作者はクリスマスから大晦日まで仕事です
12月24日。
世間ではクリスマス・イブであり、宗教心の薄い日本人にとっては年末のお祭りイベントの一つである。家族や恋人と過ごす聖夜。この流刑鎮守府も毎年皆でパーティーを行うのが通例となっている。
「メリークリスマス! かんぱーいっ!」
『かんぱーいっ!!』
9つのグラスがガシャン! と重なった。
流刑鎮守府の食堂はクリスマスツリーやリースなどが飾られ、華やかな雰囲気が彩られている。
テーブルには長月手作りの料理やお菓子、クリスマスケーキが並べられ、ワインやシャンパンなども揃えられていた。
「そら、長月サンタからのプレゼントだ」
「わ、ローストチキンだ!」
「照り焼きに手羽先! 今年は鶏尽くしだね!」
谷風の言う通り、今年のメニューは鶏肉料理ばかりだ。本場では七面鳥を食べるそうだが、ここでは手に入らないので代わりにこうなったらしい。だが清霜の喜びようを見ると、どうやら正解だったようだ。
ちなみに長月はサンタ。谷風はトナカイの衣装を身に纏っている。ゲームでもお馴染みの期間限定グラと同じものだ。
「プレゼントもありますよ〜」
五月雨もクリスマスプレゼントを持ってやってきた。流刑鎮守府恒例のプレゼント交換会だ。
「メぇぇぇ~~リぃぃぃぃぃクリっスマぁぁぁ--スぅ!! ひゃーはっはっはっはぁーっ!!」
「テンション高いね、皐月さん」
「あまり飲みすぎては駄目よ、皐月」
開幕からシャンパンを痛飲し、そのままビールをチャンポンして上機嫌な皐月に、グレカーレと不知火が突っ込んでいた。
華やかで楽しい雰囲気。
俺もその中で、蒸し鶏を肴にシャンパンを嗜んでいた。
「あれ、司令官? ビールかワインじゃないの?」
「ああ、ちょっとな」
去年は一杯でシャンパンを終えて、すぐにビールへと切り替えたからな。皐月が不思議そうに尋ねるのも無理はない。
だがこの後、大事な予定がある。
そのために今日は飲む量をセーブしているのだ。
「ん?」
どこからか視線を感じたので、その方向へ視線を向ける。すると暁が頬を紅くして、サッと顔を反らした。
いつもこういったパーティーではテンション高めな暁であるが、今夜は後のことを考えてか、妙に大人しい。
「聞いたよー、しれーかーん」
すると酔った皐月が俺に絡んできた。缶ビール片手に俺の体に寄りかかって、耳元で彼女は囁いた。
「この後、デートって本当?」
「・・・・・・酒臭いぞ、皐月」
「ああ、それブーメラン~。司令官、いつも酒の匂いしてるよ」
「人をアル中みたいにいうな」
「もう予備軍みたいなもんだろぅ?」
更に別の方向から谷風が絡んでくる。こちらもほろ酔いのようで、シャンパン片手に上機嫌である。
「酷いよね~、ボク達との約束があったのに」
「それはすまないって言っただろう。今度、埋め合わせするよ」
「・・・・・・だったら谷風さんとも、でーとしてくれるのかい?」
「うーん・・・・・・」
今回の暁は本気だったから、俺も本気で応えた。だか今の皐月たちは酔った状態だし・・・・・・でももし皐月たちが暁のように本気で誘ってきたら、俺もそれに向き合わないといけないのか・・・・・・
「こら、二人とも。司令官を困らせるな」
俺が考え込んでいると、長月が二人を掴んで引き離していく。
「ほーら、二人とも。ケーキもあるよ~」
五月雨も更に切り分けたクリスマスケーキを持って現れる。
「ケーキ!」
「おお、怖い怖い。熱い紅茶も怖いねぇ」
酔っぱらい二人は目の前に出された甘味に瞳を輝かせて、ホイホイ付いていった。こういう所は女の子らしい。
「すまないな、二人とも」
「かまわん。それより、しっかりとやれよ」
「そうですよ。暁に悲しい思いをさせたら、不知火も怒りますよ」
後ろから不知火がにゅっと生えてくる。
どうやらこの後の事は、皆に筒抜けになっているらしい。元々、末っ子扱いで皆から可愛がられていた暁だから、皆保護者のように心配しているようだ。
「ていうか、テートクにデートの経験なんてあるの?」
「やれ、不知火」
「はっ」
「え、ちょっと、やめぶべべべべべ!」
失礼なことを言ったグレカーレを、不知火に始末させる。
あるさ・・・・・・コントローラーを握ったデートなら何度も・・・・・・広島の不知火とのアレはどっちかっていうと呑みだしなぁ。
そんなこんなで皆でのクリスマスパーティーは、滞りなく進んでいったのだった。
そして宴もたけなわとなり、皐月たちが酒を持ってテレビのある執務室へと移動し、長月や不知火がパーティーの後片付けをしている中で俺は着替えに物置へと向かう。自室がもう無いのと、よそ行きの服がそこにあるためだ。
デートなんだからお洒落しないと・・・・・・となるが、元の世界から一張羅でやって来た上に、絶海の孤島じゃお洒落もクソもない。
何時も来ている軍服の他には、広島に行くときに使った背広くらいである。それでも毎日着ている海軍服よりはましだろうと、背広を選んだわけだ。
ワイシャツとズボンを身につけ、ネクタイを絞めた所でコンコンとドアを叩く音がした。
「提督、準備はどうですか?」
「五月雨か、どうした」
「えっと・・・・・・気になっちゃいまして」
恥ずかしそうに頬をかきながら、五月雨は答えた。
「もしかして、心配?」
「そ、そんなことはありませんよ! ただ、ちょっと・・・・・・」
口元をゴニョゴニョさせながら、五月雨はぎこちない様子で答えるのである。
「あ・・・・・・ネクタイが曲がってますよ」
「おう、すまない」
五月雨は少しだけ背伸びして、俺のネクタイを直してくれた。
「・・・・・・本当にデートするんですね」
「ああ、約束したからな」
「・・・・・・頑張って下さいね」
五月雨は何だか、寂しそうに言う。
そういえば五月雨はずっと秘書艦として一緒にいたけど、こういうことはしたことがなかったな。
「いつか皆ともデートできたらいいな」
「え、ええ!? そ、そうなんですか?」
「そりゃ、暁だけってのも贔屓になっちゃうしな」
「そ、そうですか・・・・・・そうですよね・・・・・・ふふ」
五月雨は少しだけ笑うと、上着を俺に手渡してくれた。
「暁ちゃん、待ってますよ。入り口です」
「ああ、ありがとう」
俺は上着に袖を通すと、そのまま歩き出したのであった。
待ち合わせは鎮守府の入り口。
同じ所に住んでるのだから待ち合わせとは妙な話だが、暁曰くそうするほうがデートっぽいらしいとのことだ。
俺は背広の襟を整えながら、待ち合わせ場所へと向かった。
「あ……」
待ち人は玄関の所で一人、佇んでいた。
不安そうに俯いていた彼女は近づいてくる俺を発見すると、顔を輝かせてこちらに駆けてくる。
「クリスマス使用のレディーよ! どうかしら!」
暁はそう言ってクルリと一回転してみせた。
「ああ、とっても似合ってるぞ」
「ふふん! そうでしょう!」
余程嬉しかったのか、胸を張る暁であるが口端がにやけていた。
いつも彼女のセンスでは無いから、多分グレカーレあたりのコーディネイトだろうな。
そう思いつつも、俺は暁へと手を伸ばした。
「じゃあそんなレディーを俺にエスコートさせてくれませんか?」
「あ……」
すると暁の顔は一転、真っ赤に茹で上がり、俯きながら右手を差し出してきた。
俺はその小さな手を握った。柔らかい掌が汗でじっとりと濡れている。
緊張しているのかもな。
俺が少しだけぎゅっと力を込めると、暁もぎゅっと握り返してくれるのだった。
…
……
………
さてデートであるが、流刑鎮守府は僻地中の僻地にポツンと佇むような場所だ。
周りにあるのは雄大な自然だけで、デート出来るようなスポットは皆無である。
灯りなどもないため、暗い夜道で迷わぬよう、俺と暁は鎮守府の明かりが届く範囲を二人で歩いていた。
「暑い……」
汗を滝のように流しながら、暁はぽつりと呟いた。
ここ流刑鎮守府は基本的に年中温暖で、今の暁のような冬服では熱が籠ってしまうのである。
「マフラーとコートは取った方がいいんじゃないか?」
「ううん……駄目よ。これは暁の無敵コーデなんだから……」
そう言いつつも、足取りがふらつき始めた暁の身体を俺は両手で支えてやる。
「それでデートが駄目になったら本末転倒だろう。持ってってやるから」
「ん……」
観念したのか暁はマフラーを取って、コートを脱いでいく。
下に着ていたのはいつもの制服で、それでも汗で湿っているようだった。
「ふー、すっきりした」
「それはよかった」
熱が籠った衣服を脱いで少し楽になったのか、暁は元気を取り戻した。
そのままホテホテと二人で歩いて行く。
「綺麗……」
ふと暁が呟いた。
彼女の視線の先を見ると、そこには満点に輝く夜空があった。
「本当だな……」
僻地中の僻地だからこそ、この島では星が大きく見える。
都会では街の灯りなどで見えないが、この鎮守府にはそういったモノが無いからだ。
「……ロマンチックな夜景を二人で歩く……これは……大人のデートね」
「……ああ、そうだな」
それくらいしかやることが無いのであるが、それでも暁は楽しそうだし、俺もそんな彼女を見るのが嬉しい。なのでこのままもう少し歩こう。
鎮守府の周りをぐるりと一周。
小さな建物なので、すぐに終わってしまう。
そんな短い間で俺と暁は星を見ながら色々と話した。
日常のささいなことや、演習や遠征の事。
暁が清霜とグレカーレ相手にいかに姉として慕われているか。
サンタさんに何を願ったか。
レディーとは何をするかとか。
暁は楽しそうに話してくれた。
普段、こういったことを一人相手にじっくりと話すことはあまりなかったので、会話が弾む。
デートと言うようなムードでは無かったが、それでも暁とかけがいのない時間を過ごせたことは間違いなかった。
「うん……」
玄関口近くに戻った時、暁は眠そうに目を擦った。
本来なら寝てる時間が近いので、身体も休むモードに入り始めているようだ。
「眠いか?」
「だ、大丈夫よ! 暁はまだまだ元気よ!」
暁はそういうものの、うとうとし始めていた。こういう所はまだまだ子供だと思ってしまう。
「鎮守府に戻ろうか」
「……まだ大丈夫だもん」
本人はそう言うがもう無理そうである。
足取りは千鳥足でおぼつかない様子だ。
「無理するな、ほら」
俺はしゃがんで背中を暁に差し出した。
「むぅ。暁、子供じゃないもん」
「子供扱いなんてしてないさ、最後までレディーをエスコートするのが大人の男だ」
「なら、いい」
暁はそう呟くと、そのまま俺の背中に乗ってきた。柔らかい感触が背後から伝わり、細い腕が首元に回される。
こうして体重をかけられると、暁に信用してもらっていることがわかってなんだか嬉しい。
俺はゆっくりと立ち上がると、鎮守府のある方向へ歩き出した
「ねえ、司令官。また来年もデートしてくれる?」
後ろから暁が尋ねてきた。
「ああ、勿論」
俺がそう答えると、暁は嬉しそうに体を密着させる。
「えへへ、来年も再来年も。ずっとよ」
「……ああ、そうだな」
来年も再来年も。
暁の言葉に少しだけ胸が苦しくなる。
彼女の気持ちは嬉しい。
このままずっと暁や皆と楽しく過ごしていく。そんな思いは確かにある。
しかしそのことを考える度に脳裏を過ることがあるのだ。
俺は元々、この世界の住人ではない。
理由が分からないが、気がつけば艦娘のいる世界へとやってきていたのだ。そして運良く提督になったに過ぎない男である。
生まれ育った世界へ未練が無いといえば嘘になる。辛いことばかりだったが、それでも20年以上過ごしてきた場所なのだ。両親や、少ないが友人もいる。
もう帰れないのだろうか。
そして帰れるとしたら、この鎮守府の艦娘たちを置いていくことになるのか。
そして、もし帰れないとしたら俺はこの世界で今後どうやって生きていくのか。ずっとこの鎮守府で生活するのか。戦争が終わったらどうなるのか。
いくら目を逸らそうとしても、避けては通れない現実が山積みになっている。
それを理解しているからこそ、俺は心から暁に同意できなかったのだ。
「……ん」
「暁?」
気がつくと、暁は俺の背中で寝息を立てていた。 俺は起こさないよう慎重に彼女を運び、鎮守府へと戻っていく。そのまま艦娘たちの共有寝室に向かうと、扉の前に丁度グレカーレがいた。
「Ciao、テートク。デートはどうだった?」
「見ての通りさ」
後ろの暁へ顎をしゃくると、グレカーレはクスクスと笑った。
「まあ、姉さん張り切ってたもん。疲れたんでしょ」
そう言いながらグレカーレは暁の顔を覗き込んだ。
「でもこの顔は……うふふ、上手くいったみたいね」
「まあな。さ、ベッドに運ぶぞ」
「いいよ、ここであたしに任せて。中で清霜姉さん達も寝てるし」
それもそうかと思い、俺は暁をグレカーレに預けた。
「清霜姉さんも暁姉さんが帰るまで待ってたんだけど、寝落ちしちゃってね」
「そうか……暁は妹たちに慕われているな」
「当たり前じゃない。あたしたちの姉さんよ」
グレカーレはにししと笑う。艦種が違っても三人は強い絆で結ばれているのだろう。
「じゃ、お疲れテートク」
「ああ、お休み」
「……ありがとうね」
ボソリとグレカーレは呟くと、そのまま中へと入っていった。
……出来ることなら彼女たちとずっと一緒にいたい。俺の生きてきた時間の中ではまだ僅かであるが、それを覆すほどの濃密な時間を彼女たちと過ごしてきたのだ。
「そろそろ真面目に考えるべきなのかもな」
これからのこと。
そう俺が思った時であった。
「司令官、お疲れ様! 次はボク達の番だね!」
「もう一杯、やってるよ!」
皐月と谷風がほろ酔いでくっついてきた。
「お前たち、折角のクリスマスなんだからもっとムードってもんをな」
「まあまあ、ボクらにそんな飾り気は必要ないでしょ!」
「提督と谷風さんらの仲だしねぇ!」
こうやって慕ってくれてるのも嬉しいが、そのために先程の悩みもまた色濃く浮かんでくるのである。
「二人共、騒がしいぞ」
すると後ろから現れた長月が、絡んでくる二人を引き剥がしていく。
「デートのこと、色々聞かせてもらうぞ」
小声で長月がそういった。無骨な彼女もなんだかんだできになってるらしい。
「ああ、今いくよ」
皐月と谷風をぶら下げて歩く長月の後をついていく。
皆と一緒にいるために、ちゃんと今後を考えよう。
俺はそう思いながらも、小さな背中を追いかけていくのであった。
本年も『流刑鎮守府異常なし』を愛読いただきありがとうございました。
皆さま、よいお年を。
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい