官能的な……

 

『い、五十鈴教官!!』

 

 清霜を除く艦娘たちが勢いよく敬礼し、俺は我に返った。

 確かに目の前に現れたのは艦娘、長良型2番艦の五十鈴である。

 ゲームでよく見た顔だ。しかし、なぜこの鎮守府に? それに……

 

「い、五十鈴……教官?」

 

「ほら! 前にアルバムで見たろ!」

 

 皐月が小声で脇腹を小突く。

 そこで俺は鎮守府の倉庫を掃除した時に出てきたアルバムに、五十鈴と皆が映っている写真が載っていたことを思い出した。

 

「お久しぶりです、五十鈴教官。何故、急にこのような場所へ……」

 

 長月が尋ねると、五十鈴はにっこりと笑って言った。

 

「視察よ。皆がちゃんとやっているかどうか、チェックしにきたの」

 

 その言葉に皆が小さく息を呑むのを俺は感じた。

 普段は生意気な皐月や谷風ですら、五十鈴の雰囲気に押されている感じである。

 とういうかまてよ……

 

「もしかして、前にあったブラック鎮守府の影響ですか?」

 

 俺が口を挟むと、五十鈴ははっとした表情になって姿勢を正し、敬礼した。

 

「失礼しました。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。海軍本部所属、長良型2番艦・五十鈴です。本日は本部から査察の命を受けて、参上いたしました」

 

「あ、ああ……遠路はるばるご苦労様です。俺……いや自分はこの流刑鎮守府の指揮官をしている者です……」

 

 彼女の礼儀正しい態度に、ついつい俺も恭しい態度になってしまう。

 だが軍の視察もとい査察か……確かちょっと前に艦娘を虐待同然に使役していた所謂『ブラック鎮守府』が摘発されるという事があった。

 それ以降、似たような状況の鎮守府が無いか本部からの査察官が抜き打ちで各地を回っているという話を会議で聞いたが、遂にこの流刑鎮守府にやってきたのだ。

 だがそれはそれとして……

 

「長旅で疲れたでしょう。ささ、こちらへどうぞ! 何もない所ですが、どうぞゆっくりしていってください!」

 

 この流刑の地に駆逐艦以外の艦娘が、それも念願のおっぱいが大きい娘がやってきたのだ! こんなチャンスは滅多にない。

 俺は出来るだけ決め顔で、五十鈴の腕を取った。

 

「自分が鎮守府内を案内します。さあいきまぐべばっ!?」

 

「教官に失礼ですよ、司令」

 

 そして鎮守府へとエスコートしようとして、不知火に腹部を思いっきり殴打されたのだった。

 

「こら、不知火。上官に手を出しちゃ駄目でしょ」

 

「あ……も、申し訳ありません教官」

 

 が、不知火は五十鈴に注意されて頭を下げた。

 

「全く、五月雨の手紙通りね」

 

 五十鈴は苦笑しながら不知火の頭を撫でる。その手つきはとても優しく感じられた。

 

「五月雨、手紙を送っていたのかい?」

 

「うん。一ヵ月に一回送っていたよ」

 

 谷風に聞かれ、五月雨がそう答えていた。そう言えばたまに何やら書いていたな。

 しかし不知火にしては珍しく、表情を柔らかくしている。

 昔の恩師に会えて、嬉しいんだろう。そして和やかな二人の様子を見て、他の娘たちも気がほぐれたようだった。

 

「五十鈴さん、久しぶり!」

 

「会いたかったよ!」

 

「皐月に谷風も久しぶりね。五十鈴も会いたかったわ」

 

「ゆっくりしていって下さいね、五十鈴さん!」

 

「懐かしいな……」

 

「ふふふ、ありがとうね五月雨。長月の言う通り、懐かしいわ」

 

「五十鈴さーん!」

 

「あらあら暁ったら……」

 

 五十鈴はあっという間に皆に囲まれてしまう。

 最初は恐れられているのかと思ったけど、それ以上に慕われているようだった。

 

「それと、貴方が清霜ね?」

 

 暁の頭を撫でながら、五十鈴は清霜の方へと視線を向ける。

 突然、声をかけられた清霜は驚いたのか背筋をピンと伸ばして「は、はい!」と緊張気味に返事した。

 

「暁がすごく可愛がっているって聞いてるわ。よろしくね」

 

「……はいっ! よろしくお願いしまーす!」

 

 五十鈴に手招きされ、清霜は嬉しそうに彼女の元に駆け寄っていく。

 ちっこい子たちに囲まれながら、五十鈴は鎮守府の方へ楽しそうに歩いて行くのだった。

 

 …

 ……

 …………

 

「いつも通りにしてくれていいわよ」

 

 そう言って、五十鈴は執務室のソファーに腰を降ろして何やらノートとペンを取り出した。

 どうやらここで俺達の勤務態度を観察するらしい。

 俺はいつも通り五月雨を秘書官業務を任せ、残った六人を演習と遠征に分けて任務を行わせている。 

 今の所、問題はないはずだ。ブラック鎮守府とは思われないはずだ、多分……

 

「提督、この書類をおねがいしまぁぁああああああっ!?」

 

 そんな事を思っていると、五月雨が書類を持ってきて派手にすっ転んだ。

 

「大丈夫か、五月雨?」

 

「うう~」

 

 五月雨がドジするのはいつもの事なので慣れている。俺は苦笑しつつ五月雨を起こしてやると、彼女は涙目で書類を拾いながら立ち上がった。

 

「提督~いつもすいません~」

 

「いいさいいさ。ほら」

 

 俺がそう言って五月雨の手を取ろうとした時、どこからかカリカリという音が聞こえた。

 ふと音の聞こえた方を見ると、五十鈴が何やらペンを走らせている。

 な、なにか不味かっただろうか……まさか、五月雨の体に触ったことがセクハラ扱いになるとか……

 

「ひ、一人で立てるか?」

 

「え……あ……はい……」

 

 心なしか残念そうに五月雨は立ち上がった。

 

「失礼します!」

 

 すると扉が勢いよく開き、皐月が入ってきた。

 

「司令官! 演習、無事終わりました!」

 

 皐月は背筋をピンと伸ばし、礼儀正しく敬礼する。その姿に俺は強烈な違和感を覚えた。

 いつもの皐月なら軽い感じで報告を終えると、そのまま俺のベッドで横になって漫画を読みだすというのに……

 

「さ、皐月。ちょっとこっちおいで」

 

「え、どったの?」

 

 俺がチョイチョイと手招きすると、皐月はいつもの様子でこちらにやって来た。

 

「いや……熱があるかと思ってな」

 

「な、なんだよそれ! どういう意味だよ~!」

 

 俺がそう言っておでこに手を当てると、皐月は頬を膨らませて怒り出す。

 が、その様子を見る五十鈴の視線に気付いて、背筋をピシっと戻す。

 

「い、いえ、問題ないと思います……」

 

 ……さてはコイツ、教官だった五十鈴の前だからって猫被ってやがるな……

 

「あのな、皐月お前……」

 

「司令官! 遠征部隊、帰還しました!」

 

「た、谷風、お前もか……」

 

 遠征部隊の谷風が執務室に入って礼儀正しく言った。

 いつも腕白なこの二人がこんなに委縮するなんて、どんだけ五十鈴を恐れているんだ……

 

「ただいま、しれーかん! いっぱい燃料持って帰ってきたよーっ!」

 

「ふぅ、さすがのレディーも疲れたわ」

 

 後から清霜と暁も戻ってくる。この二人はいつも通りだな。

 

「お帰り二人とも。お疲れさん」

 

 帰ってきた二人の頭を撫でてやると、彼女たちは嬉しそうに目を細めた。

 ……待てよ、さすがにこれはセーフだよな……

 咄嗟に五十鈴の方を見る。

 彼女は、クスクス笑いながらペンを走らせていた。

 これは大丈夫なんだろうか。

 

「司令官、五十鈴教官。珈琲を持ってきたぞ」

 

 長月が熱々の珈琲が入ったマグカップを3つ、お盆に置いて持ってきた。俺と五十鈴と五月雨の分なんだろうな。

 

「あら、ありがとう長月。頂くわ」

 

 長月からカップを受け取った五十鈴は、漂ってくる芳ばしいに頬を緩ませながら一口、コーヒーを啜った。

 

「うん、美味しいわ」

 

「それはよかったです」

 

 笑顔で五十鈴が言うと、長月はほっと胸を撫で下ろした。

 

「ありがとう、長月ちゃん」

 

「すまんな、長月」

 

 俺と五月雨も珈琲を受け取った。

 

「あ、ボクも……」

 

「谷風さんも……」

 

「二人とも、まだ任務が残っているわよ」

 

 長月に珈琲を催促しようとした二人の襟首を不知火が掴んで、ずるずると引っ張っていく。

 

「では、司令官。五十鈴教官、失礼致しました」

 

 不知火は出口で綺麗に敬礼すると、皐月と谷風を連れて出ていった。それに暁と清霜も続いていく。

 

「後で、皆にも珈琲を持って行ってやるか」

 

 長月も苦笑しながら部屋を後にする。

 

「私も書類を纏めてきますね」

 

 五月雨も軽く会釈すると、書類を抱えて出ていった。

 残されたのは俺と五十鈴だけである。

 

「…………」

 

 俺は五十鈴と元々面識は無い。なのでこうして二人になると話すことが無い。

 まして提督と、それを査察する艦娘なのでなおさらである。

 しかし……本当に大きな胸だなぁ……少し動くだけで悩ましげに揺れ、かといって形は崩れないし……

 

「……皆、元気そうで何よりだわ」

 

「えっ!?」

 

 突然、五十鈴がそう切り出した。

 

「これでも心配してたのよ。皆がちゃんとやっているかって」

 

「……五十鈴さんは皆の教官だったんですよね?」

 

「ええ。訓練生時代のね」

 

 五十鈴は懐かしそうに微笑して、マグカップを置いた。

 

「五月雨、長月、皐月、不知火、谷風、暁……本当に大変だったわ」

 

「確かに皐月と谷風は色々大変そうですね」

 

「ふふふ、本当に手がかかる娘達だったわ。何度も怒って指導して、ようやく卒業したと思ったら配属先は僻地中の僻地、流刑鎮守府なんてね……」

 

「う……」

 

「しかも肝心の提督は全然着任しないし……まぁこんな遠い所に行きたがる軍人なんていないもの。しょうがないわ」

 

 確かに彼女の言う通り、この流刑鎮守府はド田舎というかそう言う次元じゃない位の僻地である。

 海軍のエリートさんたちで好き好んでこの場所に来るような物好きはいないだろう。

 

「五月雨からよく手紙が来たの。みんな、楽しくなさそうです。提督はいつ来るんですか……ってね」

 

 ……前に聞いた話だとこの鎮守府は俺が来るまで指揮官がいない状態が続いたらしい。

 それで皆、随分とやさぐれたとか。

 

「でも、ある日を境に五月雨の手紙からそう言った悩みが書かれなくなったの。何故だか、分かる?」

 

 気が付くと五十鈴はじっと俺の方を見ていた。

 宝石のように美しい緑がかった青い瞳が、俺の顔を映している。

 

「貴方が来たからよ」

 

「それは……」

 

「うふふ、五月雨がいつも楽しそうに書いてくるの。提督と何々をした。皆でこんなことをしたって」

 

「…………」

 

 何だか胸にこみ上げてくる。

 そんな俺の心中を察したのか、五十鈴はにっこりと笑って言った。

 

「あの子たちの提督になってくれてありがとう。流刑鎮守府は問題ないわ。これからもよろしくね」

 

 …

 ……

 …………

 

 その晩、五十鈴の歓迎パーティーが行われた。

 歓迎といっても五十鈴は今日の夜、流刑鎮守府に泊まって明日には帰る予定である。

 久々の恩師との再会ということあって、皆楽しそうだ。

 俺も杯を重ね、長月の上手い料理に舌鼓を打ち、宴もたけなわとなった時だった。

 

「さて、そろそろ私もお暇しようかしら」

 

 五十鈴がそう言って立ち上がった。

 

「長月、美味しかったわ。ありがとうね」

 

「五十鈴教官、もう寝るんですか?」

 

 皐月がそう尋ねると五十鈴は首を横に振った。

 

「すこしアルコールを抜いてから、お風呂に入ってから寝るわ。そんなに飲んでいないから大丈夫」

 

「お風呂?」

 

 その単語に暁が反応する。

 

「五十鈴教官……あの、暁も一緒に入っていい?」

 

「ええ……勿論よ!」

 

 上目遣いで言ってくる暁の可愛さにやられたのか、五十鈴は彼女をぎゅうっと抱きしめた。

 

「清霜も! 清霜も一緒に入っていい?」

 

「ええ、三人で入りましょう」

 

 五十鈴は暁と清霜の手を取ると、そのまま大浴場へと向かって行く。

 その様子は歳の離れた姉妹のようで微笑ましい……ん、風呂? 五十鈴が風呂?

 

「…………さて、俺も少し飲みすぎたし今日はもう寝るよ」

 

「え、大丈夫ですか?」

 

「ありがとう五月雨。大丈夫さ。長月、後は頼む」

 

「あ、ああ……気を付けろよ」

 

 俺は出来るだけ調子悪そうな声を出すと、そそくさと二階の執務室へと移動する。

 部屋に入り、俺は深呼吸すると両手でこ両頬をパンパンと叩いた。

 

「まさかこんなチャンスが巡ってくるとは……」

 

 俺はそう呟きつつ、部屋の奥からビデオカメラを取り出した。

 本来は演習などの記録に使うのもだが、この鎮守府ではほとんど使われることなく埃を被っていたのだ。

 

「五十鈴はかつての俺の嫁艦……そんな彼女が風呂に入るのだ……黙っていられるだろか。いや、ない」

 

 彼女には悪いがこの鎮守府には小っちゃい駆逐艦しかいない上に、苦労して手に入れたエロ本やDVDは見つかり次第処分されるという厳しい環境……

 圧倒的に不足しているのだ……俺にはエロが……

 

「ましてや生の艦娘の肢体……これを逃す手は……」

 

「だ、だめですっ!」

 

「うわっ!?」

 

 急に後ろから声が聞こえ、俺は思わず飛び上がる。

 すぐに振り向くと五月雨が頬を膨らませて立っていた。

 

「な、どうして……い、いつからそこに……」

 

「提督にお水を持ってきたんです! そ、そしたらそんなこと……」

 

「……五月雨。見逃してくれ」

 

「駄目です! 五十鈴さんのお、お風呂を覗くなんて……お、女の人の裸が見たいなら五月雨が……」

 

「……五月雨、ちょっと後ろを向いてくれないか」

 

「え、あ、はい」

 

 五月雨はいい子だなぁ。こんな時でも素直に命令に従ってくれる。

 

「当身っ!」

 

「はぅっ!?」

 

 俺は五月雨の首筋に手刀を叩き込む。

 彼女は可愛らしい悲鳴を上げると、そのまま床に倒れ込んだ。

 

「すまんな、五月雨。男にはな、駄目だと分かっていても行かないといけない時があるんだよ……」

 

 俺は五月雨に毛布をかけるとビデオカメラ片手に、部屋を後にする。

 

「ふふふふふ……行くか……祭へ!!」

 

 …

 ……

 …………

 

「……というわけです。皆、提督を止めて……」

 

 そこで五月雨からの電話は途絶えた。それを聞いていた長月は携帯電話の電源を無言で切った。

 

「聞いたな、皆」

 

 長月は静かにそう言った。

 周りにいた皐月、谷風、不知火が頷く。

 直後、長月は持っていた携帯電話を握りつぶした。

 全員が艤装を装備して立ち上がる。その両目には怒りの炎が宿っている。

 

「行くぞ皆――処刑だ!!」

 

 流刑鎮守府始まって以来の激戦が始まろうとしていた。




次回へ続き…ます

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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