今年もおっさんな提督と癖はあるけど可愛い艦娘達のドタバタを書いていこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。
――家具コイン
艦これのゲームをプレイしていた時から存在したアイテムである。遠征などを行うと貰えるそれは、貯めると家具と交換できる。その家具でホーム画面の内装を変えられるのであるが……
「こっちの世界にもあるとはなぁ」
備品などを発注する機械。その画面に映し出された『家具交換』の文字を俺は指でトントンと叩いた。
戦意高揚のためなのかは分からないが、任務をこなす毎に本部から、家具ポイントが貰えこれを貯めればポイントの数に応じて、様々な家具が本部から送られてくることになっている。またかなりポイントを使えば、内装もリフォームできるとのことだった。
「で、このポイントをどう使うかなんだが」
普段は全く使われない会議室で、俺は集まって貰った艦娘達に問うた。
「うーむ。そもそも私達の鎮守府は既に限界近い。ここはこの家具コイン、いやポイントを使ってリフォームするのが得策だと思うが」
真っ先に手を挙げて、反論の余地も無い正論をぶつけてきたのは長月だった。
「確かに、この鎮守府の老朽化は不味い。たまに歩いているだけで、床に穴が空くからな……」
このご時世に木製、しかも相当経年劣化している建物だ。学校の怪談にそのまま出しても違和感が無い位の、老朽化物件なのである。
「外観は無理にしても、中身はリフォームしたいですね」
五月雨の言葉に皆がウンウンと頷く。流刑鎮守府はそれほど限界だったのだ。
「まあ、床と壁は直して貰うとして……後は風呂とかトイレとか?」
「はいはいはい! ボクたちの部屋を広くしてほしいっ!」
勢い良く立ち上がったのは皐月であった。
「清霜とグレカーレが入ってから、部屋も狭くなったしね。今度は8人皆が入れる広い部屋が欲しいよね!」
皐月の発言に、何人かがうんうんと頷いた。確かに皆の寝室は三段ベッドを二つ、部屋の両端に置いていて、その真ん中に布団を二枚敷いて清霜とグレカーレが寝ているのだ。そりゃ狭く感じるだろう。
「狭く感じるならあたしが出て行きましょうか? テートクのベッドでアタシが寝ればいいわけだし」
こちらをチラリと見てから、グレカーレは意味深げに微笑んで言った。
「グレカーレが俺のベッドで寝るとして、持ち主である俺はどこに寝ればいいんだ」
「ふふふ、それは大丈夫! テートクもあたしと一緒に寝ればぶべべべべっ!?」
「グレカーレ、冗談が過ぎるわよ」
不知火がグレカーレの頬をむにっと伸ばして、黙らせた。俺はそれを華麗にスルーしてから、話題を戻した。
「でもリフォームはともかく、部屋の広さって変えられるのか?」
「それくらいなら、バッチリとのことです」
いつの間にか五月雨の肩に乗っていた妖精さんが、得意気に胸を叩いた。艦娘の装備などを作り出すことが出来る妖精さんなら、それくらい朝飯前なのかもしれない。
「じゃあ、とりあえず床と壁の張り替えと寝室の拡張。他に希望はあるか?」
「あるよっ!」
今度は元気良く谷風が挙手した。
「はい、谷風」
「鎮守府のお風呂を温泉に改造しないかい?」
「お前は何を言っているんだ」
「何言ってんだい! そこの家具一覧にもちゃんとあるじゃねぇか!」
ぷんすか怒る谷風を宥めつつ画面を確認してみると、確かに『温泉岩風呂』の項目があった。
「そういえば、ゲームの頃からあったけど……マジか」
「いいだろう? 殺風景な我が家のお風呂が露天風呂に早変わりだよ!」
「……確かに、それはいいな」
温泉が嫌いな日本人などいない。特にココは本土から離れた未開の僻地。そんな場所で露天風呂に入れるなんて最高じゃないの。
「それなら暁はこのドレッサーが欲しいわ!」
「清霜は武蔵さんの桐箪笥が欲しい!」
「『皐月の窓』に『皐月の机』……これはもうボクが持たないわけにはいかないね!」
「それなら長月シリーズもあるのだが……」
「じゃーあたしはこの煎餅布団をぶべべべべべっ!?」
「いい加減にしなさい、グレカーレ」
「あの……それなら、皆で欲しい家具を一個ずつ挙げていったほうがいいんじゃないでしょうか」
各自が欲しい物をどんどん推挙し始めたので、五月雨がそう提案してきた。
確かにその方がいいだろう。
「よし! ならこれから少し時間を作るから、一人一つずつ欲しい家具を考えてくれ。その後皆で話し合って、何を頼むか決めようじゃないか」
そういうことになった。
…
……
…………
「……と、言うわけで。とりあえず皆が欲しい物をまずは明らかにしよう」
数分後、再び作戦会議室の席に座った俺たちは、皆真剣な面持ちで口を開いた。
厳選に厳選を重ねた、希望の家具はこのような感じだ。
俺、『鎮守府カウンターバー』
五月雨、『艦娘専用デスク』
長月、『模様替えお掃除セット』
皐月、『皐月の窓&机』
谷風、『温泉岩風呂』
不知火、『教室セット』
暁、『ドレッサー』
清霜、『武蔵模型と桐箪笥』
グレカーレ、『リゾートハンモック』
「……まあ、とりあえず司令官の提案は却下で皆、いいよね?」
「おい、何を言いやがる! やめろ、皆も頷くな!」
皐月の突然の暴言に、俺は激高する。
「そもそも何が駄目なんだ! いいじゃないかカウンターバー」
「これ以上、呑兵衛に酒を飲ませる口実を作らせはしないよ。はい、次々」
「さ、皐月だってこんなお洒落な所で酒を飲みたいだろう!」
「提督さんよぉ。谷風さんたちが皆で飲んでいる時、こんなお洒落な雰囲気で飲んでるかい?」
「…………」
俺と皐月と谷風。三人で馬鹿笑いしながらのドンチャン騒ぎ。確かにこのカウンターバーには相応しくない。
「……だが、俺と長月なら……」
「む……確かにそうだな。私と司令官が二人で飲むときにはぴったりの家具だ」
「余計駄目だよ! ふ、二人きりって! 兎に角、これは却下! 皆、いいよね?」
皐月の言葉に、長月以外の駆逐艦達が憩いよく頷いた。
くそ……カウンターで裕次郎みたいに格好よく、ブランデーを飲みたかったのに……
「むう……残念だ」
長月が不満げに言った。堅物の彼女が賛同してくれそうだったのに……残念だ。
「その理屈なら皐月の窓と机も別にいらなくないか?」
「はぁああああああああっ!? 何、馬鹿な事言ってるの!? このボクの名前とデザインが入った家具なんだよ!?」
「それなら長月のもあるのだが……」
「皐月の名前が入った家具を、皐月たるボクが使わないでどうなるのさ!」
長月の呟きを無視して皐月は拳振るって熱弁する。確かに気持ちは分からなくはないのだが……
「でも実用的かと言われれば、そうでもないわね」
「そうよ! それに皐月だけ名前入りなんてずるいわ!」
「し、不知火……暁……」
「とりあえず保留で、次にいきましょうか」
苦笑しながら五月雨が話題を次に逸らした。
「五月雨は『艦娘専用デスク』か。実用的だな」
「うん。秘書艦のお仕事に便利かなと思って」
長月の言葉に、五月雨が嬉しそうに頷いた。
そういえば普段、五月雨は執務室のソファーと来客用のテーブルで書類仕事をしていた。
この艦娘専用デスクがあれば、仕事はもっとスムーズになるだろう。
「でも実用性なら長月ちゃんの『模様替えお掃除セット』もいいかもね」
「そういえば掃除道具もガタがきていたわね」
「ああ、この際に一新しようと思って、これを挙げたんだ。だがこの不知火の『教室セット』も中々いいな」
「ええ、これなら普段おざなりな座学も皆、気合いが入るでしょう」
真面目な三人が会話の花を咲かせている。が、それに待ったをかけたのが谷風だった。
「ええい、ロマンが無いねぇロマンが! 確かにそいつらは実用的かもしれねえが、つまんねぇ! やっぱりここは遊び心が必要だよっ!」
大見得を切ってそう主張する谷風に、皐月や暁がうんうん頷いた。
「確かにそれらは生活の中で必要なもんだろうさ。だがねぃ! やっぱり生きるのに必要なのは娯楽! 心のビタミンよ!」
「言わんとすることは分かるが……何故、露天風呂なんだ?」
「馬鹿言ってんじゃねえ、長月! 温泉は日本人の心だろうがぃ!」
「イタリア人のあたしはどーすればいいの?」
「それに提督も露天風呂は好きだろう?」
グレカーレの素朴な質問を無視して、谷風は俺に聞いてきた。
「確かに俺も温泉は好きだ……最近、腰が痛いしな」
「そう! 温泉は疲れをとる!」
「確かに美容にはいいわね……」
暁が食いついた。女の子としては美容も重要な点であろう。
「ちょっと待って、露天風呂ってもしかして混浴?」
そんな時、皐月がふと尋ねてきた。
「いや……そもそも、今までも皆、基本俺と皆は別れて入ってただろう……」
「混浴!? じゃあテートクと一緒に入れるってこと?」
「ええっ!? 司令官とお風呂!?」
「は、はわわ……」
「ぐ、グレカーレ。一体何を言っているの……」
「え、不知火さん。テートクと一緒に裸のおつきあいだよ?」
「ばっ……な、何を言っているの! そ、そそそそんなこと……」
ませたグレカーレに顔を真っ赤にした清霜と五月雨。激しく狼狽する不知火。
何だか大変な事になってきた。
大浴場と温泉でこうも印象は変わるのだろうか。
「これは新しい火種になる……辞めておこう」
「そ、そんな……酷い言いがかりだよぉ……」
長月によってバッサリと切られ、谷風は崩れ落ちた。
「ふっふーん! なら暁のドレッサーが一番ね!」
そこへここぞとばかりに暁が自身の提案をねじ込んできた。
「ドレッサーこそ、いるのかな? ボク達、おめかしすることなんて無いし」
「コスプレならするけどねぇ」
「もーっ! レディーがそんなんじゃ駄目でしょ! 女の子はお洒落にしないと!」
「確かに皆さん、全然お洒落に気を使ってないですよね」
「清霜もお洒落したーいっ!」
暁三姉妹がいつにも増して結託し、一気に攻めかかる。
皆、女子だけあってお洒落に興味はあるだろう。
「でもお洒落しても、見せる人がこれじゃあねぇ……」
ジトっと……皐月が俺の方を見てきた。
「な、なんだ皐月。その目は……ちょ、皆もどうした」
何だか皆の視線が厳しい。
いつもは優しい五月雨ですら、冷たい笑みを浮かべている。
「と、とりあえずドレッサーは保留にして次にいってみないか」
雲行きが怪しくなってきたので、俺は話題を変えることにした。
「というかグレちゃんの『リゾートハンモック』って何に使うの?」
すると素朴な疑問を清霜がグレカーレにぶつけてきた。
「ふふふふっ、これはね清霜姉さん。テートクの部屋の天井に引っかけるんだよ。それであたしが水着姿でテートクを誘惑してね……」
「誰か他に?」
これ以上は変な事になりそうなので、すぐに流した。
何か言いたそうにグレカーレが立ち上がったが、不知火がすぐに後ろに回り込んで押さえ込んでいた。
「えーっと、清霜は桐箪笥か……」
「うん! 武蔵さんの格好いい模型が付いてるんだよ!」
清霜は戦艦武蔵に憧れてるからなぁ。
「それに箪笥がもうパンパンなんだよね。清霜とグレちゃんの服も増えたから」
「確かにそれは大変だな」
義姉や妹分が挙げた家具に比べて、遙かに実用的だ。
「何だかんだで実用的なモノに落ち着くよなぁ」
「確かにな。それに私達の部屋も、広げるわけだしな」
「うーん、本命清霜。対抗馬五月雨。次点に長月。大穴で不知火ってとこか」
「ちょっと! ボクの机と窓はどうなったのさ!」
「温泉だって谷風さんはまだ諦めてないよ!」
「だったら俺のカウンターバーだって可能性あるだろ!」
喧々諤々の論争の末、我が流刑鎮守府が迎えた新しい家具は――
「結局、桐箪笥か」
「まあ無難ですね」
清霜発案、『武蔵模型と桐箪笥』であった。
「それにしてもボクたちの部屋も広くなったよね!」
皐月が改装された寝室を見て言った。
「天井を高くすることは出来ないので、横を広くしたようです」
「清霜とグレちゃんのお布団が、綺麗に並ぶね!」
「心なしか、ベッドの幅も広くなった気がするわ!」
「衣服も全て入るようになったから整理も楽になったな」
皆、喜んでいるようだ。
俺たちの判断は間違っていなかったのだ。
「でも、よかったんですか提督?」
横にいた五月雨が尋ねてきた。
「ああ……大丈夫さ」
そう。建物自体は広がっていないので、部屋を広げると別の部屋が狭くなるのである。
「俺の寝室なんて、無かったんだ。無かったんだよ……」
執務室の部屋の隣にあった専用の寝室は消滅し、ベッドは物置のあった場所に移されていた。
床や壁も綺麗になって、皆の寝室も一新された。それでいいじゃないか……
「テートク。寂しいならあたしが夜、遊びに行ってあげよーか?」
「不知火、やれ」
「かしこまりました」
「ちょっ……もっと手加減して……」
不知火に追いかけられていくグレカーレを見ながら、俺は艦娘が増える度にどんどん立場が低くなっていく自身の行く末を案じるのであった。
おかしい、俺って提督だから一番上のはずなのに……
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい