今回で拙作「流刑鎮守府異常なし」は30話を迎えました。
本当にありがとうございます。
読んで下さっている皆様のおかげです。
更新は遅いですがこれからもよろしくお願い致します。
今回は前後編です
その日、俺はいつものように執務室で書類仕事を行っていた。
いつも秘書艦をしている五月雨は本日、お休みで仕事は俺一人で行っている。
この鎮守府は特に戦闘や事件などは滅多にないため、俺一人でもなんとかなるのである。
「しれーかーん、何か摘まむモノない?」
昼も過ぎた頃、執務室の奥にある俺の私室からそんなまったりした声が聞こえてきた。
「皐月。人のベッドでモノを食うなよ」
皐月が俺のベッドで横になって漫画を読んでいたのだ。
いつも休みの日にはよくここでだらだらしている皐月だが、今日は仕事のハズだ。
「お前、演習任務はどうした」
「もう終わったよ。人数が少ないから早く終わるに決まってんじゃん」
確かに皐月の言うとおり、うちの鎮守府は最低限の人数しかいない。それと遠征要員と演習要員に分けているわけだから、出来る事も限られてくるのだ。
「ふーっ……これでマキバオーも全巻読み終わっちゃったなぁ……本棚の漫画はこれで制覇かな」
皐月はそう言って俺の漫画を閉じると、ゴロンと仰向けに転がった。
「司令官、あの上にある漫画とってよ」
俺のベッドの上を我が物顔で占領しながら、皐月は本棚の上に積んでいる本を指差した。
「お前なぁ……もうちょっと遠慮ってもんを……いや、いい……」
皐月に遠慮や慎みを求めるなんて、モグラに空を飛べと言うようなものだ。俺は嘆息すると、漫画が積んである本棚へと向かって行く。
仕事柄、給料はいいものの、こんな辺境の地では使い道などほとんどない。なのでこうやって漫画やお酒などを買っているのだ。
さてその漫画であるが俺が買うのだから、当然俺の好きな漫画達である。そして俺の部屋は艦娘達が自由に入ってくる無法地帯だ。本棚に入っている漫画も艦娘達が自由に持っていく。それに不満は無い。だがまだ幼い暁や清霜にバイオレンスな漫画は出来るだけ見せたくないのだ。
「『デビルマン』と『ベルセルク』、どっちがいい?」
こういった俺基準で過激な作品は、小さい駆逐艦が取れない高さの棚の上に置いているのだ。
「んー短い方」
「デビルマンだな」
一番上に積んでいるデビルマンの一巻に手を伸ばす。うぉ・・・・・・結構高く積んだからか、取りづらいな・・・・・・
「司令官、まだー」
俺が悪戦苦闘していると、皐月が足元までトテトテやってきた。
「もうちょっと・・・・・・あっ!!」
一番上の一巻に指が引っかかり、バランスが崩れて漫画が落ちてくる。
慌てて手を伸ばすも、何冊か取りこぼしてしまう。
「危ないっ!」
「司令官っ!」
俺が手を伸ばし、皐月も手を伸ばして構えた。だがそのせいで俺と彼女の足が絡み合い――
「がっ!」
「ぐえっ!」
思いっきり床に倒れお互いに頭を打ってしまったのだった――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「いててて・・・・・・」
じんじんする頭の痛みで、皐月は目を覚ました。
床の感触がする。どうやら倒れていたらしい。
視界には散乱している漫画本と倒れている人影。ぼんやりとした視界でよく目をこらすと、どうやら艦娘らしい体格であることに気が付いた。
紺色のセーラー服を着ている。睦月型が着ているものだ。ならば長月か。だが長月は厨房で夕食を作っているはずだ。
じゃあ目の前の少女は何だ? 髪の色は美しい金髪で、肌は白くて・・・・・・
「え・・・・・・ボク?」
背筋が寒くなるのを感じ、皐月は倒れている少女の体を起こした。
うつ伏せに倒れていた小さな体をひっくり返す。するとそこに現れたのは、よく見知った自身の顔であった。
「え、えええええええええええっ!?」
思わず上げた悲鳴。だがその声が自分の高い声でなく低い声であることにも気が付いてしまう。
「な、なんで、ボクが・・・・・・まさか・・・・・・」
皐月は慌てて鏡を見る。そこには白い軍服を身に纏った青年が映っていた。
「ぼ、ボクと司令官・・・・・・入れ替わってるーーーーーーーーっ!!」
今日一番の悲鳴が執務室に響き渡ったのだった。
「・・・・・・さてと・・・・・・どうしようか・・・・・・」
この異常事態を皐月は若さ故の柔軟さで、あっさりと受け入れていた。
皐月の体になった司令官をベッドに寝かせると、皐月は司令官の体をペタペタ触っていく。
「・・・・・・手足は軋むし腰は痛いし胃はムカムカするし・・・・・・20代後半のおじさんの肉体って嫌だな・・・・・・」
若い10代の皐月にとって三十路寸前の色々限界な司令官の肉体は、ほとんど重りのようなものであった。
「でも・・・・・・折角司令官と入れ替わったんだし・・・・・・」
チラリと皐月の体になった司令官を見る。起きる気配も無く、スヤスヤと眠っている。
これは何か使える・・・・・・皐月がそう思った時だった。
「提督ーお茶をお持ちしましたよー」
執務室の方から五月雨の声が聞こえてきた。
「はーいっ!」
何時ものノリで皐月は立ち上がると、執務室の方へと向かっていった。
「今日は紅茶を入れてきましたよー、一緒に一服しませんか?」
「さっすが五月雨! カワイイね!」
皐月も何時ものノリでそう言った時であった。ガチャン、という音と共に五月雨がカップを落としたのである。
「だ、大丈夫、五月雨?」
心配し五月雨の顔を皐月は覗きこんだ。すると五月雨の顔はまるでリンゴのように真っ赤に染まっていくのだ。
「ど、どったの五月雨? そんなに顔を赤くして・・・・・・」
そう言って五月雨の肩を叩いたとき、視界に映った己の腕を見て、皐月は自分が司令官の体になっていることを思いだした。
(あ、そっか。司令官の顔で『カワイイね』なんて言ったからか)
皐月にとっては何時もの口癖で、五月雨も皐月から言われれば特に何も無かっただろう。
だが司令官に『かわいい』と言われれば、五月雨も照れるであろう。
それを理解したとき、皐月の胸に元来の悪戯心がムクムクと湧き上がってきた。
「て、ていとく・・・・・・ど、どうしたんですかいきなり・・・・・・」
しどろもどろになりながらも、五月雨は落としたカップを拾っていく。
その様子を見ながら皐月は内心でニヤリと笑うと、五月雨の腕に手を伸ばした。
「ボク・・・・・・じゃなかった。俺がするよ。五月雨のカワイイ指が傷ついたら大変だろう?」
「か、かわっ・・・・・・ふわぁぁ・・・・・・」
五月雨は完全にテンパってしまい、耳まで真っ赤にしてあたふたしだす。
その隙に皐月はカップを片付けて、溢れた紅茶を拭き取った。
「さ、お座り」
皐月はそのまま五月雨をソファーに誘導し、腰を降ろさせる。そして自身もその隣に座って、肩に腕を回した。
「ひゃっ・・・・・・きょ、きょうのていとく、なにかへんですよ」
「ん? そうかな? ぼ・・・・・・俺はいつもキミの可愛らしさにメロメロさ」
「はわわ・・・・・・」
「いっそこのまま、俺のモノにしちゃおうかな・・・・・・」
そう言って顔を寄せた瞬間、ぽん! という音と共に五月雨は顔から煙を噴いて気を失った。
恥ずかしさが限界を迎えたようだ。
「・・・・・・・・・・・・」
皐月は無言で五月雨を横にして、腹回りにブランケットをかけた。
「・・・・・・・・・・・・これ、すっごく楽しいな」
他人の体を借りて悪戯し放題。姿形が違うので責任は自分で無く相手にいく。
皐月にとって、それは理想的な悪戯方法だった。
「くっくっく・・・・・・司令官に悪いけどこの体、使わせてもらうよ・・・・・・」
司令官の体で悪い笑みを浮かべる皐月。
彼女の頭の中では既に悪戯の方程式が出来上がりつつあった。
「長月に不知火! 首を洗って待っててねーっ!!」
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
-
改二になったほうがいい
-
このままでいい