作者も仕事の無い並行世界に行きたい
激しい揺れと轟音と共にマシンはどこかへ向かっているようだった。
俺達は得体の知れない乗り物の中で身を屈め、いつこの航行が終わるのかと顔を見合わせていた。
「操縦方法は分からないのか?」
「す、すいません。私も分からないんです。ただオートで動いてるみたいで」
「八方塞がりだねぇい」
流石に分からない機械を憶測でいじるわけにはいかず、俺達は黙ってそこで身を守り続けていた。
やがて振動は弱まり始め、同時に機体自体がゆっくりと下降しているのを体感で感じてしまう。
「つ、墜落する?」
「い、いえ。きっと到着したんだと思います。どこかの世界に……」
不安げに言う皐月に一文字が答える。どうやら前に俺達の世界に来た時と同じような感じなのだろう。
やがて五月雨の言う通り、マシンは着陸し振動も治まった。
「着いたのか?」
「みたい……です」
「おいおい、大丈夫かよ」
「この五月雨が来た世界だといいんだけど……」
俺達はとりあえず立ち上がって、操縦桿やコンソールを確認する。
どうやら壊れていないようだが……
「離陸できるか?」
「分かりません。私達が下手に触ると大変なことになりそうですが……」
「ここも別世界でも流刑鎮守府なんだろう? だったらここの妖精さんに頼んでみた方がいいかもねぇ」
「とりあえず、外に出てみようよ。余程ひどい世界じゃなければ、大丈夫だろうし……」
皐月の言葉に皆は頷き、一旦外に出てみることにした。
ハッチを開いて外に出ると、視界に入ってきたのは見慣れた島の風景だった。
天気もいいし、どうやら昼のようだ。
「並行世界……」
「別の流刑鎮守府かい……」
「……とりあえず、この世界の俺達に接触してみるか――」
俺がそう言って進もうとした瞬間だった。
「この糞野郎おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ぶべばっ!?」
突然、何かが飛び出してきて俺の顔面をぶん殴った。
衝撃で俺はそのまま吹っ飛び、ゴロゴロと地面を転がってしまうのだ。
「し、司令官っ!?」
「な、なんでいいきな……り……」
皐月と谷風が謎の襲撃者に向かって身構え、そして固まった。
そしてそれは俺を殴った謎の人物も同じだった。
「え……ぼ、ぼく?」
俺を殴った人物、それは皐月だった。
おそらくこの世界の皐月だろう。彼女は突然目の前に現れた自分に瓜二つの少女――俺の世界の皐月に面食らったのか、彼女に視線が釘付けになっていた。
「おい、あの裏切りモノがいたって本当か……うおっ」
さらに長月が。そして他の艦娘がぞろぞろと現れる。
「ど、どういうこと?」
困惑する彼女に一文字が苦笑しながら説明を始めるのだった。
…
……
………
「成程、貴方たちは別の世界から来た流刑鎮守府のメンバーという事か」
「はい。そうなんです。信じてもらえないかもしれませんが……」
「いや信じるよ。そうでないとあの裏切りヤローがここに涼しい顔でいるわけないもん」
この世界の皐月が頷くと、他の皆もうんうんと頷いた。
「……さっきから思っているんだが、裏切り者ってどういうことだ? 俺は何故殴られてしまったんだ……」
まだじんじんする頬を擦りながら俺は尋ねた。
突然殴られた俺。そしてここにいない、この世界の俺。そして裏切り者というワード。
なんかきな臭いな……
するとこの鎮守府の艦娘たちは気まずそうに、そして悔しそうに口を開いた。
「……司令官は、私達を裏切って深海棲艦側に回ったんだ」
「なに……」
「嘘……」
「本当かい……」
長月の言葉に俺達は絶句した。
この世界の俺は裏切って、敵である深海棲艦に寝返った……そんな事、ありえるのか……
「な、何でだよ司令官!」
「お、俺に聞くなよ! いくら俺だって皆を裏切る事なんて考えられないって!」
俺の世界の皐月に掴みかかられるが、この世界の俺が何故裏切ったなんて分かるわけない。
見た感じ、この世界の皆は俺の世界の皆とそう変わらない風に見えるし。
「確かに、谷風さん達を提督が裏切るなんて考えられねぇ……少なくともこっちの世界ではよ」
「な、なんで……」
谷風と一文字が尋ねる中、この世界の長月は重い口を開いた。
「……深海棲艦には……胸が大きいのがいる……って」
「おい、クズ」
「サイテーだな」
「何で俺を見る! この世界の俺が馬鹿なだけだろう!」
理由はすげぇしょうもなかったが、ちょっと分かると思ってしまったのは内緒だ。
しかしそれでも流刑鎮守府の皆を裏切るなんて許せなかった。
「妖精さん曰く、壊れてはいないのでマシンの発進は出来るそうです」
この世界の五月雨がそう教えてくれる。
これで元の世界には帰れるかも……そう思った直後であった。
「大変だよ! 司令官が深海棲艦と一緒に!」
「波止場に降伏勧告をしに来たよ!」
暁と清霜が飛び込んできて叫んだ。
「なにっ!?」
「上等だよ! 今度こそ本物をぶん殴ってやる! あっちの司令官、さっきはごめんね!」
突然の緊急事態にこの世界の皆は部屋を飛び出していく。
「司令官、ボク達も!」
「ああ。こっちの世界の俺をぶん殴ってやる!」
俺達も黙っていられなかった。そのまま皆で外の波止場に向かう。
最悪の場合は俺がここで指揮を執って、この世界の俺を倒す。そんな考えも脳裏を過った。
別世界の別人とはいえ、俺の不始末。
自分のケリは自分でつけないといけない。
そう思いながら、俺達は波止場に向かったのだった。
「はっはっは。ご無沙汰だね、流刑鎮守府の諸君! 降伏する気にはなったかね」
「誰がするかバーカ!」
「司令官、世迷いごとを言っていないで、戻ってきてください」
怒る皐月と諭すように言う不知火に、この世界の俺はふんと鼻を鳴らした。どうやらイ級に乗ってやってきたらしい。
深海棲艦の提督という事なのか、真っ黒な軍服を身に纏い、醜悪な笑みを浮かべている。
深海棲艦に寝返ったというのは本当のようで、両隣にはヲ級とタ級を従えていた。
「全く、俺は今までのよしみで言ってるんだぜ。お前達がここを明け渡せば、皆は俺の下働きとして雇ってやろう」
「ふざけるな! 絶対に降伏なんかするのものか!」
長月の言葉に皆が同調し、一斉に艤装を構えた。
「やいやい! こっちの世界の俺! 敵に寝返るなんて恥を知れ!」
「ん……な、なんで……俺がもう一人……」
「並行世界からお前を怒りにやってきたんだ! てめぇ深海棲艦につくなんて……くそ……なんて……羨ましい……」
「司令官、本音が出てるよ」
「本当にどの世界でも馬鹿なんだねぇ」
「ぶべべべべっっ! ちょ、やめろ!」
皐月と谷風に頬を引っ張られる。
いかん、少し本音が漏れてしまった。
深海側に寝返ったってことは、あのヲ級やタ級のおっぱいを堪能できるのだろうか。
そうだとしたら許さん……許さんぞこの世界の俺……
「ふふふ、俺なら分かるだろう? このおっぱいの魅力をよ……忘れたのか! 俺の夢を!」
「ゆ、夢……」
「そうだ! 俺の夢はおっぱい艦隊を作り、ハーレムを築くこと! ちっぱいまみれの流刑鎮守府ではそれが無理であることが、分かるだろう!」
「た、確かに……」
「何、納得しかけてるんだよ馬鹿!」
皐月に殴られ、俺は何とか正気を取り戻す。
そうだ。確かにおっぱいは魅力的だが、それを理由に皆を裏切るなんて許されるはずが無い。
俺はパンパンと己の頬を叩いた。
「どんな理由だろうと皆を裏切って深海棲艦に寝返るなんて言語道断! 俺は絶対にお前を許さない!」
「そうか、なら見せてやろう! 深海棲艦の指揮官になった俺の力――」
その瞬間だった。
「エイっ」
何と彼の隣にいたヲ級がこの世界の俺の肩を押したのだ。
「え?」
何が起こったのか理解できないのか、この世界の俺はそのままバランスを崩し、前に大きく倒れてしまう。
突然の出来事に俺達の方も呆気にとられ、何も反応できないでいた。
そんな中、深海棲艦達は困ったような表情で俺達に言った。
「……コイツ、カエス」
「セクハラバッカリデ、シゴトシナイ……」
「え……」
そう言った深海棲艦たちの顔は嘘を言っているようには見えない顔だった。
どうやら本当に困っていたらしい。
そのままヲ級は前に出てこの世界の長月の手を握った。
「アナタタチモ、タイヘンネ……コンナ指揮官デ……」
「……分かってくれたか……感謝する」
「ココハモウセメナイヨ……テイセンダ」
「本当、やったぁ!」
同情的な視線を向ける深海棲艦に、長月たちも心情を察したようだった。
そのまま彼女らは歴史的な和解をして、深海棲艦たちは海へと帰っていく。それを皆は手を振って見送っていた。
「……なんか、あっという間に終わったな」
「谷風さん達の出番は無かったね」
その様子を俺達は呆然と見つめていた。
まあ問題が解決したのはよかったかな。
「ていうか深海戦艦にまで呆れられるってどういうことなの、司令官」
「本当に開いた口が塞がらないねぇ」
「何で俺を見るんだよ。それはあっちの俺の話だろう」
俺がそう言ってこの世界の自分を見ると、既に皐月たちに拘束されていた。
「ご協力感謝する、別世界の皆さん。何とかこのカスは捕獲出来ました」
「深海棲艦とも停戦出来ましたし、この近海はもう安全です」
「お、おう……そうか……」
「な、なぁ俺! 助けてくれよ……お前なら分かるだろむぐっ!?」
「黙れカス」
この世界のグレカーレが黒い袋のような物を被せて、提督を黙らせた。
「な、なあ、コイツどうするんだ……やっぱり本部に突き出して軍法会議にかけるのか?」
「いや……それでは私達が直接手をかけれない。本部には言わず、これからじっくり私刑にかけるつもりだ」
長月がそう言うと皆がうんうんと頷いた。
まあ……気の毒だが皆、優しい方だと思う。
本当なら本土に連行されて戦犯として扱われるだろうし……
「しかし並行世界とはいえ、えげつない性格の提督がいるねぇ」
「どうしよう、もっと変な司令官が出てきたら……」
「俺も正直、そう思う……」
「あ、あははは……」
俺も皐月と谷風も嘆息し、困ったように一文字は笑った。
まあ何とかこの世界の問題は解決したし、あとの事はこの世界の皆に任せよう。
その後、俺達は固い握手を交わし、この世界を後にした。
遠くから聞きなれた男の悲鳴が聞こえてきたが、皆無視したのであった。
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい