流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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遅くなって申し訳ありません……

これで改二関係の話は終わりです……


時の流れに身をまかせ

 暑い季節になってきた。

 本土では梅雨が明けていよいよ夏が来ると言われているらしいが、我が流刑鎮守府は気候的に、いつも夏っぽい。

 しかしそれでも7月になると、日本人の本能からか暑く感じてしまうのである。

 

「提督。コーヒーをお持ちしました」

 

 そんな時は、五月雨の煎れてくれるアイスコーヒーが有難い。

 いつもは温めのホットだが、7・8月は氷の入ったグラスで持って来てくれるのだ。

 

「ありがとう、五月雨」

 

「いえいえ! 秘書艦として当然の事ですから!」

 

 むふーっ、と息を吐く五月雨。

 その表情はどこか自身に満ち溢れている。

 いや、表情だけでない。

 

「……なぁ、五月雨。その恰好はどうしたんだ」

 

 五月雨はいつもの制服では無く、スーツ姿であった。

 しかもピッチリとした黒いスーツ。

 ボタンもキッチリと嵌め、ストッキングにパンプスと如何にも出来る女性秘書艦といった佇まいだ。

 

「ふっふっふ、五月雨は秘書艦としてさらに成長したのです! これで提督のサポートはバッチリです!」

 

 再び、五月雨は得意げにむふーっと息を吐いた。

 眼鏡をクイっと上げる様子も様になっている。

 

「……暑い日が続いたからかな」

 

「ふぁっ……な、なんですかっ」

 

 五月雨の額に手を当ててみたが、特に熱くはない。どうやら平熱のようだ。

 

「いきなりどうしたんだ、五月雨。イメチェンか?」

 

「はい! 五月雨は流刑鎮守府専属秘書艦として覚醒しました! これから提督のサポートはこの五月雨にお任せください!」

 

「そ、そうか……」

 

「はい! もうドジなんてしたりしません!」

 

 五月雨が言うとフラグにしか聞こえない……

 

「でも何でいきなりイメチェンしようと思ったんだ?」

 

「え、えーと、それはですね……」

 

 もにょもにょと言葉を濁す五月雨の様は、早くも『出来る秘書艦』の面目が怪しくなってくる。

 しかし可愛い事は可愛いのだが、やっぱりあんまり雰囲気にあっていないような気がするんだよなぁ。

 

「あと、夏は五月雨の涼しそうな制服が良かったんだけど、少し残念だ」

 

 青い髪に白いセーラー服の五月雨って色合い的に、涼しく見えちゃうのだ。

 

「っ……す、すぐに着替えてきますねっ! あ、ああっ!?」

 

「お、おい、落ち着け!」

 

 俺の言葉を聞いてクルリと踵を返して走ろうとした矢先、五月雨は躓いた。

 咄嗟に俺が身体を支えたのでそのまま転倒する事は防いだが、やっぱりドジっ子だなぁ……

 

「大丈夫か?」

 

「う、うう……情けないです……」

 

 涙目でそう言う彼女の肩をポンポンと叩いて慰める。

 何だか妙に張り切って空回ってる。

 そんな印象だった。

 俺は五月雨をそのまま送り出す。

 すると同時に背中から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「テートクー。もうちょっとデリカシーある発言した方がいいんじゃない?」

 

 本日非番のグレカーレだった。

 姉貴分二人が遠征に出て暇なのか、執務室のソファーでゲームをしていたのである。

 

「いきなりそんな事、言われてもな……」

 

「もー。女の子が突然イメチェンするってことは何かあったってコトなの! そして何でイメチェンしたのか、男の人に聞いて欲しい時なんだよ」

 

「そ、そうか」

 

「戻ってきたら、ちゃんとフォローするんだよ」

 

「お、おう……」

 

 釈然としない物を感じつつも、俺は頷いた。

 やがていつもの制服姿に戻った五月雨が、パタパタ足音をさせながら戻ってきた。

 

「お、お待たせしました! 五月雨、涼しい格好で戻りました!」

 

「あ、ああ……」

 

 息を切らせながら五月雨は敬礼をする。

 かなり急いで着替えて、ここまで走ってきたようだ。

 

「す、すまないな、五月雨。無理言って」

 

「いえいえ! 提督のご意思に従うのが、秘書艦の務めですから!」

 

「ああ、うん。でもいつもの格好もいいけど、さっきのスーツも似合ってたぞ」

 

「え……ええっ……、ありがとうございます……」

 

 褒められて嬉しかったのか、五月雨は頬を紅くして照れた。

 出来る秘書艦としての五月雨も魅力的だが、こういった純朴な表情が彼女らしくていいな。

 しかし何でイメチェンなんて……あ……

 

「もしかして、改二か?」

 

「はうっ!?」

 

 五月雨が胸を抑えて、身を捩った。

 

「テートク、もっとオブラートに言ったほうが良いよ」」

 

「す、すまん……」

 

 グレカーレがむにゅっと頬を抓った。

 でも確かに五月雨と長月、グレカーレ以外の艦娘は改二もしくはそれに準ずる姿になっているのだ。

 五月雨が疎外感を感じ、変な方向に暴走してしまったのも致し方ないだろう。

 

「……まぁ、気にするな五月雨。改二だろうとなかろうと、五月雨は俺にとって大切な部下だ。今のままでも充分、魅力的だよ」

 

「うう……あ、ありがとうございます……」

 

 彼女を慰めるべく、小さな肩をポンポンと叩いた。

 五月雨はようやく落ち着いたのか、そのままぎゅっと抱き着いてくる。

 改二になった皆の姿に焦ったのだろうな……と思った俺は五月雨の背中を出来るだけ優しく擦った。

 

「……テートクさぁ……それ、計算して言ってる?」

 

「え、何がだ」

 

「……天然かぁ……」

 

 グレカーレはなにやら複雑そうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの顔に戻って俺と背中をツンツンと小突いた。

 

「でもさー。アタシたちっていつ改二になれるのかな? いつまでも改のままじゃ、つまんないよ」

 

「うーん。それは俺に言うよりもっと上の方々に言わないとな……」

 

 俺や皆がどんなに望もうとも、無理なモノは無理なのだ。

 

「それに、まだ改二のビジョンが見えないということはな、どんな改二の姿になれるかワクワクしながら想像できるわけだ」

 

「そんなもんかなぁ」

 

「何を言っている。パワーアップした姿を妄想するのは、皆大好きだろう。俺も子供の頃はウルトラマンやライダーの新フォームを妄想したものだ」

 

「男の子と女の子は違うよ、テートク」

 

 ジト目でグレカーレが言った。

 女の子って、そういう想像しないのかなぁ……プリキュアとか変身ヒロインモノがあるんだし、そういった想像もしそうなものだけど。

 

「私は白露ちゃん達がもう改二になっているので、あんな感じになるんですかね?」

 

「あー。でも白露型の中でも五月雨の制服って特殊だしなぁ」

 

 白露型の制服って基本黒いイメージがあるし、江風改二みたいに黒色の装飾が増えるってイメージもある。

 対して五月雨の制服は白を基調としたセーラー服っぽい制服だ。

 姉や妹達と比べると、中々想像がしにくい。

 

「でも白から黒なんてカッコいいじゃん!」

 

「うお、皐月いつの間に……」

 

 気が付くと、皐月が執務室に入ってきていた。

 今日は遠征組なのでドラム缶を抱えている。後ろには同じくドラム缶を持った暁と清霜がついてきていた。

 

「今までカワイイ制服だった五月雨が改二で一転! 漆黒の羽衣を身に纏った白露型の戦士になるんだよ」

 

「うわーかっこいー!」

 

 そんな五月雨改二(仮)を想像したのか清霜が、目をキラキラさせながら言った。

 まあ武蔵さんも黒い制服のイメージだし、好きな色なんだろう。

 

「……確かに、ティガダークやクウガのアルティメットフォームみたいに黒い変身はカッコいいしな……」

 

「古いよ司令官。あとなんで他の艦娘を例に出さないの」

 

「江風さんとか吹雪さんとか色々いるじゃない。そーいう所よ」

 

 皐月と暁に何故か駄目だしされた。

 でもしょうがないじゃないか……多感な時期に黒いタイプチェンジは劇薬なんだよ……

 

「うーん、でも黒い制服は着た事ないなぁ……」

 

「確かに五月雨さんに黒ってイメージ無いよね」

 

 五月雨も一応、黒い手袋とソックスがあるんだが、何分白い制服のイメージが強いからな……」

 

「あ、あとはやっぱり胸部装甲でしょ! 清霜姉さんみたいにおっきくなるかも!」

 

「えっへん! きょにゅーっ!」

 

 グレカーレが衣服の話から胸の話に移した。

 そして義妹からのパスに義姉は思いっきり上体を反らせて、胸を強調するのである。

 ……うん。確かに清霜改二の胸は大きくなったけど、そのポーズだとあんまり色っぽく無いな。

 

「確かに五十鈴さんみたいに改二になって胸が盛られる事はあるよね」

 

「白露型も夕立さんや村雨さんは改二でおっきくなってるわ」

 

 皐月と暁もうんうん頷いていた。

 そうか……巨乳化……五月雨が巨乳化か……

 

「ふえっ……さ、五月雨の胸がおっきく……えへへ……て、提督はどう思いますか?」

 

 想像して嬉しくなったのか、五月雨はチラッと俺の方を見て尋ねた。

 正直あんまりイメージは出来ないが……

 

「うーん。まあ皐月や暁や不知火みたいな寸胴ぺったんのままでいる位なら、おっきくなった方が見栄えはぐふっ!?」

 

「この屑!」

 

「しれいかんのばかーっ!」

 

 最後まで言い切る前に皐月に殴られた。暁にも殴られた。

 

「皆、お仕置きの準備は出来ているわ。いつでも大丈夫よ」

 

「うお、不知火さん、いつの間に……」

 

 さらに演習組で今は海上にいるはずの不知火も、ここへやってきていた。

 驚く俺を皐月と暁が縄でぐるぐる巻きにして、そのまま運んでいこうとする。

 

「ま、待ちねえ皆。確かに提督の失言かもしれねぇが、ちょっと乱暴すぎるぜ」

 

 不知火の後を追いかけて来たのか、谷風が執務室に入って言った。

 

「そうよ、お姉様。司令官はおバカさんだけど、少し可哀そうよ」

 

 清霜も助け船を出してくれる。

 しかし。

 

「改二でおっぱい成長した勢は黙っててよ! こちとらぺったんのままなんだよ!」

 

「そうよ清霜! 妹なのにお姉様より大きいなんて、悔しいんだから!」

 

「同じ陽炎型でこの仕打ち。天を恨み、その鬱憤を司令に晴らします」

 

「……皆、思う事あったんだなぁ……」

 

 グレカーレがしみじみと言った。

 

「ま、待ってくれ……まだ改三という可能性だってあるだろう……」

 

「何時になるんだよ! 気休めはやめてよね!」

 

 俺の必死のフォローも皆には逆効果だったようで、激怒した皐月によって俺はそのまま連行されようとしていた。

 

「さ、五月雨っ……」

 

「……申し訳ありません、提督。五月雨は皆を止めることが出来ません……」

 

 哀し気な視線を向けながら五月雨は静かに敬礼した。

 だがその表情も部屋から出され扉が閉まると見えなくなった。

 直後、視界を黒い布が覆い、そこから俺の意識は途絶えた。

 

 …

 ……

 ………

 

「ってなことがあったんだよ……」

 

「それはあんたが悪いな。デリカシーの欠片も無い」

 

 夜。

 俺は執務室で長月相手に愚痴を零していた。

 だが彼女の言う通り、原因は俺の失言なのでそれ以上は何も言えない。

 代わりに酒を呷るだけだった。

 

「なあ……長月も改二になりたいって、やっぱり思うのか?」

 

「……まぁ、人並みにな」

 

 長月も杯を呷る。

 今日は暑いからお互いに瓶ビールをグラスで分け合って飲んでいた。

 

「恐らく皐月や文月のような姿だろうなとは思っている」

 

「ああ……まあ、そうなるだろうな」

 

 長月は五月雨と違って、想像がしやすいな。

 

「まぁ、皐月や文月と同じとなると、司令官のお望みである胸は大きくならんな」

 

「……おい、俺を胸にしか興味の無いような男みたいにいうなよ」

 

「違うのか?」

 

「…………」

 

「せめて否定しろ馬鹿」

 

 長月は苦笑した。

 

「……逆に聞くが司令官は私や五月雨が改二になって欲しいと思う事はあるのか?」

 

「……うーん。興味が無いと言えば嘘になるな」

 

 実際にどんなビジュアルになるのかは気になるしな。

 

「でも……例えばU-511みたいに外見がガラッと変わったら驚くしなぁ」

 

「ああ……確かに私達艦娘は外見がほとんど変わらないからな」

 

 そう言われ思わず俺は長月をじっと見てしまう。

 外見は可愛らしい少女だ。

 俺がこの鎮守府に来てからずっと変わらない。

 しかし時は確実に進んでいるのだ。

 

「俺と違って艦娘は見た目が変わらないからな。そこは羨ましい。目に見えて歳をとっていくからな」

 

「ふふ、もうすぐ三十路だぞ」

 

「うるせ」

 

 毒づいたが確かに俺だけどんどん年を取っていくっていうのは、ちょっと嫌だな……

 いやもしかしたら艦娘もある程度、年月が経過したら成長するのかもしれないけど。

 

「……何、安心しろ。司令官がおじいちゃんになっても、私達はあんたの部下だ。それは変わらない」

 

「…………そうか。ありがとな」

 

 俺は以前に考えたことがった。

 この鎮守府で俺だけが年老いていき、皆とどんどん価値観が合わなくなっていく。

 やがて俺が衰えた時、皆はどうなっているのだろう、と。

 

「少し心が楽になった。ありがとな、長月」

 

「ああ、構わんさ」

 

 再びグラスを重ねていく。

 そうだ。

 今は目の前の皆と思いっきり楽しもう。

 後になって、悔いのない生活を送ろう。

 俺はそう思い、ビールを一気に喉へ流し込んでいく。

 季節は真夏へと差し掛かろうとしていた。

 

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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