富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら 作:ロベルトジョー
しばらく、七宮さんは出てきません。
第六話
満月の夜、アパートの一室で勇太は押入れに入っている荷物の整理をしていた。
ダンボールから古い書き終えたノートを取り出しては書かれている内容をペラペラと捲りながら軽く一読する。
その時、ちょうどお風呂から出てきた樟葉から声をかけられた。
「あれ?お兄ちゃん。明日から高校なのに何やってるの?」
「うん?あぁ、樟葉ちゃんか。ちょっとね…」
「もしかして、また記憶探しとかしてるの?でも、記憶を無くす前のお兄ちゃんって何かに興味があったように思えないし、特にモノを買っていた覚えもないから何も見つからないと思うよ」
「あぁ、そうだね。本当に何も見つからない。どんだけ、俺ってつまんないやつだったんだか」
そう言いながら、教科書とノートしか入っていないダンボールを漁る。
富樫勇太には中学一年生の後半より以前の記憶がない。
ただし、知識的なものに関しては特に異常は無いようで、忘れているのは人や事象だったりが多い。
記憶を失った原因は、夏祭りの最中に大きな爆発事故に巻き込まれて重症となったことと医者から告げられている。
全国ニュースにもなった多数の死者を出した爆発事件は、現時点でも爆発原因が不明で専門家チームを作って未だに調査中だったりする。
また、幸いにもその時の火傷の跡は今でもうっすら残っているが、ほとんどが完治したため医者からはビックリ人間と称えられたりした。
しかし、勇太は猛烈な喪失感からか時たま自分の記憶を探すように、古い勉強ノートや幼児期の写真などを見ていたりする。
「…私は今のお兄ちゃんの方がいい」
「…はっはっは、それって前の俺がよほど嫌われていたのかな?」
「...嫌われていたというか...怖かった。でも、今はそんなことはないよ。だから今のほうが良い」
「樟葉ちゃん…。今日はもう寝ようか!」
「うん。ねぇ、今日は私と夢葉の三人で寝ようよ」
「あぁ、良いよ。じゃあ先に布団に入っておいて」
樟葉は勇太にうなずいた後に自分の部屋に向かった。
勇太が怪我を完治してからは、両親は安堵する暇もなく今まで溜めていた仕事をこなすために、夜が遅かったり出張が多かったりして家を空けることが多くなった。
そのため、勇太は両親を手伝うために中学生となった樟葉と5歳の夢葉の面倒をよく見る。
ーーやっぱり、昔の俺を知る手がかりはあの子しかいないーー
勇太は事故が発生した時の事をうっすらとおぼえていた。
それは、勇太をゆすり起こした智音のことだった。
勇太が入院生活を終えて学校に復学したときには、既に智音は転校をした後だった。
もちろん、勇太は何度かコンタクトを取ろうとクラスメイトからLINEで直接やり取りをしてもらったが、"会いたくない"の返答しか帰ってこなかった。
今もまだ交渉中だが、しばらくは気は変わることはないだろうと思っている。
必死で智音にアプローチを取ろうと、記憶を取り戻そうとしていた時のことを、ぼんやり思い出しながら月を見ていた。
その時だった。
「え?」
いつの間にかベランダの縁に何かがいた。
一度、目を擦ってもう一度注視すると、それは人影のようだ。
ーーまさか、泥棒か!?ーー
勇太は緊張しながら、ゆっくりと窓に近づく。
すると、いつの間にか人影は消えていた。
確認のために一旦部屋からベランダを見て、
思い切って窓を空けてベランダに出て周囲を見回しても誰もいない。
「なんだ、気のせいか…」
勇太が安堵して部屋に戻ろうと振り返る。
「気のせいではない。声を出すな」
「!!??ーーっぐ」
勇太は突然眼帯をした少女に襲われた。
勇太の口元には小さいが力強い手が当てられて腕を掴まれると、開いてる窓から勇太を部屋のベットに投げ飛ばす。
勇太がベットに仰向けになるとマウントポジションを少女は取って、どこからか出した折りたたみ傘を首元に突きつけた。
「いいか。今からお前に聞きたいことがある。正直に答えれば直ぐに終わるが、そうでないなら痛い目にあうかもしれない。分かったら目をつぶれ」
勇太は少女の言う通りに目をつぶった。
すると、口元に当てられていた手はゆっくり離れていった。
「よし。まず最初の質問だが、お前は闇の力を使えるか?」
「闇の力?何のことですか?...」
「知らないなら別にいい。次にこの部屋にはどれぐらい住んでいる?最近引っ越してきたりするのか?」
「え、えーと、確か、十年以上はもう住んでるって聞いてます!」
「…住んでると聞いている、とはどういうことだ?」
「俺にはここ2年間より前の記憶がないから家族に聞いただけです」
「記憶がない?どうして?」
「それはーー」
突如、眼帯少女が持ち上がった。
少女に似た顔の女性が少女の襟を掴み上げていたからだ。
女性は一度、眼帯少女の頭を叩いた後に勇太に謝罪する。
「すまないな。こいつが迷惑をかけた」
「…離せ!」
「このバカが。下の部屋に気配があると思ったらご近所さんに何迷惑をかけているんだ」
「あ、あれ...もしかして上の階の人ですか?」
「あぁ、ちょうどこの上に住んでるものだ。妹が迷惑をかけたな。迷惑料だが、これでこいつがしたことを忘れて欲しい」
「あ、はい...」
女性は一万円札を勇太に渡すとふてくされている少女を掴みながらベランダの外に出る。
「あ、あの…そっちは出口じゃ」
勇太が声をかけたときは既にベランダにはいなかった。
ーーさっきのは一体何だったんだーー
「お兄ちゃん、まだ〜」
「え、あぁ、ごめん、ごめん。すぐ行くよ!」
今一度、ベランダの外に出て誰もいないことを確認する。
その後で、窓を締め部屋の電気を消して樟葉の部屋に向かった。
次の日、勇太にとっては高校の入学式だ。
勇太が通う高校は家から少し遠く電車で行く距離にある。
駅に着くとそこには勇太と同じデザインの制服を来た学生の姿を数人見かけた。
それぞれが、きっと新しい高校生活に対して考えているであろうが、勇太は昨日の眼帯少女の襲撃のことを考えていた。
ーー昨日のあれは何だったんだ…闇の力?ゲームとかアニメの話だろうか...ーー
考えながら歩いていると前を歩いていた女の子に軽くぶつかってしまった。
「あ、ごめん!大丈夫?」
「うん、こっちも前をよく見てなくてごめん」
勇太がぶつかってしまったのは、前髪に髪留めを着けていて可愛い系の女の子であった。
女の子も軽く謝罪すると電車の列に並びだす。
ーーあの子も同じ高校か…結構可愛いな…ーー
勇太の思考が切り替わって昨日の事よりも今の女の子を考えならが電車を待っていると、勇太の目の前を昨日の眼帯少女が横切った。
「え!?」
「...」
眼帯少女もまた勇太と同じ制服を来ている。
つまり、同じ高校に通っているようだ。
眼帯少女は勇太を一瞥すると何事もなかったようにちょうど来た電車に乗り込む。
それからは、特に何もなく高校までたどり着いて所属クラスを確認した後に教室に入った。
勇太と同じクラスには、通学中にぶつかった髪留めを着けた女の子と眼帯少女がいる。
そして、チャイムがなり高校生活初めてのホームルームが始まった。
ざわつく生徒達を女性の先生が窘めながらも自己紹介から進める。
クラス全員が名前順に各々自己紹介を始める。
そして、眼帯少女の番になった。
「小鳥遊立花です。趣味は読書です。あと、この眼帯ですが目が光に著しく弱いから着けているだけなのであまり気にしないで下さい。よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。次は…」
ーーあの女の子。小鳥遊って名前なんだ。ーー
勇太の番が来る。
「富樫勇太です。中学はここから少し遠いところから来ました。趣味というか最近はどこかに散歩に出かけることが多いです。よろしくお願いします」
勇太の前途多難の高校生活が始まった。