流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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最近、何もない日常が好きになってきた。
年ですかね……


いつでもスマイルしようね

「う~……」

 

 とある日の事である。

 俺は朝、執務室のソファーに横になっていた。

 

「しれーかん、大丈夫?」

 

「提督、お水ですよ」

 

「すまん……」

 

 仰向けになってうなされている俺を、清霜と五月雨が心配そうに見下ろしていた。

 二人は優しいなぁ……

 

「いい年齢して学生みたいな飲み方をするからだ」

 

 一方、長月は呆れた顔をしながら二日酔い止めの薬を持ってきてくれた。

 俺は申し訳なさを感じながらも、長月から薬を受け取って口に放り込んでいく。

 現在、俺は二日酔いに苦しんでいたのである。

 胃がムカムカし、頭がズンと思い。時折、吐き気まで込み上げてくる。

 典型的な二日酔いの症状であった。

 

「長月さん、司令官はそんな酷い飲み方したの?」

 

「皐月と谷風と焼酎の飲み比べをしたらしい」

 

「うわぁ……」

 

 駄目な大人を見る目で清霜に見られるのは、流石に辛い。

 だが自業自得なので、俺は何も言えずに薬を飲み込んだのであった。

 

「司令、不知火がいつも言っているではないですか。健康のために飲酒は控えて下さいと」

 

 そんな俺を不知火が冷たい瞳で見下ろしてくる。

 普段から無表情な彼女だが、今日はいつも以上に怜悧な視線を俺にぶつけてきた。

 

「やはり禁酒……お酒を断つことが最良と不知火は進言します」

 

「……まあ、それはそうとて五月雨。今日の任務だが」

 

「司令、逃げないで下さい。不知火の目をじっと見て下さい」

 

 ずいっと……険しい表情で迫ってくる不知火に俺は思わず顔を背けてしまう。

 だが彼女は逃がす気は無いのか、俺へさらに詰め寄ってくるのである。

 

「まあ、待て不知火。確かに司令官は酒を節制した方が良いが、いきなり禁酒ではな……」

 

「長月! 貴方が甘やかすから司令が駄目になるんじゃない!」

 

 間に割って入ってきた長月を不知火が怒鳴った。どうやら今日は相当お冠らしい。

 

「う……そ、そうか……なぁ……」

 

「ええ、甘々だわ。昔の剃刀のような長月からは考えられない程ね」

 

「……五月雨さん、長月さんって昔怖かったの?」

 

「うーん……五月雨には違いが分かんない……」

 

「ともかく! 今の司令官は堕落しきっています! ここは鎮守府! 仮にも前線の指揮官がこれでは部下も……」

 

 不知火が拳振るってそう言った瞬間であった。

 

「うう~、気持ち悪いよ~」

 

「もう、飲みすぎよ皐月」

 

「ばーろい……江戸っ子は後のこたぁ考えず飲むもんさ……」

 

「はいはい。次はそうならないように飲んでね」

 

 暁に抱えられて皐月が。グレカーレに抱えられて谷風が部屋に入ってきた。

 どうやら二人もかなり二日酔いで参ってるらしい。

 

「あー司令官。ボク達こんなだから、今日はお休みでオナシャス……」

 

「不甲斐ねぇが、これじゃ演習も遠征も無理さぁ……」

 

「しょうがないなぁ……じゃあ今日は定休日で……」

 

「貴方達。ちょっとそこに正座しなさい」

 

 不知火の説教は三時間に及んだ。

 

 …

 ……

 ………

 

「全く……たるんでるわ。ぶったるんでるわ」

 

 その日の夜。

 皆が集まる寝室で不知火は愚痴っていた。

 夕食が終わり、消灯時間までの自由時間。

 いつもなら各々、好きな時間を過ごしているのだが、皐月と谷風は今もグロッキーな状態でベッドへ横になっている。

 暁と清霜はオセロで対局し、それをグレカーレが観戦し、五月雨は読書。

 長月は朝食の仕込みで席を外していた。

 

「もういいでしょ、ぬいぬい~。ボク達反省したからさぁ~」

 

「いい加減、しつこいぜぇ」

 

 うんざりした様子で皐月と谷風は答えるが、不知火はさらにご立腹のようだ。

 生真面目な彼女は、皐月たちのゆるい雰囲気が気に入らないのだろう。

 

「不知火さん。気持ちはわかるけど、ちょっとキツ過ぎじゃない?」

 

 姉たちの対戦を見ながらグレカーレが口を挟む。

 不知火はそれを聞いてギロリと睨むが、グレカーレは気にせずに続けた。

 

「そんなんじゃ愛しのテートクに嫌われちゃうよ?」

 

 普段ならグレカーレの軽口には動じない不知火だが、今回は少しだけ押し黙ってしまう。

 

「な、何を言うのよ……別に不知火は……」

 

「確かに不知火っていつも仏頂面よね」

 

「うーん、確かにそうだよね」

 

 思わず反論しようとする不知火だが、暁と清霜もグレカーレに同意する。

 

「う……暁、清霜……」

 

 幼い二人の言葉は純粋で直球であるため、不知火も思わず押し黙ってしまう。

 

「まあボク達がいうのもなんだけど……不知火って、いつも怖い顔してるよね」

 

「綺麗な顔してんのに、もったいないよなぁ」

 

「な……そ、そんなことは……」

 

 皐月と谷風にも同調され、不知火はすっかり余裕を失ったようだった。

 

「そ、そんなこと……無いわよね……五月雨?」

 

「え……え、えっと……」

 

 不知火は咄嗟に五月雨に視線を投げかけるも、五月雨は気まずそうに目を逸らした。

 それだけで不知火は五月雨の真意を悟って黙ってしまう。

 

「ほーれ、不知火さん。スマイルスマイル~」

 

 グレカーレが不知火の後ろに回り、彼女の頬をむにっと上げた。

 無理やり口角を上げるような形となり、歪な笑顔が出来上がる。

 普段ならすぐに反撃する不知火であるが、思う事もあったのかそのままで立ち尽くしていた。

 

「ちょ、駄目よグレカーレ。やめなさい」

 

 暁に言われグレカーレはすぐに行動をやめたが、不知火は思った以上にショックだったのかそのままの状態であった。

 

「珍しいね、不知火が落ち込むなんて」

 

「結構気にしてたのかねぇい」

 

 説教を受けていた皐月と谷風も心配そうに言う有様だ。

 

「……不知火は……やはり……可愛げが無いのでしょうか……」

 

 ずーんと落ち込んだ様子の不知火に、暁と清霜は対局を辞め、五月雨も読んでいた本を閉じてしまう。

 思った以上に不知火は自身の事について思うところがあったようであった。

 

「し、不知火ちゃん……まずはちょっとでも笑ってみたらいいんじゃないかな……」

 

 気まずそうに五月雨が言う。

 不知火は何とか懸命に口角を上げて、笑顔を作った。

 

「…………なんか、モアイの一部が動いたみたいな……」

 

「企みが上手くいった悪代官みたいだねぇ」

 

「う、うう……」

 

 しかし不知火渾身の笑みは不評だったようだ。

 五月雨や暁も困った顔をするほどである。

 

「……司令が不知火の進言を聞いてくれないのも……やっぱり、可愛げが無いからかしら……」

 

「いや、あれはテートクがアル中なだけだよ」

 

「でもあれが暁や清霜だったら……素直に聞いてくれたかも……」

 

「ほら、その二人は娘枠だし」

 

「ちょっとグレカーレ! どういう意味よ!」

 

「これは重傷だね」

 

「結構、前から考えてたんだろうねぇ」

 

 怒る暁を宥めつつ、皐月と谷風も珍しい不知火の様子に色々思うところがあるようだった。

 

「おい、そろそろ消灯時間だぞ……どうした皆、神妙な面持ちをして」

 

 そこに長月が現れた。

 どうやら朝ご飯の仕込みは終わったらしい。

 

「お、丁度仏頂面二号が来たね」

 

「なんだ皐月。藪から棒に」

「実はね長月ちゃん。かくかくしかじか……」

 

「……ほう、不知火の笑顔か」

 

 五月雨に状況を聞き、長月は神妙に不知火の方を見た。

 

「確かに固い表情が多いかもな」

 

「な、長月だってそうじゃない……」

 

「いや、意外と長月さんは笑うこと多いよ」

 

「グレの言う通りだよ。結構、長月は表情豊かだ」

 

「微笑むって感じだよね」

 

 グレカーレ、谷風、皐月の言葉に不知火はますます自信を無くしてしまう。そんな彼女の肩を長月がポンと叩いた。

 

「不知火、お前は気を張りすぎなんだ。もっと余裕を持てば、自然と笑みが出るさ」

 

「そんなこと言われても、簡単には出来ないわ」

 

「大丈夫! テートクみたいに気楽に人生考えてみようよ!」

 

「あの人の感性を真似したら人生終わるわよ、グレカーレ」

 

「まあ考えすぎも良くないぞ。暁や清霜くらい楽観的でもいいだろう」

 

「ちょっと長月! それどー言う意味よ!」

 

「お姉様、清霜たちって楽観的なの?」

 

 色々と侮られることの多い暁は憤慨し、清霜は首を傾げたが、不知火はそんな二人をまじまじと見つめていた。

 

「確かにこの二人は人生楽しそうね」

 

「ひ、酷い……レディーに対して屈辱だわ」

 

 怒りでぷるぷる震える暁に対し、不知火は真面目な表情で尋ねた。

 

「ねえ、暁。貴方が笑顔になる時ってどんな状況?」

 

「え、えーっと。綺麗なお洋服やアクセサリーでお洒落した時かしら」

 

 不知火の迫力に気圧されたのか、暁は戸惑いながらも真面目に答えた。

 

「不知火ってファッションに興味あったっけ?」

 

「前に広島へ行った時、お洒落してましたねぇ」

 

「あれは谷風さんたちが考えてコーディネートしたもんだぞ」

 

「アクセサリーは?」

 

「……あまり興味がないわ」

 

「年頃のレディーとして、それはどうなのよ不知火」

 

 年少組の暁から呆れられ、不知火はますます落ち込んでしまう。

 

「き、清霜ちゃんはどんな時、笑いますか?」

 

 不穏な空気を悟ったのか、五月雨が清霜にパスを投げかけた。

 

「えーと、清霜は毎日楽しいからいっぱいあるよ! 朝ご飯に、演習に、皆とおしゃべりに!」

 

「……ふふっ、貴方が羨ましいわ」

 

 優しい表情で不知火は清霜の頭を撫でる。無邪気な彼女は、不知火にとっても可愛い存在なのだろう。

 

「えへへっ……あ、司令官にこんな感じでナデナデされるときも、嬉しくて笑顔になっちゃうよ」

 

「だってさ、不知火さん。テートクになでなでしてもらえばきっと笑顔にぶべべべべっ!?」

 

「ありがとう、清霜。参考になったわ」

 

 グレカーレに制裁を加えながら、不知火は笑顔で言った。

 

「なあ、不知火。確かにお前は感情が希薄な方かもしれんが、それが原因で司令官が邪険に扱うことなど無い」

 

「そうそう! それに司令官は何だかんだいって不知火と出張にまで行ってるんだから、きっと大丈夫だよ。言う事を聞かないのは単にだらしないだけ!」

 

「提督は自分に甘々だからねぇ」

 

 長月の言葉に、皐月と谷風がうんうんと頷いた。

 結局、提督の意志が弱いのがそもそもの原因であるので、不知火は気負いしなくていい。

 その事を皆、分かっているのだ。

 

「……皆、すまないわね。ちょっと疲れていたみたい」

 

 仲間の優しさが伝わったのか、不知火はようやく立ち直ったようだ。

 

「ありがとう、落ち着いたわ。ちょっと、喉が渇いたから水を飲んでくる」

 

 不知火は表情を和らげてから、頭をぺこりと下げて外へと出たのだった。

 

 …

 ……

 ………

 

「あ……」

 

 そんな声をが背後から聞こえ、俺は思わず振り返った。

 視線の先、そこには寝間着姿の不知火が立っている。

 それは別にいい。

 問題は今、俺が冷蔵庫から缶ビールを取ろうとしている所に、彼女が出くわしたという事だ。

 

「…………」

 

 不知火は無言で俺の方をじっと見据えている。

 まずい……昼にあんだけ起こったのにも関わらず、また酒を飲んでますよこの人は、みたいな表情している。

 違うんだ。素面だと寝つけないだけなんだ……

 

「…………はぁ」

 

 呆れたような溜息が不知火の口から漏れ出る。

 不味い。これは殺されてしまうかも……そんな事を思いながら俺が構えた時だった。

 

「…………体壊しますよ」

 

 不知火はそれだけ言うと俺の横を通り過ぎ、冷蔵庫の中にある麦茶を取り出した。

 そしてコップに少しだけ注ぐと、一口で飲み干した。

 

「え……お、怒らないのか……」

 

「……不知火だっていつも青筋を立てている訳ではありませんよ」

 

「そ、そうか……」

 

 だがそう言われて流石にその場でビールを開けるほど、俺も精神が太くなかった。

 そのままビールを冷蔵庫に戻して、そのまま扉を閉めた。

 

「……司令官」

 

「は、はい、何でしょうか……」

 

「不知火は貴方の健康を心配しているんですよ?」

 

「う……」

 

 いつもの無慈悲に責めてくる感じでは無く、諭すような言い方に俺は何だか申し訳なく感じてします。

 部下で年下の少女に、ここまで言われるのは大人として辛い……

 

「もう30なのですから、お体を労わって下さい」

 

「お、おお……す、すまない……」

 

「……全く……なんだか真面目に考えてた不知火が馬鹿らしくなってきました……ふふっ」

 

「む……」

 

「……む、どうしました?」

 

「あ……いや、珍しく笑ったなって……」

 

「……や、やはり……不知火には笑顔が足りませんかね……」

 

 あまり笑わない不知火が微笑んだので、思わず出てしまった言葉だ。

 特に深い意味は無いのだが、本人は何やらショックを受けてしまったようである。

 

「い、いや……そんなことは無いぞ。まあ確かにあまり笑う方ではないが……」

 

「そ、そうですよね。やはり……」

 

「でもそれも不知火の個性だからな。笑顔が無くたって、不知火は不知火だぞ」

 

「え……」

 

 俺の言葉に不知火は目をぱちくりとさせた。

 

「それに不知火はクールな顔の方が似合ってるぞ」

 

「…………」

 

「あ、いや、別に茶化しているわけじゃなくてな……」

 

 俺の言葉に不知火は顔を赤くして俯いてしまったので、思わず慌ててしまう。

 だが不知火は少しすると、いつもの不知火に戻ってぺこりと頭を下げた。

 

「……いえ、こちらも少々力を入れすぎました……では先に休みますので、失礼致します」

 

 それだけいうと不知火はそのまま食堂を出て行った。

 残された俺は……

 

「……休肝日作ろうか……」

 

 そんなことを思いながら、麦茶を取り出して啜るのであった。

 

 …

 ……

 ………

 

「ふふ、クールな方が似合いますか……ふふふ……」

 

 不知火は少しだけ口角を上げながら、足取り軽く寝室へと戻っていく。

 自分には自分の強みがあるのだ。そう思うと、なんだか自信が付いたようであった。




以前のアンケート、ご協力ありがとうございます。
艦娘たちは今年中には改二にしたいと考えています。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

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