最近、全くアイデアが浮かばなくて……
秋である。
秋といえば食欲の秋、スポーツの秋など色々と趣味に打ち込める季節なのだが、我が流刑鎮守府でも秋特有の余裕が現れていた。
「お姉様、今日も読書だね」
「ふふっ……一人前のレディーは文学作品を好むものよ。教養が大事なの」
執務室のソファーに腰を下ろした暁が、厚いブックカバーに覆われた本に視線を落としている。
そこに遠征から戻ってきた清霜が、読書に熱中する義姉に気が付き、話しかけたのだ。
現在、執務室には彼女たち以外だと、俺に秘書艦である五月雨、非番の皐月がいた。ちなみに皐月は対面のソファーに寝転んで、スマホをいじっている。
「清霜は本とか読まないのか?」
「えへへ、私は漫画は読むんだけど、本はあんまり……」
俺が尋ねると清霜は困ったように笑った。
確かに彼女は活字よりも漫画、それも王道的な少年漫画やギャグ漫画を好んでいる。
「そんなことではダメよ、清霜。一人前のレディーになるためには、教養も必要なんだから」
栞を挟んで本を閉じると、暁はむふーっと得意げに言った。
……なんだろう。
読書を楽しんでいるというより、読書をしている自分に酔っているように見える。
「へぇ、じゃあ今、何読んでるの?」
そんな暁の読んでいた本を、皐月が引ったくった。
「あ、ちょっ! 返しなさいよ、皐月!」
「どれどれ……『追放された孤独の淑女はイケオジ地方領主に溺愛される』?」
タイトルを皐月が読み上げた直後、顔を真っ赤にした暁が奪われた本を引ったくって取り戻した。
「……流石に欲望、ダダ漏れすぎない?」
「う、うるさいわね! 何を読もうと暁の勝手じゃない!」
「ねーねー、それってどんな内容なの?」
「いいかい、清霜。暁が読んでいるのはね。女の子が年上のおじさんとイチャイチャする――」
「さつきーっ!」
暁が皐月に飛びかかり、そのままソファーの上でバタバタし始めた。
皐月の笑い声と暁の憤慨する声、そして清霜のオロオロした声が響く。
「こらこら、辞めろお前ら。ここは執務室だぞ」
「そうですよ。それに読書は趣味なんですから、好きな本を読んだほうがいいと思うよ」
「そういえば、司令官と五月雨さんも本はあまり読まないよね」
俺と五月雨が皐月と暁を引き離すと、清霜が尋ねてきた。
「あー、うん、えへへ……恥ずかしい話だけど、私はあまり……」
確かに五月雨は本を読んているイメージないなぁ。普段は仕事が多いからかもしれないけど。
「俺はちゃんと呼んでるぞ」
「司令官、漫画は読書のうちに入らないよ?」
「知っとるわ、そんな事。こう見えて、俺は月二冊は必ず本を読む事にしているからな」
皐月が失礼なことを言うので俺は胸を張って答えた。
「嘘だ〜司令官が本読んでるトコロ、ボク見たことないよ」
「確かに言われてみれば暁も見たことないわ」
「清霜とジャンプ、いつも読んでるよね!」
「まあ、確かに紙の媒体ではな。だが、今の時代はこれがあるのだよ」
俺はそう言ってスマホの画面を差し出した。
「ああ、電子書籍ですね」
五月雨が納得したように言った。
「そゆこと。個人的に漫画と違って本は電子の方がいつでもどこても読めるし、かさばらないから都合いいんだよな」
漫画は今でも単行本を買ってしまうが、活字はもう完全にデジタルに移行した。
実際に読みやすいし、便利なのである。
「へぇー何読んでるのさ」
そんな中、皐月が俺のスマホを引ったくった。
暁と清霜も一緒に画面を見つめ、皆渋面を作っていく。
「うわぁ……歴史小説とプロレスの本ばっかり」
「全然、最近のが無いわ」
「感性がおじいちゃんじゃん」
「うるせーな、いいじゃねぇか好きなんだから」
「そうだぜ。歴史小説、いいじゃねぇか」
急に別の声が聞こえ、見れば演習を終えた谷風が執務室に入ってきていた。
「大衆時代劇に大河ドラマ……歴史好きに悪い奴はいねぇからな」
「だよな谷風。やっぱお前は分かってると思ってたのよ」
「えへへへへ……」
ガシッと肩を組むと谷風は照れくさそうに笑った。
何だかんだで一番趣味があうのは谷風なんだよなぁ……
「ちなみに電子書籍って漫画も読めるよね? 何か買ってないの?」
「あ、待って、皐月……」
俺は手を伸ばして自身のスマホを回収しようとするが、それよりも皐月が早かった。
スマホの操作は慣れたもので皐月はすぐに画面を見て、俺の購入履歴を確認したようだ。
「……へぇ、『お姉さん学園おっぱいパラダイス』……『年上だらけのハーレムアイランド』……カワイイね」
「あんた最悪だな」
「酷いわ司令官! レディーの敵よ!」
「しれーかん、さいてー」
「司令、少しお話があるので、こちらへ」
「うお、不知火、いつの間に……」
皆から罵詈雑言を受けた挙句、突然現れた不知火に俺は手を掴まれた。
さっきまで仲良く肩を組んでいた谷風も冷たい目で不知火に加担している。
「さ、五月雨っ……」
「へえ、色んな本があるんですね~」
「五月雨も読む? おすすめはこれよ」
せめて最後に五月雨に助けを求めるも彼女は俺を黙殺し、暁と愉し気にお喋りしている。
俺の助けは皆無のようだ。
そのまま俺は不知火と谷風、そして皐月に連行された。
後の事はよく憶えていない……
…
……
………
「と、いうわけで、暁主催! 流刑鎮守府・読書会を始めるわよ!」
その夜、娯楽室で暁主催の読書会が開かれる事となった。
普段読書をしないという艦娘……皐月・五月雨・清霜・グレカーレのために開かれたのだ。
その四人以外の艦娘がおすすめの本を持ち寄るという内容だったのだが。
「司令官、長月は新聞は読むが本は読まないぞ」
一日に数種類の新聞を読むが、小説類は全く読まない長月。
「不知火も本は読めど、小説の類は読まないわ」
主に評論や戦略の指南本を読む不知火。
「なんで俺も駄目なんだ」
「おススメに『風林火山』だの『証言・橋本真也』なんて持ってくる人は駄目だと思うよ、テートク」
何故か俺は本の持ち寄りを拒否された。
長月や不知火と違って俺はちゃんと小説だって読むのに……
ていうか消去法で谷風と暁しか本をもちこめないじゃないか……
「さてと、まず聞きたいんだけど、皆はどんなジャンルが好きなの?」
俺の言葉など完全にスルーして暁が口火を切った。
まぁまずは好きなジャンルから読み始めるのが無難だろうな。
「ハイハイ! ボクはバトル系がいいな! ジャンプみたいな!」
「清霜は戦艦が大活躍する小説読みたい!」
「らしいっちゃらしなぁ」
元気よく手を挙げた皐月と清霜の言葉に谷風が苦笑した。
「う、うーん、暁は普段読まないジャンルだわ……」
「とりあえず皐月には『宮本武蔵』、清霜には『坂の上の雲』とかいいんじゃないか」
「うわ、チョイス古……」
「本当に感性が年老いてるね」
「司令官、可哀そう……」
「なんでそこまで否定されにゃならんのだ……」
「まぁ、なんだ……吉川英治も司馬遼太郎も、谷風さんは好きだよ」
谷風のフォローが嬉しい反面、ちょっと悲しい。
「まぁバトル系なら谷風さんに任せときな! とりあえず皐月へのおすすめは『餓狼伝』かな」
「谷風も司令官とあんまり変わらないじゃない!」
谷風のチョイスを聞き、暁がぷんすか怒った。
「もっと女の子らしいモノを読みなさいよ! うちの鎮守府は全体的に男くさいのよ!」
「それは確かにそうかも……」
「姉さんの言う事にも一理あるわ……」
清霜とグレカーレがうんうんと頷いている。
他の娘も思う所はあるのか、気まずそうにしていた。
「別にいいじゃないか、皆が好きなモノを読んでいるんなら」
「もーっ! 暁はもっと皆でガールズトークしたいの! 甘くてスイートな話題で!」
「確かに皐月と谷風とか延々と男塾とかキン肉マンの話してるからな。司令官と」
「そういう長月だって、ずっと不知火と政治か戦術の話してるじゃん」
「さ、五月雨はファッションの話もしますよ……稀に……」
皐月と長月がちょっといがみ合い、五月雨が悲しいフォローをする。
でも言われてみれば確かに我が流刑鎮守で年頃のガールズトークってしてるイメージ無いな。
「と、言うわけで今回は暁がおすすめする恋愛小説を読んで、皆には自分が女の子である事を思い出して貰うわ!」
「あの……じゃあ俺は別に読まなくても……」
「司令官は乙女心が分かるようになるために、読まなきゃダメ!」
「……そうか……」
「作り話にはあまり興味が無いわ」
「不知火もそんな事だから、いざって時に顔真っ赤にして固まっちゃうんでしょ!」
「む……」
暁は不知火にずいっと本を一冊、差し出した。
「これは無口で不器用な女の子が、好きな男の子と付き合うために頑張る小説よ! 不知火にピッタリだわ」
「な、なにをいっているの貴方は……」
少し顔を紅くして不知火は言った。
「皐月も谷風も読まなきゃ駄目! 二人共、全然乙女さ足りないだんから! これを読んで勉強しなさい!」
「えぇ~ボク、漫画の方がいいよ~」
「そもそもこれでそっち方面の勉強になるのかい? 第一、こういう小説に出てくる男性と提督は性格が大分違うだろうし……」
ぶーたれる皐月は兎も角、谷風は割と核心をつくような事を尋ねた。
暁もそう言われ『うっ……』と呟いたので、確かにと思う事もあるのだろう。
「ま、まぁ読んでみるよ。読書は好きだし、普段読まないジャンルを味わうのもいいしな」
「うう……司令官」
「ありがとうな、暁」
だが暁だって善意でこれらの本を勧めてくれたのだ。その思いを無下にする事も出来ないだろう。
「じゃあ司令官、ボクの分も読んどいてよ」
「皐月も偶には活字を読め。ドパガキになっちまうぞ」
「こ、これも勉強ですか……」
「頑張ろうな、不知火」
こうして俺達は暁おススメの乙女小説を読むことになったのだった。
「結構、面白いな……あと恋愛ものなんて何年ぶりだろうか……」
「谷風さんが見る作品に出てくる色恋沙汰は大体、政略結婚だからな」
「普段、どんなジャンル読んでるのよ二人共……」
「相手の男が魅力的なのはいいが……些か主人公の少女が受け身過ぎやしないか?」
「もう、長月! 女の子はお姫様だから、そういうもんなの!」
元々、活字慣れしている俺と谷風、長月は割とスラスラ読める一方、
「うえ……文字酔いしそうだよ……展開も遅いしさ~」
「うーん、どのキャラが敵なの?」
「清霜姉さん、その小説は多分、敵とか出てこないんじゃないかな……」
普段からあまり本を読まない皐月と清霜は苦戦しているようだ。
「…………」
「し、不知火ちゃん、凄い顔してるけど大丈夫?」
文章を読む能力があるも、創作物などが苦手な不知火もなかなか苦労しているみたいで、五月雨が心配そうに見つめていた。
ちなみにその五月雨とグレカーレは普段、本は読まないが読めないわけではないようなので、普通に読んでいた。
「とりあえず消灯時間まで読んで、残りは各々時間がるとき読むって感じかな」
流石に文庫本を一気に読むのは時間的に難しそうだ。
普段、小説を読まない勢は特にきついだろう。
「じゃあ、皆! 今度、感想を発表するわよ!」
暁が〆て、そういうことになった。
それから数日後のことである。
「やぁ、司令官。今日もキミの笑顔は素敵だね。まるで春先のそよかぜのよう――」
「どうしたいきなり」
執務室でデスクワークをしていると皐月がいきなり訳わからん事を言い出した。
他にこの部屋にいるのは秘書艦の五月雨。他にはグレカーレと暁がいた。
「ふふふ、ボクは暁の小説を読んで理想の王子様ムーブを身に付けたのさ」
そう言って皐月はクルリと回った。
確かに舞台演劇の王子様役みたいな立振る舞いだ。
「これでボクも女の子にモテモテさ! 司令官もさー。ボクを見習って女の子を扱いを身に着けたほうがいいよ」
「読書から何を学んだんだお前は……」
「ふふん、感想や学びは人それぞれだよ」
皐月はそのまま流れるような動きで、皐月は人差し指で近くにいた暁の顎をクイっと持ち上げた。
「ね、そうだろう? ボクの、可愛いハニー」
「は、はわわ……す、すごいわ皐月! 完璧な王子様ムーブよ!」
暁にとってはかなり完成度が高いようで、目をキラキラと輝かせて皐月を見つめている。
「ふふふ、読書の成果かな? 今ならどんな女子でも落とせる自信があるよ!」
ビシッ! と指を指して決める皐月。
「ねぇ、司令官。ボクがキミにご指導してあげようか? モテない司令官もこれでモテモテだよ~?」
「ありがたい話だが、俺だってそのくらいの事は出来るさ」
「へぇ、じゃあやって見せてよ」
「おう、グレカーレいいか」
「なーにテートク」
丁度、一番近くにいたグレカーレを俺はチョイチョイと呼ぶ。そして。
「グレカーレ……」
俺は彼女のちっちゃな手を取って、ぐいっとこちらに近づけた。
目の前にグレカーレの可愛らしい顔が迫る。
その吸い込まれるような瞳をじっと見つめながら俺は優しい声で囁いた。
「今日も君の可愛い顔を見る事が出来て嬉しいよ。この世界に二つとない、アンティークドールのような君の美貌をね」
そして皐月の声色を真似て頭を撫でる。
決まった……そう思った瞬間。
「……ぷっ……あははははははははっ!」
本来ならうっとりして俺を見つめるであろうグレカーレが吹きだして、大笑いを始めたのだ。
さらに彼女だけでなく、皐月も腹を抱えて爆笑し、暁も突っ伏して笑っている。
五月雨すら、必死に口に手を当てて笑いを堪えている有様だった。
「な、なんだ、お前ら! 失礼だな!」
「くくく……ごめんねテートク。その顔でキザなセリフがあまりにも似合わなくて……」
グレカーレはヒーヒー言いながら、酷いフォローをする。
「ごめんごめん! 司令官には無理な話だったね!」
「顔や雰囲気って大事なのね……」
同じく笑う皐月も酷いが、しみじみと言う暁も酷いと思ってしまう。
……慣れない事はするもんじゃないなぁ……
「いや、待てよ。相手がグレカーレだったからこの結果だったのかもしれん。五月雨なら」
「ええ、わ、私ですか……ぷっ……す、すいません!」
やる前から笑われてしまった……
「おうおう、随分楽しそうなことをやってんじゃねぇか」
そこへ遠征を終えた谷風がやってきた。後ろには長月たちもいる。
ん……待てよ……谷風……
そこで俺の頭に妙案が浮かんだ。
「谷風」
「おう、どうしたんだい」
俺は谷風の手を取って、目を見て言った。
「愛い奴だ」
「へっ……」
「可愛い奴よ。近こう寄れ」
「な、なんでい……い、いきなり……」
谷風は顔を真っ赤にして狼狽えている。
そんな彼女を抱き寄せると、そのまま俺の胸元に顔を埋めさせて頭を撫でた。
「お主とこうして出会う事が出来た事が我が生涯において最も幸運な事だ。さ、その貌を、もっとよく見せてくれ」
「ふえ……ひゃぁあああ……」
これが俺の作戦。
無理に王子様キャラを作るより、得意なキャラで行く方がいい。
そう判断した俺は時代劇風にしてみることにしたのだ。
結果は上々のようで谷風は珍しく顔を真っ赤にして狼狽している。
「て、ていとくよぉ……い、いったいなんなんだよぉ……」
「あ、すまんすまん。実はな……」
俺は谷風を離すと、かくかくしかじかと事の経緯を説明した。
「あ、ああ……そういうことかい。ま、全く……驚かせやがって……」
谷風は頬をうっすらと紅く染めながら、こめかみをパンパンと叩いていた。
まだ体が熱いのか、何だかソワソワしているようだった。
「どうだ? 俺だってやればできるだろう」
「いや、どや顔されても……たまたま谷風に特効だっただけでしょ」
「でも皐月さん、結局本人に刺さる言葉が一番じゃないの」
グレカーレはそう言って俺の手を取った。
「じゃあテートク。次はアタシにイタリア語で愛を囁いて欲しいナ……」
「ちょっと、抜け駆けは駄目よグレカーレ!」
「そうだよグレちゃん! 清霜もやってほしい!」
「何の茶番だコレは……」
「本を読んだ結果がこれなら、もう読書する意味など無いんじゃないかしら……」
俺とグレカーレの間に暁と清霜が割って入り、長月と不知火が呆れたように言った。
「結局、今回の騒動は何だったんでしょうね……」
遠い目をしながら五月雨が呟いた。
「まぁ、司令官に王子様は似合わないって事で」
「ああ……皐月の言う通りだ。でも、俺はどっちかっていうと年上の女性の方が相性はいいか――」
『それは無い』
「…………」
全員からバッサリと斬られてしまった。
……俺もリードしてくれる年上の彼女欲しいなぁ……
流刑鎮守府の艦娘たちが改二になるか否か
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改二になったほうがいい
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このままでいい