流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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清霜改二の時に書き始めましたが、すっかり遅くなってしまいました。


清霜ちゃん大ショック

『清霜、改二実装おめでとーっ!!』

 

 8つの声が重なると共に、ガチャン! とグラスがふつかった。

 鎮守府の食堂、そこに流刑鎮守府の艦娘全員が集まっている。

 その中心、所謂お誕生日席に座っている少女がその声に対して、満面の笑みで返した。

 

「ありがとーっ!!」

 

 彼女こそ本日の主役、夕雲型19番艦駆逐艦・清霜である。

 テーブルにはオムライスやビフテキといった清霜の好物が並び、真ん中には長月の手作りケーキが鎮座していた。

 本当に清霜の誕生日のような状況だったが、実際は冒頭の通り彼女の改二実装祝いである。

 事の始まりは夏の終わり。

 流刑鎮守府のPCに本部から一通のメールが届いたのだ。

 軽い気持ちで開いてみると、そこには『清霜改二実装』という文字が書かれた書類一式がデータで送られてきたのであった。

 改二……艦娘が一定のレベルに達した時、改造して生まれる強化形態である。

 俺が前の世界でやっていたゲームではそんな感じであったが、艦娘が現実に存在するこの世界では改造というより強化フォームへと変身といった感じである。

 詳しい理屈は妖精さん関係なのでよく分からないが、用意された書類と必要な資材を合わせることで改二へとパワーアップできるというのだ。

 必要な物さえあれば……

 

「いやぁ、めでたいねぇ。清霜も遂に改二実装とは!」

 

「ホントだよ! ボク達と同じ改二待ち組へようこそ! 歓迎するよ!」

 

「いつか暁とお揃いで、改二になりましょうね!」

 

 清霜に祝辞を送る谷風たちだが、その言葉にはどこか棘がある。主に俺への。

 

「すまないな、清霜……勲章が足りないんだ……」

 

 本部から届いたのはあくまで『改二実装のお知らせ』のみ。実際に改装する時に必要な改装設計図も戦闘詳報などは用意されていないのである。

 それらの必要書類は勲章と交換する事となっており、艦娘達のモチベーション向上のためにそういう形態にしているらしい。

 ゲームの時も確かにそうだったけど、こっちでも同じ仕様にしなくてもいいじゃないか……

 

「仕方ないだろ。こんな場末では勲章など貰える機会は無い。どうしても改二になりたいのなら、もっと前線に近い鎮守府に行くんだな」

 

「ええっ! やだよ! 清霜はずっと皆と一緒だもん!」

 

「うんうん、清霜はいい子だなぁ」

 

 天真爛漫な清霜の言葉に俺は感動し、その小さな頭を撫でた。

 サラサラな髪と柔らかい感触が気持ちいい。清霜も満足そうに目を細めていた。

 

「そもそも、貴方達は設計図も戦闘詳報もいらないでしょう。単に練度が足りないのよ」

 

「ちょっと、不知火! 酷くない!?」

 

「そうでぃ! 第一、不知火だって改二になれる練度じゃ、ぐべっ!?」

 

「失礼よ谷風」

 

 不知火の無慈悲な眉間チョップに、谷風は激しく悶絶した。

 確かに不知火の言う通り、皐月と谷風は改装設計図のような面倒くさいモノが無くても改二になれるのだ。

 ただ単に、この流刑鎮守府が僻地過ぎて、実践もほぼ皆無なために練度が上がらないのである。

 まあ、演習や遠征だけじゃ限界があるからな……

 

「そもそも改二になってもこの鎮守府じゃ、その能力を生かす機会は無いだろう。そのままでいいと思うぞ」

 

「うーん、そうかなぁ」

 

 長月にそう言われ、清霜は訝し気に首を傾げた。まあ、折角パワーアップ出来るならしておきたい気持ちはあるだろうな。

 

「ね、しれーかんは清霜に改二になってほしい?」

 

 すると清霜は俺の方に顔を向けて、上目遣いで尋ねてきた。

 

「うむむ……俺は今のままの清霜でも充分だぞ」

 

「えへへぇ、よかったぁ」

 

 顔をふにゃふにゃにして微笑む清霜を見ると、こっちも何だか嬉しい気持ちになってくる。

 今のままだろうと改二になろうと、清霜が清霜であることに変わりはない。

 俺にとっては何時までも可愛い部下なのである。

 

「でも、清霜姉さんの改二ってどんな感じだろ? 改二になったら、確か見た目も変わるんだよね?」

 

 ワインをチビチビやっていたグレカーレがふと聞いてきた。グラスを回す姿が妙に似合っている。

 

「確かに五十鈴さんは色々大きくなったよね」

 

「孤島鎮守府の夕立ちゃんも大きくなってましたねー」

 

 皐月と五月雨が身近にいる改二になった艦娘の姿を思い浮かべて言った。

 五十鈴さんは皆の教官。夕立は五月雨の姉艦だから色々知っているのだろう。

 しかし五十鈴改二に夕立改二か……確かに大きくなったよな、色々と……

 

「司令、何かいやらしい事を考えていませんか?」

 

「えっ……な、何のことかな……」

 

 ジト目の不知火に急に言われて、俺は平静を装った。

 でも確かに改二になると胸部装甲が増す艦娘が多かったよなぁ……

 

「でも皐月改二も暁改二も胸はおっきくならなかったし、正直清霜もぐばっ!?」

 

「失礼ですよ指令」

 

 不味い。心の声が漏れてた。すかさず不知火にぶん殴られた俺は、激痛に悶えながらも何とか耐えてテーブルへと戻っていく。

 しかし待っていた周りの目は思った以上に白かった。

 

「本当にサイテーだよね、司令官」

 

「胸しか頭にないのかねえ、嘆かわしい」

 

「清霜、グレカーレ。あんな大人になっちゃ駄目よ」

 

 皐月と谷風が嘆息し、暁が妹たちに注意する。本当に俺だけ厳しい気がする……

 

「でも清霜ちゃんの改二ってどんな姿なのか、気になるよね?」

 

 流れを変えるように五月雨が皆に尋ねた。

 ええ子や……五月雨の厚意に感謝しつつ、俺は話題を変えることにした。

 

「改二っていえば吹雪とか阿武隈とかウルトラマンガイアみたいに黒い装飾が増えるイメージがあるな」

 

「最後のは違うだろ」

 

 長月に注意されたが、俺はそのイメージが強いからな……

 

「というと、清霜ちゃんが黒い服を?」

 

「清霜BLACKRXってことかい?」

 

「黒といえば、武蔵さんの色だよね!」

 

 嬉しそうに清霜が言った。確かに艦これの武蔵は色黒で、着ている服も黒いイメージがあるな。

 

「きっと清霜も武蔵さんとお揃いの服と艤装で小さな戦艦として、二人で大暴れするんだ……うおおーっ!」

 

 感極まったらしい清霜が拳を握って雄たけびを上げた。

 確かに清霜は常々『戦艦になりたい』と言っていたし、武蔵への憧れも日頃から口にしていた。

 清霜にとって改二へパワーアップは、戦艦になれるチャンスへと映ったのだろう。

 

「テートク、駆逐艦が戦艦になれることってあるの?」

 

「軽巡が水上機母艦や軽空母になることはあるけど、流石にそれは無いかな……」

 

「うわーん、お姉様! しれーかんとグレちゃんが虐めるー!」

 

「ちょっと二人とも、それはロジハラよ!」

 

 清霜が義姉に泣きついた。俺と義妹のマジレスが相当効いたらしい。

 でも駆逐艦が戦艦になるのはかなり無理があるしなぁ……

 

「でも戦艦になれなくとも、凄い火力を出せるようになるかもしれないよ。夕立ちゃんや時雨ちゃんみたいに」

 

 五月雨がフォローするように言った。

 確かに白露型の艦娘達は改二になると凄まじい火力を出すイメージがある。

 それに清霜は駆逐艦の中でも後期に建造された高性能艦。姉艦である夕雲改二や長波改二もかなり強かった記憶がある。清霜も改二になれば、今よりずっと強くなる可能性は高い。

 

「確かに強くなれれば戦艦になることはできないが、戦艦と肩を並べて戦えるかもしれんな」

 

「そうね。私達の本来の仕事はそういった大型船舶を護衛する事だもの」

 

「長月と不知火の武闘派コンビが言うと説得力があるな……」

 

 二人の言葉に清霜の瞳に輝きが戻り始めた。

 まあ改二になるなら以前より弱くなることななんて無いだろうし、長月たちの言い分も間違ってないだろう。

 

「チッチッチ……分かってないなぁ、二人は! 火力も大事だけど、一番大事なのは見た目だよ!」

 

 だがそこに皐月が待ったをかけた。よく見ると隣で谷風もうんうんと頷いている。

 

「どんなに強くなっても! 見た目が悪かったら、使って貰えないよ! 人間は見た目が大事!」

 

「身も蓋もないことを言うな……」

 

「でも司令官。例えばゲームのロボットとかでさ。満を持して来た二号機がいくら強くても、カッコよくないと好きになれないでしょ?」

 

「うーん、でも使ってると愛着湧いてきそうだしな……」

 

「いや……見た目は大事だぜ、提督。現にあんたは見た目で谷風さん達に差をつけているぜ」

 

「な、何っ!?」

 

 聞き捨てならない発言だ。

 俺は常に皆を公平に扱ってきた自負がある。決して容姿で誰かを贔屓するなんてそんなことは――

 

「提督は胸が無い艦娘を粗雑に扱うからなぁ」

 

「は? おっぱいは全てにおいて優先だろ。何を言ってんだごふっ!?」

 

「清霜、こんなめでたい席にすまないな。今から、このゴミを捨ててくるからちょっと待ってくれ」

 

「清霜もこんなゴミの言う事、聞いちゃだめだよ」

 

 長月と皐月の一撃が炸裂し、たまらず俺は床に倒れこんだ。そこへすかさず谷風と不知火が追撃に入り、汚いモノを小さな子に見せないためかそのまま俺は部屋の端の方へ蹴り出されてしまう。

 

「きっと清霜姉さんも、他の夕雲型の改二みたいなファッションになるんじゃない?」

 

「武蔵さんみたいな黒衣装に指ぬきグローブなんてどう? かっこいいわよ!」

 

「えへへ、気になるなぁ」

 

 そんな俺を完全に無視して和気あいあいと清霜たち義三姉妹。彼女たちも最近、俺のぞんざいな扱いに慣れてきたな……

 

「でもよく考えたら、皆改二になれてないんだよね」

 

 俺をゲシゲシ蹴りながら皐月がしみじみと言った。

 すると他の改二実装済みでありながらまだなっていない艦娘たちがうんうんと頷いた。

 

「確かに不知火も改二になれるならなりたいわね」

 

「あのグローブかっこいいもんね!」

 

 暁がやたら指ぬきグローブに食いついている。確かに中二心をくすぐるものがあるが、憧れているのだろうか。

 

「ボクも改二になれば対潜・対空で大暴れ出来るのになぁ」

 

「谷風さんは厳密に言えば改二じゃねぇんだが、丁改だと大発が装備出来て便利になるねぇ」

 

「暁も改二で探照灯を持ってこれるわ!」

 

 皆が口々に現在の鎮守府では幻状態である改二に夢を膨らませる。

 やはり自分が強くなるのは嬉しいようだ。

 

「ま、私達は関係無い話なんだけどな」

 

「ホントだね……来るといいね」

 

 盛り上げる皆を尻目に長月と五月雨が暗い顔でグラスを重ねていた。確かにこの二人は最初組なのにまだ改二が無いもんな……

 そんな中、床に転がっている俺に清霜が近くへトコトコとやってきた。

 

「ね、司令官」

 

 耳元で清霜が囁いてくる。

 なんだろうと耳を傾けると、清霜は小声で尋ねてきた。

 

「もし改二になって、ホントにお胸が大きくなったら……清霜をお嫁さんにしてくれる?」

 

「…………」

 

 これは恐らく幼い娘が『パパの嫁さんになる』的な言葉だろう。

 なんだか微笑ましくなって、俺は清霜の頭を優しく撫でた。

 

「ああ、いいよ。頑張って改二になろうな」

 

「……うんっ」

 

 清霜は花のように笑うと、そのまま元気に皆の輪に戻っていった。

 彼女の改二がどんなものかは分からないが、きっと可愛い姿になるだろう。

 胸は残念ながら期待できないが、いつか必ず改二にしてあげられるように俺も頑張らないとな。

 そんな事を考えながら鎮守府の夜は更けていくのだった。

 

 ……余談だがこの時の軽い返事を俺が死ぬ程後悔することになるのは、また別の話である。

 




冷静に考えたらもう50話もやって改二がいないというのは大丈夫かと思いましたので、参考までにアンケートをします。
よろしければ是非。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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