富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら 作:ロベルトジョー
夏休みが終わる8月の最後の週になった。
勇太はとあることをきっかけに、スマホのLINEをよく見るようになっていた。
前回のソフィアが引き起こした事件の後で、勇太がその日のトークを数日間放置していたことに智音が苦言したことがあったのだ。
それ以降、勇太と智音はLINEで学校での話や週末の話をやり取りするようになった。
また、クラスのトークルームにも智音から招待されてから他のクラスメイトともやり取りをするようになってか、学校での勇太の物静かな印象は変わりつつある。
そんなある日、クラスのトークルームで来週に予定されている町の納涼祭の話が話題に上がっていた。
「祭りか...」
勇太は、家族と夏祭りに何回か行ったことはあるが片手で数えるくらいだ。
しかも、ここ数年は全く家族のイベントをした覚えがない。
それは勇太の両親が共働きで忙しいというのもあるが、勇太自身にも原因はあった。
DFMの生まれ変わりであり精神が成熟している勇太に対しての扱いを両親としては悩んでいるのか、家族間のコミュニケーションはあまり良くは無かった。
ここ数年は勇太の妹の樟葉にも微妙に距離を置かれている。
また、勇太にとってもDFMだった時の記憶から家族というものに対して一般とは異なる印象を強く抱いている。
DFMにとって、家族とは己の体に暗黒竜を封じて自分を恐れている存在だ。
DFMは自身を恐れる家族から逃げ出して追手の機関の構成員を倒す人生を送っていた。
そのため、家族とどう接すれば良いのかは勇太にも思いつかなかったりする。
ふと喉の乾いた勇太は、スマホをベッドに置いてリビングの飲み物を取りに行く。
そこで、ちょうど廊下を歩いていた樟葉とばったり会う。
樟葉は一瞬勇太を見た後に目をそらした。
「...」
「...樟葉は納涼祭は行くのか?」
「ぇ、どうしたの突然?お兄ちゃんから話しかけて来るなんて珍しい…別に今回は行く予定はないよ」
「そうか。悪かったな」
樟葉は怪訝な顔をしながら自分の部屋に入っていった。
次の日の朝、勇太が学校に着いて荷物から教科書を取り出していると、智音が所属するグループの女の子達が勇太の方にやってきた。
「おはよ、富樫も夏休み行くの?」
「うーん、一緒に行く人がいるわけじゃないから。どうしようかな〜って感じかな」
「へぇ〜、そうなんだ。じゃあさ、私達と一緒に行かない?」
「それならお言葉に甘えて参加しようかな」
「じゃあ、来週は予定を空けておいてね!」
勇太に祭りに行く予定を取り付けた女の子達は智音を手招きして呼んだ。
「富樫が来るってさ。ほら、七宮さんもー」
「う、うん。じゃあ、私も行こうかな…」
智音はチラチラと勇太を気にしている。
「ねえ、聞いてよ富樫〜。七宮さん、さっきまで浴衣が無いとか、別に興味がないとか言ってたんだよ!それがーー」
「ち、ちょっと!待って!」
智音は焦りながら、女の子に続きを言わせないように割り込んで妨害した。
残った方の女の子が勇太によってきて小さい声で教えてくる。
「大丈夫。この日は私達も彼氏を連れてくるから、七宮さんと二人でペアになれるよ。夏休み中に何かあったのか分からないけど、二人ともいい感じだしね」
「そ...そうかな。気遣ってくれてありがとう」
勇太は苦笑いしながら返事をする。
夏休み中にソフィアが引き起こした事件から勇太と智音の関係が少しギクシャクしていた。
あの日、智音の魂にソフィアが混ざり、そして戦いの末に勇太と智音は使い魔の契約を一方的だがすることになった。
智音は魔法少女であることを除けば中学一年生の女の子であり、起きたことを全て受け止めるには時間がかかると勇太は考えていた。
最近は魔王を二体も倒したおかげなのか闇の精霊が全く出現しなくなったため、LINEでのやり取りを除くと闇の精霊を一緒に探していた時よりも合う機会は減っている。
関係がギクシャクしているのに会う頻度が少なくなっているのだから、関係は改善されずにここまで来ている。
その時、テレパスでソフィアから勇太に対する叱咤が届く。
『こら勇太。前にも言ったけど、智音は契約のことよりも勇太とどこかに行きたいと思っているニャン。だから、勇太も契約に関してそこまで気を負う必要は無いニャン』
智音のそれらの思いはすべてソフィアを通じてテレパスで勇太にリークされているが。
ソフィアにとって、契約者である勇太がいないと智音の体の主導権を握ることが出来ない以上、勇太と智音が一緒にいるように色々と画策している。
しかし、勇太も智音もどちらも歩みよらないので苦労はしているが。
ここ数日は遠回しに勇太に言っても全く伝わらないことがわかり、ストレートに智音が思っていることを言うようになっている。
もちろん、ソフィアはそもそも精霊であるため人間の気持ちを正確に理解することは出来ない。
『智音がどこかに行きたいって思っている...それは祭りに行きたいということか?』
『ちょっと違うニャン。勇太さえいれば祭りでなくても行きたいと思っているニャン』
『どうしてだ?』
『分からないニャン。でも、そう思っているニャン』
『それなら結局どこに行きたいのか分からないな』
『まぁ、そうだけど適当な所に誘うニャン』
『分かった』
勇太はスマホを取り出して智音に対してLINEを送ろうとする。
しかし、ちょうどタイミングが悪く教室に次の授業の教師が入ってきた。
教師はふとスマホをイジっていた勇太に目で捉えて睨みを効かせる。
「…富樫、学校では携帯は禁止だろ!それは没収な」
「…はい、すみません」
『はぁ〜、何やってるニャン』
ソフィアは情けない勇太に対してため息をついた。
納涼祭の当日。
勇太は普段来ているのTシャツの上に薄地の上着を羽織って祭りが行われる河川敷にやってくる。
河川敷には既に沢山の人と屋台があり、とても賑やかになっていた。
集合時間の17時となっていて10分ほど早く着いた勇太であったが、集合場所の石段で智音が一人座っていた。
智音もまた普段着でラフな格好であった。
「七宮。早いな」
「そう言ってる富樫くんも少し早いね…」
勇太も智音の隣の石段に座り込んだ。
少し間が空いたあとで、勇太から声をかける。
「七宮は俺が勝手に使い魔の契約をしたことを今も怒ってたりするのか?」
「…え?」
「使い魔の契約は人にやらない。魔獣を従えるための契約は人を対象にすることは強く嫌悪される。だが、俺が七宮にそれをしたのはソフィアと一体になってしまった以上、ソフィアを抑えるにはそれしか方法を思いつかなかったからだ」
「...そうなんだ」
勇太にとっても智音に対して使い魔の契約を行ったことについては思い悩むところはあった。
だからこそ、使い魔の契約を智音には話しづらいとさえ思っていた。
どうしようもなかったとはいえ、人を服従させる契約をしたのだから。
「使い魔の契約はマスターか使い魔が死ぬまで切れることはない。これは魂を使った契約だからだ。もちろん、俺は七宮に対してソフィアを縛る以上の命令はする気はないが、七宮にとってなかなか安心出来るものではないと思ってる」
「...」
「だから、七宮が俺にして欲しい事があれば可能な限り応えたいと思ってる」
「...それって、どんなことでも?」
「あぁ、そうだ」
勇太は真剣な顔で智音に向かって言った。
その時、集合時間になったのかクラスの女の子達とそれについて来た別クラスの同級生の男の子が現れた。
「二人とも早いね!あ、こっちが七宮さんで、こっちが富樫ね」
「富樫です、よろしく」
「七宮です。よろしくね」
軽く挨拶をして、すぐに各々ペアを作って屋台へと向かう。
智音は前のペアが手を繋いでいるのを見ると、勇太に対して手を差し出した。
「...さっきの話、何でもするって言うのが本当なら手を握って」
「あぁ、分かった」
「あ、あと、今から私は富樫くんのこと勇太って呼ぶから!だから私のことも智音って呼んで!」
「そんなので良いのか?」
「良いの!」
勇太は不思議そうに思いながらも智音の手を握る。
その時の智音の頬は若干恥ずかしいのか薄赤色になっていた。
しばらく歩いても何も喋らなくなった智音をチラリと伺いながら、勇太は空気を変えるために屋台を見て智音に声をかける。
「智音は何か食べたいものはあるか?」
「...私はあれが良いかな」
「綿菓子か...分かった。買ってくる」
「待って。一緒に行こうよ!」
「ん?あぁ」
一人で買いに行こうとした勇太を智音は手を引いて引き留める。
一緒に綿菓子を売っている屋台まで言った勇太と智音は綿菓子を2つ買う。
「ねぇ、あそこのベンチで一休みしない?」
「いいぞ」
勇太と智音がベンチについて、綿菓子を食べ始めた時にはもう花火が上がり始めていた。
「きれいだね…」
「…」
「ねぇ、勇太。私は契約とか良く分からないけど、でも私を助けてくれてありがとう」
「智音…」
花火を見ている智音の横顔を勇太はじっと見続けた。
しかし、花火と混じった爆発音で祭りの空気が大きく変わる。
すぐさま悲鳴が勇太達にも聞こえ始めた。
「え!?爆発?いや、この気配は…強い闇の精霊」
「最近は現れてなかったが…ここは人が多い」
『あぁ…この魔力はあいつかニャン』
「ソフィアは知ってるの?」
『前に向こうの世界で共闘したことがあるニャン。でも、イカれた精霊だから近寄らなかったニャン』
「イカれたってどういう…あ、勇太!」
智音がソフィアと話している間に勇太は爆発現場へと走り出していた。
智音は慌てて勇太の背中を追いかける。
しかし、人々が逃げる方向は逆の方向に移動しているためか、先を進む勇太になかなか追いつけずに智音ははぐれてしまった。
勇太は爆発した屋台のそばまでやってきた。
そこには、炎が怪物のような形を保持して存在している。
炎の怪物は勇太を見つけると、突然スタジアムを作るかのように巨大な炎のリングを勇太と怪物の間を囲うように作った。
そこには勇太以外の生存している人の姿は無い。
「フム、オマエがチャレンジャーか?」
「何のことか分からないな」
「フハァハッハッハ、そうか。だが、オマエからは良い闘志を感じる」
「ゴタゴタ言うな。その炎は飾りか?」
こうして、予期せぬ闇の精霊との戦いが始まった。