富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら   作:ロベルトジョー

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ホラゲ実況にインスパイアされた


第九話

「...入部したのは間違いだったなー」

 

そうボヤキながら勇太は倉庫に積んである荷物を外に運んでいた。

超常現象探求部に入部した勇太に待ち構えていたのは雑用の仕事だった。

活動内容は主に七瀬から依頼された場所に行って、超常現象を確認して解決すること。

今回で2回目の実地活動だが、未だに超常現象というものに遭遇していない勇太である。

 

「最初の依頼の物音原因はネズミだったし、今回の依頼の倉庫での物音もネズミとかじゃないだろうか…って痛!?」

「何サボってるのよ」

 

勇太が振り向くと、そこにはメモ帳で勇太の頭を叩いた森夏が不満そうな顔で立っている。

 

「…丹生谷。手が空いてるなら荷物運ぶの手伝ってよ」

「私は何が出てきても良いように警戒していないといけないの。だから、手を塞ぐようなことは出来ないわ」

「…はぁ〜」

 

森夏に対する勇太のイメージは前回の活動で完全に崩れさった。

可愛くて優しい優等生だと思ったら、現実は猫かぶりで人使いの粗い自己中心的な性格であったのだ。

勇太は心の中で泣きながら、色々な機材の入った重い箱を持ち上げる。

しかし、想定以上に箱が重かったのか足元をふらつかせた。

 

「大丈夫?」

「あぁ、これくらいなら何とか…ッ!?」

「ちょっ!?」

 

箱の重さに耐えきれずに、勇太の手から滑り落ちて辺りに箱の中身をぶち撒けた。

 

「はぁ〜何やってるのよ…」

「ご、ごめん」

 

勇太はがっくりしながら、床に散らばった物を箱に詰め直していく。

森夏もまた、ため息をついて勇太と片付けの手伝いをする。

勇太達は倉庫の物音の原因は分からず、超常現象のようなものも発見できなかった。

そして夕方になり、勇太と森夏は依頼主に異常なしを伝えてから帰る。

 

「超常現象なんて本当にあるのかな…」

 

勇太は依頼主から手渡しでもらったペットボトルのお茶を飲みながら森夏に尋ねる。

 

「あるわ」

「そういえば、今日は巫部さんは来なかったね」

「えぇ、さっきLINEで知ったんだけど別件で先生から依頼されたみたいよ」

「...丹生谷は巫部さんと今回みたいな活動を中学の時からやってたの?」

「やってたわ。風鈴と私、そして智音の三人でね」

「そうなんだ...」

 

そこから、勇太と森夏の間に会話はなかった。

 

 

次に日、学校に来た勇太は風鈴が欠席していることが気になっていた。

 

「今日巫部さん休みなんだ...」

「おい、富樫〜。昨日、丹生谷さんと一緒に歩いてたって本当か!?」

「うん?あぁ、部活の活動だよ」

 

突然、誠から声をかけられて問い詰められる。

 

「いいよなぁ〜、俺も同じ部活に入りたいな〜」

「でも…入ったのは間違いだったと今は思ってるよ」

「何!?お前、丹生谷さんと巫部さんの三人の部活ってだけで羨ましいだろ!!」

「まぁ、機会があったら今度一色が参加できるか聞いてみるよ」

「本当か!?サンキュー、頼んだぜ!!」

 

ーー参加してもどうせ荷物運びだけどなーー

 

勇太の心の中のつぶやきを知らずに、誠は気分がよくなりギターを引くフリをする。

それから、誠と適当に会話をしていると構内放送で七瀬に勇太は呼び出された。

 

「何やからしたんだ?」

「特に覚えはないけど...とりあえず、行ってみるよ」

「おう、頑張れよ」

 

誠から軽いエールをもらいながら勇太は部室に向かう。

そこで勇太を待っていたのは、険しい顔をした七瀬と森夏だった。

勇太は疑問に思いながらも呼び出した理由を聞いた。

そして、七瀬が重い口を開いた。

 

「昨日、巫部さんに別件で依頼をしたのを覚えてる?」

「確かそうでしたよね」

「...昨日から巫部さんと連絡が取れなくなったの。お家にも戻っていないみたいで…」

「え!?でも、今朝は家庭の事情で休みって言ってませんでしたか?」

「行方不明になったなんて言ったらクラスのみんなは混乱するわ」

「俺たちを呼んだ理由ってまさか…」

 

七瀬が答える前に森夏が割り込む。

森夏は決意した顔で七瀬に言った。

 

「私が風鈴を見つける。それでいいでしょ、先生」

「でも丹生谷さんだけでは心配よ」

「富樫くんがいても戦力にならないわ」

 

森夏の言葉に眉をひそめる七瀬だった。

勇太は森夏の言葉に反論する。

 

「...俺が行って何が変わるか分かりませんが、行方不明ということは人手が必要ですよね?」

「ちょっと富樫くん?風鈴が行方不明になるような事件なら戦えない富樫くんには危険すぎるわ」

「それでも、同じ部員のクラスメイトが行方不明になってるなら探すのを手伝うくらいやります!」

「…もう、勝手にすれば!」

「それじゃあ、私が知っている範囲で二人に話すわ」

 

そして、学校の昼休みになったところで風鈴が消えた場所に勇太と森夏は向かった。

 

 

勇太と森夏が着いたのは外見から察するにしばらく放棄されていたであろう、古びた木造二階建ての建物だった。

建物のそばには既に数人の大人がいて、やってきた勇太達に気づいて警告をするが森夏が自分の身分を明かすと大人達は納得したように状況を詳しく説明した。

そもそも依頼の内容は、建物の中に明かりが付いていると連絡を受けたが、いくら探しても見つからないので調査をして欲しいというのもだった。

そして、昨日の午前中くらいから風鈴が建物に入ってそれ以降戻って来なくなったというのだ。

大人達は昨日から建物を外から見守っていて、さらに、風鈴が戻ってこなくなってから数回調査のために建物に入ったが風鈴が見つからなくなったことを話す。

話が聞き終わった森夏は、バッグから一冊のメモ帳を取り出して建物の入り口に近づく。

勇太は、先程の大人から聞いた話で気味に思いながらも森夏の後へ続いた。

そして、入り口に着いた森夏が勇太に言う。

 

「ねぇ、富樫くん...やっぱり、帰りなさい」

「丹生谷...忠告ありがとう。でも、決めたから」

「いい、よく聞いて。これは本当に危険なの。入ったら、直ぐに戦闘になるかもしれない。それでも覚悟がある?」

「…」

 

勇太は何も答えを返さなかった。だが、入り口で振り返りもしなかった。

 

「分かった。それなら、絶対に私から離れないで」

 

森夏と勇太はゆっくりと建物に入っていく。

そして、直ぐに異変に気づく。

 

「ッ!?これは、想像外ね」

「え…どうして?移動した?でも、どうやって…」

「富樫くん、離れないで!」

「わ、分かった」

 

勇太達は建物の入り口に入った瞬間、気づいたらどこかの薄暗い廊下に移動していた。

森夏の警告で突然身に起きた現象による動揺から、気持ちを切り替える勇太。

冷静な森夏は、ポケットからスマホを取り出してライトをつける。

すると直ぐに廊下の前方から何かが走っていくる足音が聞こえた。

 

「何か来てる…」

「え!?ど、どうする?」

「こっちに来て」

 

勇太の手を掴んだ森夏は、そばの木のスライド式のドアを開けて中に入った。

部屋の中を照らすと木のベットがいくつか並んでいるが何かがいる気配はない。

ドアを締めて勇太達は奥の方のベットの下に隠れる。

ベットの下に隠れた直後に勇太達がいる部屋の木のドアがぶち破られた。

声が出そうになった勇太の口を森夏が手で抑える。

ベットの下の二人からは、先の尖った二本の足が見える。

そして、部屋に入ってきた何者かが部屋の外に出て行ったのを確認して勇太は安堵する。

 

「丹生谷。あれは一体!?」

「分からない。でも、見つからないことには越したことは無いわ。早く風鈴を見つけましょう」

「..あぁ」

 

ベットから這い出た勇太達は、ポケットのスマホを取り出して部屋をライトで照らす。

 

「なんで、こんなにベットが多いんだ?」

「…分からない。けど、もしかしたら昔の病院なのかもしれない。そこの棚の上に錆びたガラスの注射器があるでしょ?」

 

棚の上にある金属部分が錆びている空のガラスの注射器を発見しながら、棚をいくつか調べるとバンテージやゴムチューブなどが見つかった。

この部屋にある窓からは暗黒で何も見えなかった。

 

「気味が悪い...」

「えぇ、本当にそう。早く出たいわ」

 

その時、勇太は気づいた。

ぶち破られた木のドアの隙間から、全身に何か尖ったようなものが刺さっている化け物がこちらを見ているのを。

 

 

 

 


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