富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら 作:ロベルトジョー
第一話
「この世界に生まれてきてから結構経つが俺は一体何をしている...」
深夜の誰もが寝静まる夜に一人の少年がマンションのベランダに出て空を見ていた。
「あの世界で機関に追われていた時には渇望していた平穏だ。だが、実際に手に入れてみればなんとも空虚な日々。果たして俺は生きていると言えるのだろうか?」
少年は右手を空に向ける。
うっすらと複雑な模様が腕に浮かび上がった。
「俺はきっと闘争の世界で満たされていたのかもしれない。俺を倒そうとする強敵と戦えることに...ダークフレイム!」
少年の右手から暗黒の炎が勢い良く吹き出して大玉を作り出すが、すぐに消える。
「この力が世界に存在するということは、この力を使う闘争の場もきっとあるのだろう」
憂鬱そうな表情を浮かべた少年は部屋に戻っていった。
「...え、何いまの?」
その姿をマンションの外から隠れて見ていた少女がいることに気が付かずに。
中学一年生の富樫勇太、前世はDFM(ダークフレイムマスター)と呼ばれていた魔王は、日本のとある学校の教室で期末試験を受けていた。
あまりに簡単な試験で開始10分と経たずに時終わってしまった勇太は、右頬に手を当てて憂鬱そうに窓を見ていた。
ーーあぁ、なんて何もない平穏の世界なんだ。よくアニメとかだと中・高校生ぐらいから非日常が起きることは定番だろ?まだ、入学して半年も経っていないのにつまらすぎる。組織だろうが、悪魔だろうが早く俺を襲ってこい...ーー
身を焦がすような戦いを求めている勇太にとって中学生の試験ほどつまらないものはないのだろう。
その時、試験中の静かな教室に突如ドアが開く音が響く。
「す、すみません。遅れました...」
勇太が声のする方に視線を向けるとピンク色の髪をした右手にギブスを付けて、頬に血のにじむ絆創膏を付けた少女がいた。
「七宮さん!?ど、どうしたのその怪我は?」
「あ、先生。えーと、昨日階段で転んじゃって...さっき病院から直ぐに来ました...」
「電話では怪我をしたから遅れると言ってたけど...大丈夫?」
「はい!利き腕は左なので試験は大丈夫です」
心配そうに智音を見ていた先生だが困ったら何か相談するように言って、試験問題と答案用紙を七宮に渡した。
だが、前世では数多の戦いをしてきた勇太は違った。
ーー階段で転んだというのは嘘だな。あの頬の鋭い切り傷、闘争の匂いがするーー
勇太の心中にはもはや期末試験など存在しなかった。
ニヤリとしながら、これから起こるであろう出来事に期待していた。
七宮智音は町を守る魔法少女である。
ある日、普通の小学生だった七宮は足を怪我している子猫を保護した時から、智音にとっての魔法少女生活が始まった。
子猫はワンダーワールドという別世界の精霊で、この世界にはワンダーワールドからやってきた闇の精霊がいるというのだ。
しゃべる子猫に最初は動揺したが魔法少女アニメが大好きだった七宮にとって魔法少女になって欲しいと言われたら、両手を上げるくらいの勢いで立候補して逆に子猫を動揺させるほどだ。
しかし、数年も魔法少女をやっていると憧れよりも疲労感が強くなってくる。
智音は今日もまた猫を肩に載せながら下校している。
「はぁ、今日の試験は駄目だったな〜」
「智音、そんなに気を落とさないで。智音は闇の精霊達から町を守ってるんだから」
「ふふっ、ありがとミーナ」
智音は頬を舐める子猫のミーナを撫でる。
しかし、表情は暗いままだ。
「最近、町で悪さをする闇の精霊達が多い気がする...ねぇミーナ。私以外の魔法少女っていないの?」
「残念だけど魔法少女は素質が必要なの。特に魔法を操るための魔力がないとマジックステッキを持っても何も起きないわ。それに智音の魔力は戦えない私が肩代わりしている状態で手がいっぱいだから、他の人を魔法少女にする余力はないの...」
「そっかー。やっぱり、このままじゃだめだよね。早くワンダーランドに行く方法を見つけないとーー」
ミーナがいた世界であるワンダーランドで起きている異変を解決しないと根本的な解決にはならない。
そのため、いつも智音とミーナは試行錯誤しながら転移魔法を研究しているが、なかなか進捗は進まなかった。
もうすぐ家に着くという時に突然、智音は繁華街の方に闇の精霊の気配を感じた。
ミーナもまた尻尾を立てて、その方向を強く睨みつける。
「四日連続で出現って、やっぱり何かおかしい!今までは多くても一月に一体だったのに」
「でも、行くしかわ。じゃないと町の人が危ない。守れるのは智音しかいないの...」
「分かってるよ!」
家とは違う繁華街の方に突然方向を変えて走り出した。
繁華街にやってきた智音は直ぐに闇の精霊の気配のある百貨店の中に入り認識阻害の結界を張った。
この結界は結界内の魔力を持つ者の位相にズラすことで人と建物に影響を与えないようにする。
今この百貨店にいるのは闇の精霊と智音、そしてミーナだけ。
智音はミーナと一つになることで魔法少女の姿に変身する。
普段の姿でもミーナと魔力のパスはつながっているので魔法は使えるがミーナと一体化する魔法少女にならなければ、魔力の効率が恐ろしく悪い。
また、変身すると身体強化がされるため、骨折している腕を痛みもなく動かすことができる。
魔法少女になった智音は大きめのマフラーを首に巻いていて腕輪の形状をしたマジックステッキを装備している。
智音達は直ぐに百貨店の中で闇の精霊を見つけることができた。
「あれが闇の精霊ね。でも今回のは随分おとなしい」
闇の精霊は基本的には人やものに取り憑く。今回はメガネをかけたスーツ姿の成人男性に取り付いているようで、気づいているのかじっと智音をみている。
ーー気をつけて智音。あれは今までの闇の精霊とは魔力が全然違う...この魔力、見覚えが...え、嘘、なんであいつがここに!?ーー
「どうしなのミーナ!?」
急に弱気になったミーナに心配になる智音。
すると、智音の数メートル後ろに闇の精霊が気づかないうちに移動していた。
「この結界はお前たちの仕業だな。どうして木っ端妖精が、私はお前とは遊んでいる時間がないのだが」
ーー...ダークマスター。ワンダーランドで私達の国を襲った巨大な力を持つ魔王ーー
「ふん、最近ここあたりに闇の精霊を送り込んでは連絡が取れなくなっていたが、どうやらお前達のせいのようだな」
「ぐっ!?何、この魔力の大きさは!?」
闇の精霊は魔力を開放すると智音はそれに圧倒される。
「だが、もうお前達とのお遊びは終わりだ。ここで消えてもらう」
ーー智音、シールド!!ーー
「ッ!?マジックシールド!!」
「ダークフレイム」
ミーナの警告の直後に闇の炎が智音達を包んだ。
ドーム状にバリアーを張った智音だが圧倒的な力の前にバリアーを維持できず、直ぐに魔力を使い果たして倒れ伏した。
智音のバリアーが張られていない部分は闇の炎で溶け出している。
「ふむ、ただの木っ端精霊なら今ので焼き尽くしていたのだが、どうやらお前はそうではないらしい」
ーー智音、起きて!!ーー
「ぐっ...ミ、ミーナ...」
魔力切れの智音はもはや立ち上がることは出来なかった。
「終わりだ。ダークフレイム」
ーー智音!!!ーー
智音は闇の精霊が放つ闇の炎を前に何も出来ず目を閉じた。
「ごめん、お母さん、お父さん。私...」
その時、智音の前に少年が現れる。
少年は右手を向かってくる闇の炎の塊に向けていた。
そして、闇の炎が少年の右手に当たった瞬間、風船が割れたような破裂音がして闇の炎は消えた。
その状況に、智音だけでなく闇の精霊もまた驚いていた。
「これが闇の炎?笑わせるなよ」
「...え、なんで君、ここにどうやってーーって、君、クラスメイトの富樫くん!?」
「何だお前は!!一体どうやって私の炎を消した!?」
闇の精霊に立ちふさがる勇太は口元に笑みを浮かべている。
「お前に本当の闇の炎を教えてやる」
「くっ、ダークシールド!!!」
勇太から強力な力を感じた闇の精霊は全力で防御の姿勢を取り暗黒のシールドを目の前に張る。
しかし、勇太はそれに気にせずに自分の得意技を放った。
「ダークフレイム!!!」
「ば、ばかなーーーグアァァァ」
闇の精霊が放った炎とは色がさらに黒い勇太の闇の炎はシールドを無視して対象のみを焼き尽くす。
ーーあ、あれが、智音のクラスメイト!?...って、あのままだと闇の精霊が取り付いている人が危ない!!ーー
「と、富樫くん、あの男の人は操られているだけ!!」
智音はハッと気づいて勇太に伝える。
「案ずるな、俺の炎はあの男の中に潜む存在を焼いている。あの男には何も危害を加えていない」
ーーでも、かなり苦しんでるけど...ーー
数秒間、闇の炎が闇の精霊をやっていたが、それが終わると取り憑いていた男は倒れて動かなくなった。
「終わったの?」
「あぁ、もう結界を解いてもいいぞ」
「ミーナ、もう大丈夫?」
ーーえぇ、あの男から闇の精霊の気配がしないわ。もう大丈夫ーー
「良かった〜...って、富樫くんって何者!?」
勇太はふと考えるように顎に手を当てて、何か思いつくと智音に向いて手元に指を鳴らすのポーズを取る。
「俺は...ダークフレイムマスター」
「ダークフレムマスター?」
勇太は笑みを浮かべて指を鳴らした。
すると勇太の背後で闇の炎が勢いよく爆発した。
演出だったようだが智音はあっけに取られた。
「かつて、世界を滅ぼす暗黒竜を取り込み魔王と呼ばれた男...だった。今は中学校の生徒だがな」
こうしてダークフレムマスターは生まれ変わった平穏なこの世界で魔法少女と出会った。