流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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GWに入りましたね。
作者は仕事ですが、皆さんは体に気を付けてゆっくり羽を伸ばしてください。
今回は息抜き回です。


この道わが旅

「5月! 皐月、May……すなわち、ボクの季節!!」

 

暦の月が変わったばかりの流刑鎮守府で、皐月の声が響き渡った。場所は執務室。俺の机のすぐ隣である。

 時刻は既に昼前で、仕事もあらかた終わっていた。

 

「確かにお前の名前は皐月だけど、それが何か関係あるのか?」

 

「もう! 無粋だなぁ、司令官は! こんな時はとりあえず『素敵だな』って言えばいいんだよ!」

 

「なんじゃそりゃ」

 

まあ確かに元になった暦の名前と同じ月になったのだから、テンションが上がるのも分かる。長月もなんとなくだけど9月は嬉しそうだったしな。

 

「それに、5月と言えば大型連休! ゴールデンウィークだよ、ゴールデンウィーク!」

 

「ゴールデンウィークか、俺たちには関係ない話だな」

 

深海棲艦がいつくるかも判らない以上、提督と艦娘が連休を取るわけにはいかない。ましてや我が流刑鎮守府には、最低限の人員しかいないのだ。

「そんなこと無いって! ゴールデンウィークなんて神様だってお休みだよ!  ねえ司令官、折角の休みなんだからどこかに連れてってよ~」

 

 皐月はそう言って俺のベッドの上で手足をバタつかせる。その様子は駄々をこねる子供にしか見えなかった。

 

「連れってってやりたい気持ちは山々だが、無理なものは無理だ。俺達は一応、軍人でココを守っているわけだからな」

 

「分かってるよ。でもどこかにいきたーい!」

 

 そんな皐月に苦笑しつつ、仕事を始めた時だった。

 

「皐月ちゃん、それならこれを見るといいよ」

 

 五月雨が何か紙の束のようなものを皐月に差し出した。

 

「これって……旅行のパンフレットじゃん! どうしたの」

 

「えへへ……実は前から集めてたの。これを見れば、何だか旅行に行ったような気になれて、好きなんだ」

 

「何だか悲しいね……」

 

 若干悲しげな表情を見せながら、皐月は五月雨からパンフレットを受け取ってパラパラ捲り始めた。

 

「はぁ~確かに見てるだけでもいいもんだね~。ボクも行きたいなぁ、海外」

 

「ここだって海外だぞ」

 

「ちーがーう! ボクは観光地に行きたいんだよ! こんな場末の孤島に行って何が楽しいのさ!」

 

 拳振るって力説する皐月だが、まあ言わんとすることは分かる。

 たまには島の外に出ないと気が滅入ってしまうからな。

 

「だからこれを読んで旅行した気分になろう? 見てるだけでも楽しいよ?」

 

「むう……」

 

 五月雨に諭され、皐月は仏頂面でパンフレットをパラパラ捲り始めた。

 

「へえ……」

 

だが次第に皐月の瞳は輝き始め、夢中でページを捲っていく音が聞こえるようになる。

 

「提督もいかがですか?」

 

五月雨が誘ってきたので、俺も近くに行ってみる。仕事もほとんど片付いているしな。

 

「ほう、色んな国があるな。よく集めたな」

 

「えへへ、パンフレットはタダで貰えますから」

 

五月雨は照れくさそうに、頬を掻いた。

「提督は海外旅行に行ったことはあるんですか?」

 

「いや、ない。子供の頃に家族で旅行に行ったことは何回かあるけど、国内だったし」

 

社会人になってからは、旅行なんていく暇無かったからな……

 

「五月雨はあるのか?」

 

「いえ、五月雨もありません」

 

「そうか……なあ、五月雨」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「旅行に行くなら、どこに行きたい? 」

 

「え……えええええっ!? て、提督とですか?」

 

「ああ。まああくまで仮の話なんだが……」

 

「ふぁあ……」

 

顔を真っ赤にしてアワアワする五月雨。一体どうしたというのだろう。

 

「もし皆で旅行するのなら何処に行きたいかなって話だから、そんなに真面目に構えなくてもいいぞ」

 

「……み、みんな……」

 

「ああ。やっぱり行くなら流刑鎮守府の皆で行きたいしな」

 

「……はい、そうですね。そうですよね……」

 

先程までの慌てっぷりから一転、何だかテンション低めになった五月雨。頭を傾げつつ、俺は置いてあるパンフレットに幾つか目を通していく。

 

「五月雨は、スイスやオーストリアのような国に憧れます」

 

「おお、アルプスって感じだな」

 

緑の山々と綺麗な水に囲まれた静かな場所ってイメージだ。なんとなく五月雨らしいチョイスだった。

 

「確かにああいう牧歌的な所でのんびりしたいな」

 

「はい。風の香りを感じながら、のほほんとしたいですね」

 

豊かな自然に思いを馳せたのか、五月雨は目を閉じて溜め息を洩らす。きっと瞼の裏にはヨーロッパの美しい風景が浮かんでいるのだろう。

 

「ボクはイタリアかなぁ。ローマに行ってみたいんだよね」

 

「確かにローマは歴史あるし、一度はこの目で見てみたいな」

 

 昔は『ローマの休日』を見て、その美しさに憧れを抱いたものだった。

 

「それにイタリアといえばピザにパスタ! 本場のイタリア料理だよ!」

 

「それはいいな! やっぱり酒はワインか!」

 

「花より団子ですねぇ」

 

 舌なめずりする俺と皐月を見て苦笑する。

 そんな中、遠征組が帰ってきた。

 

「艦隊が帰ってきたんだって。ふぅ……あれ司令官、何してるの?」

 

 ドラム缶片手に暁と清霜、続いて谷風と不知火が執務室に入ってくる。

 ちなみにウチの鎮守府の遠征部隊の旗艦は毎日交代で行っていて、今日は暁だ。

 

「ああ。今、旅行に行くのならどこがいいかなって、皆で話してたんだ」

 

「え、旅行行くの!?」

 

「どこどこ!? いついつ!?」

 

 旅行という単語に早速、暁と清霜のちびっこコンビが食いついてくる。

 

「いや、あくまで仮の話だ。そんな時間は無いしな」

 

「そりゃそうだ」

 

「人数的にこの鎮守府を空けることは難しいですからね」

 

 谷風と不知火がそう言ってドラム缶を降ろした。

 

「暁は行きたい国とかあるか?」

 

 俺がそう尋ねると暁は待ってましたと言わんばかりの顔で答えた。

 

「ふっふーん! 暁は勿論、ハワイよ! レディーは優雅にワイハでバカンスよ!」

 

 ワイハとは随分、バブリーな言い回しだな。

 

「青い海! 白い砂浜! 常夏の楽園で暁はサングラスとビキニでバッチリ決めて、トロピカルジュース片手に日光浴するの!」

 

「また随分とベタなイメージだねぇ」

 

 瞳をキラキラさせながら語る暁に、谷風が冷静に言った。

 

「ハワイってピストルが撃てるんだよね! ハワイで親父に教えて貰ったって!」

 

「清霜。貴方、ピストルよりも威力の高い主砲を何度も撃ってるじゃない」

 

「ちーがーうーよー不知火さん! 主砲は主砲、ピストルはピストルで違うんだよ!」

 

 冷静に突っ込む不知火に清霜が拳振るって力説していた。

 まあ気持ちは分かる。

 コブラがサイコガンとコルトパイソンを両方使って、両方ともカッコイイのと同じだ。

 

「そう言う谷風はどうなのよ! ハワイよりもいい所なんてあるの?」

 

 暁に振られ、谷風はうーんと考える。

 

「そもそも外国じゃないと駄目なのかい? 谷風さんは外国より国内がいいなぁ」

 

「国内か、それもいいね」

 

 皐月も同調する。

 

「やっぱり箱根や別府といった温泉だぜぃ! 江戸っ子は熱い湯が大好きだからねえ!」

 

「温泉か……最近、腰が痛いからいいかもな」

 

 たまには浮世の事を忘れてゆっくりと湯船に浸かりたいもんだ。

 

「それに旅館で飲む瓶ビールとに湯船で飲む日本酒はまた格別だしな」

 

「かぁーっ! たまんないねぇ! 露天風呂に熱燗! 最高の組み合わせさ!」

 

「結局、お酒ですか」

 

 冷めた目で呆れたように不知火が言った。

 

「そういう不知火はどうなんでい。行きたい所とかあるのかい?」

 

「そうですね。不知火は……」

 

「ふふふ、不知火は前に司令官と広島に旅行したんだからそれで満足だよね~」

 

「な、ななななななっ!?」

 

 意地悪げな皐月にそう言われ、不知火は真っ赤になって狼狽する。

 

「あ、あ、あれは出張で、あくまで仕事……仕事……」

 

「司令官と二人っきりで広島! まさに婚前旅行!」

 

「婚前って……あ、あ、あれはあくまで仕事! 仕事よ……」

 

「そうだぞ皐月。広島に行ったのはあくまで出張だぞ。全然、遊べる時間なんて無いんだぞ。夜に二人で飲みに行った位だ」

 

「デートじゃん」

 

「デートだね」

 

「デートですねぇ」

 

 皐月・谷風・五月雨にデートと指摘され不知火は顔をますます赤面させる。

 

「あのなぁ。俺と不知火は上司と部下で見た目も兄妹、下手すら親子に見えるような感じだぞ。デートなんて洒落たもんじゃないさ」

 

「…………」

 

「ちょ、なんだ不知火。突然、戦艦並みの視線で睨んで……」

 

 先程までの恥ずかしそうな顔から一転、氷のような怜悧な瞳で睨んでくる不知火。やっぱり俺と呑むのは嫌だったんだろうか……

 

「お姉様、司令官ってお馬鹿さんだね」

 

「ええ。鈍い男はレディーの敵よ」

 

「ど、どういう意味だそれ……」

 

 暁と清霜にも呆れたような顔をされ、何だか居心地が悪い。

 

「そ、そいうえば、清霜はどこか行きたい所は無いか?」

 

 何だか空気が重くなりそうな雰囲気だったので、清霜に話題を振ってみる。

 

「んーとね、清霜は皆と行けるならドコでもいいよ!」

 

 すると清霜は目を輝かせて、そう答えたのだった。

 

「何処でもって……あ、そうか」

 

 そこで俺は清霜が最近、ここで生まれたばかりの艦娘だということを思いだした。

 流刑鎮守府で生まれ、以来この島でずっと暮らしている清霜は外の世界を知らない。

 彼女にとってはこの鎮守府が世界の全てなのだろう。

 

「清霜」

 

「ん、なぁに? 司令官」

 

「もし戦いが終わったら、皆で色んな所に旅行に行こう。見たことない所、楽しい所。皆で行こう!」

 

「え、本当!?」

 

「ああ、約束だ」

 

「やったー!」

 

 清霜は嬉しさで小躍りして喜んでいる。

 

「いいの? そんな約束して」

 

「いいさ。清霜は俺が建造して生まれてきたんだ。だったら清霜を立派に育てる義務が、俺にはあるのさ」

 

「何だよ。まるでお父さんみたいなこと言うね」

 

「そうかもな。まあ俺にとっては皆、可愛い娘みたいなもんさ」

 

「娘……娘かぁ」

 

 皐月は何やら不貞腐れたようにそう呟いた。

 

「皆、食事の時間だぞ……どうした?」

 

 エプロン姿の長月が執務室に入ってきた。

 どうやら話しているうちにお昼になったらしい。

 

「よし、飯にするか」

 

 俺は重い腰を上げて、長月のいる出口へ向かって行く。

 自然と他の皆も着いてくる。

 いつかこの鎮守府の皆と、色んな場所に行こう。

 そのためには早く戦争を終わらせないとな。

 俺はそんな事を考えながら、食堂に向かって行くのだった。

 

「ちなみに長月、旅行に行くのなら何処に行きたい?」

 

「旅行? そうだな……コロンバンガラ島に行ってみたいな。あそこは……色々と因縁がある」

 

 そういう考えもあるんだな、とも思った。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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