流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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思う事があって書きました。


Trust You Forever

「あれ、不知火ちゃん。どうしたの?」

 

 とある日の午後。

 提督の確認済み書類を運んでいた五月雨は廊下の曲がり角で、不知火にばったり出くわした。

 

「五月雨、丁度よかったわ。皐月を知らないかしら」

 

 そう尋ねる不知火の手には艤装の主砲が握られていた。

 

「それ、不知火ちゃんの艤装?」

 

「いえ、皐月のよ。間違えて持って行ったみたいなの」

 

 困ったように言う不知火に五月雨は苦笑した。

 

「そういえば……提督が仕事終わった後に会いに行くって言ってたような……」

 

「……もうお酒かしら。困ったものね」

 

 提督は度が過ぎた酒好きで、昼間から飲む事などザラである。

 皐月もそれなりの酒豪であるので、明るいうちから飲み始めることも今まで何度もあった。

 それを知っているからこそ、不知火も溜息をついたのである。

 

「とりあえず、行ってみるわ。ありがとう、五月雨」

 

「ううん、大丈夫。あんまり提督に酷いことしちゃだめだよ」

 

 五月雨にひらひらと手を振って、不知火は別れた。

 そしてそのまま彼女は、よく宴会が行われている娯楽室へと向かって行く。

 目的地に近づくと、部屋の方から賑やかな声が聞こえてきた。

 不知火は大きく息を吐くと、ドアを勢いよく開いて中へと入っていく。

 

「皐月! ここにいるのかし……」

 

「でろぉおおおおおおおおおおっ! がんだぁあああああっむっ!」

 

 パチン! と小気味よく指を鳴らした皐月は、そのまま決め顔でポーズと取った。

 それが不知火が部屋に足を踏み入れて最初に見た光景である。

 これだけでも頭が痛くなりそうな光景だったが、事態はさらに悪化していく。

 

「でけでけでーん! ででーででででーでけでけでーん! でーでーでーでーでーででっででででーでー! どりゅるるるーん!」

 

 部屋の端にいた清霜がノリノリで鼻歌を歌いだした。

 燃え上がれ闘志、忌まわしき宿命を越えてという曲だった筈だ。

 清霜の鼻歌に合わせて、皐月は突然苦しみだしたと思うと、いきなり空手の型のように正拳突きや蹴りを虚空に向かって放ちだす。

 

「ふっ……ならばガンダムファイトーっ!」

 

 すると皐月の真正面にいた谷風が同じくファイティングポーズを取って、大物感たっぷりに言い放った。

 

「レディ……」

 

「ゴーっ!」

 

 瞬間、皐月と谷風はポカポカと戦い始めた。

 その後ろでは清霜がアカペラで我が心 明鏡止水を奏でだす。

 不知火は頭痛で頭を押さえた。

 

「……何をやっているの、真昼間から」

 

「新手っ!? 喰らえ、ばぁーくねっつごっとふぃ……ぐえええええええええええっ!?」

 

 調子に乗って不知火へアイアンクローを決めようとした皐月だったが、さすがに見切られた挙句、逆に同じ技を決められてしまう。

 

「怒るわよ?」

 

 冷酷に言い放つ不知火に、谷風と清霜も黙ってしまう。

 

「ど、どうしたんでぃ不知火。何か用かい?」

 

「ええ、ちょっと皐月に……ってそういえば指令がいると聞いたけど、いないのかしら」

 

 不知火がざっと部屋中を見渡したが、今ここにいる四人以外の人影は無かった。

 と、思っていると。

 

「ドモン! 怒りのスーパーモードはいかんと言っただろうが!」

 

 そう言いながらドアから登場したのは、ドイツの国旗を模した覆面を被った男であった。

 しかし身につけている服装は純白の第二種兵装。これだけで正体は分かる。

 背中には新聞紙をまるめで作った刀が挿してあり、哀愁を誘う。

 そんな彼はノリノリで登場したものの、何故かこの場にいる不知火を見て、目を丸くさせた。

 

「楽しそうですね、司令」

 

 不知火の凍りつくような声色に、男の顔は見る見る青くなっていく。

 

「ちょ、なんでここに不知火が……というか、空気がヤバ……」

 

「司令、不知火とガンダムファイト致しましょう」

 

 ニッコリと微笑んだ不知火に、司令官は完全に固まってしまった。

 そして、処刑が始まった。

 

 …

 ……

 ………

 

「全く、いい年齢してなにをやっているんだ」

 

 数分後、不知火のファイトと称した一歩的な暴行によって負傷した俺は、執務室で呆れ顔の長月に傷を手当てをされていた。

 部屋の端では皐月・谷風・清霜が正座しており、その横には不知火が無言の圧力をかけて仁王立ちしていた。

 その様子を苦笑して見つめる五月雨に暁。不思議そうなグレカーレと、皆が集まっていた。

 

「……久々にGガン見たらテンションあがっちゃって……」

 

「あんたもう30手前だろう。年相応の落ち着きは身につけないとな」

 

 外見だと小学生にしか見えないのに、長月の精神年齢は大人だ。下手すりゃ俺より高い。

 

「ねえねえ暁姉さん、じーがんって何?」

 

「えっとね、機動武闘伝Gガンダムってアニメのことよ」

 

「アニメか……」

 

 グレカーレも呆れたような顔になった。元々、俺や皐月たちが集まって酒飲みながらアニメ見たり映画観たりするのに難色を示してたからな。

 

「でもよぉ……Gガンダムは俺にとって、特別な作品なんだ……リアルタイムで初めて観てハマったガンダムなんだよ……」

 

「歳がバレるぞ司令官」

 

「でもね、グレちゃん! Gガンダムは面白いんだよ! 清霜でもお話が分かるもん!」

 

 怪訝な顔をする末妹に、清霜が拳振るって力説した。

 確かにガンダムシリーズは基本的に設定が複雑かつシリアスだから、まだ幼い清霜には合わないかもしれない。

 一方、Gガンダムはガンダムシリーズの基本を押さえつつも、子供にも分かり易いストーリーだ。

 当時まだ幼かった俺が前番組のVガンダムの話を理解できなかったのに対して、Gガンダムはちゃんと理解して楽しんでたからな……

 他のガンダムシリーズの良さに気が付けたのはもうちょっと大きくなってからだ。

 しかしGガンダムを見ていなければ他のガンダムシリーズに興味を持つことはあっただろうか……

 

「そうだ! グレちゃんも一緒に見ようよ! イタリアのガンダムも出るよ!」

 

「えっ!? ちょっと待って、どういうこと?」

 

 突然出された祖国の名に、グレカーレは驚きを隠せないようだった。

 

「……Gガンダムはな、四年に一度に地球で行われる『ガンダムファイト』っていう大会で、優勝した国が全宇宙の主導権を握るって設定なんだ」

 

「まあオリンピックみたいなもんさ」

 

 皐月と谷風が饒舌に語り始めた。

 

「だから世界各国がそれぞれ自国のガンダムを持ってるんだ! そしてボクらのネオジャパンがMF! シャイニングガンダムにゴッドガンダム!」

 

「谷風さんはやっぱマスターガンダムだね! 師匠が渋くて最高なんだ……」

 

「分かってないわね! 大人のレディーは、ガンダムローズよ!」

 

「ええっ、そうなの……清霜はドラゴンガンダムが好きなのに……」

 

 ここぞとばかりに始まったGガンダム推し機体談義。

 Gガンダムが好きなら盛り上がるだろが、未視聴の五月雨、不知火、グレカーレは困惑必須である。

 

「……ま、大体わかったわ。で、あたしの祖国のガンダム……ってのはどんななの?」

 

 グレカーレの一言に、一瞬だけ周りが静まった。

 清霜だけがニコニコして、スマホを弄り始める。

 

「これだよグレちゃん」

 

「へー……て、何よこのねろす……ガンダム? 全然イタリア要素ないじゃん! 隣りのへぶんずそーどに至っては鳥みたいだし……」

 

「……違うんだ。ネロスガンダムもガンダムヘブンズソードもカッコイイし、ネオイタリアのガンダムファイター・ミケロもいいキャラしてるんだ……」

 

「でもイタリア要素は少ないかもね……」

 

 皐月が苦笑して言った。

 

「司令、不知火はそう言う事をいるのでは無いんですよ。いい大人がアニメのごっこ遊びとはどういうことかと言っているのです」

 

 ピシャリと言い放った不知火だが、正論なので俺は何も言い返せない。

 皐月と谷風も目を逸らしてしまった。

 

「大体、アニメとは子供の見るモノ……それを成人男性が見てどうするんですか」

 

「なっ……そ、それは言い過ぎだぞ不知火!」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

「大有りだ! アニメが子供のモノだと誰が決めた! 大人の鑑賞に堪えうるアニメ作品だってあるはずだ!」

 

「あくまで両方とも個人の意見だぞー深く考えるなよー」

 

 ナイスフォロー長月。

 

「そうだよ! それに不知火はGガン見た事無いんでしょ? そう言う事は見てから言おうよ!」

 

「そうでぃそうでぃ! 百聞は一見にしかずさ!」

 

「よし、そうなったら今夜は上映会だな。Gガンフルマラソンだ」

 

「な……何を勝手に決めているのですか……そんな一晩かかりそうな健康に悪い事、不知火は……」

 

「いや、あたしも不知火さんも参加するよ!」

 

「ちょ、ちょっとグレカーレ……」

 

 断ろうとする不知火の肩をガッシリと掴んでグレカーレが言った。 

 そして彼女は何やら不知火の耳元でコソコソ話し始める。

 

「……どうせこの三人はお酒を飲んで酔い潰れちゃうよ。そしたら、寝落ちしたテートクと色々出来るよ?」

 

「なっ……何を言うのです貴方は……そんな不誠実な事……」

 

「テートクと添い寝出来るかもよ?」

 

「…………」

 

 暫くして顔を朱くした不知火と楽しそうに笑うグレカーレが戻ってきた。

 

「OKだって!」

 

「そうか、よし決まりだな!」

 

「しれーかん、清霜もいい?」

 

「駄目よ清霜! 夜更かしはお肌の天敵! 今度一緒に暁が見てあげるから、今日は我慢しなさい!」

 

 こういう時、ちゃんと止めてあげる暁はいいお姉ちゃんだと思う。

 

「五月雨はどうする?」

 

「私もあまり夜更かしは得意でないので……でも気になりますから今度貸してくださいね」

 

「長月は?」

 

「私も遠慮しておこう。朝の仕込があるからな。でも私は好きだぞ、Gガンダム」

 

 こうして流刑鎮守府で徹夜アニメマラソンが行われることになった。

 

 …

 ……

 …………

 

『かんぱーいっ!!』

 

 ガチャンと5つのグラスが重なった。

 

「……夜遅くにお酒を飲むのはあまり褒められたものではありませんね……」

 

 不知火は少し不満そうだったが、やっぱり徹夜でアニメや映画を見る時は酒が必要だ。

 ちなみに俺と皐月と谷風はビール。グレカーレはワインで、不知火はお茶だ。

 

「よーし! じゃあ早速始めようよ!」

 

「おつまみもあるよっ」

 

 ノリノリの皐月と谷風が手際よく準備を進めていく。

 この二人とは定期的に宴会を開いているから、こなれている。

 

「いい? さっさと酔わせて寝落ちさせるよ」

 

「う、うう……わ、わかったわ」

 

 グレカーレと不知火は何やら話しているが、それを遮るようにGガンダムのOpの象徴であるゴングの音が鳴った。

 

「おっ! 始まったな!」

 

「初期の映像もいいねー」

 

「一人で歩いてくるドモンがいい味出してるねえ」

 

「え、なんでこの人は全身タイツになってるの?」

 

 グレカーレが素朴な疑問を口にした。

 

「まあ、見てれば分かるさ」

 

 俺はそんな彼女の肩をポンポンと叩くと一気に缶ビールを呷った。

 オープニングが終わりいよいよ本編が始まっていく。

 いつしか俺達の会話は減り、未来世紀の世界へと心が入り込んでいった。

 

 …

 ……

 ………

 

「あ、おはようございます提督。それに皆も」

 

 翌朝。

 眠気眼を擦りながら現れた五月雨が俺達を見てペコリと頭を下げた。

 

「……あれ、どうしたの皐月ちゃんと谷風ちゃん。目が真っ赤だよ?」

 

「いや、ちょっと師匠の最期でね……」

 

「谷風さんはその前のシュバルツでもう辛抱ならなかった」

 

 皐月と谷風がガッツリ楽しんだようだった。

 

「不知火ちゃんとグレカーレちゃんはどうだったの?」

 

 五月雨は次に後ろにいた不知火とグレカーレに尋ねた。

 今回のフルマラソンの目的はこの二人にGガンダムを見て貰う事だったので、ある意味主役の二人である。

 

「……面白かったよ」

 

「ええ。最後は少し……恥ずかしかったですが……」

 

 グレカーレと不知火は少し恥ずかしそうに言った。まああの最終回は所見だと恥ずかしく感じることもあるかもな。

 

「でもガンダムって思ってたより面白かった。今度はテートクが一番好きって言ってたZも見ようかな」

 

「ははは……ちょっとZは待とうか」

 

 ファースト見てないと理解できないし、Gガンとはかなり毛色が違うからなぁ。

 

「ええ、不知火も同じ意見です。それでも司令のごっこ遊びは容認できないけど……」

 

「う……まあそれはな……」

 

 完全に悪乗りの域であったし。

 

「でもとてもよかったのは本当ですよ……そういえば以前から司令が酔った時に口ずさんでいる歌は、Gガンダムのオープニングだったんですね」

 

「あ……うん、そうだな」

 

 聞かれていた……というより歌っていたのか俺。何だか恥ずかしいな」

 

「まあ、Gガンのopは両方とも神曲だからしょうがないね」

 

「わかるねぇ。谷風さんはFLYING IN THE SKYが好きだねぇ。爽やかに熱い感じが好きなんだ……」

 

「正統派でいいよね! でも司令官は後期の方が好きなんだっけ」

 

「ああ、どっちも好きだけど強いて言うならTrust You Foreverの方が好きだな。初めてopが変わった時は興奮したな……」

 

「あの腕組みしたゴッドガンダム、かっこいいよね……」

 

「谷風さんは師匠とシュバルツがくるくる回る所も好きだね」

 

「あたしは最後にレインが出てくるとこかなぁ……テートクは?」

 

「うーん、映像も素晴らしいんだけどやっぱり歌詞がいいよな」

 

「いいですね。不知火も好きです。それに歌っている人の声も透き通るようで素晴らしいですね」

 

「ああ、前期後期同じ人だけど、どちらも最高だった」

 

 やっぱりいいアニメにはいいopがセットである。

 そして素晴らしい作品というものはいつか時代が変わっても、忘れないモノなのだ。

 

「皆、ごはんだぞー」

 

 長月から声が聞こえた為、皆は食堂に集まっていく。

 今日も流刑鎮守府は平和だった。




Gガンダム大好きです

op大好きです。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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