流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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前回の続きです。


他にも書きたいことはありましたが、これ以上書くとR-18に突入しそうなので止めました。


ロスト・チルドレン

「……さて、今後どうするかなんだが……」

 

 作戦会議室で俺は真剣な面持ちで皆に言った。

 時刻は既に午後六時を迎えており、普段なら入浴して夕食に行く時間であるがそんな状況では無かった。

 

「……そもそも俺は元に戻れるのだろうか」

 

 あの後、何とか状況を整理した後、俺は体のどこにも不調が無い事を確認するとベッドから降りた。

 そして谷風が使っている浴衣を借りて、そのまま会議室へ足を運んだのである。

 ……しかし、背が低くなったからか見える世界も全然違うな。

 皆、俺よりでかいし……

 

「あれ、司令官声変わった?」

 

 清霜が首を傾げた。

 

「恐らく第二次成長期以前に戻ったから、声が高いんだろう」

 

「成程、本当に若返ったんだねぇ」

 

 しみじみ言う長月と谷風だが、意外と自分自身の声など分からないモノで、俺はあまり違和感を感じなかった。

 だが今重要なのはそういうことじゃない。

 何時までこのままであるかどうかということだ。

 

「一応、本部の明石さんにも聞いてみましたが、そもそもあれは実験用なので人間が使ったのは初めてというコトです」

 

 そんな危険なもんを堂々と発売していたのか……とんでもないな……

 

「確かに自己責任って書いてあった……」

 

 ぽそりと言ったグレカーレの言葉に俺は頭を抱えた。

 

「青いキャンディー食べれば元に戻るんじゃねぇか?」

 

「谷風、いくらなんでも古すぎるぞ……まあ、記憶はちゃんと残ってるしタッパは縮んだが、提督の仕事は基本デスクワーク。軍務自体は問題ないだろう」

 

 自分に言い聞かせるように俺は言うと、そのまま顔を上げた。

 

「問題は日常生活と元に戻れるかどうかだ」

 

 いきなり子供に戻れば生活に支障はでるのは明らかであるし、もし元に戻れなかったらそれこそ一大事だ。

 その場合、このまままた成長していくのだろうか。それとも一生、このままなのだろうか。

 明石さんの作った薬であるからそうなることも否定できないのが怖い。

 

「とりあえず、暫くはこの身体で過ごすしかないな……谷風、浴衣ってまだあるか?」

 

「無いことは無いけど、妖精さんが今提督用の服を作ってくれてるみたいだよ」

 

 そのまま谷風は妖精さんと親しい五月雨の方に視線を向けると、彼女は大きく頷いた。

 

「はい、部屋着と下着くらいならすぐに出来るみたいです」

 

「それは助かる」

 

 しょうがないとはいえ女の子の服を借りるのは気が引けるしな。たとえそれが谷風だろうと。

 

「……でも何だか新鮮だね。鎮守府に男の子がいるなんてさ」

 

 すると皐月がこちらをじっーと見て、そんなことを呟いた。

 

「おい、俺の性別はずっと変わらないぞ」

 

「同じ男でもおっさんと男の子は違うよ」

 

皐月にバッサリ斬られ、俺は肩を落とした。おっさん……そうかおっさんか……

 

「こんなにカワイイのに、将来はあんな風になっちゃうのか……」

 

 しみじみ言う皐月に俺は一言、言ってやろうと思った時であった。

 

「うん! 確かに司令官カワイイね!」

 

 後ろからぎゅっと柔らかい感触に包まれた。少女特有のミルクのような香りと、暖かい身体。思わず胸が高鳴る。俺は出来るだけ平静を装いながら振り返ると、そこには満面の笑みでくっつく清霜の姿があった。

 

「こ、こら清霜。やめなさい」

 

 思わず声が上擦ってしまう。いつもは清霜にドキドキしたりしないのに今日は何故か妙に意識してしまっている。

 そういえば普段なら彼女たち駆逐艦は俺よりも頭数個分ちっちゃい。だが今は俺自身が縮んでしまったため、同じ位の身長になっていた。

 

「えへへ……司令官、今なら清霜のこと『お姉ちゃん』って呼んでもいいんだよ?」

 

 それどころか恐らく鎮守府で最も小さな清霜より俺は小さかった。

 そのせいか妙に清霜に気に入られたらしい。まあずっと鎮守府の最年少ポジションだったしな。後から来たグレカーレより明らかに精神年齢が低かったし……

 

「誰が言うか。早く離れなさい」

 

 出来るだけ彼女の顔を見ないように俺は目を逸らしながら、清霜を体から離した。

 不味い……同じ頭身だとこんなにも異性として意識してしまうのか……

 清霜でこれなのだから、比較的背が高い方の五月雨や不知火とかやばいのではないか……

 

「と、とりあえず汗かいたから風呂行ってくるわ」

 

 俺は逃げるようにその場を後にするのだった。

 

 …

 ……

 …………

 

「……つるつるになってた……」

 

 色んな所が……地味にショックだった。

 男子の子供用下着なんて無いから、裸の上に浴衣を羽織ってから俺は食堂に戻っていく。

 今日は飲んで酔ってさっさと寝よう。

 そう決意して扉を開けた瞬間であった。

 

「あ、司令官くん! こっちこっち!」

 

 清霜が満面の笑みで、手でこっちこっちと誘っている。

 

「……司令官くん?」

 

「だってそう呼んだほうがしっくりくるし」

 

「……俺はお前の30倍近く生きているぞ」

 

「でも清霜より小さいじゃん」

 

 そう言って間に入ってきたのは皐月だった。

 彼女もまた俺よりも目線が上なので、猛烈に違和感がある。そしてそれ以上に、皐月ってすげー顔が整ってるんだなって……

 

「いかんいかん!」

 

 俺は雑念を払うようにこめかみを両手でパンパンと叩いた。

 やばい……本当にヤバイ……同じ頭身の子供にとって駆逐艦の艦娘は、同世代の美少女なのだ。

 

「大丈夫ですか、提督」

 

「やめなさい清霜。司令が困っているわ」

 

 五月雨と不知火に至っては、年上のお姉さんといった雰囲気だ。

 年上好きとしてこの二人は本当に不味い。

 

「だ、大丈夫さ二人とも。とりあえず風呂上がりのビールをぐぐっと飲み干せば……」

 

 俺はそう言って冷蔵庫を開けて冷しておいた缶ビールを手に取った。

 よし、これを一口飲めばもう大丈夫……

 

「司令官! 子供がお酒を飲んじゃダメ!」

 

 と思っていたが暁に腕を掴まれた。

見た目は子供でも俺は立派な大人。すぐに反論しようとしたが。

 

「あ、暁……何……を……」

 

 そこで思わず俺は言葉を失った。

 あの暁が。娘のように思っていた暁が。

 とても可愛らしい女性に見えるのだ。

 

「司令官は心は大人でも体は子供なんだから、お酒を飲んじゃ駄目よ! はい、ジュース!」

 

 そう言って暁が渡してきたオレンジジュースを俺はこのドキドキをごまかすように、飲み干した。

 

「さあ、司令官。夕食だぞ。今日は私が腕によりをかけて作ったんだ」

 

 そのままテーブルについた俺の元に長月が晩御飯を持ってきてくれる。

 彼女の作る料理は絶品で、俺にとってはこの絶海の孤島における数少ない楽しみの一つだ。

 さて、今日の献立は……おお、ポテトフライにハンバーグ。ソーセージにチキンライス。デザートにプリンまで……

 

「お子様ランチじゃねえか!」

 

 実年齢30手前の俺に何て献立を出しているんだ。

 

「いや、外見と同じで味覚も子供に戻ってるのかと思ってな……すまない」

 

 申し訳なさそうにする長月に俺も流石に心が痛んだ。

 真面目な彼女のことだ。きっと俺の事を考えてくれたはずだ。

 

「すまん、言い過ぎた。長月なりに考えてくれたことだもんな。ありがとう」

 

「……いや、いいさ。司令官の言う通りだ」

 

 長月はそう言って柔和な笑みを浮かべると、優しく俺の頭を撫でた。

 ……これまだ子供扱いしてないか?

 

「司令官くん! 清霜が食べさせてあげようか?」

 

「だ、大丈夫だ。これくらい一人で出来る」

 

「ふふふ、顔赤くなってる。テートクかわいい〜」

 

「ぐ、グレカーレ……元に戻ったら覚えていろよ……」

 

 さんざん皆にからかわれた挙げ句、俺はなんとかお子様ランチを完食した。長月が作っただけあってとっても美味しかったです。

 そして俺はそのまま歯を磨いて、ベッドへ向かった。

 何だかドッと疲れた。

 体が子供になるというアクシデントは勿論、周りの艦娘たちが急に異性として映るようになったためこれ以上、彼女達と必要以上に接したく無かったためである。

 

「はあ……ここが本土ならこの容姿を利用して、女湯に行ったり出来るんだが……」

 

 こんな アホなことを考えながら、ベッドに転がった直後であった。

 

「司令官くん! 一人じゃ寂しいでしょ? 清霜が一緒に寝てあげる!」

 

いきなりパジャマに着替えた清霜がベッドに飛び込んできたのである。

 

「こ、こら清霜! やめろ……」

 

 水色のパジャマに身を包んだ清霜は楽しそうに俺の体へ引っ付いてきた。

 その度に小さくて柔らかい感触を体感し、顔が熱くなるのを感じてしまう。

 

「いいでしょ? 昔一緒に寝たし、今日も一緒に寝よう!」

 

「あ、あの時は……と、兎に角離れ――」

 

「もう! わがまま言っちゃ駄目じゃない、司令官!」

 

 後ろからむにゅっと心地いい肉質が俺を捕らえた。

 

「あ、暁……」

 

「暁お姉様でしょ、司令官」

 

 そう言ってぎゅっと後ろから抱きしめてくるのは暁だった。

 真っ白の子供用ネグリジェを着た彼女は、そのままその柔らかい体を密着してくるのである。

 

「今の司令官はお子様なんだから、大人のレディーの言うコトきかないと駄目よ」

 

「そうそう! 大人しく暁お姉様と清霜お姉ちゃんと一緒に、おねんねしようねー」

 

 ……こいつら……普段から皆に年下として扱われてるからか、初めて出来た自分たちよりも幼い存在に駄々甘である。

 だが俺は見た目は最年少だが、中身は最年長なのだ。

 そんな俺が幼女に連れ添われて就寝するのは、流石に恥ずかしい。

 それに今の状態だと二人の事を意識しすぎて大変な事になりそうだし……

 

「ご、ごめんトイレ!」

 

 俺は二人を強引に引き剥がすと、そのままベッドから飛び降りた。

 そして呼び止める二人を全力無視して、一気にその場から走り去っていく。

 このまま二人から離れて体の火照りが無くなるのを待つしか無い。俺はそんなことを考えながら、とりあえず談話室へ逃げ込んだ。

 

「あ、司令官!」

 

「提督じゃねえか! ほら、こっちこっち!」

 

 そこには酒盛りして出来上がった皐月と谷風がいた。

 床には幾つものビールやチューハイの空き缶が転がり、つまみらしきお菓子の袋が散乱している。

 

「ささ、ここに座って! 谷風の姐さんがお酌してやるぜぇ」

 

 ほろ酔いの谷風が手招きする方へ俺は向かった。

 正直、酒でも飲まないとやってられないからな。そう思いながら、谷風の隣に腰を降ろした直後だった。

 

「うぇへへ~、司令官はカワイイなぁ~」

 

 皐月が突然抱きついてきた。

 酔っているのか呂律が回っておらず、顔もだらしなくふやけている。 

 平時であればこれ位なんともないスキンシップなのであるが……

 

「う……さ、皐月……」

 

「えへへ、カワイイねぇ。とってもカワイイよぉ」

 

 ほっぺたを擦り合わせてくる皐月の体温に。息づかいに。俺は早くもドキマギしてしまっていたのだ。

 うう、皐月って近くで見ると普通に美少女だな……

 

「確かにまるで弟が出来たみたいで、めんこいねぇ」

 

 さらに谷風がそのまま肩を寄せてくる。

 顔の左右を皐月と谷風に挟まれ、二人の整った顔が間近に迫るのである。

 

「あ……お、おれもう酔っちゃった……」

 

 普段なら絶対に感じない二人の色気に俺は場酔いしてしまい、顔を赤くして立ち上がった。

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずに一緒に飲もうぜぃ」

 

「ボクがいけない遊びをいっぱい教えてあげるからね」

 

 だが既にほろ酔いの二人は、そんなに簡単にやって来たおつまみを離そうとはしない。

 俺は必死に逃れようとするも、二人がかり。さらに艦娘のパワーも相まって簡単に捕縛されてしまうのだ。

 

「や、やめて……助けて……」

 

「へへへ、よいではないか。よいではないか」

 

「嫌がる顔もカワイイね! ボクの弟としてたっぷり可愛がってあげる」

 

「いい加減にしなさい二人とも」

 

 瞬間、風を切る音と共にそんな声が聞こえ、気が付いたときは皐月と谷風が倒れていた。

 掴んでいた二人の手を体から離すと、俺の頭上から細い手が伸びてきて優しく頭を撫でる。

 

「し、不知火か?」

 

「おけがはありませんか、司令?」

 

 俺を助けてくれた少女――不知火は珍しく柔和な笑みでそう尋ねてくるのだった。

 

「う……」

 

 前述した通り不知火は他の子達より少しだけ背が高い。だからこそやけに彼女が大きく見えた。

 

「全くこの二人は……司令がこの状態という事を考慮しないのでしょうか」

 

 あきれ顔で溜息をつく不知火だったが、俺は助けられた事も相まってか心臓が更に激しく動き始めるを感じた。

 昔、幼い頃に感じた年上のお姉さんへの憧れ。それを不知火に対して感じてしまうなんて……

 

「さ、行きましょうか司令」

 

 すると不知火は俺の手を取った。純白の手袋に包まれた指から、ほのかな温かさを感じてしまう。

 

「ど、どこへ行くんだ?」

 

 そんな胸の内を隠すように、俺は彼女に聞いた。すると不知火は微笑して答える。

 

「勉強の時間ですよ」

 

 …

 ……

 …………

 

「就寝時間まで、まだ時間は残っています。なのでそれまでこの不知火がご指導ご鞭撻を行なうのでよろしくお願いしますね」

 

 数分後、俺は会議室の机の前に座っていた。

 目の前には教科書とノートが置かれ、隣には不知火が何故か教師が持つような指示棒を手にして腰を降ろしたのだ。

 

「あ、あの……不知火……これはなんだ?」

 

「司令にはこの機に、提督として最低限の教養を身につけて貰おうと思いまして」

 

 淡々と言う不知火だったが、その思いが本気であることは目で分かった。

 

「ま、待て不知火。俺は見た目はガキだが本来は30手前のおっさんだ。これ位の知識はある、多分」

 

「いえ、幼いときの方が脳は柔軟で知識を詰め込めます。現状の状態が一番勉学にベストかと」

 

「いや、だったら元に戻ったら意味が無くならないか。ひょっとして忘れてしまうかも」

 

「……司令、これは司令のためでもあるのです」

 

 不知火は真っ直ぐ俺の目を見て言った。

 その水晶のような瞳と美しい切れ目は、不知火の整った顔立ちを上手く合わさって怜悧な美貌を醸し出している。

 

「もしかしたら元に戻らず、再び少年時代からやり直す可能性もゼロではありません。ならば司令が立派な提督になるための教育を行なっていくのが部下の務めかと」

 

「な、何を言っているんだ」

 

「安心して下さい。この不知火、司令につきっきりで勉強を教えますので、共に勉学に励みましょう」

 

 ……や、ヤバい。目に一切の悪意が無い。純粋な善意で不知火は言っているのだ。

 彼女からしてみれば、俺を少しでもまともに育てようとしてくれているのだろうが、はっきりしってありがた迷惑である。

 だが逃げようにも相手は不知火。

 流刑鎮守府単機白兵戦最強の女だ。

 終わった……俺はここで勉強漬けにされるしかないのか……

 そう絶望しかけた時。

 

「ここにいたのか司令官……」

 

 長月が会議室へと入ってきた。

 俺はすかさず、彼女へ飛びついて助けを求めた。

 

「長月、助けてくれ!」

 

「な、何をいきなり出すんだ。それに不知火も、ここで何を……」

 

 そう言って長月は部屋を見渡し、山積みになった教科書や参考書を見て状況を概ね察したようだった。

 

「不知火。すまないが司令官は借りていくぞ」

 

「な、何を……これから司令は勉強の時間ですよ!」

 

「普段冷静なお前まで、少年の司令官に惑わされてどうする。ほら、いくぞ」

 

「ま、待ちなさい! 不知火の……不知火の子ですよ!」

 

 違うよ! 何かお姉さん気取りだった清霜や暁がマシに見える暴走っぷりだ。疲れているんだろうか。

 だが不知火は諦めきれないようで、こっちに距離を詰めてくる。

 

「……ああ、もう。司令官、先に行っていろ」

 

 めんどくさそうに長月は言うと不知火と対峙する。

 

「な、長月は?」

 

「私はここで不知火を食い止める。司令官は五月雨と所に行け」

 

「……ありがとうな。長月は正気で良かった」

 

「ああ、私は年上好きだからな。子供の司令官にはあまり興味が無い」

 

 ……それ何か違うくない? 

 だが不知火に捕まればヤバいので俺は長月の言うとおり、部屋を出た。

 そしてそのまま五月雨を探すべく動き出す。

 いつもならもう寝室にいるはずだ。だが彼女らの寝室の前には俺のベッドがあり、そこにはお姉ちゃん化した暁と清霜が待ち構えている。二人に捕まる前に、寝室へ行くか? いや、そもそも五月雨がそこにいる保証はないし……

 

「隙だらけだね、テートク」

 

 そんな声が耳元で聞こえた。

 同時に俺の体は宙に浮き、そのまま首根っこを掴まれて何処かへと引きずりこまれる。

 

「ぐおっ!」

 

 そして背中を床に強打し、苦痛から大きく息を吐き出したのだ。

 ここは……談話室だ。ふと横を見れば、酔い潰れて寝ている皐月と谷風の姿が見えた。

 

「ふふふふ、テートク捕まえた」

 

 そしてそんな俺に覆い被さったのは、グレカーレであった。

 頬を朱く染め、息も妙に荒い。

 

「い、痛いじゃないか。何をする」

 

「うっふふふー、体は子供でも頭は大人なテートクなら、わかるでしょ?」

 

 そういうとグレカーレは俺の両手を地面に縫い付けるように押さえつけた。

 

「わぁ……ホントに子供だから力弱いんだ……」

 

 恍惚の表情でグレカーレが吐息を漏らす。仄かにワインの香りが漂ってきた。

 

「お、お前、飲んで……」

 

「うふふ、さ、脱ぎ脱ぎしましょうね-」

 

 俺の言葉を無視すると、そのままグレカーレは着物の帯へと手を伸ばしていくのだ。

 

「や、やめろ、なにをするんだ」

 

「もー、分かってるくせに-」

 

「お、俺はお前の妖しい薬を飲んでこんな姿になったんだぞ! 少しは反省くらい……」

 

「うん。だからこうやってグレカーレお姉さんが責任とろうと思って」

 

 間近にグレカーレの顔が迫る。

 子供と大人が混ざり合ったアンバランスな表情。それが彼女の美しい容姿と綺麗に溶け合って、蠱惑的な魅力を放っていた。

 

「や、やめるんだグレカーレ。これ以上は……」

 

「安心してよテートク。お姉さんがちゃんと気持ち良くしてあげるから――」

 

「この不埒者!」

 

 そんな声が響き、直後にグレカーレが横に吹っ飛んだ。

 

「不知火の息子に何をやっているんですか……」

 

 なんと不知火であった。

 長月を実力で突破してきたのか、肩で息をしている。

 というか息子って……コイツ素面だよな? 一番ヤバいのではないか。

 

「大丈夫ですか、司令官」

 

「あ、ああ」

 

 心配そうに俺の顔を覗きこむ不知火に返事をすると、彼女はほっとした表情で微笑んだ。

 

「よかった……ではお勉強に戻りましょうか……」

 

「ひっ……」

 

 俺は逃げようとするも足が震えて上手く動かない。

 これまでか、と思った時だった。

 

「待て不知火!」

 

 ボロボロになった長月が俺を庇うように現れる。

 

「な、長月!」

 

「大丈夫か司令官……ちょっと油断してなすまなかった」

 

 まるでヒーローのように、いや今の俺にとってはヒーローそのものである長月は不敵に笑った。

 

「長月。邪魔をしないで下さい。これは全て指令のためなのです」

 

「それは出来ないな。私は部下として司令官を守らなければならん」

 

 長月はそう言って俺の方をチラリと見た。

 

「走れ、五月雨は食堂にいる」

 

「っ」

 

 俺は震える足に鞭打って、何とか立ち上がるとそのまま部屋を出ようと試みる。

 

「あ、ま、待ちなさい!」

 

「行け司令官! お姉ちゃんが守ってやるからな!」

 

 俺は長月に背を向け走りだした。

 ありがとう長月。この恩は一生忘れない。

 最後に口走った『お姉ちゃん』という単語は聞かなかったことにしておこう。

 

 そのまま俺は走った。

 ただ無我夢中に、食堂に向けて走った。

 押さない体だからか息はすぐに上がり、足が痛んだがそれでも懸命に足を動かした。

 そして。

 

「あ。提督。どうなされたんですか?」

 

 食堂に辿り着いた。

 中に入るとパジャマ姿の五月雨が冷蔵庫からお茶を取り出して飲んでいた。

 

「…………」

 

「あ、あの、提督?」

 

 黙って息を切らす俺に五月雨は首を傾げた。

 そして。

 

「う、ううううううう……さみだれぇ~」

 

 俺は泣いた。

 思わず泣いた。

 小さくなって心細かったのもあるが、それ以上に年上となった艦娘達の態度が心底恐ろしかったのだ。主に不知火。

 

「あらら……大丈夫ですか提督」

 

 五月雨はそんな俺をぎゅっと抱きしめてくれた。

 温かい感触が心地いい。

 

「怖かったですね。頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」

 

 優しく頭を撫でながら五月雨は、子供に言い聞かせるような口調で言った。

 ああ……なんて気持ちいいんだ。

 まるでお母さんみたいな感覚。

 緊張から解放された安堵からか、体中の力が抜けていく……

 

「……提督? ふふふ、おねむですか。仕方ないですね。五月雨がベッドまで連れていってあげます。おやすみなさい、提督」

 

 なんだかとても心地よかった。

 

 …

 ……

 …………

 

 翌朝。

 目が覚めると俺は普通に元に戻っていた。

 ベッドの上で前と変らない体に、ガッツポーズを取る。

 やった……戻れた……元に戻らなかったらどうしようと本気で悩んだけど戻って良かった……

 

「あ、司令官……元に戻っちゃったの……」

 

 すると横から清霜の残念そうな声が聞こえてきた。

 

「折角起こしに来たのに……」

 

「……すまないな、清霜。でももう大丈夫だ」

 

「……もう一回、あのドリンク飲まない?」

 

「飲まない!」

 

 もう子供に戻るのはこりごりだ!  

 すると俺と清霜のやり取りを聞いたのか、他の皆がぞくぞくやって来た。

 長月だけ妙に疲れた顔をしている。今度何か買ってあげよう。

 

「なんだ、戻っちゃったのか」

 

「残念だねぃ」

 

「折角、司令官可愛かったのに……」

 

 心底残念そうに言う皐月、谷風、暁。彼女らには悪いがやはり元の姿が一番しっくりくる。

 

「そんな……不知火の教育計画が……」

 

「オネショタ確定だったのに……」

 

 それ以上に落ち込んでいるのは不知火とグレカーレだ。と言うかグレカーレはどこでそんな言葉覚えたのか。

 

「やっぱり司令官はこうじゃないとな」

 

「はい、安心しました」

 

 長月と五月雨だけは喜んでくれている。

 この二人が今回の騒動で唯一、まともだったな……

 

「……色々言いたいことはあるけど、これだけは言わせてくれ」

 

 俺はそのまま皆の顔を見て言った。

 

「今後、明石さんの発明を買うことは禁じる」

 

 もう二度とこんな悲劇を繰り返さないためにも、そうするしかないだろう。

 こうして今回の騒動は終わりを告げた。

 その後暫く、不知火や清霜がまたあのドリンクを買ってくれとせがんだが、俺は断固拒否した。

 

 ……それにしても。

 皆ってあんなに可愛くみえるもんだな。

 よく考えれば駆逐艦とはいえ、屈指の美少女なのか。

 今後、彼女達を見る目が変るかもしれない。

 そのことに戸惑いを覚えながらも、俺は日常生活に戻っていくのであった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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