流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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ハロウィン回です。

改二のアンケートのご協力、ありがとうございました!

今の所、改二になる方の票が多いので、いずれ改二回を書こうと思っています。


ハロウィン事変

「ええっ!? ここではハロウィンパーティーやらないの!?」

 

 10月某日。流刑鎮守府内にある艦娘達の寝室でそんな言葉が響き渡った。

 現在、時刻は午後8時を回り夕食を終えた艦娘たちは、部屋着に着替えてゆったりとした時間を過ごしている。そんな中で、姉貴分たちと話していたグレカーレの口から発せられたのが、その言葉だった。

 ちなみに提督はすでに酒を飲んで就寝している。

 

「ええ、パーティーはやったこと無いわ。お菓子は司令官から貰えたけど」

 

「あれ、でも去年……皆で南瓜食べて柚子のお風呂に入ったような……」

 

「清霜、それは冬至だ」

 

 長月に言われ清霜はああ……と思い出したようだ。それくらい曖昧なイベントなのだろう。

 

「元々、西洋の風習だからあんまりイメージが湧かないよね」

 

「ああ、本土では盛り上がってるって聞くけどねぇ」

 

 皐月と谷風がのんびりと言った。元来お祭り好きの二人があまり乗ってこないというのは、やはり印象が薄いせいだろう。

 

「ハロウィンをやらないなんて、勿体ないわ! 折角のお祭りなのに!」

 

 一方イタリア艦であるグレカーレにとっては、ハロウィンに思い入れが強いらしい。反応の薄い義姉や先輩たちに、拳握って主張する。

 

「皆で可愛い仮装して! お菓子やお酒を飲んでパーティーして! テートクにイタズラする! こんな楽しいイベント中々無いよ!」

 

「最後のはいらないわね」

 

「とにかく今年はハロウィンのイベントやろうよ! テートクにも許可とってさ!」

 

 不知火の指摘をスルーしながら、グレカーレは そう主張するのである。

 

「確かに面白そうだよね。夕立ちゃんも前にオオカミの仮装してたし……」

 

 そこに助け舟をだしたのは五月雨だった。

 五月雨は姉艦である夕立がハロウィンで仮装した事があるのを知っているため、想像がしやすかったのだろう。

 それなりに肯定寄りの言葉であった。

 

「流石、五月雨さん! 分かってるね! 実際一度みんなでやってみよ! きっと楽しいからさ!」

 

「グレちゃん! 清霜は武蔵さんのコスプレしていい?」

 

「それは趣旨に外れそうだからどうかな……」

 

 そんなこんなで流刑鎮守府でグレカーレ仕切りのハロウィンパーティーが行われることになった。

 だがその流刑鎮守府の最高責任者にはそのことを一切知らず、廊下の隅に置かれたベッドの上で爆睡しているのであった。

 

 …

 ……

 ………

 

 10月31日。世間ではハロウィンが賑わっているが、うちは今日も平常運転だ。

 特にすることもなくいつも通り艦娘に遠征と演習を行わせ、俺は書類仕事。

 一応、皆にあげるお菓子は用意したが本当にその程度だった。

 しかし……

 

「テートク、ほら、ひーらひら♪ 今、見た? 見たでしょ♪」

 

 仕事を終わらせ、日も暮れた頃。

 俺がひと風呂浴びてから食堂へと向かった時、進行先に人影が一つ現れたのである。

 それはよく知る艦娘の姿であったが、外見がいつもと違っていた。

 

「どうした、グレカーレその恰好は」

 

「もー、テートクったら。今日はハロウィンでしょ? 精一杯仮装してきた女の子に何か言う事があるんじゃないの?」

 

 そう言ってグレカーレはスカートの裾を摘まんでひらひらと揺らす。

 確かにグレカーレの格好はいつもと違っていた。

 黒を基調とした露出度の高い衣服で、フリルがついたミニスカートが特徴的だ。

 悪魔をモチーフにしているのか、角付きのヘアバンドに羽や尻尾、さらにはトライデントまで持っている。

 右足にだけ履かれたオーバーニーソックスと、対照的に露出した太腿が妙に艶めかしい。

 

「おー、よく似合ってるぞ。可愛いな」

 

 可愛いのは事実なので俺は褒めて頭を撫でた。

 

「でしょでしょ! もーエッチなんだから、このままあたしに悪戯する気……て、あれ、どこ見てるの。ちゃんと見てよ! こっちよこっち!」

 

「さて飯だ飯」

 

 撫でられて喜んでくれるのは嬉しいが、その後に変なことを言い出したので俺はそのまま距離を取った。

 しかしグレカーレの衣装、近くで見るとかなり煽情的だな……下手すれば児童ポルノ一歩手前になってしまうのではないだろうか。

 

「ちょっとテートク! 今日はハロウィンだから特別な趣向を用意してあるの!」

 

「特別な趣向? また変な事考えているんじゃないだろうな?」

 

「もー、あたしの事なんだと思ってるのよ! 前にやったコスプレ大会に近い感じだから大丈夫!」

 

「お前、その時まだいなかったじゃん」

 

「暁姉さん達から聞いたのよ! ほらほら、いこいこ!」

 

 グレカーレに後ろから背中をグイグイ押され、俺はそのまま食堂の方へと連行されていく。

 中に入るとテーブルと椅子が一個置かれており、その上には様々なお菓子が乗っていた。

 

「と、いうわけで! 第一回流刑鎮守府ハロウィンコンテストの開始! はい、拍手!」

 

「何をやらせる気だ?」

 

「ルールは簡単! これから皆が仮装して出てくるから、テートクはそれを採点して点に応じてお菓子をあげる! 簡単でしょ?」

 

「そんなことしなくても、ちゃんと俺は皆にお菓子をあげるぞ」

 

「もーっ! それじゃ、面白くないでしょ! こういう方がスリリングでしょ!」

 

「そんなもんかねぇ……」

 

 個人的には皆を平等に接したいのだが……いや、でもこれはあくまでレクリエーションみたいなものだから、それでもいいのだろうか。

 

「でも、採点ってどうすればいいんだ?」

 

「それはね、テートクの審美眼で仮装の出来を判断して、点数によってあげるお菓子の量を変えるんだよ。で、一番多くお菓子を貰った人が優勝!」

 

「成る程。ちなみに、優勝したら何かいいことがあるのか?」

 

「んふふふふふ、勿論! 優勝者にはテートクからイタズラしてもらえぐえっ!?」

 

「下らんことやってないで、さっさと飯にするぞ」

 

 駆逐艦にイタズラなんてした日には、憲兵さんに連行されて打ち首獄門であろう。俺はすぐにこのイベントを打ち切って酒でも飲もうとしたが……

 

「とりあえずテートク、ビールでも飲みなよ」

 

「しょうがねぇな。少しだけだぞ」

 

 グレカーレが瓶ビールを出してきたので、一旦は相手の思惑に乗ってみることにした。まあ、やることは審査員みたいなもんだし、そんな変なことが起こることはないだろう。俺は椅子に腰を下ろすと、グレカーレに注いでもらったビールに口をつけた。

 

「じゃあ早速! 一人目、いってみよー!」

 

 グレカーレの掛け声と共に奥から人影が一つ、勢いよくやってきた。

 

「トリック・オア・トリート! 吸血鬼になった、可愛いボクだよ!」

 

 一番槍は皐月であった。

 黒いシルクハットを被り、裏地が赤の黒マントを身に着け、口には牙が着いている。

 

「おお、すげぇテンプレなドラキュラ衣装」

 

 昨今では逆にあまり見られない衣装に、思わず感嘆の声が出てしまう。それに金髪の皐月に黒いコスチュームは自然と似合っていた。

 

「ふっふっふ……お菓子くれないと、司令官の生き血をチューチューしちゃうよ!」

 

「おう、それは困る。そら、お菓子だ」

 

「やった! 司令官の血って、ドロドロで不味そうだからよかったよ」

 

「やっぱりお菓子返せ」

 

「えー! 酷いよ! 本当の事を言っただけじゃん!」

 

「テートク、採点は?」

 

 おお、そうだった。一応、これに点数をつけないといけないんだ。といっても、何だかんだ言って皐月の衣装は可愛いし、そもそも何点くらいが平均か分からないしなぁ……

 

「とりあえず80点で」

 

「いきなり高いね!?」

 

「似合ってるからな」

 

「そ、そう? 嬉しいな、えへへ」

 

「テートク、いきなり高い点つけると、後から困るかもよ」

 

 はにかむ皐月と、釘を刺すグレカーレ。しかし今回のイベントはそれくらい緩い方がいいと思ったので、俺はそのままの点数で続けることにした。

 

「じゃあ二番目だね! どうぞ!」

 

 グレカーレの言葉と同時に次の艦娘が現れる。

 

「と、とりっくおあとりーと、です!」

 

 慣れない外国語を披露しながら現れたのは五月雨であった。

 その頭には狼を模したフードが被さり、両手にも大きな肉球が特徴的な手袋を嵌めている。

 あれ、これどこかで見たような……

 

「夕立ちゃんから借りたオオカミさんです! ど、どうです、似合いますか?」

 

 ああ既視感があると思ったら夕立がハロウィングラで身に着けていた衣装と同じか。そういえば夕立は孤島鎮守府にいて二人は面識があることを今、思い出した。

 

「ああ、とっても似合ってるぞ五月雨。85点」

 

「ふわっ…え、えへへへ」

 

 頭を撫でるとふわふわの毛がとても気持ちいい。五月雨も嬉しそうな顔で目を細め、幻の尻尾をぶんぶん振っているのが見えるようだ。

 

「確かに五月雨さんって何か犬っぽいよね」

 

「ボクに言わせてもらえば、白露型は何か全体的に犬みたいな雰囲気なんだよね。五月雨はチワワかな」

 

「えへへ、怖い狼さんより可愛いワンちゃんですね!」

 

 五月雨自身も犬と表現されるのが嫌では無いのか、嬉しそうにおどけている。

 やっぱり元が可愛いと何を着ても様になるのかもしれない。

 

「では続いて三人目! いってみよー!」

 

 グレカーレが指をパチンと鳴らす。すると、三人目の艦娘がコスプレして現れ……

 

「あれ? 不知火、いつもと変わらないんじゃないか?」

 

 現れた不知火は普段通りの格好をしていた。

 

「司令、よく見てください」

 

 そう言うと不知火は自身の顔を指ですーっとなぞった。そこをよく見て見ると、手術の縫い目のようなペイントがあった。

 

「フランケンシュタインの怪物です」

 

「ああ……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。しかし……

 

「ちょっと手抜き過ぎないか?」

 

「そう言われまして……不知火はこういうのが苦手でして……」

 

 一切表情を変えず淡々と不知火は言う。

 まあ確かに不知火はこういう派手なイベントは苦手な気がする。

 

「ちょ、不知火さん! 折角のチャンスなのに……」

 

「まぁまぁグレ。とりあえず司令官の点数を聞こうよ」

 

 不知火の余りのやる気の無さに、グレカーレが飛び出してきたが、それを皐月が制止して尋ねた。

 

「うーん、70点かな。仮装としてはアレだけど、素体がいいから」

 

「む……」

 

 『素体が良い』の部分で不知火の頬がちょっとだけ朱くなった。堅物の彼女でも褒められると嬉しいようだ。

 

「ううう……アピールできるチャンスなのに……勿体ない……」

 

「ちっちっち! グレカーレ。肩を落とすのにはまだ早いよ! 今回のコスプレはこのボクのプロデュースしてるんだからね!」

 

「皐月が考えたのか……それにしては杜撰だな……」

 

 人差し指をピンと立てて意味深げに微笑みながら、皐月はグレカーレからマイクを奪い取った。

 

「そういう言葉は次の子を見てから言ってほしいな……と、いうわけで四番手! 出てこいやっ!」

 

 某プロレスラーの真似で皐月が叫ぶと、勢いよく次の艦娘が飛び込んできた。

 

「じゃーん! 清霜だよーっ!」

 

 出てきたのは清霜だった。

 カラフルな防止に黄色いシャツ。緑の短パンに赤いソックスを履いているという姿で、いかにも腕白な少年といった風貌だが……

 

「ちょっと、清霜姉さんまで! 今回は可愛い仮装をしようっていったじゃない!」

 

 現れた義姉の格好に不満を爆発させたグレカーレだが、それも予測済みなのか清霜は動じずに皐月の元へ駆け寄っていく。

 ん……そういえばこの清霜の姿には既視感が……

 

「グレカーレ! ここからがボク達の本気だよっ!」

 

 皐月の号令に清霜を中心にこれまで登場した艦娘たちが集まっていく。

 一体何を始める気だと俺とグレカーレが注目していると、四人は突然ポーズを決めて口を開いた。

 

「さあ、始まるザマスよ!」

 

「い、いくでがんす……」

 

「ふんがー」

 

「うるさーいっ!」

 

「……満点だよ、お前達」

 

 俺は清霜たちに山盛りのお菓子を渡して言った。

 

「なんでだよっ! 意味が分からないんだけど!?」

 

「何を言っているグレカーレ。こんなに愉快痛快な仮装は無いぞ」

 

「ふふふ、ただ可愛いだけじゃ、高得点は狙えないんだよ」

 

 激昂するグレカーレに皐月は言い放つ。

 まぁ初めの趣旨とは違う気もするが、俺は大満足なので満点でいいと思う。

 

「ぐぬぬ……納得いかないけど、まあ良し! 次に行こう、次!」

 

「グレちゃん頑張れー」

 

 既に勝利を確信したのか、清霜がお菓子をポリポリやりながら応援する。

 よく見ると他のメンバーもまったりと観戦モードに入っていた。不知火に至ってはもう顔の線を消している。あまり乗り気じゃななかったのだろうか。

 

「さてと今度は可愛い艦娘登場ーっ! …………あれ?」

 

 勢いよく言ったグレカーレだったが、誰も出てこようとしない。

 怪訝な表情を浮かべたグレカーレが奥の方へ視線を向けると、その方向から低く啜り泣くような声が聞こえてきた。

 

「い~ちまぁ~い……にぃ~まぁ~い~……さぁ~んまぁ~い……」

 

 辛く苦しそうな女の声がゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてくる。

 

「ひっ……何!? 何なのっ!? ね、姉さんっ!」

 

「き、清霜にも分からないよぉ……」

 

 恐怖からグレカーレは司会の仕事を放りだし義姉の背中に隠れてしまう。だが肝心の義姉も顔を真っ青にしてぶるぶる震えていた。

 そんな中、何かを数えるような声がさらに音量を増していく。

 

「はぁ~ちまぁ~い……きゅぅ~まぁ~い……」

 

 おどろおどろしい声がすぐ近くまで迫るも、その声の主は姿を現さないまま言葉が止まった。

 暫しの静寂が場を支配し、そして――

 

「いちまぁい……たりなぁああああああああああいっ!!」

 

『ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 姿を現したのは白装束と天冠を身に着けた谷風だった。

 両手をだらんと垂らし、髪を振り乱して近づいてくる。

 あまりにもオーソドックスな幽霊像だが、それ以上に目を引くのは彼女の顔である。

 右目の部分が焼けたように醜くただれているのだ。

 そのあまりの生々しさに清霜と五月雨は悲鳴をあげて蹲り、グレカーレも顔を真っ青にして目を背けた。

 

「だーはっはっはっは! どうでい! 怖かったろう? 妖精さん特性のリアル恐怖メイクでぃ!」

 

 そんな仲間たちの反応に手ごたえを感じたのか、谷風は素に戻って快活に笑った。

 

「やりすぎだ、タコ!」

 

「あでっ!?」

 

 得意顔で近づいてきた谷風の額を指でピンと弾く。

 谷風は可愛い悲鳴を上げて仰け反ってから、涙目になって俺に抗議した。

 

「な、なにしやがんでぇ!?」

 

「確かに凄いが、やりすぎだ。見ろ、ちびっこが泣いちゃっただろ」

 

 俺の後ろに隠れてぶるぶる震える清霜と五月雨。そして顔面蒼白で立ち尽くすグレカーレを指して言う。

 その様子を確認した谷風はあちゃーっと舌を出して苦笑した。

 

「あと四谷怪談と番町皿屋敷が混じってるぞ」

 

「お菊さんじゃパンチが弱いと思ってね、お岩さんの顔を取り入れたんだが、確かにやりすぎだったねぇ」

 

「早くメイクを落としてこい」

 

「はいよっ」

 

 元気よく言うと谷風は洗面所へと駆けていった。

 

「……二人とも大丈夫か?」

 

 俺は振り返って腰を抜かしている清霜と五月雨の背中をさすった。

 

「う、うううう怖いよぉ……」

 

「申し訳ありません、提督。五月雨は腰を抜かしてしまいました……」

 

 俺は皐月と協力して二人をそのまま椅子に座らせた。相当ショックが大きかったらしいな。

 

「……て、テートク……採点は……」

 

「……リアル恐怖なら100点満点だけど、ちょっと傷跡残しすぎたから60点で」

 

 何とか気を取り直して司会を続けるグレカーレは真面目だと思う。

 

「……え、えーっと……じゃあ次に行ってみよっか! もう流石にあのレベルは出ないでしょ……出ないよね?」

 

 おっかなびっくりなグレカーレだったが、流石にもう無いだろう。残っているのは長月と暁だし。

 そんな風に考えていると勢いよく、小さな影が飛びだしてきた。

 

「じゃーん! 暁は魔法使いよ!」

 

 とんがり帽子に黒マント。魔法のステッキ片手に現れた暁はその場でクルッと一回転した。

 

「…………」

 

「え、ちょっと……し、司令官!? い、いきなり何を……」

 

「いや、急に愛おしくなって……」

 

「い、いとお……むぎゅう……」

 

 さっきの谷風があまりにもリアルすぎた反動か、魔女っ娘暁がすごく健全に見える。

 俺はそのまま彼女を抱きしめて頭を撫でると、暁は顔を真っ赤にして照れていた。

 

「やっぱりお姉様が一番だよ……」

 

「ホント、癒される……流石姉さん」

 

 義妹コンビも同じように暁に抱き着いた。相当、谷風の仮装が怖かったんだろう。

 

「司令官、暁は難点?」

 

「んー満点。いい子いい子」

 

 俺と妹達にもみくちゃにされた暁は借りてきた猫のようになってしまっていた。

 俺たちは暫く暁のやわこい身体を堪能すると、お菓子を両手いっぱいに溢れるほど渡してあげた。

 

「さてと最後は長月か……」

 

 長月って『ハロウィン? くだらない』とか言うイメージがあるからな。バレンタインでも似たような事を言っていたし。

 そんな事を考えながら、待っていた時だった。

 

「死神の長月だ。ふふふ、怖いか?」

 

 天龍の台詞で登場した長月はちゃんとハロウィンの仮装をしていた。

 漆黒のマントに大きな鎌。

 髑髏を模した髪飾りで綺麗な緑髪をツインテールで纏め、いつもの制服では無くレオタード風の黒い衣装にストッキングを履いている。

 可愛さと煽情さが同居した、独特の出で立ちであった。

 

「ど、どうした長月……かわい……いや、珍しくノリノリじゃないか」

 

「ふふ、前にチャイナを着た時が好評だったからな。今回は頑張ってみたんだ。どうだ?」

 

「お、おお……」

 

 俺はまじまじと長月の全身に視線を向けていく。

 普段真面目で制服もきっちり着こなす彼女が、かなり攻めたデザインの衣装を着ているのだ。

 いつものギャップと相まって、とても魅力的に見えるのである。

 

「か、かわいいな……ほんとに……うん……」

 

 不味い。年甲斐もなく鼓動が激しくなってきた。

 相手は部下で駆逐艦……そんな娘にドキドキするなんて、あってはならない……

 あってはならないのだ……

 

「ど、どうした司令官? 変だったか?」

 

「い、いや、そんなことないぞ。似合ってるし……」

 

「んふふ~どうしたのテートク? 目が泳いでるよー」

 

「う、うるさいぞ、グレカーレ」

 

 グレカーレは俺の心境を悟ったのか、にやにやといやらしい笑みを浮かべながら胸をツンツンと突いてくる。

 俺はそれを振り払うと、ゴホンと咳払いした。

 

「と、とても似合ってるぞ長月。95点だ」

 

「ほう、中々高得点だな。頑張った甲斐があった」

 

 長月は満足そうにそう言うとお菓子を受け取って、皐月たちの方へと移動した。

 あぶなかった……これ以上近くにいたら、ホントにやばかった……

 

「さーてと。これで全員が終わったね。じゃ、テートク。今日の一番を決めてもらおっかな」

 

 俺が気を静めていると、グレカーレがそう言ってマイクを渡してきた。

 

「採点だけじゃないのか?」

 

「えーそれだけじゃ面白くないでしょ? やっぱり一番を決めて欲しいかなーって」

 

 グレカーレは上目遣いでそう尋ねてきた。チラリと皆の方を見ていると、心なしか期待して俺を見ているようにも思える。

 

「んーと……」

 

 俺は暫し沈黙し、思考を巡らせた。

 そして目を開くと俺は近くにいた少女の頭をポンと触れた。

 

「優勝はグレカーレだな」

 

「え……」

 

 グレカーレは一瞬、何が起きたのか分からなかったのか、目を真ん丸に見開いた。

 

「ちょ、ちょっと、あたしは今回、司会で対象外っていうか……」

 

 流石に面食らったか、グレカーレはしどろもどろになってそう言っていく。

 だが俺も本気だった。

 

「いや、グレカーレが今回のイベントを企画してくれたから、皆の可愛い姿が見れたんだ。君のおかげだよ」

 

 俺はそう言うと山盛りのお菓子を彼女に渡していく。

 

「わ……わ……」

 

 予想しなかった事だったのか、グレカーレは顔を真っ赤にしてあわあわしていた。

 

「おめでとう、グレちゃん!」

 

「よかったわね、グレカーレ!」

 

 そんな彼女の両側から義姉たちが抱き着いて、勝利を讃えていた。

 グレカーレは照れたように笑うと、恥ずかしそうに頬をかいていた。

 いつもは飄々としている彼女もこういうところは年相応である。

 

「ふ、ふふふふふ……つまりあたしがテートクの一番って事ね! じゃあ早速今晩、イタズラをぶべべべべべっ!?」

 

 まあ調子に乗りやすいのが玉に傷であるが。

 不知火に制裁される彼女を横目で見ながら、俺は皆の仮装も見渡して楽しんだ。

 

「……うまく逃げてないかい?」

 

 メイクを落として戻ってきた谷風がそう呟いたがそんなことは無いぞ。

 グレカーレの衣装も可愛かったし。

 

「皆、料理の準備が出来たぞ!」

 

 長月の掛け声で皆が食卓へと集まっていく。

 テーブルの上には長月手作りのハロウィン料理、ジャックオランタンの模したパプリカの肉詰めや、パンプキンケーキが並んでいる。

 

「今日は西洋の行事だしワインで乾杯しようよ!」

 

 皐月の提案で人数分のグラスが用意され、白ワインが注がれていく。酒が飲めない娘にはジュースが代わりに支給される。

 

「じゃあ、優勝者。乾杯の音頭を」

 

 俺がスッと指名してグレカーレを真ん中に案内する。彼女ははにかみながらもグラスを手に取った。

 

「では皆の代表として……ハッピー、ハロウィーンっ!」

 

『カンパーイっ!!』

 

 9つのグラスが小気味いい音と共に重なった。

 流刑鎮守府初めてのハロウィンパーティーはそのまま和やかな雰囲気で進められたのだった。

 

 …

 ……

 ………

 

「長月さんの時さ、テートクって結構ガチでグラついてたよね。あたしたちもちゃんと可愛くすれば、ケッコーイケるんじゃない?」

 

「む……そ、そうかな……」

 

「確かに、ボクたちもまだチャンスがありそうだよね」

 

「善は急げだ。谷風さん達も頑張らねぇとな」

 

 夜。艦娘たちは水面下で動き始めていた。

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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