私は仕事です。
今回の話はかなりネタに走っています。
オマージュも多いです。
いつもと変わらない日のことであった。
その日、俺は執務室で遠征に向かう部下たちを送り出した後、五月雨と二人で書類仕事に勤しんでいた。
雑談を交えつつも真面目に取り組み、今日やる書類整理のほとんどが終わって、後は帰って来る遠征部隊を待とうかと五月雨に話した時だった。
突如、凄まじい轟音と共に鎮守府が揺れ、執務室も大きく振動した。
「五月雨っ!!」
「て、提督っ! 大丈夫ですかっ!」
咄嗟に近くにいた五月雨の手を掴むと、そのまま二人で頭を隠して机の下へと隠れていく。
幸い揺れはすぐに収まり、俺達は周囲を警戒しながらも机の下からゆっくりと這い出した。
「じ、地震か?」
「わ、わからないです。とりあえず外に出てみましょう」
これまで地震とは無縁の流刑鎮守府だったので、もしかしたら溜まっていた分が来たのではないか。
そんな俺の考えは外に出て飛び込んできた光景によって、吹き飛ばされた。
「な、なんだこれ……」
鎮守府の中庭、いつもは不知火と清霜が走っているその場所に何かが墜落していた。
黒煙を上げつつ、地面にめり込んだそれは昔の特撮番組に出てくる宇宙船のような物体であった。
大きさは結構あり、中型の船舶くらいはある。
明らかに世界観の違う外観とその異様な状況に俺達が呆然としていると、騒ぎを聞きつけた演習組がやってきた。
「司令官、何があったの!?」
「すっげえ音がしたぞ!」
今日の演習組は皐月・谷風・長月・不知火。
残りの三人は遠征だ。
いち早く駆け付けたのは皐月と谷風で、その後ろには長月と不知火の姿も見える。
「げっ……何コレ」
「分からん……だが、とんでもないことは確かだ。皆、うかつに近づくなよ」
俺は手で皆を制止すると、五月雨に本部へ連絡するように指示しようとした直後だった。
ガタン! という音が墜落した物体から聞こえてきたのである。
俺達の間に緊張が走る。
俺は無言で手を上げると、後ろにいる皆に目配せした。
皐月と谷風が頷いて静かに艤装を構え、後方の長月と不知火も身構える。
全員の視線が集中し、この後に何が起ころうともそれを見逃さまいとその物体を見つめていた。
物体の表面にある一角、そこがゆっくりと開いていく。
出入り口だろうか? 長方形の形で動くそれはまさしくドアのようであり、中から何かが現れた。
「エイリアン!?」
「未知との遭遇ってかい!」
皐月と谷風が主砲を向ける中で、黒煙の中から人影が一つ浮かび上がってくる。
ほ、本当に宇宙人かもしれない……俺がそう思った時だった。
「うえええええええ~~~~~~またドジしちゃった~」
煙の中からとても……とてもとても聞きなれた声が聞こえてきた。
俺はその声質に絶句し、咄嗟にすぐ近くにいた少女へ視線を向ける。
「え……ええ……?」
困惑した様子でオロオロする少女――五月雨に俺、さらには他の皆も目を向けていくのだ。
何故ならば……
「ううううう……あれ、ここは?」
謎の墜落機から現れたのはどう見ても少女……しかもその姿も声も、俺の部下である五月雨に瓜二つだったからだった。
「あ…………」
「え…………」
そして五月雨と五月雨そっくりの少女は暫し、見つめ合い。
『えええええええええええええええええええっ!?』
互いを指さし合い、驚愕で絶叫したのだった。
…
……
………
「パラレルワールド?」
「ああ、よくSF作品であるやつだな」
それから数時間後、俺達は執務室に集合していた。
遠征から戻ってきた暁達も合流し、皆で謎の少女に対して取り調べを行っているのだ。
少女は何もかもが五月雨そっくりで、まるでクローンのようだ。
唯一違うのは、身に着けている手袋が赤い事くらいだろうか。
突然現れた謎の物体から出てきた、五月雨そっくりの少女。
言われてみれば確かにSF作品の冒頭みたいな展開だ。
そして俺達に彼女は素直に従い、ここまで来てくれた。
俺達の質問に彼女は素直に答えてくれた……尤も、その内容はにわかには信じられない内容であったが。
「マルチバース……俺達が生きている世界以外に複数の宇宙が存在するっていう仮説の事だな」
「へぇー、よく知ってるね司令官」
「昔『破壊魔定光』で読んだからな」
「そこはスパイダーマンじゃないんだ……」
呆れた風に皐月は言うと、五月雨そっくりの……いや彼女の言う事が本当なら、彼女もまた本物の五月雨。別の世界の五月雨という事になる。
「はい。私の提督も同じような事を仰っていました……私は聞いただけなので詳しくはわかりませんが……」
「っていうと、本当に別の世界から来た五月雨なんだ」
「本当に、私そっくり……」
興味深げに別世界の五月雨を皆が見つめている。
何せ本当に瓜二つだからな……
「とりあえず……えっと……五月雨……何て呼べばいいかな……」
「別の五月雨……違う五月雨……うーん、しっくりこないな」
「じゃあ一文字でどうだい? 手袋が赤いし」
「ちょっとそれは……」
「わ、私は構わないですよ」
「そ、そうか……で、一文字。何で君はこの世界に? そもそもあの乗り物はなんだい?」
俺では出来るだけ優しく尋ねた。
「えっと……あの乗り物は並行世界を行き来するために提督が……私の世界の提督が造ったモノです」
「あれを提督が?」
「すげぇな、別世界の俺……」
「……私の世界の提督は天才発明家で、様々な物を発明してきました」
そうか……別の世界観の俺も色んな個体がある……俺が天才科学者である世界観もあるのか。
「ええ~、うっそだー」
「提督が発明家、眉唾もんだねぇ」
「想像出来ないわ」
「皐月、谷風、暁……お前達、見る目が無いな。俺は本来、凄まじいポテンシャルをもっているのだよ」
「でも信じられないよ。いくら違う世界線とはいえさ」
訝しがる皐月たちの何と失礼な事か。きっと別世界の俺は大いなる使命を持ってあのマシンを……
「そしてあの乗り物は提督が『おっぱいの大きい艦娘のいる流刑鎮守府の世界を探す』と言って、造ったモノです」
「司令官だ」
「間違いなく提督だね」
「別の世界でもそんなのなのか……」
「恥ですね」
「しれーかん、さいてー!」
……とんでもない風評被害だ。
別の世界の俺がやったことで何で俺がなじられにゃいかんのだ……
「あ、あはははは……」
「ふふふ、どこもあまり変わりないですね」
二人の五月雨も困ったように笑っている。
なんか……情けないな……
「で、その世界のテートクはあれを作って、別の世界に行こうとしたんでしょ? 何でさみだ……一文字さんが乗ってきたの?」
グレカーレが何とか話題を軌道修正する。
確かにアレに乗ってくるのはきっと製作者である別世界の俺の筈だ。でも乗ってきたのはその世界の五月雨だった。
「はい……実はアレを使って提督は別世界に行こうとしまた。その時に皆で阻止しようともみくちゃになっちゃって……」
恥ずかしそうに一文字はもじもじと指を絡ませながら告白した。
「それで……間違って離陸のスイッチが入ってしまって……皆で脱出しようとしたんですけど……私、ドジしちゃって……」
「あ、ああ……」
なんとなく、状況が思い浮かぶ。
きっと彼女だけ色々あって、そのまま中へ取り残されたのだろう。
「うう……やっぱりあっちの世界でも、私はドジっ子なんだ……」
「ごめんね、こっちの私……」
思う事もあるのか、五月雨が彼女の肩を抱いて啜り泣き始めた。
やっぱ悩んでることは悩んでるんだな……ドジな事。
「で、どうすんの? 直せるの、あれ?」
「えっと、妖精さん曰く時間はかかるがいけるそうだ」
俺の肩にいつの間にか乗っていた妖精さんがコクンと頷いた。
トンチキな発明品には同じくらいトンチキな存在をぶつけるのがいいだろう。
「明日の朝には大丈夫らしい。それまではゆっくり休んでくれ」
俺はそう言って一文字の肩を叩いた。
「ううう~あ、ありがとうございます」
「よっしゃ! じゃあ今日は五月雨……じゃなかった一文字の歓迎会だね!」
「おおよ! こんな来客二度とねぇからな!」
「五月雨さんが二人……何だかワクワクするね、お姉様!」
こうして、奇妙な来訪者の歓迎会が始まったのであった。
…
……
………
「はっはっはっ! イケる口だね、五月雨二号!」
「こっちの皐月ちゃんもね! かんぱーい!」
「すげぇ、日本酒を水みたいに飲んでやがる」
「五月雨と見た目はそっくりでも、中身はやっぱり違うんだな」
夜。
俺達は五月雨二号、またの名を一文字の歓迎会を開いていた。
テーブルには長月の手料理が並び、俺達は酒やジュース片手に舌鼓を打っている。
そこで俺達が驚いたのは、並行世界の五月雨がかなりの酒豪だった事だ。
俺達の五月雨はお酒を飲むと暴れてしまう酒乱の気があるが、あっちの五月雨には全く無い。
ビールや日本酒をグイグイ飲んでも、ほろ酔いのままなのだ。
「ねぇねぇ、そっちの世界のボクはどんな感じ?」
「えーと、皐月ちゃんはもっと大人しいかな」
「大人しい皐月か……想像できないな」
「天才科学者の司令官だって想像できないよ」
「ね! ね! 暁は? 暁は立派なレディーだったりする?」
「清霜は? もしかして戦艦になってたりする?」
「そういえばこの世界の暁ちゃんと清霜ちゃんは大きいよねー。私の世界では海防艦くらいだったから……」
「そ、そんな……」
「つ、辛い……」
そんな風に別世界の自分トークで盛り上がっている時だった。
「あ、妖精さんです。えーっと……修理が終わったらしいです」
俺達の五月雨の元へ妖精さんがやってきた。どうやら修理が終わったようだ。
「おー思ったより、早かったな」
「無事終わったようでよかったですね」
さすが妖精さん。人智を越えた存在だけあって、あんなとんでもないモノを簡単に直してしまう。
予想以上に早い仕上がりに俺達は感嘆の声を漏らすのであった。
「じゃあ明日にはもうお別れかー」
「残念だねー」
皐月とグレカーレがそういいながらグイっと杯を傾ける。それを見た一文字も一気に杯を空にしていく。本当に酒が好きなんだなぁ。
「そうだ! 折角だし、あの乗り物を見せてよ!」
すると皐月が酔った勢いでそんなことを言い出した。
「いいねぃ! あんなハイカラなもん、めったに見れないしねぇ!」
そこに谷風が便乗する。
「お、おい、二人とも。今は酔ってるしやめておいた方が……」
「でも司令官も見たくない? 次元を超える乗り物だよ?」
「……メッチャみたい」
俺も止めようとしたが男の成分がそれを許さなかった。
だってそう言う乗りモノってめっちゃ気になるじゃん。
「いーですよいーですよ! 皆で見に行きましょう!」
一文字も酒の勢いでそう言った。
「よし行こう!」
「やらいでかっ!」
「お、おい、お前達……」
長月に止められたが、俺と皐月と谷風。そして一文字の四人は、酒瓶片手に例のマシンの所へ向かったのであった。
ちなみに暁と清霜はおねむで、グレカーレに寝室へ連れていかれ、不知火と五月雨もウトウトしていた。
「うおーっ! すごい!」
「本当に未来の乗り物だ!」
「か、かっこいいな……」
そして童心の心を忘れない俺達は、中身を見学させてもらっていた。
なんというか……コテコテの操縦席って感じだ。
でっかいモニターに、何個もある用途不明のスイッチ。太い二本の操縦桿に、ごついペダル……特撮作品さながらの内装であった。
「でしょでしょう! 五月雨のてーとくは凄いんですよー」
一文字の方の五月雨は満足げに胸を張った。
やはり自分の提督には愛着があるんだろう。
「大和発進!」
「ちぇーんじ、げったー!」
「お、おいおい。かってにいじるなよ」
「だいじょーぶ。触るフリだから」
「流石にそこまで畏れ多い事はしねぇさ」
操縦席に座って遊ぶ皐月と谷風に肝を冷やすが、流石に酔っててもその辺の分別はつくようだった。
「二人とも、違いますよ。本当に押すボタンはこれ……あっ」
その時である。
五月雨のドジが発動したのは。
彼女は皐月と谷風に説明しようとして、躓いてしまったのだ。
「あ、あああああああああああっ」
そのままフラフラと彼女はよろけてしまい、皐月たちの方へと倒れこんでいく。
その先には幾つかのボタンがあった。
「あ……」
その一つを一文字は押してしまったのだ。
直後、無機質な機内が一気に稼働していき、モニターに光が宿り始める。
「お、おい、こいつぁ、まじいんじゃないのかい」
「起動しちゃったよ……」
「うううう……ごめんなさい」
「皆、とりあえず脱出だ!」
俺はそう支持し、転んだ一文字を引っ張り上げた。
だが。
「ああああっ!? ドアが!」
最初に出ようとした皐月の目の前で、唯一のハッチが閉まってしまう。
それと同時にマシンは振動し始め、何やら英語の音声が流れめるのだ。
「な、何をいってるんでぃ……」
「分からん……だがヤバいのは確かだ……さ、さみ……一文字、何が起きている……」
俺が尋ねると彼女は泣きそうな顔で答えた。
「ドジでスイッチが入っちゃいましたぁ……発進しちゃいます……」
「想像はついたけど、やっぱりか!」
「ど、どうにかならないの!?」
「だ、駄目だ! 揺れが激しいよぅ!」
「皆、とりあえず伏せて何かに掴まれ!」
俺は咄嗟に一文字に覆いかぶさった。
そしてこっちへと非難してきた皐月と谷風も覆うようにして身体を伏せる。
「さ、五月雨が元居た世界に帰るのかな……」
「だったらいいだけどねえ……」
「すいません、私でもわかりません……」
「うおっ……動き出したぞ!」
凄まじいエンジン音と共に、マシンは浮上を開始したようだ。
得体の知れないモノに乗っている恐怖からか、俺達は言葉を失い、ただただ震えていた。
「……並行世界か……」
まずそこまで辿り着けるか分からない。
しかしもうこのマシンを止める方法はない。
後は運を天に任せるだけだ。
無意識に俺の右手を皐月が。左手を谷風が握ってくる。
その小さな手は震えており、俺はそれをゆっくりと握り返した。
そして……遂にマシンは光に包まれ次元移動を開始するのだった。
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい