流刑鎮守府異常なし   作:あとん

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更新が遅くなりまして、申し訳ありません……

今回は趣味丸出しの回です


笑点展へいこう!

「やっぱり納得いかないなー」

 

 グレカーレが不満げに言った。

 執務室である。

 時刻は午前10時。今日も遠征と演習に分かれて出撃していくのだが、いつもならそこで指示を出す提督の姿が無い。

 

「谷風さんと二人っきりで旅行って……何かあったら、どーするの」

 

 その提督は流刑鎮守府を出て、内地へ行っているのである。

 しかも谷風と二人きりなのだ。

 年齢差はあるとはいえ、男女が水いらずで旅行しているのである。

 

「それは大丈夫だろう。一週間、本土への弾丸旅行。しかも目的は笑点展だ」

 

「わざわざ有給までとって……本気だよねー」

 

 長月と皐月が半ば呆れたように言った。

 二人が言うように提督と谷風が旅行に行った目的は、東京で行われている『笑点展』なのである。

 

 国民的演芸番組『笑点』――現在でも日曜夕方から放送されている歴史の長い番組だ。

 30分の番組前半は漫才やコント、モノマネなどの演芸コーナー。後半はレギュラーメンバーの落語家達による大喜利を行うという番組である。

 かなり古典的な番組であるが、流刑鎮守府の提督と谷風は殊の外、この笑点を好んでいた。

 毎週、放送時間の午後5時30分にはテレビの前に待機し、ビール片手に鑑賞するのが日課になっている。

 特に提督は五代目三遊亭圓楽師匠が視界の頃から見ているそれなりの古株で、人生の大半を笑点と共に過ごしているといっても過言では無かった。

 

「普段のお仕事もそれくらい真面目にやってくれれば、いいのですがねぇ」

 

 不知火も嫌味混じりに呟いた。

 

「あ、不知火さん。テートクに、誘われた谷風さんにヤキモぶべべべべべっ!?」

 

「1週間で東京への弾丸旅行だから殆ど移動みたいなもんだ。いちゃつくのは無理だぞグレカーレ」

 

 不知火に制裁されるグレカーレを横目に長月が言った。

 事実、今回の旅行の大半は移動時間に費やされ、東京では観光する暇さえ無いのである。

 

「それでも行きたいなんて、本当に提督と谷風ちゃんは笑点が好きなんですねー」

 

「だねー」

 

「せめてお土産くらい買ってきて欲しいわ……」

 

 五月雨と清霜がほのぼのと言い、暁が少しだけ不満そうに呟いていた。

 流刑鎮守府は今日も平和だ。

 

 …

 ……

 ………

 

「すげぇ、人だ……」

 

「ああ、流石は東京だねぇ……」

 

 俺と谷風は新宿駅の前で立ち尽くしていた。

 流刑鎮守府から小さな船で出発し、様々な港や空港を経由し、ようやく日本まで辿り着いたのだ。

 そのまま成田空港から新宿駅に向かい、笑点展の行われるデパートを前に俺と谷風はいたのである。

 

「分かっているな、谷風?」

 

「おおともさ。数週間、笑点展が行われてる中で今日を選んだ理由……」

 

 俺と谷風はお互いの顔を見て、頷き合った。

 

「木久扇師匠に会える……」

 

「笑点メンバーのお師匠を直に見れるなんて、一生に一度、あるか無いかだからね」

 

 今日限定でかつての笑点メンバーである林家木久扇師匠がトークショーを行うのである。

 笑点展は数週間あるが、笑点の出演者が登場するのは数回しか無い。

 その内の一つを俺達は調べ、そこを狙い撃ちにしてやってきたのである。

 

「よし、いくぜ谷風!」

 

「おうよ!」

 

 高鳴る鼓動を胸に俺達はデパートの中へと入って行くのだった。

 

「すげぇ、行列……」

 

「抽選で決めるって言ってるけどコレ、大丈夫かねぇ……」

 

 会場の前に出来た長蛇の列に、俺と谷風は早くも戦々恐々としてしまった。

 トークショーに用意された観覧席の数は100人程。それに対し、集まったのは300人以上はいるだろうか。

 流石は木久扇師匠、笑点から勇退した今でも人気は健在だ。

 ちなみに一応立ち見も出来るが、それは人数無制限なので殆ど木久扇師匠の姿が見えないかもしれない。

 ファンとしては是非とも抽選を勝ち取り、生で師匠を見たいものだ。

 

「もしどちらか片方が当たっても、恨みっこ無しだぜ、提督」

 

「勿論だ。こればっかりは運だからな……」

 

 やがて並び始めて一時間程経過したくらいの頃に、抽選が始まった。

 前から箱の中に入った紙を順番に引いていき、その容姿に番号が刻まれていれば当たりで、同じ番号の席に座れるというものだ。

 やがて俺と谷風の番が来た。

 箱の前で深呼吸。

 大丈夫、俺だって笑点を見始めてはや十数年。心神は足りている筈だ――

 

「申し訳ありません。残念ですが……」

 

 整理券を下ってくれたお姉さんが気を使ってそう言ってくれる。

 俺は白紙の紙を持って愛想笑いをして会釈すると、その場からトボトボ歩いて離れていく。

 そんな時、隣に谷風がやってきた。

 

「……おう、谷風。お前もか――」

 

「勝ち取ったぜ」

 

 谷風が見せてきたのは『53』と書かれている小さな紙であった。

 

「お、お前……抽選当たったのか」

 

「へへへ、参ったねぇ。これで勝つる」

 

 誇らしげに谷風は鼻を擦った。

 

「……そ、そうか……よかったな……」

 

 俺は出来るだけ平静を装ってそう言った。

 

「……ま、まぁ、立ち見も出来るみたいだから、提督も見れるさ……」

 

 谷風もあまりの俺の落胆っぷりに驚いたのか、妙に優しかった。

 

「そ、そういやぁショーまで一時間はあるからさ、その間に展示ブースを見ようぜ!」

 

「お、おお……そうだな……」

 

「人が凄いし、手を繋いでいこうな」

 

「ああ、それは確かに……」

 

 老若男女問わず多くのお客さんでごった返す会場を見て、俺も谷風も少々委縮してしまう。

 遠い地で離ればなれになってはいけないので、俺と谷風はぎゅっと手を握ると、そのまま会場に入って行くのだった。

 

「おお、笑点の歴史がパネルに!」

 

「色んなアイテムもあるねぇ」

 

「談志師匠の頃の写真とかちゃんと残っているのか……」

 

「谷風さんは歌丸師匠司会の頃からだけど、提督は御馬さんの圓楽師匠のころから見てんだろ?」

 

「おお、まだこん平師匠も健在だったころだな」

 

 お互い好きだからこそ話も弾む。

 俺と谷風は展示品を一つずつゆっくりと見ながら談笑していく。

 

「えへへ……まるでデートみたいだねぇ」

 

 谷風が時折、照れたように微笑んだ。

 

「それにしては行き先が渋すぎないか?」

 

「それをいっちゃぁお終いよ。でも、楽しいだろ?」

 

「ああ、最高だな」

 

「へへ……しかしこう見ると長い事やってるもんだねぇ」

 

「何たって60年だ。時代によって需要を抑えつつ、昔ながらの大喜利を続けてきたんだ。凄いよな」

 

「だねぇ……なんたって半世紀以上だもんなぁ」

 

「そんなに経ったら俺はもうジジイになっちまうよ」

 

 自嘲的気味な冗談だった。

 事実、俺はあと60年もすれば90手前の老人だ。そもそもそこまで生きていられるかすらも分からない。

 そう考えると、何円経っても見た目が大きく変わらない艦娘には、ちょっと羨望の念が浮かんでしまう。

 

「まぁ、なんだ。確かにそうかもしれないけどさ。谷風さんは提督がおじいさんになっても、気持ちは変わんないぜ」

 

「う……」

 

 きゅ、急に何を言いだすんだこの子は。

 年甲斐もなく、顔が熱くなってしまった。

 

「それは嬉しいね。そこまで俺が生きていればいいが」

 

 俺が取り繕うようにそう言うと谷風もニカっと笑った。

 少女としての可愛らしさと、江戸っ子の気風の良さが合わさった、からりとした青空を思わせる爽やかな笑顔であった。

 

「お、そろそろ始まるぞ。谷風、行ってこい。俺も立ち見で見てるから」

 

「おう、ありがとね! よぉーし、出撃ぃ!」

 

 意気揚々と進んでいく谷風の背中を俺は笑顔で見送った。

 決してそこに嫉妬は無い……無いはず……多分。

 やがて並べられた座席に抽選を勝ち取った人たちが腰を降ろしていく。

 その中に谷風がちんまりと座っていた。

 彼女は後ろを見て俺の顔を見つけると笑顔で手を振ってきた。なので俺も振り返す。

 若い親子か、あるいは年の離れた兄妹に周りは見えるだろうか。

 実際には軍属の上官と部下の関係だ。

 でも俺は仕事だけの絆では無いと思っているけど……

 

 そんな時、司会のアナウンサーが登壇し、トークショーがいよいよ始まろうとしていた。

 もうすぐ憧れの師匠に会える。

 そう考えると俺はまるで10代の少年のように胸が高鳴るのだ。

 精神年齢的に俺と谷風は今、ほとんど同じなのかもしれない。

 やがて笑点のテーマと共に万雷の拍手に迎えられて木久扇師匠が登場しようとしていた。

 今の俺も谷風も、深海棲艦との戦いも忘れて、目の前の非日常に夢中になっていくのだった。

 

 笑点60周年。おめでとうございます。

 




ちなみに僕は一人で行きました(血涙)

流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か

  • 改二になったほうがいい
  • このままでいい
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