流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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あけましておめでとうございます……
色々あって二月になってしまった……
今年も本作をよろしくお願いいたします。


流刑鎮守府ざ・むーびー

 

 古来より軍事とプロパガンダは切っても切り離せない関係にあった。

 そもそも宗教戦争が盛んに行われた時代からその概念は存在し、第二次世界大戦の頃には各国が挙って戦意高揚のための広告や記録映画などを制作した。そして現代でもプロパガンダは数多く作り出されている。

 現在、世界は深海棲艦という人類規模の敵勢力が存在する。そのためか、対深海棲艦のプロパガンダが各国で制作されているのである。

 我が国日本でもそれは同様で、吹雪を主人公にしたドラマとドキュメンタリー映画がメガヒット。味を占めた軍部はさらに時雨が主人公のドラマも制作し、またしてもヒットを飛ばしたのだった。

 

「そして各鎮守府がそれぞれ自主映画を作って発表する、映像コンペが催されることになった」

 

 皆が集まった会議室。俺は黒板に大きく『自主映画』と書いて、それをトントンと叩いた。

 

「大体、10分から30分の時間で内容は基本、自由。本部の偉い人と艦娘が審査員で、これから軍に配属される海防艦の娘にも見せるらしい」

 

 本部から送られてきた概要をざっくりと皆に説明していく。

 一応、本部主導の企画であるため対象に選ばれれば、それなりの報奨金もでるそうだ。

 

「しっかし、畏れ多くも大日本帝国海軍が自主映画なんて暇なもんだね」

 

「何を言うんでい、皐月。軍隊に気持ちのゆとりがあるってのは、平和な証拠じゃねえか」

 

「ああ、谷風の言う通りだ。戦争や災害があるときは、こうもいかんからな」

 

 まあそれだけ深海棲艦たちとの戦いも有利なのだろう。俺たちは僻地故、大局的な戦闘に関わることが無い。だがこういうイベントがあれば、何となく今は平穏な方なのだと実感できるのだ。

 

「と、いう訳で皆に集まって貰ったのはこの映像コンペで、どんなのを撮影するか。まあざっくりで良いから何かアイデアがあれば聞かせてくれ」

 

 今回の会議の主題はコレだった。

 自作で映像作品を作れと言われても、そもそもどんな内容を作ればいいのかすら分からないのだ。

 だからこうやって皆で集まって決めようという話になったのである。

 

「はいはいはいはい!」

 

 一番最初に元気よく手を上げたのは皐月であった。

 先程までのやる気なさげな様子が嘘のようだ。

 

「よし皐月」

 

「ふふん! 映画といえば、やっぱり鮫とゾンビだよ!」

 

「そうか、アサイラム村に帰れ」

 

 鮫とゾンビ。低予算Z級映画の定番である。

 

「何だよっ! パニック映画といえば、鮫とゾンビでしょ!」

 

「軍のコンペにパニック映画出してどうすんだ」

 

「まあ、待て司令官。内容は自由だったはずだ。折角だし、話くらい聞こうじゃないか」

 

 長月にそう言われ、確かにと思い皐月に目線を飛ばす。すると皐月は得意顔で語り始めた。

 

「ふふっ、まずはね! 深海棲艦との戦闘中、突然現れた大鮫に襲われボク達はとある孤島に何とか辿り着いた。だけどそこは、ゾンビ達が徘徊する死の島だったのだ!」

 

「凄く……B級です……」

 

 ホームセンターにワンコインで売られてそうな映画の内容だった。

 

「いいじゃん! サメにゾンビに美女! これさえ揃ってれば、皆満足だよ!」

 

「それで満足するのはニッチな層だけだぞ。それにサメやゾンビのセットとかどうやって用意するんだよ」

 

 いくら低予算で作りやすいといっても、それは映画業界内の話。完全な素人である俺達では、それらのセットを作ることすら難しいだろう。

 

「それは大丈夫です! 大体の事なら妖精さんが何とかしてくれます!」

 

 すると五月雨が元気よく手を上げて言った。よく見れば彼女の肩には妖精さんが一人、ちょこんと座って胸をポンと叩いていた。

 

「やった! ならもうボクの案で確定だね!」

 

「待て待て、それは無い……いや、まだ早い。他の意見も聞かんと駄目だろ。誰か他にアイデアはないか?」

 

 このままだと本気で皐月の案が押し通されかねないので、俺は他の娘にも聞いてみることにした。

 

「はいよっ! 谷風さんに妙案あり!」

 

「谷風かぁ……」

 

 皐月とは別ベクトルで怪しい企画をあげそうだ。

 

「で、どんな映画にする?」

 

「へへへっ……谷風さんが発案するのは、ズバリ! 流刑鎮守府の時代劇よぉ!」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

「時代劇だよ、時代劇! 提督も好きだろう?」

 

「見るのは好きだけど、作るとなると別問題だろ。それこそサメやゾンビよりも遥かにセットや衣装が重要だし……」

 

 和服に刀に背景…時代劇には予算が必要なのだ。

 

「そこはほら……木枯し紋次郎みたいに野外メインでやりゃいいだろ」

 

「それはちょっと寂しいな……」

 

「ならラブ・ロマンスはどうかしら? それならセットも特殊メイクもいらないわ!」

 

 すると暁が横から入ってきた。

 

「大人のジェントルマンとレディーの淡い恋物語……流刑鎮守府版ローマの休日……これだわ! 勿論、主演は暁と司令官よ!」

 

 うっとりした様子で提案する暁であるが、それに突っ込みを入れたのは身内だった。

 

「姉さんとテートクの外見で恋愛とか不味くない? 小さな子に悪戯するおじさんにしか見えないよ?」

 

「ちょ、グレカーレ! それどういう意味よ!」

 

 ぷんすか抗議する暁だが、残念だが俺も同じ思いだ。

 外見小学生の暁と30代の俺じゃあなぁ……

 

「そういうグレカーレは何かアイデアあるのか?」

 

 順番にグレカーレにも振ってみる。

 

「ふっふん、それは勿論。あたし主演でエマニエル夫人の流刑鎮守府版を……」

 

「不知火やれ」

 

「はい司令」

 

「ちょっ……流石に冗談ぶべべべべっ!?」

 

「ふーんふふんふーんふふんふーふんふふふふふん」

 

 エマニエル夫人のテーマを口ずさみながら不知火がグレカーレを粛清していく。

 俺たちはそんな二人を尻目に議論を再開した。

 

「五月雨は何かアイデア無いか?」

 

「え、えーと……折角ですし私達の鎮守府に関係する内容はどうでしょうか」

 

 五月雨の提案はこれまでのアイデアに比べてかなりまともな内容だった。

 

「私達の鎮守府のいい所を紹介すれば、新しい子も来てくれるかもしれませんし……」

 

「これ以上来られても、仕事は無いぞ」

 

「それにボクたちの鎮守府のいい所ってどこ?」

 

 だが長月と皐月の言葉にも一理ある。

 俺は五月雨の言葉を反芻して考えた。

 

「ウチの鎮守府のいい所って何だろう……」

 

「えーと……自然が多いです」

 

「……他は?」

 

「えーと、海が綺麗です!」

 

「…………」

 

 観光地や自然公園ならいいのだけど……五月雨の声も徐々に尻すぼみしていった。

 

「何か面白み無いよね。やっぱりボクの案の方が盛り上がるって!」

 

「いや、それは無い。どうだ、ここは私達の普段の演習や遠征をドキュメンタリー風にだな」

 

「いや、それこそ駄目でしょう。普段の私達なんて見せたら本部に何を言われるか分からないわよ」

 

 長月がかなり真っ当な案を出したが、それをお仕置きを終えた不知火が戒めた。

 

「流石にそのままは無理だから、ある程度盛るさ。私達が普段いかに頑張っているかを本土に伝えなくては」

 

「正しくプロパガンダだなぁ……」

 

 ぶっちゃけそれが一番簡単な気がするが……何か面白みが無いな。

 

「それじゃ面白みがないねぇ……やはり時代劇のインパクトで一発かますしかないさ」

 

「それこそ意味不明でしょう」

 

 俺の気持ちを代弁したように谷風が言った。だがその言葉に対して、不知火の対応は辛辣であった。

 

「何でい、不知火! そう言うからには何か案があるんだろうな!」

 

「もう棄権でいいんじゃないかしら。所詮、この小規模な鎮守府では満足のいく撮影なんて出来ないんでしょうし」

 

「かぁーっ! 詰まんないこと言うねぃ!」

 

「そうだぞ不知火。仕事の中にある遊びで全力を出せない奴は出世しないぞ」

 

「司令官……妙に感情が入ってるな」

 

 ……いかん。社畜時代の感情が出てきてしまったか……

 

「では司令。貴方は何か妙案があるのですか?」

 

「うーん、ここは流行りに乗っかって、俺が居酒屋を一人で巡る短編を……」

 

「誰か他に?」

 

「おい、せめて話くらい聞け! やめろ、皆も頷くな!」

 

 侃々諤々の議論を長く続き……

 

「ねぇーもう深夜だよ……」

 

「全然決まらないな……」

 

「暁姉さんと清霜姉さんがもうおネムよ……」

 

「不毛な議論だわ……」

 

 時刻は既に22時を迎えていた。本来なら消灯時間である。

 しかし議論に議論を重ねた結果、ここまでかかってしまったのだ。

 

「爆発……もう爆発しかないですよ……」

 

「正気に戻れ、五月雨……」

 

「流石にもう皆限界か……」

 

 黒板には意味不明な文字が並び始め、全員意識が朦朧としている。

 ここまで皆が色んなアイデアを出してきたが、これといったモノが出ずにだらだらと時間だけが過ぎてしまった。

 駄目なブラック企業の会議みたいだ。

 だがそろそろ終わらせないと体力がもたないな……

 

「よし、もうくじ引き方式でいこう。一人ずつ自分のアイデアを紙に書いて箱の中に入れる。その中から選ばれたのを採用するぞ」

 

 これまでの議論は何だったんだという決め方だがこれ以上続けても何も進まないだろうし、撮影する時間を考えたら今日のうちに内容くらいは決めておきたい。

 

「もう、それでいいや……」

 

「異議なし……」

 

「姉さん起きて。もう少しで終わるよ……」

 

 皆も同じ思いだったんのだろう。

 作業はスムーズに進み、そして内容は決定した。

 ついでに選ばれた人が監督・脚本も兼ねることになり、ようやく流刑鎮守府の映画撮影の撮影が始まったのだった。

 

 …

 ……

 ………

 

「中々今回の作品は皆、レベルが高いわね」

 

 映像コンペ当日。

 審査員として選ばれた軍人たちと艦娘たち。その中に五十鈴はいた。

 これまで数多くの鎮守府が作り上げた作品を見てきたが、軍部のエリートである提督と艦娘、そして妖精さん達の尽力もあってかなり完成度の高い作品が多い。

 中にはプロ顔負けの作品もあり、かなりレベルが高いのだが……

 

「でも海防艦の子達は退屈そうだね」

 

 隣にいた名取が小声で言った。彼女が言う通り、まだ幼い海防艦たちは映画の面白さを理解出来ないようであった。

 ほとんどの作品は自分たちの鎮守府を紹介するPVに近く、それ以外の作品は芸術に比重を置いた作品である。

 審査員はお偉い方ばかりなので当然ではあるが……

 

「まあ、子供向けの作品なんてないからしょうがないんでしょうけど……」

 

 そこまで言った五十鈴の顔は一気に強張った。

 

「あれ、どうしたの五十鈴ちゃん」

 

 心配そうに名取が顔を覗き込んできた。

 

「る、流刑鎮守府……」

 

 次に上映される作品の制作陣に五十鈴は不安を覚えたのだ。

 

「あ、そこって確か五十鈴ちゃんが教官をした……」

 

「ええ……そうよ……」

 

 問題児たちの顔が一気に脳裏に浮かぶ。

 いや大丈夫だろう。流石に公的な行事に変な物は送ってこないだろう。

 そう五十鈴が自分に言い聞かせた直後に、上映は始まった。

 部屋が暗くなりスクリーンに映像が映し出される。

 

〈制作〉流刑鎮守府

 監督・脚本・演出 清霜

 

 その文字を見た時、五十鈴の顔がサッと青くなったが周囲の暗さに名取は気づけなかった。

 

 ――そこから見せられた作品はかなり滅茶苦茶で、一体何を見せられているのかと思ったわ。

 内容は……数十分延々と戦っているだけとしか言えないわね……

 おおまかなあらすじも……

 

 流刑鎮守府のエース暁三姉妹の元に遠方の海域からSOSが届く。

 とある貨物船が深海棲艦の襲撃を受けているのだ。

 早速、現場に急行する暁、清霜、グレカーレの三人。しかし指定された場所には貨物船などいなかった。

 なんと送られてきた救難信号は深海棲艦を束ねる悪の深海提督(演・流刑鎮守府提督)の罠であり、暁三姉妹を倒すためのモノだったのだ。

 彼女らを囲むように現れた深海棲艦(と言い張るライダー怪人のような集団。造形・清霜。演・他の駆逐艦たち)に袋叩きにされ、絶体絶命のピンチなる三姉妹。

 その時、奇跡が起こり暁の艤装とグレカーレの艤装が清霜の艤装に集合合体。

 戦艦・清霜にパワーアップした彼女のビーム攻撃により、深海棲艦たちは一網打尽。

 だがそこに決着をつけようと深海提督がサーベルを抜いて立ちはだかる。

 だが清霜も戦艦武蔵から賜った(という設定の)日本刀を抜刀。

 正義と悪の壮絶な一騎打ちが今まさに始まる……

 

 ――上映が終わった時の上官たちが見せた表情は上手く説明できないわ……とにかくすごかったわよ。

 

「……ホント、申し訳ありません。深夜テンションで決めた企画をそのまま撮影したので……」

 

 後日、俺は電話口で五十鈴さんに謝り倒していた。

 確かに今にして思えばノリだけで作った作品だったが、あの時の俺達にそれを止めるという発想は誰にも無かった。

 本当に勢いだけで作って送ったのである。そしてそのまま本部へ送り、現在に至る。

 

「…………はぁ」

 

 謝り倒した後、俺は受話器を置いた。

 その様子を周りで心配そうに見守っていてくれた皆が口を開いた。

 

「大丈夫だった、司令官?」

 

「ああ。怒られはしなかったし、上の人達から処罰とかも無い。ただ『自分たちは一体何を見せられてるんだろう』と思ったらしい」

 

「あははは……」

 

 皐月が苦笑し、他のメンバーも苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 

「清霜の脚本、よかったでしょ! きっと分かってくれるよ!」

 

 唯一、清霜だけは元気だったが……まあもういいだろう。

 

「あとあの映画を見た佐渡と大東が流刑鎮守府入りを熱望しているらしい」

 

「……誤解させちゃったね」

 

「悪いことしたねぇ……」

 

 完全に誤解させてしまったらしく、胸が痛む。

 後でお断りの電報を送らないと……

 

 こうして流刑鎮守府の一大プロジェクトは幕を閉じた。

 とりあえずその場のノリと勢いだけで行動すると大変なことになるという教訓を俺たちは得たのであった……

 

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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