流刑鎮守府異常なし   作:あとん

44 / 73
お久しぶりです!

今回は親交のある画面の向こうに行きたい先生の作品『孤島鎮守府の奮闘』とのコラボです!

自分の思い付きからでた企画で完全にパロディ全開を作風を許してくれた向こう先生、ありがとうございます。

なお前後編です


激ファイト! 流刑VS孤島鎮守府

 暦上では10月を迎え、いよいよ流刑鎮守府は秋を迎えた。

 だからといって、いつもと変わらない。遠征と演習を行ったことを本部に伝える書類を作成していた時に、見慣れないメールが届いているのを発見したのだ。

 

「合同演習……?」

 

 俺はそう尋ねると五月雨は、はいと首を縦に振った。

 部屋の中には任務を終えた皐月と谷風が、胸元のリボンを解いてソファーにどっかり腰を降ろしていた。

 完全に仕事終わりモードである。

 

「いくつかの鎮守府が一緒になって演習をするんです」

 

「へえ、そんな行事があるのか……」

 

 そういえば俺がいた元の世界ではアーケード版の艦これで、そういうモードがあったんだっけ。

 俺はアーケードの方はプレイしていなかったから分からないが、提督同士でワイワイ演習するのは楽しそうだな。

 

「年に何回か近くの鎮守府同士で行うのですが、私達は隣がとても遠いので……」

 

「あー確かにな」

 

 そもそも我が鎮守府は流刑鎮守府と呼ばれるだけあって、絶海の孤島である。

 近くにある鎮守府どころか、人が住んでいる最寄りの島ですら大分遠くにあるのだ。

 

「あとそれこそ呉や舞鶴のような大きい鎮守府は観艦式並みの一大イベントになるみたいだよ」

 

「戦艦や空母の演習はド派手で面白いだろうねぇ」

 

「成程なぁ……で、俺達はずっとそれに参加していなかったわけか」

 

「しょうがないじゃん。そもそも指揮をする提督がずっといなかったんだよ?」

 

「それに一番近い孤島鎮守府だって、数日はかかるんだよ。そんな時間も余裕も、零細鎮守府には無理な話さ」

 

「確かにそうだな。仮にもこの近海を護らないといけないし」

 

 腐っても鎮守府は鎮守府。ごく稀にだがこんな田舎にも深海棲艦は現れるのである。

 さすがに留守には出来ないだろう。

 

「断る……しかないよなぁ」

 

「そうですね……ちょっと残念ですが……あれ?」

 

 書類に目を通していた五月雨の動きが止まった。

 

「あ……代わりの人が来てくれるみたいです」

 

「え、マジかよ」

 

「はい、本部から来てくれるみたいです」

 

「本部案件だからか、リカバリーはちゃんと用意しているんだな」

 

 そうなると尚更、合同演習に行かなくちゃいけないな。

 えーと場所と相手は……

 

「孤島鎮守府か……」

 

 ウチ程では無いが、本土から離れた場所にある小さな鎮守府だ。

 所属する艦娘も、駆逐艦のみと俺達と色々似ている。条件はほぼ同じで、演習には持ってこいだろう。

 

「孤島鎮守府には時雨ちゃんと夕立ちゃんがいますね」

 

「そういえば、望月がいたっけ」

 

「あの雪風も今は確か孤島鎮守府だったねぇ」

 

 皆の姉妹艦も何人か所属しているらしい。それなら演習もやりやすいだろう。

 

「ねえ、司令官。孤島鎮守府の指揮官ってどんな人なの? 広島で会ってるでしょ?」

 

 皐月が聞いてきた。

 

「うーん、確か会議の時に隣だったけど、あまり話す機会は無かったからな」

 

 正直、俺より若いってことくらいしか分からない。会議の時は喋れないし、終わったあとはすぐに不知火と飲みに行ったからな。

 

「まあ何とかなるだろう。本部に了解しましたと伝えておこう」

 

 俺はそう言って書類に判を押した。

 他の鎮守府の艦娘も見てみたいし、何より普段外に出ない皆を外出させてあげたい。

 こうして流刑鎮守府初めての総出でのお出かけが決まったのであった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 孤島鎮守府は本土東京と沖縄本島、グアム島からそれぞれ1200~1300kmほど離れた場所にある。

 一応、本土の領海内にある火山島であるのだが、完全に四方は海に囲まれ見渡す限りの水平線。

 鎮守府の建物自体も、ウチほどではないがそんなに大きくなく、なんとなく親近感を覚える造りである。

 

「お疲れ様です。ようこそ孤島鎮守府に」

 

 孤島鎮守府の司令官は俺たちを出迎えに、波止場までやって来てくれた。彼の後ろにはこの鎮守府に所属する艦娘が揃っている。

 小綺麗で若々しく、いかにもヤングエリートといった雰囲気だった。

 奥に控えている艦娘も時雨や夕立、雪風と駆逐艦ながらも武勲艦が揃っている。

 しかし・・・・・・ウチと同じ駆逐艦だけの鎮守府とはいえ、色々と違うな・・・・・・

 一部がたわわで、ボリューミーだぜ・・・・・・

 

「司令、先方に失礼はいけませんよ」

 

 不知火に背中をぎゅうっと摘ままれ、俺は慌てて視線を逸らした。

 

「五月雨ちゃん! 久しぶりっぽい!」

 

「わぁ、夕立ちゃん! 時雨ちゃんも久しぶり!」

 

「ふふふ、本当にね五月雨」

 

「望月~、何年ぶりだっけ? 相変わらずカワイイね!」

 

「ちょ、やめてよ~うざ絡み反対~」

 

「望月、お前相変わらず覇気が無いな。それではいかんぞ。大体お前は昔から・・・・・・」

 

「雪風、元気そうじゃねえか」

 

「谷風ちゃん・・・・・・不知火ちゃん・・・・・・」

 

「色々あったと聞いていたけど・・・・・・元気そうでなによりだわ」

 

「雷、久しぶりね!」

 

「暁、本当にね! あれ、後ろの子達は・・・・・・」

 

「ふっふーん、暁の妹分! 清霜とグレカーレよ!」

 

「暁お姉様の妹って事は・・・・・・雷お姉様?」

 

「・・・・・・ふふふ、そうよ! 雷お姉様にもーっと頼っていいのよ!」

 

「・・・・・・やば・・・・・・暁姉さんより圧倒的姉力が高い・・・・・・」

 

 孤島と流刑に所属する姉妹艦同士の再会。普段会うことはほとんど無いから、その感動も一入だろう。

 

「漣たちは姉妹艦がいないんだな」

 

「朝潮型は確かにいませんね」

 

「ふん。別に構わないわよ。むしろ姉妹艦がいない分、思いっきりやれるわ」

 

 残った三人の艦娘と孤島提督は話していた。

 何時もの倍近い人数が集まっている。

 その光景に何となく不思議な興奮を覚えつつも、俺と孤島提督は演習の予定をまとめ始めた。

 

「演習は8対8の艦隊戦でやろうと思っています」

 

「ん、それだとそちらが一人、余りませんか?」

 

「はい、そこでその一人――雪風には審判をやってもらおうと思いまして」

 

 孤島提督がそう言うと、雪風がこちらにやってきて敬礼した。

 

「雪風、実は孤島鎮守府の中で一番戦歴が長いんです! 演習の審判も前いた鎮守府で何度かやっていましゅ!」

 

 最後に噛んでしまったが、彼女の言っていることは恐らく本当なのだろう。この鎮守府に着任したのは一番後らしいが、どことなく戦い慣れたような感じがある。

 

「では30分後に始めましょう。それまでは作戦会議と準備体操をあちらでお願いします」

 

 そう言って孤島提督が案内してくれたのは、ここの鎮守府の一室だった。

 

「え、広い……」

 

「ボクたちの鎮守府と違って綺麗だ……」

 

 カルチャーショックを受けつつも、俺たちは案内された小部屋に荷物を降ろした。

 

「さて……早速だが、今回の作戦だが……そもそもこんな大人数の演習は初めてだからな」

 

 普段は数人に分かれて戦うか、全員で陣形の練習をしているような小規模鎮守府だ。全員で同じ人数で戦うというのが未知の経験だった。

 

「それに今回の相手は油断なりませんよ。時雨と夕立がいるのですから」

 

「それに駆逐艦最速の島風もいる。また本気を出せば望月は私よりも強いぞ」

 

「え、長月ちゃんより!?」

 

 驚いた五月雨に長月は重々しく頷いた。

 

「ま、望月は基本やる気無いから大丈夫。むしろボクは漣や曙とかが怖いな。よく知らないし」

 

 確かに漣と曙は綾波型、朝潮は朝潮型と流刑鎮守府には姉妹艦がいない艦娘たちだ。情報が無いため、不気味に感じるのもやむ無しだろう。

 

「待て、俺たちの中で一番の武勲艦って誰だ?」

 

 瞬間、沈黙が場を支配した。

 誰もが目を背け、口を開こうとしない。

 

「強いて言うなら皐月じゃねぇかい」

 

 谷風が重々しく口を開く。こういう時、普段の皐月なら全力で調子に乗りそうだが、苦笑いをするだけなので余程のことなのだろう。

 谷風の言うとおり、皐月は活躍した駆逐艦であるのだが、まあ佐世保の時雨やソロモンの悪夢と肩を並べるにはな……

 

「ええい! くよくよしても始まらん! ここはいつも俺たちがやってきたことをぶつければいい!」

 

 俺はこめかみをパンパンと叩いて、皆を鼓舞した。

 

「旗艦は長月、補佐に不知火。複縦陣で航行して、相手を叩く。これでいこう」

 

 俺はそう決めると旗艦である長月の肩を叩いた

 

「……ああ、そうだな。グダグダここで言い合っても何も始まらない。相手が誰であろうと、私達はやれることをするだけだ」

 

「そうだね! ボク達流刑鎮守府の力を見せてやろうよ!」

 

「時雨や夕立がなんぼのもんでぃっ! あっちが武勲艦なら、こちとら根性の船よ!」

 

「妹に負けるわけにはいかないわもん! 一人前のレディーとして、絶対に勝つわ!」

 

 流刑鎮守府でもどちらかというと好戦的なメンバーが、拳握って立ち上がった。

 それに続いて他の娘たちも立ち上がる。

 

「よーし! 流刑鎮守府、出撃!」

 

『えい! えい! おーっ!!』

 

 9つの声が重なり合う。

 初めての対外演習。気合は十分だった。

 

 …

 ……

 ………

 

「てーとく! 勿論、この島風が一番槍ですよね!」

 

 孤島鎮守府の執務室でも、これから行われる演習の作戦会議が開かれていた。

 元気よく手を挙げてそう言ったのは駆逐艦最速である島風である。

 確かに抜きんでた速さを持つ彼女なら、一番槍に最適だろう。

 

「うーん、そうしようか……島風と先頭とした」

 

「待って、提督」

 

 孤島提督の言葉を遮ったのは、時雨であった。

 

「どうしたんだ時雨」

 

 提督が時雨に尋ねると、彼女は無言で後ろを指差した。

 

「ふぅー……ふぅー」

 

 そこには戦いに向けて息を整える夕立改二の姿があった。

 

「夕立さん、大丈夫ですか?」

 

 彼女の顔を覗き込んで朝潮が言った。

 

「ぽい……元気が有り余ってるっぽい……うずうずするっぽい! ぽーいっ!」

 

「ご覧の通りさ。普段戦いが無い分、夕立の闘志が爆発寸前でね」

 

「う……」

 

 日頃から孤島鎮守府には戦闘らしい戦闘は無い。そのため『ソロモンの悪夢』と呼ばれて恐れられた夕立も、陸地で座敷犬のように穏やかに暮らしている。

 だが彼女は戦場で狂犬と称されるほどの戦闘力と好戦的な性格を持つ、武勲艦なのだ。

 

「こうなったら夕立に好きにやらせるのが一番いい。島風を突っ込ませて相手の戦列を乱した後、交代で夕立を送り込んで暴れさせる。そして散り散りになった相手を各個撃破すればいい」

 

「た。確かに名案だけどそれは夕立に頼り過ぎじゃないか」

 

「大丈夫さ。雪風を除いて、孤島・流刑の艦娘を合わせても夕立は二番目に強い」

 

「え? 一番は?」

 

 提督の問いに、時雨は微笑を浮かべた。

 

「ボクさ」

 

 …

 ……

 …………

 

 作戦会議が終了した後、俺は皆と分かれて再び波止場の近くへと向かった。

 そこには椅子が二つとテーブル。そして小さなテレビが置かれている。

 

「ここにこれから行われる演習が映し出されます」

 

 孤島提督と一緒にやってきた雪風がそう説明する。

 その傍らには小さなドローンが数機ほど置かれている。

 

「龍驤さんや隼鷹さんの艦載機を参考に造られた小型の偵察機です。これが演習の様子をリアルタイムで撮影して、ここに映すんです」

 

「へぇ、凄いな」

 

 流刑鎮守では考えられない設備だ。

 

「制限時間内に相手を全滅させた方が勝利。勝負が時間内につかなかった場合は、残った艦娘の数が多い方が勝利です」

 

 雪風が演習のルールを簡単に説明する。俺と孤島提督はそれを聞いた後、どっかりと席に腰を降ろした。

 

「お互い、正々堂々。悔いの無い勝負にしましょうね」

 

 孤島鎮守府はにっこりと笑うと、右手を差し出してきた。

 

「そうですね。互いに頑張りましょう」

 

 俺はその手を取った。

 

「あ、司令官! 待って!」

 

 すると後ろから突然、声がかけられる。振り返るとそこには皐月が立っていた。

 

「どうした皐月、もう演習は始まるぞ」

 

「それはそうなんだけど……ちょっと主砲の調子が悪いんだ。メンテしてもいいかな?」

 

「おいおい……あれほど事前に確認しろと言っただろ」

 

 俺の言葉に皐月はえへへと苦笑した。

 

「結構かかりそうか?」

 

「うーん、そうかも。何だったら先に初めててよ」

 

「……大丈夫ですか、孤島さん」

 

「ええ。自分は構いませんよ」

 

 孤島の提督は朗らかに言った。

 他の艦娘は既に海面で待機している。流刑鎮守府だけならともかく、孤島のメンバーもいるのだから待たせるわけにはいかなかった。

 

「すいません。では、そうしましょう。皐月、早くしろよ」

 

「うん! 分かった!」

 

 皐月は踵を返すとそのまま哄笑の方へと駆けて行った。

 

「申し訳ありません、段取りが悪くて……」

 

「ふふ、構いませんよ」

 

 こうして何だかしまらないものの流刑鎮守府VS孤島鎮守府の演習は始まったのであった。

 

 …

 ……

 …………

 

「皆、準備はいいな? さぁ、行くぞ!」

 

 長月が右手を挙げると、孤島鎮守府の艦隊は出撃した。

 前方に長月と谷風、後方には五月雨とグレカーレといった布陣で、出来るだけに前側に戦闘向きの艦娘を配置している。

 

「全く、皐月の奴め……肝心な時にポカをして……」

 

 長月が不機嫌そうに言った。

 

「全く、終わったら説教ね」

 

 不知火もそれに続き、周りから苦笑が漏れる。

 

「海域も広くないし、そろそろ接触するかな」

 

 先導する長月が言うと水平線の先に人影らしきものがポツポツと見え始めた。

 

「くるぞ……三時の方向」

 

 長月の貌が変わった。

 

「待て」

 

 そのまま先行しようとした長月を谷風が遮った。

 

「ここは谷風さんにまかせてくれ。嫌な予感がする」

 

「勘か」

 

「勘だね」

 

 谷風は大真面目にそう断言するのである。

 戦場において勘、いわゆる本能的な危機察知能力は時に大きな影響をもたらす。

 それを理解しているからこそ、長月も谷風の言葉を無碍にしない。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「分かんない」

 

 グレカーレと清霜はほとんど実戦経験が無いため、あまりよく分かっていない。

 一方、不知火や五月雨などは険しい顔で演習相手のいる方向をしきりに観察している。

 

「分かった。任せる」

 

「ありがとよっと! なぁに、谷風さんは一番この中ですばしっこいんだ。簡単にゃやられないよ」

 

 瞬間、砲撃が始まった。

 

「迎撃!」

 

 長月の掛け声で皆は迎撃の構えを取るが、孤島鎮守府の初弾は戦闘の谷風たちよりも前方に着弾した。

 

「へっ……どこ狙ってん……」

 

 谷風はそう言った直後、顔を強張らせた。

 幾つもの砲弾によって水飛沫が舞い、視界を遮ってしまったのだ。

 

「しまった! これが狙いだ!」

 

 長月が叫んだ瞬間、波間から黒い影が勢いよく飛び出した。

 敵。

 それを理解した谷風は全速全身で距離を取ろうとする。

 だがその人影は恐るべき速度で谷風に肉薄した。

 

「おっそーい!」

 

 島風の声が聞こえた。

 瞬間、轟音と共に谷風の身体が黒煙に包まれる。

 

「た、谷風さーんっ!」

 

 清霜の叫びが響いた時、既に島風は谷風の間合いから離れ始めていた。

 

「に、逃がすか!」

 

 長月が、さらに不知火達が一斉に主砲を放つ。

 だがその砲撃を全て避けきって島風は白波の中へと消えていった。

 

「な、何て奴だ・・・・・・」

 

 絶句する長月の傍ら、グレカーレと五月雨が谷風の元へ駆け寄った。

 動かない。大破脱落である。

 

「き・・・・・・きっと谷風さんはいやな予感がしてたんだ・・・・・・そ、それで皆の代わりに・・・・・・ち・・・・・・ちくしょう・・・・・・テートクになんていえばいいんだ・・・・・・」

 

 肩を震わせながらグレカーレは言った。

 彼女にとって実戦演習含めて他勢力と戦うのは初めてである。グレカーレは実戦の空気を直に感じて、体が震え出す。

 そんな中、ようやく一時的に出来た霧が晴れ始めた。

 

「ふふふ、ようやく夕立の出番っぽい・・・・・・」

 

 その中から紅の瞳が見えたとき、鈴を鳴らすような可愛らしい声が聞こえてきた。

 

「さあ、ステキなパーティーしましょ・・・・・・」

 

 夕立の全身から戦いの空気が充満する。

 張り詰めたような圧迫感が一瞬で、流刑鎮守府の艦隊を包み込んでいく。

 

「そ・・・・・・そんな・・・・・・」

 

「う・・・・・・うわあああ・・・・・・」

 

「こ・・・・・・これほどまでとは・・・・・・」

 

 夕立の気迫に五月雨と清霜が震え、長月ですら固唾を飲み込んだ。

 

「さーて・・・・・・まず何から撃とうかしら?」

 

 獲物を狙うような鋭い視線で、夕立は流刑鎮守府のメンバーを見渡していく。

 

「シグー、本当にあれでいいの?」

 

「ああ。今までのフラストレーションを全部解放させた夕立だ。並の駆逐艦じゃ無理さ」

 

 夕立より遙か後方。戻ってきた島風がその気力を持て余して、周りをグルグル回る中、冷静に時雨は言うのである。

 

「夕立の取りこぼしをボク達は確実に狩っていけばいい。それで勝てる」

 

「動くわ」

 

 曙の呟きで、孤島鎮守府の面々も夕立の所作を注視する。

 

「く・・・・・・くるぞ・・・・・・」

 

 長月が構え、流刑艦隊が陣形を組み直そうとした瞬間だった。

 

 ――ドンっ!

 

 爆音と同時に夕立が一気に加速する。

 主砲を構えながら高速で移動し、その照準を標的に合わせるのである。

 

「よけろっ!」

 

 長月が叫んだ直後、夕立の主砲が暁に被弾した。

 暁の主砲部分に直撃したのか、左手部分がが一瞬で燃え上がる。

 

「きゃぁあああああああああーーーーーーーーーっ!!」

 

「お姉様ーーーーーーーーーっ!!」

 

 清霜の絶叫が響き渡る。そんな中で夕立は大きく弧を描いて旋回しながら、再び主砲を暁へと向けた。

 

「まず一人っぽい!」

 

「くっ……そぉおおおおおっ!」

 

 それでも暁は何とかその場から離れ、夕立を迎え撃とうとする。が。

 

「ぽいぽいぽーいっ!」

 

 さらにその動きを上回り、暁の背後に回ると数発、主砲を放った。

 

「うっ・・・・・・」

 

 背面を撃たれ、暁はそのまま黒煙と共に水面を転がっていく。

 直撃と同時に身体を捻ったのか、大破まではしていないもののもはや虫の息と言った有様であった。

 

「何という威力と速さだ・・・・・・」

 

 戦慄する長月の横をグレカーレが横切った。

 

「姉さんっ!」

 

 主砲を突き出して姉の元へ向かうグレカーレだったが、それを細い腕が制した。

 

「不知火さんっ!? なんで・・・・・・」

 

 直後、グレカーレの目の前に砲弾が飛来した。

 見れば後方に控えている朝潮と雷が放ったものであった。

 

「敵はそうやって動くモノを狙っています・・・・・・夕立にばかり目を向けず周りを見なさい・・・・・・」

 

「で、でも・・・・・・暁姉さんが・・・・・・」

 

 不知火は悔しそうに俯いた。

 

「っ・・・・・・清霜ちゃん!? 清霜ちゃんがいないっ!」

 

 五月雨から悲鳴に近い叫びが木霊する。

 すぐに皆は周囲を確認するが、確かに清霜の姿が見えなかった。

 

「ま、まさか今の攻撃で・・・・・・」

 

 最悪の想像がグレカーレの脳裏を過ぎる。

 その間にも夕立は旋回しつつ、次の標的を品定めしているのだ。

 しかし。

 

「夕立、うしろっ!」

 

 時雨が叫んだ。

 

「ぽい?」

 

 そこで後ろを夕立が振り返った瞬間、小さな影が彼女の背中にくっついた。

 

「清霜っ!」

 

 姿の見えなくなっていた清霜に相違なかった。

 

「ぽいっ! 離すっぽい・・・・・・」

 

 夕立は身体を動かして振り落とそうとするが、清霜はぴったり張り付いて離れようとしなかった。

 

「な、何をする気なの・・・・・・清霜・・・・・・は、早く逃げなさい・・・・・・」

 

 何とか立ち上がった暁が妹分にそう言った時であった。

 

「さようならお姉様・・・・・・どうか死なないで・・・・・・」

 

 絞り出すような清霜の声を聞いた瞬間、暁の顔がサッと青くなった。

 

「ま・・・・・・まさか・・・・・・清霜・・・・・・」

 

 震える姉に向かって、清霜は目尻に少しだけ涙を浮かべながら儚く微笑んだ。 

 

「や、やめてーーーっ! 清霜ーーーーーーーっ!!」

 

 そして――目も眩むような閃光と共に夕立と清霜の身体は包まれ、爆発と共に消えた。

 

「き・・・・・・きよ・・・・・・きよしも・・・・・・」

 

 自爆して果てた妹の姿を暁は呆然と見つめていた。

 

「清霜ーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 そして彼女の脱落を理解し、虚空に向かって叫んだのだ。

 

「自爆して相打ちとはな・・・・・・思い切ったことをしたな清霜・・・・・・だがこれで夕立も・・・・・・」

 

 そこまで言った長月の顔が一瞬で強張った。

 

「あ、あああ・・・・・・」

 

 五月雨の口から絶望的な声が漏れる。その視線の先には・・・・・・

 

「ふーん、何それ? 新しい遊びっぽい? どうやらまだ夕立達の強さが分かっていないっぽい?」

 

 そこには小破すらしていない夕立改二の全身があった。

 

「そ、そんな・・・・・・へ・・・・・・平気だなんて・・・・・・清霜ちゃんは相打ち覚悟だったのに……」

 

 五月雨の言葉は流刑鎮守府全員の気持ちを代弁していた。

 一方。

 

「あーあれは不味いね」

 

 前線で暴れまわる妹を観察しながら時雨は、ボソリと言った。

 

「何が不味いんですか?」

 

 素直な朝潮が尋ねると、時雨は苦笑しながら続けた。

 

「夕立、今ので完全にスイッチが入っちゃったぽいね。あれはもう僕たちでも下手に介入できない。暫く様子を見よう」

 

「乱れた戦列を狙わなくてもいいんですか?」

 

「下手をすると夕立に誤射しちゃう。それ位、今から夕立は暴れちゃうよ」

 

「ひええ……絶対に敵に回したくないですなぁ」

 

 冷や汗交じりに言う漣に、孤島鎮守府のメンバーが全員頷くのであった。

 

「うふふ……ソロモンの悪夢、見せてあげる」

 

 夕立はそういうと再び行動を開始した。

 狙いは一直線に暁。

 手負いのものを襲う、戦術の常套句である。

 

「ば、馬鹿にして……」

 

 暁が憤慨しながらなんとか構えた時、向かってくる夕立の側面から砲撃が行われた。

 

「ぽいっ!?」

 

 長月の主砲、バランスを崩した夕立へさらに不知火が追撃を加えた。

 

「やっぱり頭に血が上って周りが見えてないね。いつもの夕立だったらあれくらい避けれるのに」

 

 時雨の視線の先には二発の砲撃で海面を滑る夕立の姿があった。

 

「今だ、二人とも! 撃てー------っ!」

 

「はいっ!」

 

「Fuocoっ!」

 

 長月の叫びと共に、後方で控えていた五月雨とグレカーレが主砲を放つ。

 タイミングは良い。しかし。

 

「……っぽい!」

 

 夕立は驚くべき動物的勘でそれを回避した。

 

「な、なんて奴だ……」

 

「んんー、もうちょっとやっちゃうっぽい?」

 

 体勢を立て直した夕立がそのまま主砲を長月たちに向けた。

 だがこの僅かな間で、暁は密かに所持していた弾薬を動く右手の主砲に詰めていたのだ。

 

「清霜……仇は討ってあげる……そして暁も逝くわ……貴方だけに寂しい思いはさせないんだから……」

 

 その照準が夕立に向けられる。

 暁は最後の力を振り絞って引き金を引いた。

 

「暁の攻撃……見てなさい!」

 

 命を懸けた、暁最後の砲撃。

 執念の反撃は夕立を襲い、爆炎が一気に舞い上がった。

 

「……ふぅ、びっくりしたっぽい……」

 

 だが煙が晴れて姿を現した夕立は、小破しただけであった。

 

「……む、無念だわ……」

 

 妹の仇も討てず、自身も力尽きた暁はその場に倒れた。

 

 …

 ……

 …………

 

「暁ちゃん、大破。失格です」

 

 鎮守府の波止場に雪風の冷静な声が響いた。

 現在、俺と孤島提督は互いの艦隊の演習を見守っていたのが、流刑鎮守府の戦績は凄惨たるものであった。

 谷風、清霜、暁が大破。

 対して孤島鎮守府はほぼ全員が無傷で、唯一小破している夕立ちが、一人で立ち回っている状況なのである。

 皐月の姿は見えない。

 まだ準備が終わらないのであろうか。

 せめて彼女がくれば……そう思い、俺は拳を握りしめて叫ぶのであった。

 

「皐月ーっ! 早く来てくれーっ!!」




DBファンの皆様、すいません。

どうしてもやりたかったんです。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。