7月から書き始めたのに完成したら一か月経っていました
暑い季節がやってきた。
と言ってもそれは暦上の話で、我が流刑鎮守府は南方に位置する場所にあるために年中暑い。
だがやはり日本が夏という事を考えると、嫌でも蝉が鳴いている情景が思い浮かんでしまうのだ。
「あー……あちぃなぁー」
ハンカチで汗を拭いながら書類に一枚ずつサインと印を押していく。
デジタルの時代に未だにアナログな仕事が多いのは如何にもお宮仕事といった感じだが、それに安心を覚える俺も古い人間なのかもしれない。
そんな事を思いながら、秘書艦の五月雨と一緒に仕事を黙々とこなしていた時だった。
「じゃっじゃーんっ! 清霜戦艦水着!」
勢いよく執務室の扉が開き、清霜が勢いよく飛び込んできた。
しかし彼女の格好はいつもの夕雲型特有の制服とは違っている。
「パーカー……かな」
ちょっと大きめの上着に、健康的な生足。腰には爆雷5発を留めたベルトを下げている。結構、男の子の琴線をくすぐるデザインだ。
しかし普段とは違った格好だな。でも今、清霜は水着って……
「あ、清霜ちゃん。新しい水着だね」
「はい! 戦艦水着です!」
「えっと……すまん、清霜。どの辺が戦艦なんだ?」
俺がそう尋ねると、清霜は不敵にニヤリと笑った。
「ふっふっふ……くろすあうとっ!」
そして叫ぶと同時に身に着けていた上着を脱ぎ捨てた。
「どうだーっ! 戦艦!」
中から現れたのは藍色の布地に花柄をあしらった、可愛らしい水着がそこに現れた。
「おお……可愛いな。どこらへんが戦艦なのかは分からないけど……」
確かに清霜らしくて可愛らしいデザインなのだが、どこら辺が戦艦なのかは全く分からない。
「ふっふーん! それが分からないようじゃ、しれーかんもまだまだね」
「……そ、そうかあ」
よく分からまいが、本人が言うからきっと戦艦なのだろう。
俺はそのまま清霜の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「全く、清霜がいないと司令官は駄目なんだから! グレちゃんが選んでくれた戦艦水着! その魅力、たっぷり教えたげる!」
「そうか、グレカーレが発端か」
奴の考えそうなことだ……が、清霜の水着は素晴らしく可愛いので今回は許してやろう。
「しれーかん、海行きましょ! 海! 夏真っ盛り! だったら海でしょ!」
鼻息荒く言う清霜だが、前回皆で海に行ったときは溺れたり埋められたりと散々だったから、正直あまりいい印象は無い。
「皆で行って来たらどうだ? 休みは調整するからさ」
「もう、テートクったら分かってないわね! 姉さんはテートクと行きたいって言ってんの!」
すると突然グレカーレが水着姿で執務室に現れた。
鮮やかな彩のホルターネックビキニにデニム地のホットパンツという、大人っぽいデザインの水着である。
髪型も爽やかなサイドテールに結び、赤いハイビスカスをあしらった髪飾りを身に着けていた。
「おう、グレカーレ。また可愛い水着だな」
「え、そう? ぬふふふふ~もしかしてテートク、コーフンしちゃった?」
「さーて暑いから水分補給水分補給」
俺はそのまま席を立ち、食堂へ行こうとする。
「ちょ! 恥ずかしがらないで、こっち見なよ~見ろってば~」
「しれーかん! うーみ! うーみ!」
左右から絡んでくるちびっ子二人を適当に相手しながら、俺は食堂に向かう。
そして奥にある冷蔵庫を開き、中にあるキンキンに冷えた缶ビールを――
「何昼から飲もうとしているんだ、アンタは」
取ろうとして厨房担当の長月に止められた。
「いや、熱中症になっちゃ不味いから水分補給をな」
「アルコールでは熱中症対策にはならんだろ。おい、清霜。ジュースをがぶ飲みしたら駄目だ。お腹壊すし、体に悪いぞ」
「そう言えばペットボトル症候群……てのもあるんだっけ」
なんかテレビで見た気がする。
糖分の多いジュースやスポーツドリンクは下手に飲み過ぎると、体を壊しかねないらしい。
「そうよ姉さん。こんな時はジャパニーズ麦ティーを飲むのがいいって」
「グレちゃんまで……しょうがない、麦茶飲むかぁ」
「じゃあ俺も麦の飲み物を……」
「司令官。拳で伝えた方がいいか?」
長月が青筋を立てながらプルプル拳を振るわせ始めたので、俺はビールを奥にしまった。
「遠征終わり―っ……喉乾いたーってあれ、皆?」
「揃いも揃ってどうしたんでぃ?」
すると今日の遠征組である皐月と谷風がやってきた。
報告は旗艦だった暁がやっているらしい。
「実はね二人とも。かくかくしかじか」
「ふうーん、夏ねえ……確かに今年は何もしてないね」
「確かになぁ……ていうかここは年中暑いから夏らしさってもんがないねぇ」
「夏らしいって具体的にはどんな感じですか?」
グレカーレが素朴に尋ねた。よく見れば隣で清霜がうんうんと頷いている。
そうかこの子たちはここで生まれたから知識として夏を知っていても、実際の夏を知らないのか。
そう思うと不憫な気もした。
「それは……やっぱり青い空に白い雲! 蝉の鳴き声にひまわりの園!」
「海に川に、避暑地……お盆もあるねぇ」
「キンキンに冷えたビールが最高だぜ!」
「テートクのだけ、何か違わない?」
何を言う。夏の暑い日に飲む冷えた生ビールこそ、最高に美味しい生の飲み方なのだ。
冷えて結露したビールグラスに生ビールを一気に注ぎ、それを勢いよく口の中に放り込む。
乾いた喉を炭酸が潤していくと共に麦の香りと苦味が舌で踊っていく。
そしてそれを飲み切ったあとにガツンとくる喉越しと爽やかな後味……
あの美味しさを一度でも味わうと、もう病みつきなのだ……
「飲むなよ、司令官」
……長月、目ざとい女。
「でもでも流刑鎮守はいつもあっついよ? 夏とどう違うの?」
しかし漠然とした知識しかない清霜にはやっぱり理解しずらいみたいだ。
「んーと、あれだよ。自然とサザンの曲が流れてくるのが夏っていうか……」
「谷風さんはTUBEかな」
「俺はザ・ワイルドワンズの『想い出の渚』だな」
「井上陽水の『少年時代』もいいぞ」
「揃いも揃って昭和に夏を置いてきたの?」
呆れ顔のグレカーレだが日本人なら生きてれば自分の定番夏ソングが心の中にある。
でも、それも分からないよなぁ……
「あと谷風さんから言わして貰えば、夏に祭りと花火がねぇのは何とも寂しいもんだねぇ」
谷風がしみじみと言った。
確かに夏と言えば夏祭りのイメージがあるな。
「花火はともかく、祭りは流刑鎮守府じゃ無理だろう」
「……いや長月。そんなことはないよ」
すると皐月が珍しく真面目なトーンで言った。
「……やろうよお祭り」
「はあ? 何を言っているんだお前は」
「やらいでか!」
「た、谷風。お前まで……」
ノリノリで賛同した谷風に長月が少し引いている。
しかし皐月は一体どういうつもりだろうか。
「確かに大きな夏祭りは無理だけどさ! こじんまりとした奴ならここでだって出来るよ」
「そ、そうか?」
「そうさ! 日本人に生まれて祭りに参加したことが無いなんて人生損してるよ!」
「そのとーり! こりゃ可愛い後輩たちのために一肌脱がねぇとなぁ!」
イベント好きの皐月とお祭り好きな谷風が二人でどんどん盛り上がっていく。
流石に止めようかなと思ったが。
「……ふむ、祭りか。そいつはいいな」
「清霜もお祭りやりたーい!」
「まあ何事も実体験だよね」
他の皆も意外と乗り気だった。
まあ娯楽が少ないこの島だ。刺激に飢えているのだろう。
「というわけで司令官! 流刑鎮守府大納涼祭りを開催するよ!」
「勿論、いいよね?」
皐月と谷風がずいっと迫ってくる。
すぐ後ろではワクワクを隠せない清霜の姿も見えた。
「……ああ。分かった。許可しよう」
「やったーっ!」
清霜が両腕を上げて、ぴょんぴょんと跳ねた。
「そうと決まれば早速企画を練らないとね! 艦娘、全員集合!」
「祭りは準備が一番大事ってね! おおおお、江戸っ子の血が騒がぁ!」
そして皐月と谷風が勢いよく飛び出していくのである。
「……いいのか、司令官」
小声で長月が尋ねてくる。
「……まあ、どこにも連れていってやれないし。二人があそこまで張り切ってるんだ。止めないほうがいいだろう」
俺がそう言うと長月はふっと笑って、背中をポンポンと叩いてきた。
「祭りには屋台だ。とあればこの長月に任せておけ」
そう言って長月も飛び出していった二人の後を追っていくのである。
「ねえねえ、しれーかん! お祭りだって、お祭り!」
「ああ、楽しみだな」
「えへへ! 一緒にまわろうね!」
余程楽しみなのか清霜は腕をぶんぶん回して全身で喜びを表現する。
そんな義姉の様子をグレカーレは苦笑していたが、彼女もそわそわと肩を震わせていた。
グレカーレもグレカーレなりに楽しみであるみたいだ。
「さてと、じゃあ俺も決めないとな」
「は? テートクも何かすることあるの?」
「ああ……盆踊りの曲を『ドラえもん音頭』にするか『アラレちゃん音頭』にするか『おそ松くん音頭』にするか決めないと」
「いつの時代の話をしてるの?」
「え、故郷の夏祭りでは今でも流れてるはずだが……」
ちなみに俺は『キン肉マン音頭』をお祭りの実行委員に推したが却下された過去がある。
まあ何はともあれ。
流刑鎮守府の夏が始まろうとしていた。
次回へ続きます。
8月中には更新します
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい