富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら 作:ロベルトジョー
逢魔が時。
制服姿の立花は目の前の多種多様の生物が混ざりあった、おぞましい魔獣に立ち向かっていた。
県道の通る橋の上にも関わらず、一台の車も存在せず人一人歩いていない。
そこは魔獣の作り出した現実世界に類似している擬似空間であり、連れ込んだ者を逃さないための檻であった。
そのような場所であっても立花には全く焦った様子は無い。
魔獣が動く。
魔獣の大きさは大型重機並であり、その巨大な質量で押しつぶさんと立花に向かってダッシュする。
立花は右手で右目の眼帯を触れる。
「前回は不意打ちされた上に逃げられたが…今回は仕留める!私の目を見ろ!」
立花は眼帯を外した。
そこには左目の漆黒の瞳とは異なる黄金の瞳が煌めいている。
邪眼と呼ばれている黄金の瞳は、魔獣の姿を捉えている。
魔獣が立花にのしかかる直前で立花は紙一重で横に躱した。
さらに、魔獣の尻尾による追撃も行動を読んで受け流す。
立花の邪眼の能力の一つは見た物体の先読みの力だ。
次の魔獣の行動が邪眼を通じて理解することができる。
しかし、魔獣も単純ではなかった。
攻撃が効かないと分かった魔獣は、体に生えている大きな口の部分から広範囲による毒霧を吐き出そうとする。
広範囲による攻撃は先が読めていても躱すことはできない。
だからこそ、そのビジョンが見えた立花は既にそれに対する行動を起こしている。
自分の指の表面を軽く噛みちぎり、流れ出た血を触媒として魔法を放つ。
「血統術式ブラッドチャージ。ジャッジメント・ルシファー!!」
「グガァ!?」
立花は自身の腕に血のオーラをまとわせて、毒霧を吐かれる前に魔獣を殴り飛ばした。
さらにジャッジメント・ルシファーの効果が発動する。
殴った魔獣の腹部に魔法陣のようなものが浮かびあがり数秒後に爆発、魔獣の腹には大穴が空いて大量の血が吹き出した。
よろめく魔獣に対して、立花はトドメの魔法を放つ。
「これで終わり。血統術式ブラッドスティンガー!!」
立花は邪眼を用いて地面に広がっている魔獣の血を操り、その大量の血を鋭利な無数の刃に変えて魔獣へと襲わせる。
もはや藻掻くことすら出来ない魔獣は、次々と体に刺さる血の刃を受けるたびに苦痛に悲鳴を上げる。
立花の攻撃によって串刺しになった魔獣は黒い煙が吹き出して姿を消す。
それと同時に擬似空間が崩れ元の現実世界が姿を現した。
立花は一息吐くと、ふと魔獣のいた場所に何かがいることに気づく。
「...なんだこいつは?」
「ニャー」
魔獣が姿を消した場所に一匹の猫がいた。
猫は立花に対して腹を見せている。
海と空しかない世界。
海の上に立っている勇太の目の前には、鎖で縛られて身動きの取れないもうひとりの勇太の姿がいる。
呆然と見ていた勇太を、鎖で縛られている方の勇太はクスクスと笑った。
「ようやく、解決の糸口を見つけた...」
「君は...俺?」
「そうだな。お前は俺であり、俺はお前だ。さぁ時間がない。この手を握れ」
勇太は困惑していた。
もうひとりの勇太が差し出している手を握ったあとどうなるのか恐怖を感じた。
しばらく経って、勇太は中々手を握らないことに、もうひとりの勇太は考えを巡らせる。
「ーーなるほどな。少し時間をかけ過ぎたせいで自我が形成されているようだ。ならば、手助けだけしておこう」
「手助け?」
もうひとりの勇太は右手の上にマグナム45を出現させて、勇太にそれを投げつけた。
突然、投げられたマグナムを危なげにキャッチした勇太。
「そのマグナムはこれからお前を襲う者たちに対する対抗手段になる。いいか、魔王に気をつけろ」
「魔王?一体それは…」
そして、勇太は目は目を覚ました。
ぼんやりと寝起きの目が猫の顔を捉える。
猫は勇太が目覚めると分かると、ゆうたのホッペを舐め始めた。
「なんで、俺の部屋に猫が…」
「あ、起きたか」
「ッ!?小鳥遊さん!?」
勇太が飛び起きると、ベットの端の方に立花が座っていた。
立花は読んでいた雑誌を勇太の方に放り投げる。
「勇太に頼みがあって来た」
「頼みって一体?」
「こいつを預かって欲しい」
立花は猫を指差した。
勇太は猫をじっと見る。
猫は無邪気に毛づくろいを始めていた。
「どうして、俺がこの猫を預からなきゃいけないんですか?てか、この猫ってどこの猫です?」
「拾った猫だ。だが、ウチでは十花が猫アレルギーでな…頼む」
「いやですよ。俺の親ならもしかしたら許してくれるかもしれませんが、それでもいきなり拾ってきた猫を飼えだなんて横暴すぎませんか?」
勇太は腕を組んで若干の苛立ちを見せる。
立花は少し考えて、自分の首にかかっていたハートのシルバーアクセサリーを外して、勇太の方に見せつける。
「では、交換条件だ。私が猫の飼い主を見つけるまでの間、このアクセサリーを貸しておく」
「...それってただのアクセサリーですよね?」
「違う。これを持っていれば勇太が困っているときにきっと役立つ」
「…今、俺は絶賛困っているんですが役立ってなさそうですよ〜」
立花は勇太の軽口を無視して、勇太の手を掴みアクセサリーを手に握らせる。
突然の立花からの接触でドギマギする勇太。
「最近この辺りに引っ越してきた私だが既に数件厄介事に巻き込まれた。勇太もこの辺に住んでいる以上、今後何かが起きることを予感している」
「何かって…もしかして、この前、小鳥遊さんが怪我をしていたのって関係あるの?」
「…」
立花は勇太の指摘に答えずに勇太の部屋の窓を開ける。
「勇太…エッチな雑誌の隠し場所はベットの下じゃない方がいいと思う」
「へ?」
その瞬間、立花の姿は消えていた。
立花が何を言っていたのか理解が出来なかった勇太であったが、ふと最初に立花が投げてきた雑誌に気がついた。
理解に至った勇太は雑誌を抱きかかえて悶えるようにベットを転がった。
もちろん、いつの間にか猫を押し付けられていたことにはその時には気づかずに。
勇太が学校に登校すると、やや教室が騒がしかった。
新入生向けの部活動紹介が今日の午後にあって、それに対する話で盛り上がっていたようだ。
席についた勇太に早速、誠が声をかける。
「なぁ、今日は部活動紹介あるけど、どの部活に入るか決めてたりするのか?」
「特に俺は決めてないけど。一色はもう決めてるの?」
「あぁ」
誠はエアギターのポーズを取ってポーズを決めた。
「もちろん、軽音楽部!バンドのできる男だったら直ぐに女子からモテモテになると思ってる!」
「そ、そうなんだ…」
「へぇ、富樫くんってまだ部活決めてたりしないんだ〜」
「え、あ、丹生谷さん」
「おっす。丹生谷さん」
勇太と誠の前に森夏が現れる。
森夏は笑顔で一枚の紙を勇太に差し出した。
勇太が中身を確認すると、どうやら部活加入申請の紙だった。
「これは?」
「また後で風鈴が来てから話そうと思ってるんだけど、よかったら私達が作る同好会に入らない?」
「え!?」
「な!?丹生谷さん、お、俺も入りたいです!!」
「うーん、さっき一色くんは軽音楽部に入るって言ってたよね?私達の部活って結構あちこち行く予定だから兼部はNG」
「そ、そんな〜」
がっくりしている誠を横目に見た勇太は、ふと部活の名前が空欄になっていることに気がつく。
「ねぇ、丹生谷さん。一体何の部活?」
「それもまた後で!放課後に旧校舎の前に集合ね!」
「う、うん」
森夏の笑顔に見惚れていた勇太に対して、誠は妬みのある視線を向けた。
そして、勇太と森夏の話に聞き耳を立てていた男子達もまた次々と森夏に同好会への参加を申し出てやんわりと断られていった。
「富樫〜どうしてお前だけ!!」
「俺が知るか!」
誠を含めてクラスの男子達と一悶着があった勇太は、放課後になって森夏に指示された旧校舎前にやってくる。
そこには、既に森夏と風鈴がいた。
「すみません、巫部さん、丹生谷さん」
「あ、富樫くんだ〜」
「来てくれてありがとう!富樫くん」
「それで、一体何の部活なの?」
「それより先に部室に行こう!」
勇太がそう尋ねると風鈴は答えずに旧校舎の部室へ案内する。
旧校舎は古い木造の2階建てであったが作りは頑丈であった。
階段を登ってすぐの部屋を開けると、そこには勇太達の担任の先生の七瀬がいた。
「あれ、先生?」
「へぇ、富樫くんだったんだ。巫部さんが部活に誘いたいって言ってた人」
「え、巫部さんが?」
勇太は風鈴を見るが微笑を浮かべるだけ。
七瀬はそばにあるパイプ椅子に腰掛けるように勇太達を誘導すると黒板にチョークで文字を書き始めた。
「...探求部?」
「えぇ、探求部。ちなみに、富樫くんは何を探求するのか想像ついたりする?」
「いえ、検討もつかないです」
「ねぇ、巫部さん。本当に富樫くんに参加してもらっても大丈夫なの?」
「えぇ、そこは私が保証しますよ。富樫くんって、数年前は智音さんと一緒に活動していたようです。それに、これは私の勘なのですが富樫くんはいつかきっと裏の騒動に巻き込まれる」
風鈴の言葉に七瀬は少し考える素振りを見せる。
勇太は今朝の変な夢や立花の話を思い出して、風鈴の言葉に反応した。
「俺が裏の騒動に巻き込まれるって、どういうことですか?巫部さん」
「う〜ん。智音の言ってた通り本当に何も覚えてないんですね...」
「ねぇ、風鈴。私も先生と同じように何も知らない富樫くんを巻き込むのはあまり良い気がしないわ。危険よ」
森夏の言葉を聞いて風鈴は椅子から立ち上がって、勇太の目の前まで歩く。
手に一枚の御札を取り出して。
「…それじゃ、富樫くんが普通じゃないところを見ようか!」
「ちょっーーー」
風鈴は慌てる勇太の額に御札を貼り付けた。
その時だ。
勇太から黒いオーラが漏れ出して、御札はすぐに黒く変色していく。
その状況を見た七瀬と森夏は驚いて見開いた。
勇太本人にとっては何が起こっているのか分からない。
そうして、御札が完全に黒く染まって消えていくと、勇太から漏れ出していた黒いオーラが収まっていく。
「へぇ…。先生、気づかなかった」
「すごく禍々しい力...」
「二人とも分かった?これが富樫くんだよ!」
理解が出来ない勇太は御札があった自分の額に手を触れる。
しかし、そこにはもう何もない。
七瀬は気持ちを切り替えて、探求部の左に文字を追記し始める。
そこには超常現象と書かれていた。
「では、富樫くん。超常現象探求部にようこそ!」
「超常...現象?」
その日、勇太は非日常の世界に足を踏み入れた。