本年も『流刑鎮守府異常なし』をよろしくお願いします!
……すいません、気がついたら2月でした……この話書いてた時は12月だったのに……
その日、俺はいつものように執務室でデスクワークに勤しんでいた。
遠征は皐月・不知火・谷風。
演習は暁・清霜・グレカーレが行っている。
長月は昼食の仕込み。五月雨は秘書艦として一緒に仕事をしていたのだが……
「今日の仕事、これで終わりだな……」
「はい……みたいですね……」
思った以上に早く本日の業務が片付いてしまった。
勿論、遠征や演習が終わったら、その報告書を作らないといけないのだが……
「それ以外は何も無いなぁ……」
「ですねぇ……」
俺と五月雨は二人で、そう言ってソファーに腰を降ろしていた。
元々僻地故、そんなに仕事量は無いのだが、こんなに早くノルマが終わるなんて今まで無かったのだ。
「……お茶入れましょうか」
「おお、すまん。頼む」
五月雨が立ち上がって言った。何だか気を使わせたみたいで悪いな……
「コーヒーでいいですか?」
「ああいつもので」
俺は珈琲はブラックが好きだ。
その点は五月雨もよく理解している。
ちなみに五月雨は砂糖ミルクマシマシで甘ったるいのを好んだ。
暫くして、二つのコーヒーカップを乗せたお盆を持って五月雨が現れた。
それをテーブルに置くと五月雨は人差し指を立てて、口元でしーっと小さい声を出して、もう一つお盆を持ってくる。
「前に貰ったものなんですが、二つしか無かったので」
悪戯っぽく微笑む五月雨が持ってきたのは、小さなショートケーキだった。
いちごが一個乗ったシンプルなものだ。
だがここは絶海の孤島、甘味は貴重であり、俺も無言で微笑むとその秘密を共有することにした。
五月雨も微笑みながら、ケーキの盛られた皿をテーブルに置こうとして、
「皆には内緒ですよ――あ、あああああっ!?」
手前で大きく躓いた。
前のめりに倒れかかった五月雨は何とかその場で踏ん張ったが、彼女の持っていたお盆はそのまま手から離れ、弧を描いて前へと飛んでいく。
当然、その上に乗っていたケーキも皿やフォークごと、空へ投げ出された。
「おふっ!?」
そしてそれらは対角線上にいた俺へと降り注ぎ、べちゃっという音と共に顔へぶつかったのだ。
視界が真っ白に染まり、甘い香りが顔いっぱいに広がっていく。そのまま唇をペロリと舐めれば、ほのかに甘い味がした。
「ああああああああっ!? も、申し訳ありませんっ!」
「い、いや、大丈夫だ……」
五月雨が所謂ドジッ娘なのは俺も理解している。
これまで飲み物をぶっかけられたことなど一度や二度じゃない。
それなのにコーヒーを無事に置けた時に安心してしまった俺にも落ち度はあるのだ……
「す、すぐに何か拭くモノをもってきますね!」
五月雨はすぐに執務室から出て行き、脱衣所からタオルやティッシュを持って来てくれた。
俺はティッシュでケーキを拭き取ってから、軽く体をタオルで拭いていく。
五月雨は自分がやる、と言ってくれたが流石に断った。
「ううう、ホント、私ってばドジでごめんなさい……」
ぺこぺこ頭を下げる彼女の姿に苦笑すると、もういいいよとだけ言って拭き終えたタオルを渡していく。
「わざとじゃないし、別に大丈夫。それよりも、すまないな。折角のケーキが」
「い、いえ、私のせいで……ううう、提督に甘味を楽しんで貰いたかったのですが……」
「いや、それはいいさ。実はな……」
俺は小声で五月雨の耳へ囁くように言った。
「実はな……男は年を取ると、甘いものが苦手になるんだ」
「え……ええっ!? そ、そうなんですか?」
五月雨の感じている罪の意識を逸らすように、俺は話し始めた。
「食べれないわけじゃないんだけど、何と言うか……昔は食べられたミルクチョコレートや生クリームなんかが、そんなに食べれなくなるんだよ。二、三口でもういいかなって」
まあこれはあくまで俺自身の話なのだが。
何と言うか……本当に甘いものを受け付けなくなったのだ。
全く無理ということは無い。むしろお饅頭とか羊羹といった和菓子は大好きだし、甘い酒だって飲む。
だが……チョコならミルクよりビター。コーヒーはブラックが基本になってしまった。
「だからまあ、気にしなくていいよ。むしろ五月雨の方が残念だろう。女の子は甘いものが好きだし」
「ううう……すいません……」
五月雨は哀し気に目を伏せていたが。
「あっ」
と小さく言って再び駆けていった。
暫くして五月雨は小さな袋に入ったお菓子らしきものを持ってきたのだ。
「ワッフルが一つ残っていたんです。これを召し上がって下さい」
「おおそれはありがたい」
適度に甘さがあり、コーヒーにもあう素晴らしいお菓子……お菓子? パンの一種だっけ……まぁ、いいか。
「じゃあ半分こにして頂くとするか……五月雨、割ってくれないか」
「え、いいんですか」
「頼む」
女の子が食べるものにおじさんの俺が触れるのは不味いだろう。
「が、頑張りますね。ふーっ……ふーっ……それっ」
五月雨は変な割り方をしないよう、慎重に力を入れて綺麗に二等分にしていく。
そして無難に別れた欠片を笑顔で俺に渡してくれた。
俺は礼を言ってからそれを口の中へ放り込んだ。
「うん、旨い」
「美味しいですねぇ……」
五月雨もワッフルをもふもふと食していた。
小動物みたいで可愛い。
幸せそうに頬張る五月雨を眺めながら、俺はコーヒーを啜った。
ほのかに甘い生地に、苦い味がよくあう。
「ほっとするなぁ……」
「しますねぇ……」
「戦場ってことを忘れちゃうな」
「ですねぇ……」
中年のおっさんと推定ティーンの年齢の少女が揃って、満足げに息を吐いた。
雰囲気だけなら老夫婦のようだ。
なんというか……五月雨は一緒にいても気張らなくていいというか、緊張しないというか……
兎に角、心地いいのである。
どれだけ艦娘が増えても、俺が秘書艦を五月雨から変えないのはこういう了見なのだろう。
「今年もこんな風に、まったり出来たらいいですねぇ」
「ああ。戦争なんて無いほうがいいからな」
幸い今の所、深海棲艦の攻撃は減少傾向になる。
本当は完全に殲滅しなければならないのだが、そうなると鎮守府も艦娘もこの世界に必要じゃなくなってしまうだろう。
当然、俺も元提督の無職に早変わりだ。
それは少し困るな……と冷静に考えれば非国民のような考えをしながら、俺はコーヒーを啜った。
「皆で楽しく、勿論提督も一緒ですよ?」
「おう、ありがとな」
この笑顔が失われるような事はあってはいけない。
そのための場所を守っていくのが俺の仕事だ。
柄にも無い事を考えてしまうのだが、そんな気分になってしまうほど、五月雨の隣は居心地がいいのかもしれない。
「あとちょっとで皆が帰ってきますね」
「ならあと少し、このまままったり出来るな」
二人並んでずずず……っとコーヒーを啜る。
常春と常夏の中間位の環境である、流刑鎮守府。
今年も頑張っていきます。
今年もゆるふわなかんじで頑張るのでよろしくお願いします
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい