お待たせして申し訳ありません。
今回を持ちまして著作『流刑鎮守府異常なし』は五十話を迎えることが出来ました。
これも日頃から愛読していて頂いている読者様のおかげです。
これからも遅筆ですが、どうかよろしくおねがいします。
「お疲れさまー! 乾杯ーっ!!」
『乾杯ーっ!!』
ガシャンと9つのグラスが重なった。
場所は流刑鎮守府の食堂。そこでささやかな宴会が開かれている。
「よーっし! すき焼きすき焼き! 」
「うへへ、たまんないねぇ」
皐月と谷風が舌舐めずりしながら、箸を伸ばす先にはグツグツと煮える鉄鍋が一つ。その中にあるのは日本人のご馳走、すき焼き。絶海の孤島にある流刑鎮守府では貴重な牛肉や、白菜・春菊・椎茸といった野菜類。さらには豆腐やシラタキなどいった王道の具材が揃っている。
「こんなご馳走初めてですね!」
「ええ、不知火も久しぶりよ」
五月雨と不知火も滅多に食べられないすき焼きに、随分と上機嫌のようだ。
「これがジャパニーズ・スキヤキ……上を向いて歩こう……」
「グレちゃん、こうやって溶き卵で食べるんだって!」
「二人共、お肉ばっかりじゃ駄目よ。レディなら、ヘルシーに白滝も食べなきゃ」
すき焼き初体験であるグレカーレと清霜に、いっちょ前にお姉さんぶる暁に微笑ましさを感じながらも、俺はジョッキに並々注がれたビールを一気に呷った。
キレのある苦味と喉越しが体に染み渡っていき、細胞の一つ一つが活性化していくのを感じるのだ。
「かーっ! 堪らねぇな!」
「おう、いい飲みっぷりだね提督! こりゃ谷風さんも負けてられねぇ!」
そう言って、谷風も一気にビールを飲み干していく。それを見た俺はチラリと不知火の方を見る。いつもは飲み過ぎと注意する彼女だが、今日は『まあ、許してあげましょう』といった感じでスルーしていた。俺は安心して五月雨におかわりを頼み、二杯目をイッキする。今日はめでたい日なのだ。これくらい無礼講だろう。
「しかし、まさかこの小説が50話までいくとわねぇ」
谷風がメタメタなことを言ったが、今回は許そう。何せ、今やっている飲み会は『流刑鎮守府異常なし』50話記念の飲み会なのだ。
「全くだ。これもひとえに読んで下さる読者の方々のおかげだ」
「何だかんだで、作者の連載最長ですね」
「ああ。シリアスで行き詰まって始めた作品だが、いつの間にか最長になってしまった」
「おいやめろ」
不知火と長月がぶっちゃけ始めたので、一応釘を刺すが今日はもう何でもありな気がしてきた。
俺もすぐに三杯目のビールを喉に流し込み、大きく息を吐く。
「だけど、何だかんだで清霜とグレカーレが増えたくらいで、あんまり変化の無い鎮守府だよなぁ」
俺がそう言うと、皆もウンウンと頷いた。
「元々場末の鎮守府だしさ、仕方ないよ」
「そもそも最初は指揮官すらいなかったからな」
「よくそれでやっていけたな」
俺は当たり前であるが、指揮官がいない流刑鎮守府の事を知らない。今では俺が最高指揮官として采配をしているが、昔は艦娘だけでどうにかしていたのだろうか。
「まあ、ぶっちゃけ遠征と演習しかやることないから、指揮官いなくても何とかなるんだよね」
「戦闘なんて滅多にないしな」
「谷風さん達だけで、どうにでもなったからねぇ」
皐月と長月がしみじみと言い、谷風もうんうんと頷いた。
「ちょ、ちょっと待てお前ら。俺の存在意義は?」
五十鈴さん曰く、皆この鎮守府に提督が着任するのを心待ちにしていたのでないのか!?
「まあ、お飾りは必要だよね」
「責任を取る立場の人間がいないとな」
「お上からの防波堤として必要さ、もしもの時は腹を切って貰うぜ」
「むしろ司令が来てから酒代は増えるし、遊んでばかりだし、負担が増えたわね」
皐月たちに好き放題言われた挙げ句、不知火からバッサリと切り捨てられる。
部下の少女達に散々酷評され、俺のガラスハートは限界寸前だった。
「わ、私は提督が来てくれて嬉しかったですよ……」
「さみだれぇえええええええええっ!!」
気を使うようにそう言った五月雨の胸に俺は飛び込んだ。
「司令官、大丈夫? お肉食べる?」
「清霜は司令官の事、大好きだよ! 元気出して」
「うう……ありがとう。皆」
暁と清霜も励ましてくれる。心折れそうだったが、何とかギリギリで俺は正気を保っていた。
「テートクも小さい子に庇って貰っちゃおしまいだね」
「ちょ、グレカーレ! 言葉を選びなさい!」
「グレちゃん! 本当の事は言っちゃ駄目!」
辛辣なグレカーレに姉たちの怒声が飛ぶ。でも実際そうだよな。俺を擁護してくれるのはちびっ子と優しい五月雨だけだもの……
「くそう……本当なら戦艦や空母に囲まれて、きゃっきゃうふふな鎮守府生活が始まるはずだったのに……どうして貧乳駆逐艦まみれの鎮守府なんかぐふっ!?」
「すいません、提督。五月雨、ドジしちゃいました」
「司令官の馬鹿!」
「サイテー!」
五月雨から投げ捨てられ、暁や清霜も俺の脇腹に蹴りを入れていく。艦これ史上、これほど情けない指揮官が他にいただろうか……
「というかさ、テートク。もう諦めた方がいいんじゃない? こんな僻地に戦艦や空母なんて来ないでしょ」
「うううう……そんな……折角、提督になったのに……」
グレカーレの非常な正論に、俺は地面に突っ伏して男泣きに泣いた。
だって折角、艦これの世界に来たんだからさ。赤城とか金剛とかメジャーなキャラと会いたいじゃない。
でもこの世界に来てからまともに会えた巨乳艦娘って五十鈴さんだけなんだもん……
「実際さ、何で司令官はそんなにおっぱい好きなの?」
そんな時、皐月にそう尋ねられ俺は真剣な顔で返答する。
「あそこには、夢と希望が詰まっているんだよ。男にとって、おっぱいは、無限のフロンティアなんだ……」
「ちっ!」
「はぁ……」
「かぁー、ぺっ!」
皐月は舌打ちし、長月は溜息をつき、谷風に至っては唾を吐いていた。
他の娘たちも白い目で見てくるし、不知火は何故か指をポキポキならしている。一体、何をするつもりなのだろうか。
「第一さ! 司令官はボク達の事を色々言うけど、ボク達だって言いたい事あるからね!」
皐月がそう言うと、周りもそうだそうだと同調した。
「な、ど、どういうことだよ皐月……」
「もっと格好いい司令官が良かったよ!」
皐月がそう叫ぶと、更に他の娘達もどんどん口を開き始めた。
「ちょっとだらしなさ過ぎるな。司令官は……」
「もうちっとしっかりして欲しいよな」
「提督としての資質はかなり低い部類ですからね」
「ダンディな大人の人が良かったわ!」
「もういいだろ。俺が一体何をしたって言うんだ」
数々の言葉のナイフが俺の胸を抉り、俺は失意のままグラスをテーブルに置いた。
「逆にテートクはさ。あたし達の事、どー思ってるの? 割と可愛いと思うんだけど」
そんな時、グレカーレが後ろからワイン片手に絡みついてきた。
少女特有の柔らかい感触と甘酸っぱい香りが鼻孔を突いて、ちょっとドキドキする。
「……まあ、可愛いとは思うさ。でも俺がお前達をそういう目で見るわけにはいかんだろ」
ただでさえ上司部下の関係の上に、年齢差もある。
彼女らを異性として見るわけにはいかんだろう。
「でも今日は折角の50回記念だよ? たまには忖度無しのぶっちゃけた話聞きたいじゃん」
「ぶっちゃけかぁ……」
皐月に言われて俺は暫し、考える。
そしてとりあえずビールを一気に呷った。
「ふー……」
「お酒の力に頼るのは良くないぞ」
「偶にはいいじゃえか、ほら提督。日本酒もあるぜ」
「そうそう、ワインも!」
谷風とグレカーレが両脇から酒を出してくる。チャンポンになってしまうが、この際仕方ないだろう。
「ほら、司令官の好きなたこわさだ。日本酒に合うぞ」
「赤ワインにはチーズだよね! はい、司令官あーん!」
長月と皐月も酒に合う肴で絶妙なアシストを加えてくる。酔いが回るには、そう時間がかからないだろう。
「ちょっと皆、あまり司令に飲ませるのは……」
不知火が止めようとするが、その手を暁と清霜が防いだ。
「不知火、今日の所はお願い」
「清霜からもお願いします」
「む、むう……」
不知火はなにか言いたそうな表情を浮かべるも、諦めたようにため息をついた。
その隙に俺は二杯目、三杯目と空けていく。
チャンポンしているからか、酔いがたちまち回りだし自然と全身が弛緩し始める。
脳内に酩酊時特有の多福感が湧き出し、呂律も次第に乱れ始めていた。
「ふふふ、いい感じに準備運動が出来て来たぜ」
自分でもテンションが上がっていくのが分かる。俺はその事を踏まえた上で、さらに杯を重ねていく。
「だ、大丈夫ですか提督?」
五月雨が水を持ってきてくれて、優しく聞いてきてくれる。その優しさが妙に体へ染みる。
そう言えば俺が皆のことをどう思ってるか、知りたいって言っていたな。今なら酒の力で恥ずかしさも薄らいでいる。
「ああ、いつもありがとう五月雨。俺は、君に助けられてばかりだ」
俺はそう言って彼女の頭をポンポンと叩いた。
「へ……」
五月雨は驚いたような声をあげると、顔を真っ赤に染める。
「こんな感じでいいかな?」
俺も少し恥ずかく感じてしまい、思わず頬をポリポリ掻いた。
「あ、あうう……」
五月雨はそのまま林檎のようになって、ゆっくりと下がっていく。
恥ずかしがりやな所もあるし、悪かったかな……
「し、司令官! もっと呑んで!」
「ほれほれ、ぐいっと!」
すると皐月と谷風が両脇からお代わりを勢いよく注いでくる。
皐月はビール、谷風は日本酒だ。
俺はそれを交互に飲み干す。すると体がぶるるっと震え、全身が火照っていく。
「ねね、ボクのビール美味しい? 今日は特別にまだまだお代りあるよ?」
「おお、すまんな。よしよし」
「えへへへへ」
自然と皐月の頭を撫でていた。やはりこの鎮守府にいる艦娘は駆逐艦の中でも幼い方だから、無意識に子供のように思ってしまうのかもしれない。
「ね、ボクかわいいでしょ?」
「ああ、かわいいぞ。皐月の笑顔を見ていると、元気が出てくる」
「う……」
皐月の頬が朱が混じる。酌をする動きも止まってしまった。
「俺にとって皐月は太陽みたいな子だよ。一緒にいて色々大変な時もあるけど、楽しい時も多いさ」
酔っているからか素直な気持ちが言葉に表れる。
ただ俺も少し恥ずかしい気持ちが残っているのか、顔が熱い。皐月も同じ気持ちなのか、顔を赤らめたまま俯いてしまった。
「ちょ……急にストレートは反則だよ……」
小声で彼女は何か呟いたが、俺の耳には届かなかった。
「て、提督……谷風さんは……」
すると谷風が酒瓶片手にクイクイと袖を引いてきた。
期待半分不安半分といった表情だ。
「谷風かぁ……うん、谷風はからっとしていて気兼ねなく付き合えるし、趣味も合うから、一緒にいると楽しいな」
「お、おう。そりゃ良かったよ。へへへ……」
「それに昔は第十七駆逐隊の中じゃあ、一番印象が薄かったけど……」
「な、なんでい……結局、胸の話かい……」
「いや、今では第十七駆逐隊の中で一番好きだぞ」
「あぅ……」
ポン、と谷風の顔が真っ赤になった。
俺も照れくさいが、本当なんだからしょうがない。
勿論、おっぱいスキーな俺にとって浜風や浦風は大変魅力的な艦娘だ。けど直に触れ合って、一緒の屋根の下で暮らしてきた谷風が、いつの間にか俺の中で大きな存在になっていたのだ。
「好き、か……すき……へへへ」
谷風は頭をポリポリかきながら、照れくさそうに笑った。
リアクションが他の娘に比べて、ちょっと古いのも俺には合っている。
「ほ、本当に素直に言っているな」
「め、珍しいですね」
長月と不知火が驚いたように、俺の方を伺っている。
「し、しれーかん! レディー……あ、暁のことはどう思ってるの?」
すると暁が緊張した面持ちで、俺の前までトテトテやって来た。
「清霜も! 清霜も気になるよ!」
さらに清霜も遅れて続いた。
「おー、暁に清霜か。俺にとっては可愛い妹分だよ」
「……いもーと……いもうと……」
「妹……司令官のいもうと……えへへ」
清霜は嬉しそうに微笑んだが、暁は納得していないような複雑な表情を浮かべてきた。まあ、普段から大人のレディーになりたいと背伸びをしている子だ。妹扱いは不服なのかもしれない。でも暁は幼いから、どうしても妹や娘のように見てしまうんだよなぁ。
「まあ、二人共俺の家族みたいな子だ。これからも一緒にいような」
そう言って頭を撫でてやると、暁は少しだけ笑った。
「そっか、ずっと一緒なんだ……」
暁のそんな呟きが聞こえてきた。
「司令官。私のことも忘れてもらっては困るぞ」
俺がチビっ子二人の相手をしていると、長月が瓶ビールを持って現れた。
長月か……彼女は流刑鎮守府の食卓を一切切り盛りしてもらっているから、感謝してもしきれない。俺は受け取ったグラスに注がれたビールを一気に飲み干すと、彼女の目を見て言葉を紡いだ。
「長月にはいつも頼りになってるよ。ありがとう」
「そ、そうか。て、照れるな」
「いや、毎日皆のために3食ちゃんとした献立を考えてくれるんだ。長月がいないと流刑鎮守府は崩壊する」
「お、大袈裟じゃないか? そ、それに私は司令官が長月の料理をどう思っているか、気になるんだが……」
珍しく長月が恥ずかしそうに尋ねてくる。普段の凛々しい彼女とのギャップが凄まじいが、俺は極めて真面目に答えた。
「長月の料理は美味しいよ。俺は大好きだ」
「そ、そうか……」
「確かに長月さんのご飯美味しいよね! いつもありがとう!」
「全くだ、感謝しかないねぇ」
清霜と谷風もうんうんと頷いている。皆、毎日長月の手料理を食べているんだから、きっと同じ思いだろう。
「ふふ、報われた気分だ」
長月は満足そうに頷いて、席へと戻っていった。さてと、あと残っているのは……
「ほらほら、不知火さん! テートクに本音を聞き出すチャンスだよ! ぐいぐいいかなきゃ!」
「や、やめなさい、グレカーレ! 不知火は別に……」
グレカーレに背中を押されてやって来た不知火だ。彼女はこういう話題に関しては、結構恥ずかしがり屋だからなぁ。でもこんな機会あんまり無いし。
「し、司令。し、不知火は別にいいですよ。何もありませんし……」
それこそ先程の五月雨並みに顔が赤い不知火だが、どこか気になっているような素振りも見えた。ならば俺がやるべきことはただ一つだ。
「まあ、不知火にはこの中で一番殴られたな。厳しいし真面目だし、とっつきにくいし……」
「う、うう……」
「でもそんな不知火だから信頼出来るんだよな」
「えっ……」
俺の言葉に不知火は顔を上げた。
「これからも頼むぞ、不知火」
激励のために俺は不知火の肩をポンと叩いた。
いろいろ怖い時もある彼女だが、この鎮守府には無くてはならない人材だ。
「ふぅ、結構恥ずかしかったな。普段はここまで言わないし」
とりあえず一段落ついたので、俺はさらにビールを飲む。体も暑いし、ここは冷やすために冷たい酒を飲もう。
「というわけで、すき焼きパーティー再開だ!
呑んで食べて騒ぐぞ!」
『おーっ!!』
俺の掛け声に皆が同調し、拳を上げた。出来ればこんな楽しい時間がずっと続けばいいな――
…
……
………
「寝ちゃったね」
「ああ、大分チャンポンしたからな」
「だらしない顔ね。でもレディー的にはOKよ」
「……あのさ、皆さん。よく考えたらテートクに肝心な事聞かないで終わっちゃったけど……」
「え、何かあるっけグレちゃん?」
「テートクがあたし達のこと異性として見てるかってコト! なんか妹とか家族とか、明らかにそういう目で見てなさそうだけど」
「いいじゃねえかい、今はそれでもよ。谷風さんたちも、提督が来てから楽しいし」
「そうそう! それにボク達はこれからもずっと一緒なんだから、チャンスはまだまだあるよ!」
「ふふふ、そうですね。五月雨達は提督とこれからも一緒です」
「不知火達がいないと、この人は危なっかしいですからね」
「ああ、ドジで間抜けで大酒飲みのスケベだが……私達の大事な司令官だ」
長月がそう言って杯を突き出すと、残りの艦娘達も同じようになった前へと杯を突き出した。
「流刑鎮守府の提督に」
気持ちよさそうに眠る提督の頭上で、8つの杯が一つに重なる。
どうやら彼の望みは叶いそうだ。
次回はまたギャグに戻ります
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい