流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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流刑鎮守府まるちばーす③

「ちゃんとシートに座っていると、揺れは意外に気にならないな」

 

 次元を移動するマシン、それの中にある座席にどっかりと腰を降ろした俺はそう呟いた。

 最初に発進した時は事故で急に飛び立ったため、揺れる船体の中で身を屈めているしかなかった。

 しかし今回はちゃんと備え付きの座席に座ってちゃんと発進したのである。

 どうやらこれを作った俺は何人か乗せるために複数座席を用意していたため、全員が座れたのであった。

 

「先程の世界にいた妖精さんが、この機械にインプットされていた幾つかの世界の座標を指定してくれました。これを辿っていけばきっと元の世界に戻れる……はずです」

 

 一文字が断言できないのは、それが元の世界かどうかは分からないためだ。

 多分、試験運転する予定で幾つかデータを入れていたらしい。

 

「でも、またさっきの世界みたいな司令官だったら嫌だなぁ」

 

「確かによぉ。どこの世界でも提督はあれなトコあるからなぁ」

 

「おいなんだお前ら。言っとくけどこのマシンを作ったのだって、並行世界の俺なんだぞ」

 

「おっぱいのためにね」

 

 唾を吐き捨てる勢いで皐月が言った。

 

「お前ら女には分からないさ。男のロマンってのはよ……」

 

「しょうもねぇロマンだねぇ」

 

「あ、もう到着しますよ!」

 

 皐月と谷風に呆れられながらも、遂にマシンは次の世界へと到着したようだった。

 揺れる船体が徐々に下降していき、重力が上からのしかかってくる。

 そして何かが当たる感覚と共に、ゆっくりと振動が収まっていく。

 

「……着いたなようだな」

 

「ここが私の元いた世界なら良いのですけど……」

 

「とりあえず外に出てみようよ」

 

 皐月が早速席を立ち、そのまま外に出ようとする。

 なんだかんだで楽しそうに見える。

 

「気をつけろ。何が起こるか分からんからな。一応、艤装の準備をしておけ」

 

 俺達は用心をしながらもハッチを開いて外の様子を確認した。

 

「あっ! 誰か出てきた!」

 

 既に外には誰か……この世界の清霜がこちらを注視していた。

 着陸の騒音を聞いて駆けつけてきたらしい。

 

「って、ええええええっ!? 皐月さんに谷風さんに、五月雨さん!?」

 

 そして中から出てきたのが見知った顔だったことに驚き、皐月たちの顔を見比べていた。

 

「どうやら谷風さん達の清霜とあまり変わんないようだねぇ」

 

「ああ。外の風景も変な所は無いし、少なくとも前の世界みたいなヤバい状況じゃないようだ」

 

「ど、どういうこと……」

 

「えーと、清霜、ちゃん? 怖がらないで。今から説明するね」

 

 そう言って一文字が両手を上げて、敵意無しをアピールしながら清霜に近づいていく。

 この世界の清霜は困惑しつつも、相手が知っている五月雨という事もあり、逃げたり攻撃したりする素振りは見せなかった。

 

「おいおい、一体何が起こったってんだ。こっちは二日酔いでしんどいのに……」

 

 その時、清霜の後ろから気だるげな声が聞こえてきた。

 見れば彼女の後ろに人影が一つ。

 純白の第二種兵装に身を包んだ人間……この世界の流刑鎮守府の提督。つまり並行世界の俺であった。

 背は高く、言動や仕草は俺と瓜二つ。

 先程の言葉からして、酒も好きなようだ。

 恐らく性格もかなり近い……だが明確に俺と違う点が一つあった。

 

「お、女だ……」

 

「司令官が女の人に……」

 

「成程、平行世界だとこういうこともあるのか……」

 

 俺は勿論、皐月と谷風も唖然としていた。

 何せ俺の性別がまるっきり逆になっているんだから、驚きもする。

 そうか、平行世界だと性別すら変わることがあるのか……自分なのだから、絶対に男だという先入観があったよ。

 

「あ、あのっ。もしかしてこの流刑鎮守府の提督さんでしょうか……」

 

「あん? え、五月雨? それに皐月に谷風も……」

 

 目ぼけ眼だった彼女は、目の前に現れた部下にそっくりな少女に目を丸くして驚いているようだ。

 一方、五月雨も流石に性別が違う事までは予想していなかったようで、少々戸惑いながらも事の説明をしていくのである。

 

「しっかし提督が女性とはねぇ……」

 

「うん。それに結構綺麗だね」

 

「あ、ああ……とても俺とは思えん」

 

 俺達は驚きながらも、この世界の提督を姿をゆっくりと観察していく。

 切れ長の両目に、高い鼻。

 白い肌に細い手足。

 腰まで伸ばした黒い髪。

 クールビューティーといった印象の外見で、艦娘に例えれば那智や長門に近い。

 だが……

 

「……胸がねえなぁ……」

 

 残念ながら胸部装甲は清霜と同じレベルの平坦さだった。

 

「おい、お前。今、あたしの胸の事、馬鹿にしたろ」

 

 俺が思わずつぶやいた一言に目ざとく気づいた彼女は、そのままこちらへと近づいてくる。

 ヤバい。青筋立ててる。背も俺と同じくらいだから、結構背が高い。

 でも彼女が別の世界の俺だと思うと、不思議と恐怖は沸かなかった。

 

「だって折角、女になったんだぞ! それなのに胸が小さいなんて、何のために性転換したんだよ! 本当に俺か!?」

 

「うるせー! あたしだってなぁ、でっかいおっぱい欲しかったよ! でも育たなかったんだからしょうがねえだろ! 背と髪ばっか伸びてよぉ!」

 

「ああ、この馬鹿な感じ、やっぱり司令官だ」

 

「性別が変わっても、根本は変わんないねぇ」

 

「あ、あの皆さん。とりあえず、鎮守府に向かいませんか?」

 

 俺同士が言いあう中、、皆は鎮守府の方へと移動していく。

 しかし、この世界の俺……美人なんだが全く異性として見れないな……やはり同じ人間だからだろうか……

 

 …

 ……

 ………

 

『カンパーイっ!!』

 

 その夜、俺ともう一人の俺は勢いよく杯を交わし合った。

 ガチャンと小気味いい音が響くとの同時に、俺はグラスに注がれたビールを一気に喉へ流し込んでいく。

 

「ぷはーっ! 最高!」

 

「はぁーっ! おお、いい飲みっぷりだねアンタ! さっすがあたし!」

 

「お前こそ気持ちいい飲みっぷりだぜ! 流石、俺!」

 

「こーいうの自画自賛って言うのかな」

 

 隣に座っていた皐月が呆れたように言った。

 現在、時刻は夜。

 あの後、俺達はこの世界が一文字の帰る世界ではないと分かり、すぐに出発しようとしたのであるが……

 

「待ちなよ。折角、世界を跨いでまでやってきたんだ。ここで歓迎しないと流刑鎮守府提督の名が廃るよ」

 

「そ、それはありがたいけど、俺達も急いでいてな……」

 

「……冷えてるよ、ビール」

 

「ご厚意を無下にするわけにもいかんしな。甘えさせて貰おう」

 

 と、いう事になりお邪魔させて頂いたわけだ。

 皐月と谷風が心底呆れた顔をしていたが、見なかった事にした。

 そして遠征や演習から返ってきたこの世界の艦娘たちが集まって、状況を説明した後に宴会が始まったのだ。

 

「本当にボクだ! 可愛いね!」

 

「そっちのボクこそ、とっても可愛いよ!」

 

「別世界の自分とはいえ、瓜二つだねぇ」

 

「ああ、珍妙なこともあるもんだ」

 

「手袋の色が違うね」

 

「うん。この赤いの気にっているんだ」

 

 並行世界の自分と出会った皆はお互いに興味津々のようで、酒を片手に楽しく語り合っていた。

 そしてそれは俺達も同じである。

 

「やっぱり艦娘といえば戦艦や空母。おっぱい大きい艦娘がいいよなぁ……」

 

「そうなんだよなぁ……あたしも艦これの世界で大和お姉様や、金剛お姉様とマリア様がみてるしたかったんだよ」

 

 こっちの俺は女性でありながら、俺と同じ嗜好だったのである。

 

「同性愛者?」

 

「だめだよ谷風。今の時代はレズって言うんだよ」

 

「そこはもっとオブラートに百合って言えよ……」

 

「はははは! まあなんだっていいよ! 要は年上のお姉さんに甘えたいってことだしさ」

 

「分かる……」

 

 流石俺だ。性別が違えども、よくわかっている。

 流刑鎮守府にやってきてから、同好の士がいなかったから嬉しい限りだ。

 まるで遠い親戚に会ったような安心感。いや、一応自分自身なんだから親戚よりも血が近いのかもしれないけど……

 あと、性格がほとんど男みたいなものなので滅茶苦茶親しみやすい。

 俺じゃなくて胸が大きかったら割と惚れてたと思う位だった。

 

「やっぱり金剛か? それとも榛名? いやいや蒼龍もいいよなぁ……」

 

「あたしは大和お姉様に、武蔵お姉様……ちょっと影がある扶桑姉様や山城姉様もいいなぁ……」

 

「お姉様、司令官たちは何を話しているの?」

 

「駄目よ清霜。聞いたらおバカさんになるわ」

 

 俺達の巨乳艦娘トークはどんどん盛り上がっていき、同時に酒もどんどん進んでいく。

 艦娘たちは一人、また一人と宴会から退席していって遂に俺と俺のサシ飲みになってしまった。

 

「うへへ……飲みすぎたな」

 

 頬を赤らめ、服を着崩しながらこの世界の俺は言った。

 こう見るとかなりエロいのだが、本当に異性として見れないな。不思議なもんだ。

 

「……なぁ、皆寝ちまったし、俺達も寝るか?」

 

「んーその前にさ。別の世界のあたしに聞いておきたいことがあるんだよね」

 

「何だよ……今俺、結構酔ってるぜ」

 

「酔ってないと聞けない事……あたしじゃないと分からない事」

 

「……何だ?」

 

 少しだけ襟を正して彼女は尋ねた。

 

「……ぶっちゃけさ、皆の事、どう思ってる?」

 

「……そんな事、聞かんでも分かるだろ? 俺なんだからさ」

 

「あたしだから聞きたいんだよ。少なくとも別世界のあたしは、あの子たちの事、どう思ってるかって」

 

「…………」

 

 俺は杯を置いてふーっと大きく息を吐いた。

 

「……大切な家族さ」

 

「……本当に?」

 

「ああ……それこそ分かるだろ? あの子たちはまだ幼い。輝かしい未来があるんだ。俺達と違ってな」

 

「……でもさ、あたしと違ってさ。あんたは男じゃないか」

 

「…………飲もうぜ」

 

 俺は空になった杯に日本酒を注いでいく。

 そしてそれを彼女の杯に合わせた。

 

「艦娘たちに」

 

「愛しいあの子たちに」

 

 それ以上、言葉はいらなかった。

 きっと俺と同じ思いを彼女もずっと胸に抱いていたのだろう。

 だがそれは表に出してはいけない。それも俺と同じ思いの筈だ。

 だからこそ、自分自身でもある俺が来たことでその胸の内を吐露したくなったのだろう。

 ……そんなことまで同じじゃなくてもいいじゃないか。

 俺と彼女は暫く無言で酒を煽り続けた。

 

 …

 ……

 ………

 

「皆、世話になったありがとう」

 

「いいってこった。袖振り合うも他生の縁ってな」

 

 翌日、俺達はこの世界の流刑鎮守府メンバーたちに見送られながら、旅立とうとしていた。

 

「またね、ボク!」

 

「うん! いつかまた会おうね!」

 

「しっかりやれよ」

 

「そっちもな」

 

「頑張ってね、私。提督に会えるといいね」

 

「うん……ありがとう私」

 

 皆も並行世界の自分と固い握手を交わし、別れを惜しんでいる。

 勿論、俺も並行世界の俺……彼女と敬礼を交わしていく。

 

「じゃあな、あたし! あっちの世界のこの娘たちを頼むぞ!」

 

「お前もな! 提督としてしっかりやるんだぞ。それと……」

 

 そこまで言ってから俺は彼女の耳元で小声で言った。

 

「あいつらは男とか女とか、関係ないと思うぜ」

 

「っ……あんたなぁ……」

 

 少しだけ頬を赤らめて、彼女は照れ臭そうに笑った。

 そしてガッチリと握手を交わすと、俺達はマシンに乗り込んでいく。

 

「ばいばーい!」

 

 元気いっぱいに手を振る清霜に見守られながら、マシンは上昇を開始した。

 だんだんとこの世界の流刑鎮守府が遠ざかっていく。

 俺達は座席に座って、その景色を眺め続けていた。

 

「何だか、楽しかったね」

 

「ああ、意外と別世界の自分に会うって乙なもんだねぃ」

 

「ふふふ……でも……そろそろ私は私の提督に会いたいです」

 

「……大丈夫、きっと会えるさ」

 

 そんな事を言っているとマシンが次元移動を開始した。

 次に向かう世界が、この五月雨がいた世界だといいのだが――

 

 

 揺れる次元の海を渡るのにも、ようやく慣れてきたようだった。

 俺達はシートに座り、雑談しながらマシンと共に次の世界へと進んでいた。

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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