流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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12月24日に間に合わなかったクリスマス回です。

本当に申し訳ない……

あとこの回を書いているときに、金曜ロードショーで本当に『ホーム・アローン』が放送されて歓喜しました。


戦場のメリークリスマス

「ポケ戦だよっ!」

 

「忠臣蔵でいっ!」

 

 12月も既に半分に差し掛かり、いよいよ今年も終わる間近となった頃。

 流刑鎮守府の執務室兼応接室では、皐月と谷風が大声で言い争っていた。

 

「テートク、止めなくていいの?」

 

 グレカーレが横で俺の袖をクイクイ引っ張って尋ねてきた。

 

「ああ、あれはいつものことだから大丈夫」

 

 俺は皐月たちの方を見もせずに答えた。

 ちなみに今俺はソファーに座って五月雨が煎れてくれた珈琲を飲んでいる。五月雨も一緒に横に座ってまったりティータイムの最中なのだ。

 今日は日曜日。

 全員非番という事でここでゆっくりしていたのである。

 皆が皆、各々好きな事をするのが流刑鎮守府流であり、俺と五月雨は一服。

 暁と清霜は反対側のソファーに座ってオセロで遊んでおり、不知火はその隣で読書をしていた。

 ここに一人だけいない長月だけは、下の食堂で昼食の準備をしており、彼女には本当に感謝の気持ちでいっぱいである。

 それはさておき。

 

「そもそもなんで二人は言い争ってるの?」

 

「クリスマスに見る映画について」

 

俺がそう言うと、グレカーレは渋面を作って二人の方を見た。

 

「クリスマスに映画見るの?」

 

「ああ。といっても皆でパーティーした後の二次会だけどな。酒が飲めるメンバーで上映会。去年もやったぞ」

 

俺、長月、皐月、谷風の四人で酒を楽しんだあと、何か見ようとなって映画を見たのだ。懐かしい記憶である。

 

「そもそも忠臣蔵って、クリスマスに見るものじゃないじゃん! 日付も合わないし! 論外だよ、論外!」

 

「かぁーっ! わかってねえなぁ! 年末なると忠臣蔵を見たくなるのが日本人ってもんさ! それにポケットの中の戦争は名作だけど、後味が悪いしな……やっぱり綺麗に終わる忠臣蔵が一番さ!」

 

「……止めなくていいの?」

 

「大丈夫。最終的にホーム・アローン1と2に落ち着く。去年もそうなったしな」

 

結局、無難な名作に落ち着くよね。

グレカーレはそんな二人の様子を眺めると深いため息をついて言った。

 

「折角のクリスマスなのに、お酒飲んで映画見てただけなの?」

 

「ああ……そうだけど。何か問題でも? 楽しかったぜ」

 

俺がそう答えるとグレカーレはますます大きなため息を吐き出すと、口論する皐月と谷風を呆れたような視線で見つめるのであった。

 

……

…………

 

「とりあえず、皆そこに正座してください」

 

 夜。

 流刑鎮守府にある艦娘の寝室で、グレカーレが床を指差して言った。

 

「ど、どうしたのグレちゃん。怖い顔して」

 

「お、お姉さまが相談に乗るわよ?」

 

 清霜と暁が妹分の様子に若干怯えながらも

 話しかけたが、グレカーレのきつい視線に震えて黙ってしまう。長月や不知火といった武闘派も、その凄みに静かになっていた。

 

「皆さんに問題です。もうすぐ一年の中で最も男女の仲がホットになるイベントがやってきます。それは!」

 

「大晦日の紅白歌合戦だねっ!」

 

「Fuocoっ!」

 

「ぶべっ!?」

 

 場を和ますために皐月が言ったが、グレカーレが主砲を放って思いっきりひっくり返った。

 先輩にすら躊躇いも無く攻撃する最年少に、皆は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「……クリスマスだよね?」

 

 五月雨がおっかなびっくりで指摘すると、グレカーレは大きく頷いた。

 

「聖夜! それは男の人と女の人が最も接近する胸キュンイベント!」

 

「ええっ!? クリスマスってサンタさんが良い子にプレゼントをくれる日じゃないの!?」

 

「美味しい料理とケーキを食べる日だって……」

 

 驚きの声を上げる暁と清霜にグレカーレは頭を抱えた。

 

「あのさぁ……そんなんだから暁姉さんはテートクにお子様扱いだし、清霜姉さんは戦艦になれないのよ!」

 

 ガガーン! と雷に打たれたような衝撃を受けて固まってしまうチビッ子コンビを尻目に、グレカーレは拳振るって力説する。

 長月が小声で『暁はともかく、清霜の戦艦は関係無くないか?』と不知火に耳打ちしているが、彼女は無視した。

 

「折角のクリスマス! ここでテートクとの距離を縮めないでどうするの!」

 

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

 谷風が難色を示したが、他の艦娘も同じような反応であった。

 

『折角のクリスマスだからこそ、皆で楽しむのが正しい楽しみ方なんじゃないのか?』と長月。

 

『今年も皆でプレゼント交換したいね』と五月雨。

 

『そんなふしだらな事考えない方がいいわ』と不知火。

 

 グレカーレは苛立ちから頭をポリポリと掻いた。

 

「皆、危機感無さ過ぎ! だから一年以上も一緒にいて、誰もテートクに女としてみられてないのよ!」

 

 ビシっと指摘するグレカーレの言葉に全員がハッとなる。彼女の言うとおり艦娘たちは提督のことを異性として意識しているが、提督の方は艦娘たちことを妹や娘のような目線で見ているのだ。

 

「こういうイベントこそ頑張ってアピールしなきゃ! それこそ、変な女にテートクを盗られちゃうよ!」

 

「そ、それは考えすぎじゃない? 第一、こんな絶海の孤島じゃあボクたち以外選択肢ないわけだし……」

 

「甘い。甘いよ皐月さん。この前、テートクが仕事で使っているパソコンの中身をチェックしたんだけど」

 

「それ、軍事機密漏洩になるんじゃないの?」

 

「でも司令官は前にいやらしい動画をこっそりいれていたことがあるわ。全部消して、お仕置きしたからもう無いでしょうけど」

 

「さらっと怖い事言うね不知火さん……それはさておき、この前テートクはとんでもないモノを見ていたんだよ!」

 

「またエロ画像?」

 

「事と次第によっちゃ……」

 

 立ち上って狩りに出かけようとする皐月と谷風と不知火の三人を慌てて五月雨たちが止める。

 いきり立つ駆逐艦三人衆を宥めると、グレカーレは会話を再開した。

 

「……海軍本部が主催するお見合いの資料だよ」

 

『…………』

 

 現在、帝国海軍に所属する提督のほとんどが男性で、しかもその半数以上が未婚である。

 艦娘と結婚する提督もいるが、ほとんどの鎮守府が艦娘たちが一人の提督の取り合いをするために基本は一般人女性との結婚を推奨しているのだ。

 

「テートクも30手前。真面目に結婚を考え出す時期でしょ。あたし達が余裕こいてると、知らない本土の女に盗られてしまうよ!」

 

「そ、そんなの嫌っ!」

 

「そうだよ! それなら清霜が提督のお嫁さんになるもん!」

 

暁と清霜が拳握って叫ぶのを聞いたグレカーレは、グッとサムズアップする。

 

「そのためには、動かないといけないよね!」

 

「丸め込まれたな……」

 

 長月がボソリと言ったが、グレカーレは無視した。

 

「むしろこのお見合いはチャンス! 本土のお見合いの練習を建前に、テートクにアピール出来るチャンスよ!」

 

「れんしゅう?」

 

 清霜が首を傾げる。

 

「そう! お見合いとは、お互いをアピールする絶好のチャンス! まさに男と女のラブゲーム!」

 

「またグレカーレに変な事教えたのか、谷風」

 

「冤罪だよぅ……」

 

 少女達はそんな風に脱線したりしながら、来たるべきクリスマスに向けて作戦を煮詰めていくのだった。

 

 …

 ……

 …………

 

 12月24日。いつも皆で使う食堂が今日は煌びやかに飾り付けられていた。

 部屋の奥に置かれたクリスマスツリーは俺と駆逐艦皆で準備したモノで、小さいながらもキラキラ輝いて見える。

 大きなテーブルの上にはサラダやフライドチキンといったクリスマスらしい料理や様々なお菓子、そして人数分のワイングラスにシャンパンとジュースが置かれている。

 

「何歳になってもクリスマスって心躍るよな」

 

「分かるねぇ……やっぱり祭りは日本人の心さ」

 

 トナカイをベースにしたクリスマス衣装に身を包んだ谷風が嬉しそうに言った。

 ゲームの頃からあった専用グラの服だけあって、とても可愛らしいのだが……

 

「しかし谷風、他の皆はどこにいるんだ?」

 

 谷風以外のメンバーが見当たらないのである。

 

「今日はクリスマスだ。女の子は準備があるんぞ司令官」

 

 するとサンタ服を着た長月もやって来た。

 毎年おなじみの長月サンタだ。

 

「準備?」

 

「ああ……だがもう大丈夫だ。では、司令官……」

 

『メリークリスマスっ!!』

 

 そんなかけ声と共に、残りのメンバーが一斉に食堂へ入ってきた。

 あっという間に室内は女の子特有の甘い香りが充満し、雰囲気も一気に華やかになっていく。

 

「お、おお……どうしたんだ皆……」

 

 目の前に揃った流刑鎮守府のメンバー。その全員がサンタの衣装を身に纏っていたのだ。

 

「どう、司令官? サンタ軍団、カワイイでしょ?」

 

 そう言って近寄ってきた皐月は、長月と同じデザインのサンタ衣装を身につけていた。

 長月の姉妹艦だけあって、こう見ると二人よく似ている。金髪と緑髪が並ぶのも、絵になっていた。

 

「えへへ、どうでしょうか提督?」

 

 五月雨はいつも制服の上からサンタの衣装を羽織ったような格好だった。

 長月と皐月も似ている格好だが、五月雨はさらにいつもの彼女がちょっと背伸びしてお洒落をしたようで微笑ましい。

 赤い衣装に白い制服がよくマッチしていた。

 

「ああ、とっても似合っているぞ」

 

「あ、ありがとうございます……へへ」

 

 頭を撫でてやると五月雨は目を細めて微笑んだ。

 

「ふふん! どう、司令官! レディーの大人なサンタ服は!」

 

 暁は所謂ミニスカサンタで可愛らしい足が大胆に露出していた。確かに大人の女の人が着たら、色っぽいだろうが暁なので微笑ましさが際立つ。

 

「お姉様サンタと清霜トナカイの登場だよっ!」

 

 そんな暁と並ぶのはトナカイの格好をした清霜だった。茶色のスカートと小さな角の着いたフードが可愛らしい。

 

「よしよし、可愛いぞ二人とも。よしよし、よしよし」

 

「ちょっ……子供扱いはやめ……ふぁあ……」

 

「えへへへへ……」

 

 二人の頭を撫でてやると、暁は一瞬躊躇ったが頬を緩ませて喜んでくれた。

 

「さ、テートク! あたしと不知火さんも見て見て!」

 

「ちょ……グレカーレ、押さないで……」

 

 グレカーレにぐいぐい押されながら、不知火がやって来た。

 二人ともサンタ服だ。

 グレカーレは背中に大胆なスリットが入った色っぽいサンタ服。桃色の布地に所々ついている白いファーが付いている。スカートもかなり短く、衣装だけ見れば一番扇情的だった。

 一方、不知火が大きなパニエが特徴の、ドレスのようなサンタ衣装。

 露出は少ないが上品な印象で、不知火によく似合っていた。 

 

「あ……司令……ど、どうでしょうか……」

 

 恥ずかしそうに上目遣いで尋ねてくる不知火は、いつもの冷静で無表情な彼女とのギャップもあってとても可愛らしい。

 

「あ、ああ……よく似合っているよ」

 

 俺も緊張しながら返すと、不知火は安心したように微笑んだ。何か心臓が高鳴るな……

 

「むー。テートク、不知火さんもいいけどアタシにも何か言うことあるんじゃない?」

 

 するとグレカーレが不知火の両肩に手を置いて、頬を膨らませてきた。

 

「お、グレカーレも可愛いぞ。似合ってる似合ってる」

 

「とってつけたような感じ酷いー。一応、皆グレカーレちゃんプレゼンツだよ?」

 

「そうか、どおりでお洒落だと思った」

 

 全員がそれぞれの個性に合っていて、尚且つ似合っている。

 普段、お洒落にあまり関心がない他のメンバーにはここまで出来ないだろう。

 

「ささ、ということで乾杯しようよ!」

 

 シャンパン片手に皐月がやって来た。こいつ、飲みたいばかりだな。まあ、俺もなんだが。

 五月雨が酒を飲める者にはシャンパンを、飲めない者にはジュースをそれぞれ注いでいく。

 

「では、用意も出来たところで……」

 

『メリークリスマースっ!』

 

 9つのグラスが重なり合い、第二回流刑鎮守府パーティーが始まった。

 皆で美味しい料理と酒を楽しみ、プレゼント交換会も終わった時だった。

 ちなみにコレとは別に俺はサンタさんとしてのプレゼントも用意しているし、お年玉の準備もあって冬の賞与は吹き飛んだ。

 

「ねぇ、テートク~。飲んでる~」

 

 グレカーレが肩に寄り添って言ってきた。結構酔っているようだ。

 

「おお、飲んでるぞ! シャンパンなんてクリスマスくらいしか飲まないしな」

 

 ワインは時々飲むんだが、シャンパンは普段飲む機会ないよな。

 

「うふふ、ところでテートク」

 

「なんだ?」

 

「お見合い考えてるってホント?」

 

「えっ!?」

 

 誰にも言っていないのにどうしてそれを……それに皆の視線がなんか集まっている気がする。

 

「この前、PCに本部からメールが来てたから軍事連絡かと思って……駄目だった?」

 

「い、いや……」

 

 何でだろう。妙に汗が滲んできた。

 独身の提督には本部から良縁を勧めてくるのだが、何だろうこう……皆に知られてはいけない気がして隠していた。何でだろう。

 

「もう! そんな重要なこと何で黙ってたの! こういう時こそあたし達の出番でしょ!」

 

「へ?」

 

「テートクは女の人なんて慣れてないでしょ? このままじゃ、お見合いに行っても、緊張何も喋れないで終わっちゃうよ!」

 

「そ、そうかな……」

 

 確かに前の世界では女性経験なし。この世界に来てからも絡むのは駆逐艦ばかりだから、確かに女性経験は無いかもしれない。

 

「そうだよっ! 流刑鎮守府の艦娘としてテートクが、本土で女性相手にしどろもどろなんて耐えられないわ!」

 

「たしかにそうなるかもな……」

 

「なのでっ! ここで練習するべきだよ!」

 

「そうかな……そうかも……」

 

 同性代の女性と話す事なんて本当にないモンあぁ……

 

「丸めこまれてる……」

 

「酒入っているのもあるな……」

 

 皐月と谷風が何か言っていたが、良く聞こえなかった。

 

「と、言うわけで! 早速、実演あるのみ! まずは自己紹介からだよ!」

 

「自己紹介?」

 

「大事、自己アピール!」

 

 ぐっと拳握って力説するグレカーレ。他の皆も何故かうんうん頷いていた。

 

「えっと……」

 

 皆の視線が集中するのを感じながらも、俺はとりあえず口を開いた。

 

「流刑鎮守府で提督をしています。趣味は読書と映画鑑賞。お酒が好きで、休日はよく一人飲みをしています……こんな感じかな」

 

「ふつ-」

 

「酒好きアピールは悪手ではないか?」

 

「レディーに趣味が釣り合わないわ! 趣味は社交ダンスのほうがいいわ!」

 

「酷評だなお前ら」

 

 割と無難な回答をしたつもりだが、あまり好感触は得られなかったようだ。

 

「あの……好みのタイプも言っておくべきだと思います」

 

 五月雨が手を挙げた。

 

「好みのタイプ?」

 

「はい、お見合いでは重要だと思います」

 

「うーん……そうだなぁ」

 

 おっぱいの大きい女性、なんて正直に言えばここで皆にたこ殴りにされるだろう。

 ここは無難に……

 

「優しくて家庭的で……あと料理が出来る人が好みです」

 

「都合良すぎ」

 

「夢見すぎ」

 

 皐月とグレカーレが辛辣に言った。

 

「な、なんだお前ら! 別に夢見たっていいだろう!」

 

「夢と言いますが、無難すぎるなのもどうかと」

 

「し、不知火まで言うのか……」

 

「はい。全ては司令のため。もっと具体的に言うべきだと思います」

 

「具体的?」

 

「はい……た、例えば目付きの鋭い女の子は好みかどうか……とか」

 

「ん?」

 

「それならボクは金髪の女の子が好きかどうかも必要だと思うな!」

 

「江戸っ子口調がいけるかどうかも聞かなきゃいけないねぇ!」

 

「れ、レディーに興味があるかどうかも……」

 

 皆が口々にそんなことを言い出した。

 

「な、なんか凄い個人的且つ限定的な質問になったな」

 

金髪で江戸っ子口調で目付きの鋭いレディーとか属性盛り過ぎじゃなかろうか。

 

「えーと、それらの特徴があっても胸が大きくて美人なら許せまぐほっ!?」

 

「懲りないですね、貴方も」

 

 不知火の一撃が決まり、思わずむせ返す。だってしょうがないだろ。他にどう答えろって言うんだよ。

 

「しれーかん、相手の人もいるんだから、失礼なこと言っちゃ駄目だよ」

 

 精神的最年少である清霜に素のトーンで言われてしまう。何だろうこの辛さ。

 

「え、えっと、お見合いは自分もですけど相手のことも気を付けないといけないと思います」

 

 さすがに不憫と思ってくれたのか、五月雨がフォローしてくれる。ええ娘や……

 

「相手のことか……確かにお見合いだから相手がいるもんな」

 

「そうだよ。テートクも相手のことを考えて、トークしないと嫌われちゃうよ」

 

「トークねぇ……確かに何を話せばいいかわからんな」

 

 ずっと本土から離れた孤島にいたから、流行りのものとか全くわからないからな。

 

「そういう時は相手を誉めればいいんだよ!」

 

「誉める?」

 

「そう! 女の子は男の人に誉められると嬉しいものだよ」

 

「そうかなぁ。赤の他人にいきなり誉められても、戸惑うかもしれないしなぁ」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「そうでぃ! た、ためしに谷風さんたちで試してみたらどうだい?」

 

「うーん……」

 

「とりあえず、目の前の五月雨さんを褒めてみたらいいんじゃない?」

 

「ふぇっ!? さ、五月雨ですか!?」

 

 ビクっと大きく肩を震わせて五月雨が言った。

 

「ええ、とりあえず五月雨を褒めればいいのか?」

 

「うん、五月雨さんの良いところを褒めていけばいいよ」

 

「ぐ、グレカーレちゃん……いきなり何を……」

 

 五月雨はあたふたしているが、これも練習だ。

 

「うーん……」

 

 俺は五月雨の顔をじーっと見ていくつか思いついた点を挙げていく。

 

「優しいところが可愛い。控えめで俺をたててくれるところが嬉しい。小動物みたいで愛おしい……」

 

「はわわわわわわわわ……」

 

 顔を真っ赤にして五月雨は両手をわたわた振った。

 

「こんな感じでいいのか?」

 

「あう……」

 

 耳元まで真っ赤にして五月雨は俯いてしまった。

 

「し、司令官! ボクのこともお見合い相手だと思って、やってみようよ!」

 

「谷風さんも頼むぜぇ! ゆっくり時間をかけてもいいからよ!」

 

 他の皆も一気に立候補しだした。

 

「な、なんか変な雰囲気じゃないか? お見合いにこういうのって必要か?」

 

「勿論だよ! どんな女の人が来るか分からないでしょ?」

 

「そ、それもそうか」

 

「そうそう! 実戦のために谷風さん達で練習しとくべきさ!」

 

「うーむ」

 

 正直、皆ではアクが強すぎてどうかとは思うが、練習に付き合ってくれるのはありがち。

 俺は一人ずつ相手を決めて、相手をお見合い相手だと思ってお世辞を述べる。

 

「皐月は元気で一緒にいると楽しくなるな」

 

「えへへへ……そう?」

 

「谷風は意外としっかりしてて頼りになるな」

 

「へへ、嬉しいもんだねぇ」

 

「長月はしっかり者で頼りなるな」

 

「む、むう……嬉しいな……」

 

 酒も入っている事もあり、普段は言えない皆への感謝を述べていく。

 なんかお見合いの練習になっていない気もするが、皆喜んでいるのでまあいいだろう。

 そんなことを考えながら、皆を褒めていたときだった。

 

「えっと後は清霜とグレカーレだが……」

 

 残った二人であるが、司会のようなことをやっていたグレカーレとは違い清霜は最初に素で突っ込まれた以降あまり会話に参加していなかった。

 そんな清霜であるが、俺が視線を向けると彼女は何故かテーブルに突っ伏していた。

 

「だ、大丈夫か清霜?」

 

「うう……ぐすん……」

 

 すると清霜からすすり泣くような声が聞こえてきたのだった。

 よく見ると彼女の近くに空き缶が一本転がっている。最初はジュースかと思ったがよく見ると。

 

「大人のジュースだな」

 

「不知火のカクテルだね」

 

 酒に強くない不知火が飲むための缶カクテルである。見た目はジュースに見えなくもないので、間違って飲んじゃったのかもしれない。

 

「申し訳ありません、不知火の落ち度です……」

 

「清霜、大丈夫? お水飲んで?」

 

 目を離していた不知火が反省を述べ、姉貴分の暁が清霜に水を持ってきていた。

 そんな中。

 

「うううう……しれーかぁん……」

 

 ガバッと顔を上げた清霜の両目からは涙がこぼれ落ちそうになっっていた。

 

「ど、どうした清霜。酔ってるのか?」

 

「うう……」

 

 鼻をすすってしゃくりあげながら清霜は、俺の顔をじっと見て言った。

 

「しれーかん、けっこんしちゃやだぁぁぁぁ……」

 

「え……ど、どうした清霜」

 

「ぐす……だって……しれーかんケッコンしたら本土にいっちゃうんでしょ……」

 

「え……いや、まだ肝心のお見合いもしてないし、そもそもお見合い自体もリモートで出来るから、ここから出ることはないぞ」

 

「そーなの!?」

 

 グレカーレが素っ頓狂な声をあげた。

 それはさておき。

 

「でも……ケッコンしたらここからいなくなっちゃうんでしょ……」

 

「…………まさか、俺はこの流刑鎮守府の提督だぞ。俺の仕事場はここさ」

 

「ほんと?」

 

「ああ、本当だ」

 

 どうやらお見合いして結婚すると俺がここから出て行ってしまうと思って、泣いてしまったらしい。

 子供らしくて何とも可愛らしいが、当の清霜は本気なので俺も真面目に答えてやる。

 あと間違って飲んでしまった酒で、清霜が悪酔いしてしまったのもあるしな。

 

「だから俺は結婚しても流刑鎮守府にいるから大丈夫だ」

 

「うう……よかったぁ……」

 

 優しく肩を叩いてやると、清霜は安心したように笑った。

 

「それならよかった」

 

「ええ、一先ず安心です」

 

 五月雨と不知火も何か小さな声で呟いた。

 ようやくこれで一安心……

 

「でもしれーかんが知らない女の人とケッコンするなんて、ヤダ!」

 

 と安心していたら別の意見を言い始めた。

 

「そうだよ! ボク達を差し置いて他の女とケッコンなんて許せないよ!」

 

「全くでぃ! 谷風さん達の目の黒い内は絶対にお見合いなんてさせねぇぜ!」

 

「レディーというものがりながら、勝手にお見合いしてケッコンするなんて駄目よ! 駄目なんだからぁ!」

 

 酒に悪酔いした皐月谷風コンビと、酒は一切飲んでいないが清霜と同じお子様メンタルの暁が急に絡んできたのだ。

 

「ちょ、お前達、なんでそんなに絡んでくるんだ……し、不知火! 長月! どうにかしてくれ!」

 

 俺は皆の中でまともな方である二人に救援を求めたのであるが。

 

「……今回はあまり司令官の肩を持てんな」

 

「同感です」

 

 まさかの拒否。

 

「さ、五月雨……」

 

「あ、あははははは……」

 

 頼みの五月雨も苦笑いするのみ。

 

「グレカーレ……」

 

「テートク、皆の意見を聞いた方がアタシもいいと思うよ」

 

「皆の意見って……」

 

「ケッコンだめー」

 

「ケッコン反対!」

 

「お見合いは禁止でぃ!」

 

「レディー以外と付き合うの駄目っ!」

 

 俺に人並みの家庭を持つのを諦めろというのか……

 

「お、お前達! 今日は聖夜だぞ! もうこんな騒動は……」

 

 体に纏わり付いてくる駆逐艦たちをあしらいながら、俺はなんとか逃れようともがくも相手が複数なので多勢に無勢だ。

 残りの皆もこちらを助ける気は無いようで、ここには俺の味方はいない。

 

「……まあ、何にせよメリークリスマス」

 

「メリークリスマスですね」

 

「メリークリスマス、ミスターローレンス」

 

 長月がグラスを捧げ、困ったように笑う五月雨と何故か某映画のパロディを始めた不知火がそれに続いた。

 

「テートク。これが民意ってヤツだよ」

 

 グレカーレの最高に理不尽な台詞を吐かれながら、俺はくっついてくるちびっ子達を引き剥がしていくのだった。

 

 ……お見合い、真剣に考えてみようかな。

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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