流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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俺と皐月はパピプペポ(後編)

 目が覚めるとよく知った天井だった。

 毎朝見ている天井だ。提督専用の私室、つまり俺がこの流刑鎮守府で唯一のプライベート空間である。

 背中に広がるのは柔らかい布の感触・・・・・・これは、ベッドの感触だ。どうやら寝ていたらしい。

 あれ・・・・・・俺は確か仕事をしていて皐月に本を取ってあげるために、本棚に手を伸ばして・・・・・・

 

「皐月……皐月……」

 

 誰かの声が聞こえる。

 少女の声だ。俺に向かって語りかけている。聞き覚えがある声だ。確か……

 

「皐月……起きろって……」

 

 ……皐月? おかしいな何で皐月を呼んでいるんだろう。

 

「皐月っ!」

 

 そこで乱暴に揺さぶられて俺の意識はようやく回復した。

 目を開いて視界に飛び込んできたのは、こちらを覗き込む谷風の顔だった。

 

「ど、どうした谷風」

 

「どうしたもこうしたもあるめぇ。何、提督のベッドで爆睡してんでぃ。また不知火に怒られるぞ」

 

 俺は眠気眼を擦りながら起き上がって、谷風の方を見た。

 しかしここは俺のベッドだ。ここで寝ていたって、本人が寝ているんだから怒られはしないだろう。まあ、仕事サボっていたとか言われたら別だが。

 

「ほら、さっさと起きな」

 

 谷風はそう言うと俺の手を取った。何となくぼんやりしていた俺だったが、視界に映った己を腕を見て、一気に眠気が吹き飛んだ。

細く白い腕と黒い袖。明らかに自分が知っている己の腕とは違う。

 

「どしたんだよ、皐月。さっきから何か変だぜぃ」

 

谷風が怪訝そうに言う。皐月? 俺は皐月ではない。しかしこの腕は……そこまで思考を巡らせたとき、俺はベッドから飛び起きて近くにある姿見の前に向かった。そこに写っていたのは……

 

「さ、さささささ皐月!?」

 

紛れもなく皐月その人であった。

しかし何故。俺は自分が皐月では無いと自覚している。俺は俺だ。はっきりと今までのことは憶えている。確か俺は本棚の上にある漫画本を取ろうとしてバランスを崩し、下にいた皐月にぶつかって――

 

「さ、皐月。大丈夫? 何か変だぞ」

心配そうに谷風が覗き込んでくる。

そんな彼女に俺は体を震わせながら答えた。

 

「俺は皐月じゃない……入れ替わったんだ……」

「は?」

 

首を傾げる谷風に俺は混乱しながらも、直前までの事と現状のことを説明した。

 

「……つまり、提督と皐月は入れ替わってて、目の前の皐月は中身が提督ってことかい」

 

「そ、そうなんだ……」

 

俺の必死の説明を聞いた谷風は呆れたようにため息をつくと、俺の肩をポンと叩いた。

 

「嘘ならもっとマシな嘘をつきな」

 

「ほ、本当だ! 信じられないかもしれない……というか俺も信じられないんだが、俺と皐月は入れ替わってしまったんだ!」

 

「またまた、そんなことあるはずあるめぇ」

 

「昔、『転校生』って映画あったろ! あれと同じだって!」

 

「そんな古い映画……」

 

谷風は鼻で笑ったが、すぐに「待てよ」と表情を固くする。

 

「皐月はその映画、多分知らないはず……」

 

そう言うと谷風は俺の顔をまじまじと見つめた。

 

「……昨日、谷風さんと笑点見たよな?」

 

「ああ」

 

昨日は谷風と二人、ビール片手に笑点を見たのだ。

 

「今週の放送で、骨折した木久扇師匠の代わりに出演したのは誰?」

 

「桂文枝師匠」

 

「……金田一といえば?」

 

「耕助」

 

「鞍馬天狗といえば?」

 

「嵐寛寿郎」

 

「……驚いた。ほ、ほんとに提督かい?」

 

谷風と俺の共通する好きな物。それを確認することで、ようやく彼女は俺の言葉を信じてくれたらしい。谷風はまじまじと俺の顔を見ると、大きな瞳を見開いてただただ驚いていた。

「こんなことってあるんだねぇ」

 

「俺だって信じられねぇよ。漫画じゃあるまいし」

 

「確かになぁ。となると提督の体には皐月が入っているのかね」

 

「そういうことになるな……」

 

そこで俺は強烈な悪寒を覚えた。

俺と皐月はこの部屋で頭をぶつけて気を失った。だが目覚めてみれば、ここにいるのは皐月の体になった俺だけだった。では彼女はどこにいった? 俺の体になった皐月はどこにいってしまったんだ?

 

「……谷風。俺を見なかったか?」

 

「いや、谷風さんは遠征任務が終わったことを、ここに伝えに来たんだ。そしたらベッドに皐月が寝てて……」

 

そこで谷風もハッとした顔になった。

 

「俺の体で皐月は何をしている?」

 

「…………」

 

ここにいないということは、皐月は俺より早く目を覚まし、何処かへ行った可能性がある。

 

「そういや、そふぁーで五月雨が顔を真っ赤にして寝てたぜ……」

 

「……起こさなかったのか?」

 

「すんごい幸せそうな寝顔だから忍びなくて……」

 

「そうか……」

 

何かあったのは間違いない。俺は無言でベッドから降りる。皐月の身長は俺よりも低いので、視線はかなり新鮮で慣れないものであった。

 

「問題を起こす前に、皐月を捕まえて元に戻るぞ。手伝ってくれ、谷風!」

 

「合点!」

 

俺と谷風は二人で執務室を飛び出したのであった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「何だ、司令官?」

 

 食堂の奥にある厨房で、長月は夕食の仕込みを行なっていた。

 いつもの制服の上にエプロンをし、緑色の髪にオレンジ色のバンダナを巻いている。

 

「ちょっと用があってな」

 

「重要な話か?」

 

 司令官の方を見ずに、長月は軽く尋ねた。

 そんな彼女の後ろに司令官・・・・・・の体になった皐月は近づくと、後ろから優しく抱きしめた。所謂、あすなろ抱きと言われるモノである。

 

「ああ。重要な話だ」

 

 そのままぎゅっと抱きしめると、長月は動きをピタリと止めた。

 

「な、なななないきなり何をするんだ、司令官・・・・・・」

 

 いきなりの事で流石の長月も驚いたのか、顔を真っ赤にして尋ねた。

 

「長月があんまりにもカワイイからつい、我慢できなくなった」

 

「かわっ・・・・・・」

 

 硬直する長月を内心で笑いながら、皐月はより体を密着させていく。

 

「ふふふふ、長月はカワイイなぁ」

 

「や、やめろ! へ、変なとこ触るんじゃないっ!」

 

 声を上ずらせて叫ぶ長月だが、抵抗はしてこない。そんな所に女の部分を感じながら、皐月はさらにハグを強めていく。

 

「長月は俺が嫌いか?」

 

「き、嫌いでは・・・・・・ない・・・・・・」

 

 真っ赤になって俯きながら長月は絞り出すように言った。

 

「じゃあ何で嫌がるんだい?」

 

 意地悪く耳元で囁くと、長月は震える唇を動かして答えた。

 

「・・・・・・ま、まだ日も明るい・・・・・・こ、こういうのは、夜に・・・・・・」

 

「・・・・・・そうだね。じゃあ待っているよ、子猫ちゃん」

 

「~~~~~~っ!」

 

 皐月はそう言って長月から離れ、そのまま厨房を後にする。

 長月は硬直したまま、呆然と立ち尽くしていた。

 

(長月って、結構カワイイところあるんだね・・・・・・にししっ)

 

 いつも真面目でお堅い長月の意外な一面を見る事が出来て満足した皐月は、次のターゲットの元に向かった。

 

「どうしました、司令」

 

 不知火は工廠にいた。この時間は艤装の手入れをしていることを知っているのだ。

 

「いや、ちょっとカワイイ不知火の顔を見たくてね」

 

「にゃ、にゃにを」

 

 不知火は噛んで一旦、一呼吸置くと頬を朱く染めて皐月の方を向いた。

 

「何をいきなり言っているのですか・・・・・・」

 

 普段は冷静な不知火が珍しく狼狽えている。

 その事実に皐月は優越感を覚え、ますます距離を詰めていく。

 鋭く機敏な不知火も冷静さを欠いてか、全く反応できていないようだった。

 

「言葉通りの意味さ、カワイイ不知火。その宝石のような瞳にボクは吸い込まれそうだよ」

 

「ななななななな・・・・・・」

 

 皐月がうっかり一人称が元に戻っているのに気が付かないほど、不知火は混乱していた。

 わたわたと両手を振り、目をぐるぐるさせる不知火にいつもの怜悧さは無い。

 毎回、彼女にやりこまれている皐月はここぞとばかりに不知火に詰め寄っていく。

 

「ああ不知火。キミは本当にカワイイね。思わず食べちゃいたいぐらいだ」

 

「っ!」

 

 恥ずかしさから不知火は一撃を加える。が、体は司令官とはいえ中身が皐月とあって、反射神経は皐月そのままである。

 僅差で攻撃を躱すと、さらに不知火へと距離を詰めていく。

 鼻息が触れるほどに顔が近づいた。

 普段は避けられない攻撃を避けた司令に驚いた不知火の前に、皐月は迫る。

 

「そんな強気なところも素敵だよ」

 

 耳元で甘く囁き、さらに。

 

「んっ・・・・・・」

 

 可愛らしいおでこに軽く口づけした。

 

「ーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げて、不知火はそのままその場にへたり込んだ。

 

「・・・・・・し、しれい・・・・・・」

 

 俯きながら絞り出すように不知火は言った。

 

「し、しらぬいの・・・・・・負けです・・・・・・司令の・・・・・・す、好きに・・・・・・してください・・・・・・」

 

 勝ったな。皐月は心の中でガッツポーズを取ると、不知火のほっぺたをツンと突いた。

 

「折角だけど明るいうちからは皆の目があるし・・・・・・ね? お楽しみはまた今度」

 

「あうう・・・・・・」

 

 ふにゃふにゃになった不知火を尻目に、皐月はその場を後にした。

 

「・・・・・・ぷぷぷ、皆だらしないでやんの」

 

 工廠から離れ、廊下で一人になったときに皐月は今まで被っていた猫の皮を脱ぎ捨てて意地悪く笑った。

 

「あれ、司令官。何やってるの?」

 

 そんな時、後ろからそんな声がかけられた。振り向くと、そこには清霜と暁がいた。

 

「もう! 谷風が探していたわよ! 遠征の報告が出来ないって」

 

 腰に手を当ててぷんすかしている暁と、笑顔で寄ってきた清霜。皐月は新しい獲物が見つかったと言わんばかりに、深呼吸し爽やかな笑みを浮かべた。

 

「やあ、暁と清霜。鎮守府のレディー二人に会えるなんて、今日は運がいいね」

 

「れ、れでぃー!?」

 

 大人の女扱いされて、暁が一気に赤面する。

 さすが暁、チョロいね。と思った皐月だったが、いつの間にか清霜がすぐ下で顔を見上げていることに気が付いた。

 

「・・・・・・しれーかん?」

 

 まん丸の瞳で皐月の顔を見ながら首を傾げる清霜。

 その見透かすような視線に、思わず皐月はたじろいだ。

 

「司令官、どうしたの? 何か変だよ」

 

「そ、そうかな」

 

「うん。いつもの司令官と違う気がする」

 

「そ、ソンナコトナイヨ。フツウダヨ-」

 

 まさか清霜に怪しまれるとは思わなかった皐月は、冷や汗を垂らしながらごまかしていく。

 

「ね、フツウダヨね暁」

 

 たまらず後ろに控えていた暁に視線を向ける。顔を赤くしていた暁は、目が合うとそのままこちらに近づいてきた。

 

「お姉様、司令官なにか変だよね?」

 

「うーん、そうかしら」

 

 可愛い妹分にそう言われては暁も気になってしまうのか、まじまじと皐月の顔を見つめ始める。

 

「そ、そんなことないよね? カワイイよ暁」

 

 焦った皐月は暁の頭を撫でる。今まで散々やって来た色仕掛け作戦である。だが――

 

「・・・・・・司令官、何だかいつもと撫で方が違う」

 

「えっ!?」

 

 まさかの返しに思わず手が止まる。 

 訝しげに見上げる暁と清霜の前に、皐月がヤバいかなと思った時であった。

 

「墓穴を掘ったな皐月」

 

 背後からそんな声が聞こえてきた。

 よく知った声だ。咄嗟に振り向くと、そこには谷風と自分の姿をした司令官の姿があった。

 

「年貢の納め時だぜぃ、皐月!」

 

 ビシッと決める谷風。見た目は司令官である自分を皐月と呼んだ。つまり谷風は自分と司令官が入れ替わっていることを知っている。

 それを理解した瞬間、皐月は踵を返した。

 

「暁、清霜! 司令官を捕まえろ!」

 

 皐月の姿をした司令官が叫ぶ。その姿に鬼気迫るモノがあったのかは知らないが、暁と清霜はそのままガッチリと皐月の体をホールドした。

 

「は、離せ!」

 

 ジタバタと抵抗するも、元来の司令官の力では艦娘には敵いはしない。さらに谷風がそこへ加わり、皐月が入った司令官の体を完全に拘束する。

 

「今だ、提督!」

 

「おう! すまないな皆!」

 

 ――頭をぶつけて入れ替わったなら、もう一度頭をぶつけ合えば元に戻るはず!

 そんな単純な発想で皐月の体に入った司令官は、彼女が入った自身の肉体へと突っ込んでいく。

 多少の痛みは我慢と、思いっきりぶつかった。

 

 ゴチン! と大きな衝撃音が鳴り、そのまま二人は床に倒れ込む。

 

「やったか!」

 

 谷風がそう言ったものの、

 

「いてて・・・・・・」

 

「ううう・・・・・・だがこれで元に・・・・・・」

 

 そう言ったのは外見は皐月の司令官。その顔からみるみる血の気が引いていく。

 

「戻っていない・・・・・・だと!?」

 

 皐月のままである己の掌を見ながら、驚愕する司令官。自分たちの計算ではこれで元通りのはずだったのだ。

 

「くくく・・・・・・残念だったね、司令官! まだまだこの体は使わせて貰うよっ」

 

 勝ち誇ったように笑う皐月だったが、そんな彼女に谷風が一喝した。

 

「ば、ばっきゃろう皐月! 今はいいかもしれねえけど、このまま、戻れなくなったらどうするんでぃ!」

 

「え・・・・・・」

 

「そうだぞ・・・・・・最初みたいに頭をぶつけ合ったのに、元に戻らなかったんだ。もし二度と戻らなくなったとしたら・・・・・・」

 

 司令官の言葉に皐月もだんだんと青ざめていく。

 

「そ、そんな! ボク嫌だよ! こんな重くて硬くて、階段上がるだけで息切れするような体!」

 

「悪かったな! だが俺だって、自分の体に戻りたい!」

 

「とりあえず、何回か頭をぶつけ合ってみるってのはどうでい?」

 

「そ、それしか無いよな・・・・・・」

 

「お姉様、皆、何をやっているの?」

 

「さぁ・・・・・・レディーにはついて行けないわ」

 

 呆れたような暁と清霜を尻目に、司令官と皐月は何度もヘッドバットを繰り返す。が、結果は同じだった。

 

「ううう、痛いよぉ・・・・・・」

 

「クソ・・・・・・まさか本当に・・・・・・戻らないのか・・・・・・」

 

 ズキズキ痛む頭を押えながら二人は絶望的な声を出していた。

 状況をいまいち理解出来ていない暁と清霜は勿論、谷風もかける言葉が見つからないようだった。

 

「・・・・・・なぁ提督。提督が昔見た映画ではどうやって元に戻ったんだい?」

 

「確か・・・・・・神社の階段から二人で落ちて・・・・・・駄目だ危ないな」

 

 万事休す・・・・・・そう思われた時だった。

 

「・・・・・・多分だけど、お互いセーブがかかってるんじゃねえかな」

 

 谷風が難しそうな顔で言った。

 

「セーブ?」

 

「ああ、二人は気絶しちゃうほど頭をぶつけて入れ替わったんだろう? じゃあそれ位の勢いがないと駄目なんじゃねえか?」

 

「た、確かに・・・・・・」

 

「でも痛いのは分かっているから、無意識に加減しちゃってんだろう」

 

「それはそうかもな・・・・・・でもどうするっていうんだ」

 

「・・・・・・提督、皐月。勘弁だよ」

 

 谷風は静かにそう言うと、そのまま提督と皐月をぶん殴った。

 

「がっ」

 

「にえっ」

 

 そのまま二人は気を失い、床に倒れ込んでしまう。

 暁と清霜が驚いて声を失っている中、谷風は提督の足を持った。

 

「二人とも手を貸してくれぃ。提督と皐月の頭を思いっきりぶつけ合うぞ」

 

「え・・・・・・それって大丈夫なの?」

 

「仕方あるめぇ。二人が元に戻るためだ」

 

 暁と清霜も大体の事情は飲み込めたのか、二人で皐月の体の足を掴んだ。それを確認した谷風は提督の足を持った。

 

「いくぜぃ! 地獄のコンビネーション作戦だ!」

 

『おー!』

 

 谷風のかけ声と同時に暁と清霜が皐月を持ち上げる。谷風は提督の足を掴んでバットのように振り回した。そして。

 

 ――ガチンっ!!

 

 凄まじい衝撃音と共に二人の頭がぶつかり合い、そのまま床へと落ちた。

 

「いっ・・・・・・てーーーーーーーっ!」

 

 たちまち皐月の叫び声が響き渡り、小さな体がガバッと起き上がった。

 

「いたいいたいいたいよぉーっ! 全く何するんだよ、ボクが何したって・・・・・・あれ?」

 

 目をパチクリさせた皐月は暫し周りを見渡し、その後自身の掌を開いたり閉じたりして確認すると、歓喜の声を上げた。

 

「や、やったーっ! 元に戻ってるーっ!」

 

「皐月、やったな!」

 

「うん、ありがとう皆! おかげで元のカワイイボクに戻れたよ!」

 

 手を取り合って喜び合う皐月と谷風。

 一方の提督は暁と清霜に起こされていた。

 

「司令官、大丈夫?」

 

「ああ・・・・・・何とかな・・・・・・」

 

 ズキズキ痛む額を抑えながら、提督は元に戻った己の体を見渡した。

 間違いなく己の体だ。元に戻れたのだ。それを実感した時、急激に体の力が抜けるのを感じた。

 

「今回の話はコレで終わりだな・・・・・・」

 

「うん・・・・・・そうだね」

 

「このことは無かったことでいいな・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

 げっそりしながら提督と皐月は言った。

 まあ入れ替わったなんて普通は信じて貰えないし、他の誰かに言う必要もないだろうとのことだった。

 

「結局、何だったの司令官?」

 

「なんでもないさ。心配してくれてありがとうな」

 

 提督は暁と清霜の頭を撫でながら、今回の事件の終わりを感じるのであった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ・・・・・・」

 

 夕食の時間。普段なら酒と長月の美味しい手料理に舌鼓を打っているのだが、今日は違っていた。

 

「あれ、司令官。今日はお酒飲まないの?」

 

 暁が俺の顔を覗きこんできいた。

 

「ああ、今日は疲れちまってな・・・・・・早く寝るよ」

 

 俺はそう言いながら、今日の晩ご飯であるレバーの煮込みを口に入れた。

 しかし、今日の献立は何というのか、珍しいな。山芋やここでは貴重な明太子など、全体的に珍味といったものが並んでいる。

 

「長月、今日はどうしたんだ? 普段はあまり見ない料理ばかりだが」

 

「ふふふ・・・・・・精が出るからな・・・・・・」

 

 意味ありげに笑う長月に首を傾げつつも、俺は夕食を食べ終えた。

 

「ごちそうさま。そしてもう寝るわ・・・・・・皆、おやすみ」

 

「ボクも・・・・・・寝る」

 

 皐月も同じようだったようで重たそうな瞼を擦りながら、食堂を出て行った。

 ・・・・・・さて、俺も寝るか。

 食器を片付けて、俺も食堂を後にする。

 後ろから席を立つ音が三つほど聞こえたが、このときの俺はあまり気にしなかった。

 

 歯を磨いて、寝室に入って軍服を脱いで寝巻きの浴衣に袖を通したときだった。

 

「て、提督」 

 

 コンコンとドアを叩く音がして、五月雨の声が聞こえてきた。

 こんな時間になんだろうと思い開けてみると、頬を朱く染めた五月雨がそこに立っていた。

 白いパジャマに身を包み、湯あがりなのか頬が朱く体からはほのか湯気が出ている。

 

「どうした五月雨?」

 

 俺が尋ねると彼女は恥ずかしそうに小首を傾げながら、こちらにやってきた。

 

「さ、五月雨。参りました・・・・・・」

 

 そう言いながら俺の腕をぎゅっと握る五月雨に思わずドキリとしてしまう。

 

「な、ど、どうしたんだ五月雨」

 

 彼女の不可解な行動に戸惑いながらも、こちらを見上げてくる五月雨に心臓が早鐘のように鳴っていく。

 

「お昼のこと・・・・・・五月雨、嬉しかったです・・・・・・で、ですから・・・・・・」

 

 お昼のこと? 何が何だか分からない俺が戸惑っている、とコンコンとまたドアが叩かれた。

 

「司令官、来たぞ」

 

 そう言って入ってきたのは長月だった。

 彼女はいつもの制服姿だったが、どことなく小綺麗に纏まっている印象だった。

 

「約束どおり、来たぞ・・・・・・まさかあんたが私を求めてくれるとは思わなかったよ・・・・・・でも、嬉しかっ――」

 

 頬を染めた長月がそこまで言った時だった。彼女と俺の側にいた五月雨の目線がばっちり合ってしまったのだ。

 

「さ、五月雨?」

 

「な、長月ちゃん? なんで・・・・・・」

 

 二人は互いに顔を真っ赤にすると、ばっと両手で自身の体を隠すような仕草をした。

 そして二人の顔は驚きから訝しむような表情に変わっていき、俺の方へと向き始める。

 

「司令官、どういうことだ?」

 

 長月が険しい顔で尋ねてくる。

 

「て、提督・・・・・・五月雨を提督のモノにしてくださると・・・・・・」

 

 涙を浮かべながら五月雨もそう言ってくる。

 

「そ、そんなこと言われても・・・・・・」

 

 全く憶えがないので、どうしようもない。

 ・・・・・・待てよ、確か今日の昼は皐月が俺の体を使っていたはず・・・・・・

 俺がそう思いついた矢先のことだった。

 

「し、失礼します・・・・・・司令、ふつつかものですがどうかよろしくおね――」

 

 今度は白い浴衣に身を包んだ不知火が、三つ指をついて部屋に入ってきた。が、五月雨達の姿を見て硬直する。

 

「し、不知火。お前もか・・・・・・」

 

「長月に五月雨・・・・・・どうしてここに・・・・・・」

 

 不知火は暫く目を白黒させた後、俺をじっと睨んだ。

 

「司令、これはどういうことでしょうか?」

 

 あ、ヤバい。口調と目付きとオーラで分かる。

 不知火マジギレしている。

 

「ど、どういうことっていっても俺はさっぱり・・・・・・」

 

「そうか。ならば分かるまで拷問するしかないな」

 

「な、長月!?」

 

 拷問って普通に言ったぞ!

 

「不知火も賛成です」

 

「し、不知火!?」

 

 指をポキポキ鳴らしながら迫る不知火に恐怖を覚えた俺は、近くの五月雨に助けを求める。

 

「さ、五月雨・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 だが彼女は悲しそうな目で俺を見上げるだけだった。

 

「ま、待て! 落ち着け皆! コレは誤解だ! 全部皐月が・・・・・・」

 

「ここにいない皐月のせいにするとは、見下げ果てたぞ」

 

「これは、強いお仕置きが必要ですね」

 

「まて・・・・・・皐月を呼ぶ・・・・・・だかっ」

 

 そこで俺の視界は真っ暗になった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「ふぁぁ・・・・・・よく寝た・・・・・・」

 

 明朝、皐月は欠伸混じりで食堂に向かっていた。

 司令官との体の入れ替わりでどっと疲れたか、しっかり眠ったはずなのに体が重い。

 そんな事を考えながら、食堂に辿り着いた時だった。

 

「おはよう皐月」

 

 満面の笑みの長月が待っていた。その両脇には同じく笑顔の五月雨と不知火。

 部屋の端で怯えたような顔をする暁と清霜。腕を組んで難しそうな顔をしている谷風。

 

「ど、どうしたの皆?」

 

 その異様な雰囲気に席に着いた皐月が尋ねた時だった。

 ガシャン、ガシャンと聞き慣れない金属音のようなモノが聞こえてくる。 

 しかもそれが徐々にこちらへ近づいてくるのだ。

 

「え、な、なんの音?」

 

 皐月が周りをキョロキョロ見渡し、音の聞こえてくる食堂の入り口の方へと目を向けた時だった。

 

「さ~つ~き~」

 

 憎しみが込められた男の声が響き渡った。

 

「ひっ!」

 

 本能的に危険を察知した皐月はすぐにその場から逃げようとする。

 しかし長月と不知火が両脇に移動し、皐月の体をガッチリと押さえ込んだ。

 

「どこに行く気だ、皐月?」

 

「主役がいなくなっては駄目でしょう?」

 

 冷たい笑みを浮かべながら、二人は皐月を力尽くで押さえ込む。

 その間に男の声と謎の音はどんどん近づいてくる。

 

「お姉様・・・・・・」

 

「大丈夫よ清霜。暁達は関係ないのだから・・・・・・」

 

「皐月ちゃん・・・・・・五月雨は・・・・・・五月雨はもう止める事は出来ません・・・・・・」

 

「皐月・・・・・・達者でな」

 

「ちょ、ちょっと皆どうしたのさ! 一体何が起こってる・・・・・・」

 

 そこで皐月が見たのは何故か武者鎧に身を包んだ司令官の姿だった。

 

「・・・・・・皐月・・・・・・覚悟は出来ているな」

 

 面頬の奥から見える両目は血走っていた。震える手で腰に挿していた刀を抜刀していく。

 

「し、司令官なの? なんで輝煌帝みたいな鎧着ているの?! ちょっ・・・・・・助け・・・・・・」

 

「さようなら、皐月」

 

 白刃に一瞬だけ、恐怖に怯えた自身の顔が映る。暫くして、皐月の断末魔が鎮守府中に響き渡るのであった。

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

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  • このままでいい
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