早いモノでもう年末。
クリスマス回前哨戦です。
12月に入った流刑鎮守府。とある昼の事。
この鎮守府最大にして唯一の派閥、暁姉妹……暁・清霜・グレカーレの三人は昼の寝室でお茶会を行っていた。
定期的に行われるこの催しは、三人が集まってお菓子を食べながら駄弁るだけのイベントである。
だが今日のお茶会は、いつもと雰囲気が違っていた。
「今年のクリスマス……暁は……大人のデートをするわ!」
立ち上がって拳握って暁はそう宣言した。
「おーっ!」
元気よく拍手する清霜と神妙な顔のグレカーレ。
彼女らの手元には湯気立つ紅茶の入ったカップと、お菓子の袋がいくつか置いてあった。
「大人のデートって……暁姉さん、本気?」
「勿論よ! 今年こそ、司令官とレディーはロマンチックな聖夜を過ごすの!」
むふーっと鼻息荒い暁であったが、対照的にグレカーレの視線は冷ややかだった。
「でも姉さん。この鎮守府のクリスマスって、ロマンの欠片も無いよ」
グレカーレは昨年のクリスマスを思い浮かべて溜息をつく。
彼女にとってクリスマス、特にイヴはカップルが仲を深め合う大切な日。
この鎮守府だって、数少ない提督と距離を縮めるチャンスだと思っていた。
だがグレカーレが思っていた以上に、この鎮守府の仲間たちは無邪気でお祭り気質だったのだ。
ご馳走にプレゼント交換会。
その後に行われる二次会という名の飲み会は、楽しかったのだがロマンチックなムードなど皆無であった。
「皆、普通にご飯食べてプレゼント交換して……その後、皐月さん谷風さん長月さんは何かすると思ったら、お酒飲んでホームアローン観てただけ……」
遠い目でグレカーレは思い出す。
折角の聖夜に酒盛りをする先輩たちの姿。そしてそれにノリノリで便乗して酒を呷る提督の姿を。
「清霜たちはすぐに寝ちゃったんだよね」
清霜もしょんぼりして言う。
暁と清霜はパーティーが終わった後、五月雨や不知火と一緒に眠りについたのである。
「確かに去年の暁は、まだお子様だったわ……でも、今年は違うわ! 司令官とイブに大人のデートをする作戦だって、ばーっちり立ててるだから!」
だが小さな胸を大きく張って、自信満々に暁は宣言した。
その姿に清霜は尊敬の視線を送るが、グレカーレの視線はより冷ややかになっていく。
念のために言っておくが、グレカーレは暁の事を慕っている。
しかし暁を慕っているからこそ、彼女がまだまだ幼い事をグレカーレは理解しているのだ。
「ちなみに姉さん。その作戦ってのは何なの?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたわね! 特別に教えてあげる! 暁の大人なクリスマスデート大作戦をね!」
ビシっ! と人差し指を立てて暁は語り始めた。
「まず司令官とご飯を食べた後、外で待ち合わせをするの!」
「ふんふん」
「でね、あえて暁は待ち合わせ時間に行かずに、司令官を待たせるの」
「ほうほう」
「そしたら夜更け過ぎに、降っている雨が雪に変わるのよ!」
「……うん?」
「で、きっと暁は来ない……そう考えた司令官の前に暁がドレスを着て現れるの!」
「……えっと」
「そして司令官は暁を抱きしめて……」
その場面を脳裏に思い浮かべたのか、暁はうっとりして言った。
「す、すごい……すごいよお姉様……何て大人なの……」
両目をキラキラさせながら、清霜も姉を称える。
そんな二人をグレカーレは頭を抱えながら見つめていた。
「……とりあえず姉さん」
「ふふふ、何? グレカーレ? 暁の作戦のあまりの完璧さにびっくりしちゃった?」
「ちょっとそこに正座して」
「え!? ど、どうしてよ?」
「そうだよ、グレちゃん。すっごく大人な作戦だよ?」
「いいから二人とも、そこに正座!」
お茶会はグレカーレの説教タイムと化した。
…
……
…………
「確かにあの曲は名曲でテートクもこの時期によく口ずさんでいるけど……カップル的には駄目な歌だからね」
「うう……ぐすん」
「それにこの鎮守府じゃ雪なんて降らないし、そもそも暁姉さんが深夜まで起きてられないでしょ」
「ううう……そうです……」
「もう辞めてグレちゃん……お姉様が限界だよ……」
数分後、グレカーレの正論に滅多打ちにされた暁がは涙目で打ち震えていた。小さな背中を暁が優しく擦っている。
「あとドレスって何? 姉さん、ドレスなんて持ってたの?」
「うん……前にサンタさんから貰ったの」
「見てもいい?」
グレカーレが尋ねると暁はコクンと頷いて、そのまま箪笥の方へと向かった。
そして一番下の棚を開けて奥から大事そうに保管してた箱を取り出してくる。
「じゃーん、これよ!」
もう機嫌が治ったのか、暁は満面の笑みでその中から真っ赤なドレスを取り出した。
「おおー、凄い! お姫様みたい!」
「でしょ! 去年のクリスマスにサンタさんが暁にくれたのよ!」
清霜に絶賛され、むっふーと得意げな暁だったが、グレカーレは難しそうに目を瞑った。
「確かに素敵なドレスだわ……でもね、姉さん。このドレスには致命的な欠点があるの!」
「え……な、何よグレカーレ……」
「それは……今の暁姉さんじゃ着れないことよ!」
ガガーン! とまるで稲妻に打たれたような衝撃が暁を襲った。
「た、確かに暁お姉様はちょっと大きいよね」
清霜も気を遣いながら、そう指摘する。
「どんな可愛い衣装も着こなせなきゃ意味が無いわ。そのドレスじゃ姉さんは、正装どころかだぶだぶのコスプレ……」
「ううう……」
剃刀のように鋭い指摘に、暁は再び涙目となってしまう。
そんな姉の肩をグレカーレは優しく叩いた。
「大丈夫よ姉さん。あたしが姉さんにバッチリなコーディネートをしてあげるから!」
「ほ、ほんと?」
「ええ、姉さんがテートクと最高のクリスマスデート出来るように、あたしがプロデュースするわ!」
力強く宣言するグレカーレに、暁は感激しその手を握った。
「暁はいい妹を持ったわ。ありがとう……」
「すごいよ、グレちゃん! 清霜も手伝うから、一緒に頑張ろうね!」
ガッシリ手を取り合う三人の駆逐艦。
暁三姉妹クリスマス大作戦が今、まさに始まろうとしていた!
「……でも、グレちゃん。どうしてお姉様に、こんな肩入れするの?」
「……あたしがクリスマスデートしようなんて誘ってもテートクはOKしないの。でも暁姉さんなら……そこで駆逐艦の魅力に気が付いてくれれば……」
多少の下心はありつつも、三姉妹は準備を始めていくのであった。
…
……
………
「もうすぐクリスマスですねー」
五月雨が壁にかかっているカレンダーを見て、朗らかに言った。
本日の仕事もあらかた終わり、俺と五月雨はまったりとホットコーヒーを嗜んでいる。
「もうそんな時期か。早いもんだなー」
そう言いながら熱い珈琲を啜った。豆から惹いているだけあって、コクがあって美味い。元の世界ではインスタントと缶コーヒーばかりだったから、余計に美味く感じてしまう。
しかし歳取ったからか、一年が随分と早く感じる。このままじゃあっという間に30かな……
自嘲気味に笑って、俺は珈琲を飲み干した。
「今年も皐月ちゃん達がパーティーを開きますし、皆で楽しみましょうね」
クリスマスパーティー……そういえば去年もやったなぁ。
皆のクリスマスプレゼントで俺のボーナス吹き飛んだっけか……と、当時の事を思い出していると執務室の扉が勢いよく開いた。
「し、しれいかみゅっ!?」
真っ赤な顔をして噛み噛みの台詞を言いながら入ってきたのは、暁であった。
「お姉様頑張って!」
「姉さん、落ち着いて」
後ろには妹分の清霜とグレカーレの姿もあった。
何となく、長女の暁を応援しているようにも見える。
俺はコーヒーカップを机に置くと、彼女の方へと姿勢を正した。
「どうした、暁。俺に何か用事か?」
「し、ししし司令官! イヴのパーティーの後……よ、予定ありゅっ!?」
林檎みたいになった暁は、拳をぎゅっと握りってそんなことを口走った。
呂律が回ってない上に挙動不審であるが、暁が何を言いたいのかは大体察せられる。
どうやらイヴのパーティーの後の事を聞いているようだ。
「うーん、確かイヴの後は皐月たちと飲む予定だな」
去年もその前も皆でパーティーした後は、酒が飲める勢で二次会もとい宴会が恒例行事だった。
「今年は『ビーロボカブタック クリスマス大決戦』を見る予定だぞ」
「か、カブタック・・・・・・」
ごくり、と暁が生唾を飲み込んだ。
「ちょっと姉さん! 何揺らいでるの!」
「でもグレちゃん、クリスマス大決戦はビーファイターが出てくるんだよ?」
「何を言ってるの清霜姉さん・・・・・・」
諭すように言う清霜に、困惑するグレカーレ。当の暁は悩んでいるように見えた。
「まあ、カブタックはすぐ終わるから、その後『燃えろ!! ロボコンVSがんばれ!! ロボコン』も見る」
「ろ、ロボコン・・・・・・」
「落ち着いて暁姉さん! そんなもの見てる場合じゃないでしょ!」
「でもグレちゃん。エンディングは水木一郎さんのお歌が流れるんだよ?」
「さっきから何を言っているの、清霜姉さん・・・・・・」
妹達が後ろで何かわちゃわちゃやっている間、暁はうんうん唸って悩んでいた。
「・・・・・・我慢、我慢、ガマン・・・・・・し、司令官っ! イヴの夜にあ、暁と・・・・・・」
が、拳を再び握りしめると何かを決意したような力強い眼差しで俺を見つめて言った。
「暁と、デートしましょ!!」
大声で言い放った暁。
暫し、執務室は静寂の波に包まれる。
先程まで珈琲を嗜んでいた五月雨は、目玉をまん丸に見開いてフリーズしている。
「・・・・・・俺とかい?」
俺は暁の目を見ながら、出来るだけ穏やかに尋ねた。
すると暁は目をぎゅっと閉じて、頷いた。
「そうか・・・・・・分かった。暁、デートしようか」
「え・・・・・・ほっ、本当!?」
暁は顔をぱぁっと輝かせて言った。
「ああ。約束だ」
俺は小指を立てて、暁の前に差しだした。暁はその小さな指を俺の小指へと絡ませる。そして嬉しそうにうでをぶんぶんと振った。
「約束よ司令官! 約束だからね!」
笑顔で何度も念を押すと、暁はぱっと手を離す。そして妹分達に顔を向けた。
「行くわよ清霜! グレカーレ! 大人のデートには準備が必要よ!」
「あ、待ってお姉様!」
「姉さん、走ったら危ないわ!」
ハイテンションで執務室を出て行く暁を妹たちは追っていく。
何とも慌ただしく、そして嵐のように三人は去って行った。
「・・・・・・提督、ほ、本気ですか?」
クイクイと袖が引っ張られる。振り向くと五月雨が心配そうに見上げてきた。
「どう、どうしたんだ五月雨」
「提督、本気で暁ちゃんとデートするんですか?」
「・・・・・・まぁな」
頭をポリポリ掻きながら俺は答えた。
「あの暁があんなに真面目に誘ってきてくれたんだ。俺もそれに応えないといけないだろう」
何時もの冗談や遊びではなく、真剣な表情だった。
それに対して子供をあやすような態度で返しては駄目だ。真摯に暁が俺を誘ってくれたのだから、俺も彼女に真摯に向き合うべきだと思ったのだ。
「て、提督・・・・・・提督は暁ちゃんのこと・・・・・・」
五月雨は何かゴニョゴニョ言っていたが、やがて大きく息を吐くとグッと拳を握り込んだ。
「頑張って下さい、提督! 五月雨、応援してます!」
「おう、ありがとう。さてと、俺も準備しないとな・・・・・・」
俺は空になったコーヒーカップを五月雨に渡すと、ぐっと腕を伸ばす。
昨年までとは違うクリスマスが始まろうとしていた。
クリスマス編に続きます。
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい