流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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お祭り編です。
作者も地元のお祭りに行ってきました。


ナツノマボロシ

 いよいよ流刑鎮守府夏祭りの日がやってきた。

 清霜とグレカーレ以外の艦娘たちは皆、準備で大忙しだ。

 一方俺は清霜とグレカーレに祭りを案内する役割のため、彼女らと執務室で待機している。準備の役に立てなかったとも言う。

 ちなみに祭りは中庭で18時からやるらしい。

 

「じゃーん! 清霜戦艦浴衣! どうだーっ! 戦艦!」

 

 浴衣に身を包んだ清霜が嬉しそうに言った。

 水色の生地に薄紫色の朝顔模様が可愛らしい浴衣であった。

 どの辺が戦艦なのかは分からないが本人がそう言っているんだしきっと戦艦なのだろう。

 

「おー可愛いな清霜。それに上手く着こなしてる」

 

「えっへっへ~谷風さんが着付けしてくれたんだよ」

 

 そうか谷風か。あいつ、和服が好きだからこういうのも上手いんだな。

 

「テートク、あたしも着てみたよ。ほら、ひーらひら」

 

 そう言ってグレカーレは着物の袖をひらひらと振った。

 彼女が身に着けているのは所謂ミニ浴衣というやつで、白い生地に黒いフリルがついている可愛らしいデザインのモノであった。

 

「おう可愛いぞ。うん可愛い可愛い」

 

「ちょ、もっとちゃんと褒めてよ! こっち見てよ!」

 

「安心しろ、ホントに可愛いから」

 

 そう言って頭を撫でると安心したのかグレカーレは肩を撫でおろした。

 

「ねぇねぇ! 二人共、早く行こうよ! お囃子が聞こえてるよ!」

 

 清霜がクイクイ袖を引くので、俺とグレカーレは執務室から出て中庭へと向かった。

 

「うお……」

 

 扉を出て外に出た瞬間、思わずそんな声が漏れた。

 提灯がいくつも飾り付けられ、少数だが屋台が並び、聞こえてくるお囃子のBGMと本格的にお祭りを再現している。

 

「すごい! お祭りだよ、グレちゃん!」

 

「うん……すご……」

 

 清霜ははしゃぎ、グレカーレはお祭りの雰囲気に呑まれてしまったいるようだ。

 だが俺も思った以上のクオリティに結構驚いていた。そんな俺達の元に法被を着た谷風が駆け寄ってくる。

 

「おうおう、どうでぃ皆の衆! 谷風さんプロディースの流刑鎮守府祭りはよぅ!」

 

「おうおう、最高だぜ谷風! この島でこんなに本格的な祭りが見れるなんてよぉ!」

 

 谷風をがしがし撫でると彼女は照れ臭そうに笑った。

 だがこの完成度のモノをプロデュースしたと思えば、素直に凄いと思わざるを得ない。

 

「この出店達は谷風さん達が全部、用意したんですか?」

 

「あたぼうよ! 皆が色んな店を出してるから、楽しんで行きな」

 

「ねえねえ谷風さん! リンゴ飴あるかな?」

 

「よっしゃ、じゃあまずは食い物だな!」

 

 谷風は大きく頷くとお祭りの喧騒の中へと進んでいく。

 その後ろを清霜がぴったり付いていき、その後に俺とグレカーレが続いた。

 

「お菓子はここだぜ、暁!」

 

「はーいっ! 清霜、グレカーレ! お姉様のお店にようこそ!」

 

 暁の出している出店はお祭りの定番のお菓子を集めたような内容であった。

 流刑鎮守府のメンバーは少ないので、こういう風に幾つかの店を兼用しているのだろう。

 リンゴ飴にわたあめ、かき氷など見ているだけでワクワクするようなラインナップだ。

 傍らには冷えた飲み物が入ったクーラーボックスも置いてある。

 

「お姉様! 清霜、リンゴ飴欲しい!」

 

「リンゴ飴ね! オーケーよ!」

 

 暁は可愛らしく梱包されたリンゴ飴を清霜に差し出した。

 独特の形をしたルビー色の綺麗な見た目に清霜は頬を緩ませつつ、包み紙を外していく。

 そして露になった本体をぺろりと舐めると、ぱぁっと花が咲いたように笑うのである。

 

「んん~っ! おいしいっ!」

 

「本当! よかった!」

 

 嬉しそうにリンゴ飴をぺろぺろする義妹に目を細める暁。何とも微笑ましい光景である。

 

「姉さん、あたしはわたあめが食べてみたいな」

 

「分かったわ! 作ってあげるから待ってなさい!」

 

 暁はすぐにわたあめの準備を始めた。

 結構面倒見がいいな……と思いながら見ていたが、暁は割りばしにわたあめを絡ませようとして苦戦しているようだ。

 

「むうう……難しいわね」

 

 渋面を作りながら何とか出来上がったわたあめは、あんまりふわふわしていない細長いモノだった。

 それを暁は無言で俺に渡してくる。処理しろという事だろうか。

 

「わたあめはコツがいるからねぇ。貸してみな」

 

 すると見かねた谷風が新しくわたあめを作り始めた。

 自分から代役を言い出しただけあって、谷風は真ん丸でふわふわの雲のようなわたがしを作り、グレカーレに手渡した。

 

「ほい一丁あがり!」

 

「わぁ、ありがとうございます」

 

「うううう……」

 

「お姉様、清霜はお姉様のわたあめも好きだよ」

 

「姉さん、あたしも作ってくれたのは嬉しかったから」

 

 暁をちゃんと慰める妹達は優しい子だと思う。

 なんだかんだでちゃんと三姉妹として仲良くなっているなぁ。

 

「暁、俺にはかき氷を貰おうかな」

 

「え、あ、分かったわ! 待っててね!」

 

 暁は機嫌を持ち直してそのままかき氷をガリガリと作り始めた。

 『氷』と書かれた紙コップに白い碓氷が降り落ちていく。これもまた夏の光景の一つだろう。

 

「司令官、シロップは何がいい? ちなみに暁はイチゴ一択よ!」

 

「谷風さんはみぞれかねぇ」

 

「どちらも上手いが俺は今回これを貰おう」

 

 そう言ってから俺はクーラーボックスの中から冷えた缶ビールを取り出していく。

 

「げげっ……テートク正気? かき氷にビールは無いんじゃない?」

 

「ふっふっふ……前にルパンがやっていたのを見た時から一度やってみたかったんだ」

 

「ああ……炎の記憶の……」

 

 谷風が例のシーンを思い出す傍ら、俺は氷の上へ黄金の滝を振り落としていく。

 しゅわしゅわという音と共に氷が解けていき、白い泡と薄くなった金色の氷山が出来上がった。

 俺はそのままそこにスプーン上のストローを差し込むと、そのまま口に入れていく。

 冷たい感覚と同時にビールの苦味が……苦味が……

 

「…………」

 

「思ったような味じゃなかったみたいだね」

 

「司令官。食べ物を粗末にしちゃ駄目よ」

 

「う、うう……」

 

 普通に薄まったビールだ。正直美味しくない……でもやってしまったモノはしょうがないから、ちゃんと食べないと……

 

「さ、二人にはミニかき氷よ。シロップは何がいい?」

 

「清霜、ブルーハワイ!」

 

「あたしはレモンかなー」

 

 三姉妹がワイワイかき氷を堪能する端で、俺は残念ビールかき氷を頬張り続けることになった。

 

「うう、頭が痛ぇ……」

 

「しれーかん、大丈夫?」

 

「ああ、何とか……」

 

「ほい、提督。差し入れだ」

 

「おお、生ビール」

 

 プラスチックの使い捨てコップに注がれたビールを谷風が渡してきた。

 程よく冷えているそれを俺は一気に呷っていく。

 

「うーむ、祭りのビールと言えばこれだ! うめーっ!」

 

「テートク……本当に単純だね……」

 

 呆れ顔で言うグレカーレだが、こういう場所で飲むビールは最高に旨いのだ。

 

「さあ腹を膨らましたら遊びだよ! まずはボールすくい!」

 

「いらっしゃい」

 

 不知火が無表情で迎えてくれた。

 だがちゃんと法被を着ているあたり、不知火もまぁまぁノッているのだろう。

 

「金魚すくいじゃなんだな」

 

「金魚は生き物なので、輸送が難しいですからね。その後の処理も大変ですし……」

 

「あんまり考えないでおこう……」

 

 お祭りも後に余った金魚たちがどうなるか。子供の時はよく考えたものだが……

 

「ねえ司令官、グレちゃん! 折角だし、勝負しようよ!」

 

「お、いいなぁ。俺もボールすくいなんて久しぶりだし」

 

「じゃあ何か賭ける? 折角の勝負なんだし、ここは負けた方が勝った人の言う事を何でもきくってのはぶべべべっ!」

 

「お祭りで破廉恥な行為は駄目よグレカーレ」

 

 不知火に頬を抓られるグレカーレを尻目に俺と清霜はポイを受け取っていく。

 

「司令官! 清霜は純粋に勝負したいな」

 

「おう。受けて立つぜ」

 

 清霜は不敵に笑うと浴衣の袖をまくり上げた。

 俺もにやりと笑い、そのまま一気に水面にポイを入れて――

 

「え、もう破れ……」

 

 すぐに破れてしまった……敗れてしまった。

 

「し、司令官……」

 

「テートク運動神経無いから、無理でしょ」

 

「これって運動神経関係あるか?」

 

「でも反射神経とか重要じゃない?」

 

「むむむ……確かに」

 

 清霜とグレカーレはコツをすぐに掴んだのか、どんどんボールを掬い上げていく。

 二人の腕は互角で、正に一進一退の攻防戦を繰り広げていた。

 

「むむむ、やるねグレちゃん!」

 

「姉さんだって! 喧嘩に手加減は無しだよ!」

 

 もはや俺のことなど忘却の彼方のようだった。

 しかしこういう一面を見ると清霜はともかく、グレカーレもまだなんだかんだいっても子供なのだなぁと思ってしまう。

 いつもは変に大人ぶっているが、やっぱりこういう時の無邪気な笑顔が子供にはよく似合う。

 彼女たちが楽しく過ごせる日々こそ、俺達が守っていかなければならないモノだと、自然に思えてしまうのだ。

 そんなことを考えていると、勝負は決まったようである。

 一気に勝負を決めようと清霜は普通のボールより二回り大きいモノを掬おうとして、ポイが破れてしまったのだ。

 こうしてボールすくい対決は最年少グレカーレの勝利で幕を閉じた。

 

「えっへっへ~不知火さんに水笛貰っちゃった♪」

 

 よく祭りの出店で売っている水笛を景品として貰ったグレカーレは、嬉しそうにそれを吹いた。

 ぴーんひょろーと独特の音が奏でられ、それを聞いた清霜が面白そうに笑う。

 あったなあ水笛。昔、親にねだって買って貰ったものだ。

 お祭りのときは出店に並んであるものが何もかも輝いて見える。

 後から冷静になって『なんだこれは』と思ってしまうモノも多いが、それを気にしなくさせるのがお祭りのパワーというものだ。

 

「という訳では次はお面屋でぃ! お祭りと言えばお面よ!」

 

 そしてお祭りパワーで欲しくなる玩具筆頭の屋台が現れた。

 様々な種類のお面が綺麗に並べられた外観は、正にお祭りって感じだ。

 

「えへへへへ、いらっしゃいませ」

 

 すると中から五月雨がひょこっと顔を出してきた。

 何故かひょっとこのお面を頭に付けている。

 でもそのアンマッチ感が何だか可愛らしかった。

 

「五月雨さんがお面屋さんなんだ」

 

「うん。頑張って色々なお面を集めたよ」

 

 そう言って五月雨は色とりどりのお面を見せてくる。

 五月雨も被っているひょっとこを始め、鬼やキツネといった定番モノから、戦隊ヒーローやプリキュアといった子供向けのモノまでいっぱいある。あるのだが……

 

「五月雨さん、このライダー二年前のだよ」

 

「そんなこと言ったらこのプリキュアなんて5年前だよ姉さん」

 

「おい、コレ……ジェットマン……」

 

「う、ううう……最新のは高くて……」

 

「……ま、まあ『何で今更』って感じのお面が並んでることもあるもんな」

 

 それもまた祭りの醍醐味であった。

 

「あっ、大和お姉様のお面! 清霜、コレにする!」

 

「へえ、艦娘もお面になってるのか」

 

 まあ国の英雄だし、お面になってもおかしくは無いか。

 実在の人物がモデルなだけあって見た目はイマイチ再現出来ていないが、清霜は嬉しそうにそれを被っていた。

 

「あたしはこのキツネ貰いまーす。ジャパンのお祭りっぽくていい感じ♪」

 

 グレカーレが選んだのは白い狐のお面だった。彼女が着ているミニ浴衣と色同じで、よく似合っている。

 

「提督も何かいりますか?」

 

「うーん、俺はこのレッドホークを貰おうかな」

 

 もう二度と会えそうにないし。

 

「えへへ、ありがとうございます♪」

 

 五月雨はぺこりと頭を下げて俺達を見送った。

 何だか駄菓子屋のおばあちゃんみたいな佇まいだったな。

 

「さてと、次の出店はねぇ……」

 

「じゃっじゃじゃーん! ボクの射的屋さんだよ!」

 

 元気よく現れたのは法被姿の皐月だった。

 そして彼女の後ろには様々な景品が棚に並んだ出店が見える。

 

「おお、射的か。久しぶりに見るな」

 

「ふっふーん、そうでしょそうでしょ! やっぱりお祭りといったらこういうゲームだよね」

 

 そう言いながら皐月は射的で使う銃を三つ持ってきた。

 弾は5発。一応弾の数の制限はあるらしい。

 

「あ、景品凄い! ニンテンドーswitchがあるよ!」

 

「ホントだ。結構豪華なラインナップだね」

 

 清霜とグレカーレが言う通り、皐月の射的屋の景品はかなり豪華だった。

 最新のゲームに玩具、高そうなお菓子の箱まで……

 

「お、おい大丈夫か皐月。景品の総額結構いきそうだぞ」

 

 そもそも今回のお祭りは身内でやるため、料金はとっていない。

 だからこそ少ない予算でやっているのだが、それにしても高いモノがいっぱいだから心配になる。

 

「大丈夫大丈夫。そんな簡単に取れないから」

 

「いやまあ……実際の出店ならそうかもしれんが……」

 

 そんなことを言っていると清霜とグレカーレは早速、銃口を景品に向けて弾を放ち始めた。

 だがいつもの艤装と勝手が違うのか上手く景品に当てられずにいた。

 

「むー難しい……しれーかんもやってみて」

 

 清霜に銃をパスされる。

 うーむ、昔地元のお祭りでやったことを思い出しながら照準を景品に合わせてみる。

 まず一発。

 景品までは届かずに途中で落ちた。

 ふむふむ飛距離と威力はこのくらいか。

 ならば角度を微調整して……と。

 

「それっ!」

 

 それは確実に真っすぐ景品に向かって飛んで行った。

 ターゲットは端の方にあるクマのぬいぐるみだ。

 女の子受けのよさそうな景品を選んだのだが、軽そうで弾が当たれば簡単に倒れそうという理由もあった。

 そして俺の放った銃弾はぬいぐるみに見事命中する! 

 が、弾の当たった景品は微動だにせず、そのまま棚の上に鎮座していた。

 

「うそっ! ちゃんと当たったのに!」

 

 清霜が困惑して叫ぶが、俺はそのまま皐月の方に疑いの目を向けた。

 

「……皐月さん」

 

 グレカーレも同じ気持ちなのか、ジト目で皐月の方を見ている。

 だが当の皐月は飄々とした態度で、俺達と応対しているのだ。

 

「どーしたの二人とも。ボクの顔に何かついてる?」

 

「いや……これおかしくないか?」

 

「え、どこが?」

 

 あくまでシラを切り通す気らしい。いや実際に不正を行っているかはまだ分からないしな。

 

「司令、貸して下さい」

 

 そんな時、突然現れたのはボールすくい担当の不知火だった。

 腕をまくり、いかにもやる気といった感じだ。

 

「不知火さん、どーする気?」

 

「まあ見てなさいグレカーレ」

 

 それだけ言ううと不知火は怜悧な瞳でターゲットである景品を見据え、そのまま銃を構えていく。

 何だか妙に堂に入っている構えだ。 

 

「ふふふ、いくら不知火でもそんなに簡単には――」

 

 皐月が全てを言い終わる前に不知火は弾を放った。

 放たれた弾丸はそのまま真っすぐとぬいぐるみへと飛び、見事に命中した。

 

「ああああっ!? そんな!?」

 

 そしてぬいぐるみはそのまま後ろへと倒れたのである。

 その様子を皐月は驚愕の表情で見つめていた。

 

「清霜」

 

「わぁ! ありがとう不知火さん!」

 

 落とした景品を不知火は拾い上げると、そのまま不知火へと手渡した。

 

「そ、そんな……嘘だ……ありえない」

 

 ワナワナと肩を震えわせながら皐月は狼狽していた。

 そんな彼女を尻目に不知火はさらに銃口を他の景品へと向けていく。

 間髪入れず第二弾、第三弾と放たれた弾丸は全て景品に命中し、そのまま後ろへと倒れていった。

 

「すごい! 百発百中!」

 

「bravo! さっすが不知火さん!」

 

「ふふ、日頃のご指導ご鞭撻あってこそよ」

 

 幼い二人は拍手喝采だが、皐月の顔は見る見る青ざめていくのである。

 

「お、おかしい……おかしいよ! ちゃんと細工して置いたのに!」

 

「へえ、そうなのか皐月」

 

「うう……景品全部ボクのモノになる予定だっ……あ」

 

 口を滑らせた皐月の肩を俺はポンと叩いた。

 

「……不知火、この子を頼む」

 

「はい。ほら、行くわよ皐月」

 

「ちょ……冗談だよ~イッツお祭りジョークだって~」

 

 皐月は不知火にズルズルと引き摺られていった。

 お祭りの屋台に不正があるかないかはデリケートでグレーな話だが、ああまであからさまだと流石に看過できない。

 

「えへへ~ぬいぐるみ可愛いね!」

 

「これはキャラメルかしら……んんん~甘い!」

 

 景品を手に入れた二人の喜んでいるし良しとしよう。

 そんな時、どこからかソースのよい香りが漂ってきた。

 

「さあさあ! いよいよ祭りの大本命! 屋台飯の登場だよ!」

 

 谷風が示した先には一際大きな屋台が鎮座している。

 その中からはもうもうと煙が上がり、何ともまあ美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐってきた。

 

「へいらっしゃい! ふふふ、一度言ってみたかった」

 

 中にいたのは長月だった。

 緑色の長い髪を纏めてバンダナと手ぬぐいを纏っている。

 彼女は鉄板の腕の上に大盛りの焼きそばを作り上げていた。さらによく見れば半分、お好み焼きまで作っている。

 

「あ、五月雨さんもいる」

 

「えへへ、いらっしゃい」

 

「お姉様も!」

 

「ふっふっふ、一流のレディーはお菓子だけでなく料理も出来るのよ!」

 

 よく見れば五月雨に暁もいる。

 最初の方の出店で役目を終えたから手伝いに来たようだった。

 五月雨はたこ焼きを作っているようで、頑張って丸いたこ焼きをひっくり返している。

 数個に一回はぐちゃっと崩しているのはご愛敬だ。

 料理が出来ない暁は盛り付け担当のようで、完成した料理をパックによそっている。

 

「はい、焼きそば! どうぞ!」

 

「わーい、ありがとうお姉様!」

 

「グレカーレにはたこ焼きね」

 

「へえこれがたこ焼き……あっつ!」

 

「気をつけて食えよ」

 

 長月はグレカーレに注意しながら俺にお好み焼きをよそおってくれた。

 

「ありがとう長月」

 

「かまわんさ。食え食え」

 

 俺はさっそく長月のお好み焼きに箸を伸ばした。

 関西風と広島風があるが、焼きそばと一緒に作りやすいからか広島のお好み焼きだった。

 

「うん、旨い。ソースの味が効いている」

 

 柔らかい生地の下に大きめに切られた豚肉と焼きそばが絡まって、大変ボリューミーだ。

 熱々なそれらを俺は思いっきり咀嚼すると、そのまま一気にビールを飲み干していく。

 

「かぁーっ! 最高!」

 

「いい飲みっぷりだねぇ、提督。ほい、お代わり」

 

「サンキュー! やっぱり外で飲む酒はうめえな」

 

 しかし粉モノとビールの相性はいい。

 しかも出来立て熱々となれば余計にである。

 

「……ねえテートク、たこ焼きも食べる?」

 

「お、いいね。貰おうか」

 

「そう、えへへ……はい、あーん」

 

 グレカーレはたこ焼きを一つ爪楊枝で刺すと、俺の口元まで持ってきてくれた。

 

「あむっ……おい、これも美味」

 

「でしょでしょ♪ やっぱり五月雨さんも料理上手いよね~♪」

 

 余程たこ焼きがおいしかったのか、グレカーレはにっこにこで答えた。

 

「焼きそばも美味しいよ、しれーかん! はい、あーん!」

 

 さらに清霜も焼きそばを分けてくれる。

 こちらはお好み焼きの焼きそばより濃い味付けで作っているようだ。

 ビールには濃い味が上手い。俺はすぐにおかわりで注がれたビールを飲み干した。

 

「ちょっと二人とも……」

 

「まあ暁。今日はお祭りだ。あれくらい許してやれ」

 

 厨房で暁がむくれている。お腹が空いたのに、俺達が食べているからだろうか。

 

「今日は祭りで無礼講さ! ここいらで全員乾杯といこうかい!」

 

 谷風が人数分のビールとラムネを持ってきた。

 長月たちも料理をいっぱい持ってきてくれる。

 不知火と皐月も戻ってきた。

 

「さぁさぁ、皆! 祭りだワッショイ!」

 

『かんぱーい!』

 

 ビールの入ったコップとラムネが一つに重なった。

 そして定番の屋台飯を皆で摘まむのである。

 

「司令官、マヨネーズ頂戴! ボクは焼きそばにマヨネーズ派なの!」

 

「あら、このたこ焼きふわふわで美味しいわね」

 

「えへへ、カリカリもいいけどふわふわもいいよね」

 

「二人とも、まだお菓子も残っているわよ!」

 

 皆、思い思いに舌鼓を打っている。

 やっぱりでこうやって大勢の人でワイワイするのも祭りの醍醐味だなぁ。

 というかやっぱり仲良い皆同士でお祭りに行くから楽しいのだ。

 それを今更ながら実感してしまう。

 

「さーてと、じゃあ最後にとっておきの一発をお見せしようじゃないか」

 

 そんな時、谷風が持ってきたのは簡易的な打ち上げ花火であった。

 お祭りといえば花火。しかも線香花火ではなく、派手な打ち上げ花火だ。

 谷風はそのまま導火線に火をつけた。

 

「おおお~」

 

 だんだん短くなっていく導火線と火花に清霜は興味津々のようだった。

 そして遂に火は根元まで辿り着き……

 

 ――ドンっ!!

 

 小気味いい音と共に、空に大輪の花が……というには些か小さいが色鮮やかな花火が咲いた。

 

「おおーっ」

 

「綺麗……」

 

 花火を始めて見た清霜とグレカーレが感嘆の声を上げる。

 空を見上げてその様を見つめる様子は何だか幻想的だった。

 

「これが……夏なんだよね」

 

「うん、日本の夏だね」

 

 雰囲気だけだが何となく分かってくれたようだ。

 俺は持っていたビールをグイっと呷った。

 

「打ち上げ花火はもう終わりだが、線香花火ならあるよ!」

 

「お菓子もまだまだあるわ!」

 

「よーし今日は飲み明かそうぜ」

 

 祭りの終わりとはいつなのか。

 それはこの熱気が無くなった時だろう。

 ならばそれが続く限り、騒ぐのが祭りの醍醐味というものだ。

 

「しれーかん、またお祭りしたいね!」

 

「ああ、そうだな」

 

「いつか本場のジャパニーズカーニバルにも参加しないとね」

 

「おう、きっと行こうな」

 

 清霜とグレカーレもいつか本土のお祭りに連れて行ってあげよう。

 その時は勿論、皆も一緒だ。

 こうして流刑鎮守府の夏もゆっくりと終わろうとしている。

 まもなく秋の風が吹いてくることだろう。

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

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