流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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2023年3月22日に、『帰ってきたウルトラマン』で主役・郷秀樹を演じた団時朗さんがお亡くなりになりました。

私にとっては永遠のヒーロー。一番好きなウルトラマンでした。

心からご冥福をお祈りいたします。

役者さん本人と役自体を一緒にすることは憚られますが、それでも私にとって団さんは郷さんで、大好きな主人公でした。

光の国へと帰っていった郷さん。どうかゆっくりお休みください。

さようなら郷さん。そして、ありがとう団時朗さん。


帰ってきたウルトラマン

「うわぁあああんっ!! ウルトラマンが……ウルトラマンが負けちゃったよぉっ!」

 

「チクショウ……許せねえ……許せねえぞ、ナックル星人!」

 

「…………ねえ、五月雨さん。あそこの人達は一体何してるの?」

 

「えっと……皆で『帰ってきたウルトラマン』を見てるみたいだよ」

 

 グレカーレの問いに、五月雨は困ったような笑みを浮かべてそう答えた。彼女達の視線の先には、テレビの前で拳握って叫ぶ人影が三つ。

 一人目は清霜。二人目は谷風。そして――

 

「郷さん……うっ……」

 

 ――三人目は提督、つまり俺だった。

 現在、俺たちは執務室のテレビで名作『帰ってきたウルトラマン』を視聴していた。

 ちなみに今見ている回は第37話『ウルトラマン夕陽に死す』……ネタバレになるため多くは語らないが、主役であるウルトラマンが敗れるショッキングな回だ。

 

「いや、そうじゃなくて……清霜姉さんは分かるけど、谷風さんはもう結構大人だし。提督に至っては30手前のおじさんだよ? それがなんで子供向け番組をあんな熱心に見てるのさ」

 

「うっ……」

 

 胸にグサリと痛みが走る。確かにグレカーレの言うコトは正しい。

 本来、ウルトラマンなどの特撮作品のメインターゲットは子供……それをもう三十路になろうとする人間が本気で見るのは確かに変な話だ。しかし。

 

「でもなグレカーレ。子供の頃のヒーローは、いつまで経ってもヒーローなんだ」

 

「分かる……分かるよ……」

 

 俺が振り返ってグレカーレにそう言うと、谷風が肩をポンと叩いて同調した。

 

「大人になると辛い事なんてのは幾らでもある。そんな時は、こうやって少年時代のヒーローを見るのさ」

 

「あの……それ……現実逃避……」

 

「しれーかん! 谷風さん!」

 

 戦慄するグレカーレを尻目に、清霜が勢いよく叫んだ。

 

「ウルトラマンとセブンが!」

 

「なにぃっ!? ソイツは見逃せねぇ!」

 

「ハヤタとダンか! それは熱いぜ!」

 

 続く38話の名シーンに清霜が声をあげ、俺と谷風が勢いよく画面に戻っていく。

 その様子をグレカーレは呆れたような視線で見つめていた。

 

 …

 ……

 ………

 

 その夜。

 グレカーレは尿意を催し、むくりと起き上がった。

 胡乱な目を擦りながら横を向くとスヤスヤ眠っている清霜の姿。

 周りを見れば三段ベットに眠る先輩達……その中で一つだけ空いているベッドがあった。

 

「谷風さん……まだウルトラマンみてるんんだ……」

 

 酒を飲みながら全話視聴すると息巻いていた提督と谷風の顔を思いだし、グレカーレは溜息をついた。

 尊敬する二人であるが、あのマニア趣味だけは理解出来ない。

 そんなことを考えながら、グレカーレが廊下へと出て用を足した後だった。

 奥の方から漏れる光が見える。執務室の方だ。恐らくあの二人がいるのだろう。

 

「…………」

 

 怖い物見たさでグレカーレはゆっくりとその方へと近づいていく。

 

「うわ……」

 

 そして中を覗き見て絶句した。

 散乱した空の缶ビールとおつまみ。メニュー画面で止まっているテレビ画面。そして死んだように倒れている提督と谷風。

 二人とも床に突っ伏して豪快にイビキをかいている。正に死屍累々といった感じだ。

 

「こんなになるまで飲むかな……普通」

 

 呆れ顔でグレカーレは言うと、散らかった部屋を見渡し、ふとあるモノを見つけた。

 

「へえ、こんなモノまで持ってるのか……」

 

 そう言ってグレカーレが手に取ったモノ。それはウルトラマンのお面であった。

 

「ホント、子供がそのまま大人になったというか……」

 

  ため息混じりのグレカーレだったが、ふと戯れにそのお面を着けてみる。

 

「ジュワッ……なんちゃって」

 

 恥ずかしげにそう言った直後であった。

 

「ん……」

 

 提督が目を覚ました。しかも運悪くウルトラマンのお面を被ったグレカーレと、バッチリ視線が合ってしまう。

 やらかした。グレカーレがそう思い、恥ずかしさから耳まで真っ赤になってしまった時であった。

 

「……う、ウルトラマン?」

 

「へ?」

 

 提督は朧気だった両目を大きく開け、即座に起き上がった。

 

「ウルトラマン……郷さんが何でこんなところに……」

 

 うわぁ、マジかぁ――それがグレカーレの率直な気持ちであった。

 いくら泥酔しているからとはいえ、目の前のお面被った駆逐艦を本物のウルトラマンだと勘違いしたのである。

 あまりの出来事に苦笑したグレカーレであったが、目の前で瞳を輝かせる提督を見ていると、ムクムクと悪戯心が湧き上がってきた。

 

「ゴホン……やぁ、テートクくん。そうだ。私がウルトラマンだ(裏声)」

 

「っ……やっぱり……本物……本物のウルトラマンだ……」

 

 感極まった様子な提督に、内心爆勝しながらグレカーレは続けていく。

 

「キミが頑張っているようだから、ココにやって来たよ」

 

「そんな……俺なんかのために……あ、あの、握手して貰ってもいいですか?」

 

「ぷっ……あ、いいよ、構わないよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 提督は飛び上がって喜ぶと、グレカーレが差しだした両手を思いっきり握りしめた。

 手に汗がじんわりと滲んでいる。本当に嬉しそうだ。

 

(ていうか今握っている手を見て、分からないのかな……)

 

 グレカーレのウルトラマン部分はお面のみ。両手はしっかりと褐色色の細腕が、ありありと見えている。だがアルコールで脳が完全に麻痺しているのか、提督は少年の如くはしゃいでいるのだ。

 

(……今なら何してもいけるかも)

 

 仮面の下でグレカーレが悪い笑みを浮かべ始めた。

 

「ところでテートクくん! 空の上から見ていたが、キミは部下の扱いが悪いな」

 

「えっ……ソ、そんなことはないと思いますが……」

 

「いや、キミは自分の部下達が女の子という事を忘れてはいないかい?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「彼女達は常にキミから女の子として扱われたいと思っている。妹や娘じゃなくて、異性として接してあげなさい!」

 

「は、はい……郷さんが言うなら……」

 

「それと女の子がアピールしてきたら、ちゃんとそれに答えてあげなさい! いいね、ウルトラマンとの約束だ」

 

「わ、わかりました……」

 

 驚くほど素直に頷く提督の姿に、グレカーレは何度も吹き出しそうになるが、頑張って堪えながら話し続けた。

 

(うぷぷ、もう限界……これ以上やると爆勝しちゃうよ)

 

 そう感じたグレカーレは話を切り上げて退散することにした。

 

「ではそろろそろ3分経過するから私は帰るよ。今言ったこと、ちゃーんと実行するんだよ」

 

「は、はい! 分かりました……あの、それで……最後に一つ頼んで良いですか?」

 

「ん、何だい? 何でも言ってごらん」

 

 グレカーレは調子に乗っていた。今の状態の提督なら大体騙し通せると。

 

「最後に……俺……いや、僕と『ウルトラ5つの誓い』を一緒にして欲しいんです!」

 

「う……ウルトラ?」

 

 だがファンですらないグレカーレには分からない話を振られ、完全に固まってしまう。

 

「僕、最終回の郷さんと次郎くんの約束、大好きなんです……俺もあの誓いを守って……ほとんど守れませんでしたけど……郷さんが言ってくれるなら……」

 

「え、えーと」

 

 困り果てたグレカーレ。その空気は瞬時に伝わったのだろう。

 

「郷さん、どうしたの?」

 

「う、うーん。そ、そうだ、私はキミの口から聞きたい――」

 

「ん? あれ、郷さん。そういえばウルトラブレスレットが無いような……」

 

 不味い。バレる。

 そう感じ取ったグレカーレはそのままこの場を逃れようと背を向けた。

 

「も、もう時間だ! 行かなくては! さらば!」

 

 踵を返し一気に退散しようとした時であった。

 

「……待て」

 

 ガッシリと提督がグレカーレの腕を掴んだ。

 

「……ウルトラ5つの誓いを言えない上に、ブレスレットが無い……偽物だな?」

 

「な、なんのこと……」

 

「ザラブ星人か!? それともサロメ星人のロボットか!? 正体を現せ!」

 

 提督はそのままグレカーレをチョークスリーパーを固めると、ファンじゃ無いと分からない固有名詞をあげながらニセウルトラマンを絞め始めた。

 

「ちょ……やめ……しぬ……」

 

「正体を現せ! ニセウルトラマンめ!」

 

 手加減一切無しの絞め技である。グレカーレの意識が徐々に薄れ始め、本当に光の国へ帰ってしまいそうになる直後であった。

 

「夜中に何騒いでるんですか」

 

「ぐぼっ……」

 

 突然現れた不知火が、提督の首筋にチョップを放ったのだ。

 そのまま提督は崩れ落ち、その隙にグレカーレは技から脱出する。

 

「ごほっ……ごはっ……あ、ありがとう、不知火さん……」

 

「全く……深夜まで起きている谷風を注意しにきたら何をしているのよ……」

 

 呆れたように不知火は言うと、床で転がっている妹艦と上官に視線を落とす。

 

「明日お説教ね」

 

 それだけ言うと不知火は爆睡する谷風を抱えあげた。

 

「ベッドに入れてくるわ。グレカーレは司令に何かかけてあげなさい」

 

「あ……はい」

 

 手際よく場を処理して去って行こうとする不知火の背中を見ながら、グレカーレは喉を押えて立ち上がった。

 そして近くにあった毛布を提督の腹の上にかけると、そのまま無言で退室した。

 暫くして、執務室からは提督のイビキが聞こえてきた。

 

 …

 ……

 ………

 

「うう、頭痛ぇ……」

 

「二日酔いだぜ、チクショウ……」

 

 朝。俺と谷風は食堂で頭を押えて苦しんでいた。

 

「大丈夫? お水飲む?」

 

「ありがとう、清霜……」

 

 昨日徹夜で酒を飲みながら帰ってきたウルトラマンを見ていた俺と谷風だったが、途中で酔い潰れてしまったのだ。

 

「無茶苦茶な飲み方をするからだ。いい加減、二人とも年齢を考えろ」

 

 呆れた顔で長月が朝食を並べていく。皆にはほかほかの白米だが、俺と谷風には食べやすいお茶漬けを用意してくれる優しさが染みる。

 

「……テートク」

 

「ん、なんだグレカーレ」

 

「気になることがあって……『ウルトラ5つの誓い』って分かる?」

 

「ん、ああ分かるけど。どうした急に」

 

 何だかぐったりしたグレカーレガ変な質問をしてきた。

 

「グレちゃん! ウルトラ5つの誓いを知らないの? なら清霜が教えてあげるね!」

 

 すると清霜が妹分の前でぱっと顔を輝かせて現れた。

 

「ウルトラ5つの誓い! 

 

 ――1つ! 腹ぺこのまま学校に行かぬこと!

 ――1つ! 天気の良い日に布団を干すこと!

 ――1つ! 道を歩くときは車に気をつけること!

 ――1つ! 他人の力を頼りにしないこと!

 ――1つ! 土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!

 

 これがウルトラ5つの誓いだよっ!」

 

 胸を張って5つの誓いを言い切った清霜。それを聞いたグレカーレはげっそりした顔で「うん……凄い教育的」とだけ答えた。

 

「……聞こえるかい、郷さん」

 

 俺は顔を上に向けてそう呟いた。

 永遠のヒーロー、帰ってきたウルトラマン=郷秀樹に思いを馳せて。

 

「おい、何をしている。早く食べろ」

 

『はーい』

 

 長月の言葉に皆で食卓に着いていく。

 これからも頑張っていこう。そう思いながら俺は箸を持って朝食を口にするのであった。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい

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