次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
ナハトに怒りの叫びを上げながら正人が放った矢はナハトの肩を捉え片腕を吹き飛ばした。
普通ではそんな威力は出ないのだが魔力による強化で割り増しされたことによりできる芸当だった。
いきなりのことで全員が固まったがナハトの一部が吹き飛び破損した箇所から多量の血が噴き出していることを確りと認識したことで悲鳴が上がった。
「八坂!いきなりなにを!?片腕を吹っ飛ばすなんて正気じゃない!殺す気か!?」
「…………そんなんで死んでくれればこっちは万々歳なんだがな」
正人の突然の狂行に真っ先に反論したのは勿論光輝だった。
ナハトに向けて攻撃したことに激しく非難する光輝だが正人はそんな戯れ言を聞き流し自分で思っていることを呟くと光輝は絶句した。
「人殺しが嬉しい?そんなのあるはずがない!八坂、やはり君は間違っている!」
そういいながら未だに弓を構えている正人を強引に止めようと剣の柄に手をかける光輝だが、そんな光輝のことなど眼中にない正人は次弾を既に手に持っていて止めろ!っと光輝の静止も聞かずにナハトに再び放った。
風の力が纏ったそれは一直線にナハトへと向かっていく。
だがしかし今度は正人の思うようにはいかなかった。
放たれて進んでいた矢はナハトの胴体に当たることはなくその直前でナハトの残っていたもう片方の手で掴まれる。
その上ナハトの表情は多少は痛がっているように見えるが片腕を失ってそんな表情しか見せないのを見て正人は思わず舌打ちを打つ。
「いったいな……いきなり不意打ちなんて卑怯じゃないか?ベルカの騎士の名が泣くよ」
「お前の存在自体が卑怯の塊だろうが……おい、さっさとしたらどうだ?今のお前を見ていると他の奴が正気を保てなさそう何でな……」
そんなやり取りに周囲は話についてこれず困惑な表情を浮かべたが次の瞬間顔が凍りつくことになる。
ナハトの欠損した部分の肉が盛り上がりあろうことか腕が新しく生えたのだ。
衣服は吹き飛んだことで裸肌で露出しているが生えてきた腕は新品そのもの神経も確りと通っているようで指を動かして五体満足なのを確認している。
「……再生能力は健在か……」
正人は忌々しい者を見る目でナハトを睨みつける中、ナハトもあははっと笑った後正人を見た。
そんなナハトと正人の二人で話が進む中、メルドが正人の隣に立ち、ナハトに警戒心を強めながら横目で話しかけた。
「おい、正人……あれはなんだ……あれは本当に人間か?」
「さっきのを見てそう思いますか?メルド団長…俺がナハトを引き付けます……その間に脱出してください。みんなのこと……後のことは頼みます」
完全に腹を括っている正人はメルドにそう言い残すとナハト目掛けて駆け出し跳び蹴りを繰り出す。
仕掛けたことに笑みを浮かべて立ち向かおうとするナハトは正人の跳び蹴りを受けとめはじき返すと直ぐに体制を立て直した正人は着地した直後間合いを詰めてナハトに組み付く。
するといきなり黒色の魔法陣が正人達の足元に出現し正人とナハトの姿は魔法陣と共に何処かへと消えた。
「正人くん!!」
「これはまさか転移させられたのか……」
転移により姿を消した正人を見て香織は叫び…瞬時に正人が消えた現象が転移によるものだとわかり苦虫をかみつぶしたような顔つきのメルド。
他の面々もいきなりのことで未だに理解に追いつけていなかった。
だが嘗て災厄と呼んでも良いナハトヴァールがこの程度で終わるはずがなかった。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
突然と誰かの悲鳴が聞こえる。
何事かと全員がそちらに振り向くとその視線の先に見える現象に再び顔を凍りつかせる。
ぶくぶくと膨張していく肉の塊…それはあろうことは形を変え人間のような化け物へと変貌していく。
両腕には肉を裂く斧のような形状のものがついており、特に頭部の形状が何処かの宇宙の帝王の第3形態目の細長い頭のしておりむき出された歯は鋭い牙のように研ぎ澄まされている。
「全員!下がれ!!!」
最初に正気に戻ったのはメルドだった。
規格外な化け物だと理解したメルドは即座にその化け物に距離を取るように指示を出しその叱咤で正気に戻ったみんなは我先に下がっていく。
「くっ!この!」
「アラン!下がれ!!」
転移組の殆どが未知の恐怖で下がっていく中、騎士団達は転移組を守るために下がらずアランが果敢にも前に出て化け物に剣を振るい頭を跳ね飛ばす。
それを見てそこまで強くないとアランは見かけ倒しだと高をくくったがナハトの恐ろしさはこの程度ではない。
頭をはねられしばらく動かなかったが突如、化け物は目が見えていないのに関わらず両手でアランの体を摑がっちりとホールド。突然のことで避けることもできなかったアランは振りほどこうと藻掻くが確りとホールドされているために振りほどけない。
そして化け物が頭が再生する中、アランの体が化け物から突如として生えた棘のような鋭利なものにいくつも貫かれる。
「っ!アラン!!!」
メルドはそれを見てアランに向かって叫ぶがそれに反応することはなく貫いている棘が向けるとアランは前のめりで倒れその後ピクリともアランの体動くことはなかった。
アランの戦死でさらに混乱を巻き起こす中、アランが切り落とした頭が膨張して化け物が2体へと増え…更に状況が悪化することになったことにメルドは苦い顔をして剣を構えるのであった。
一方ナハトヴァールと転移で別の場所に飛ばされた正人は転移が終えると一旦ナハトと距離を取り視線をナハトに向けながらも今居る場所を確認する。
先程のような細い通路ではなく。どこか大きい広間で魔物もナハトの殺気にあてられてか鳴りを潜めている。
「これで邪魔者はいなくなった…改めて久しぶりだな…八坂正人」
「…何でお前が生きている…お前はあの時アルカンシェルで死んだはずだ…完全に再生されないように…リィンフォースも…」
正人の脳裏に浮かぶのは7年前の忘れられないクリスマスでの出来事…あの日の結末は正人にとって治ることのない傷を深く刻まれていた。
「黒羽か…確か八神はやてや守護騎士達を守るために自ら消滅する道を選んだったな…」
「っ!!」
「あいつに目を付けられなければ…全て終わったことになっていた。黒羽も不運だよな」
明らかに挑発する言動に今にも仕掛けようとする正人は何とか怒りを爆発するのを踏み留めながら。ナハトから出てくる言葉を確りと聞きあることに気付いた。
(あいつって誰だ…それにナハトがどうしてリィンフォースの消滅を知っている?まさか…)
ナハトはリィンフォースが消滅する前にアルカンシェルで蒸発して倒した。
つまりその後のことはナハトヴァール自体知らないはずの情報。
それに疑問に思った正人だがもう一つの仮説も浮かんだ。
(ナハトが蘇っているのなら…リィンフォースも…!)
雲を摑むような話で何も確証のない上手すぎる考えだが正人にとってはリィンフォースさえ居れば今抱えている問題を解決できると断言することができた。
(それにリィンフォースとナハトヴァールが分離して存在しているのなら不幸中の幸い。ナハトを倒せばリィンフォースを取り戻すこともできる)
正人にとってリィンフォースが取り戻せるのであればとみるみると戦意を高めていく中そんな正人を見てナハトは微笑みを浮かべた。
「いい気迫だ。それと1つだけ言っておかないとな…今頃、あっちのお荷物達がどうなっているか…」
「お荷物?まさか香織達?」
「そうそう転移する前の場所に居る奴らのこと……ここに来たのも元々ある指示だったんだけどね…指示を出すあいつにとって全員生還するのは不都合みたいだから…何人か殺せって言われていたけど…今頃全滅してるかもよ」
「っ!まさか!?あのちぎれた腕が!?」
「気付いたみたいだな、器には俺の力が馴染みこんでいる。俺という意思から離れればたちまち見境なく破壊と殺戮を繰り返すだろう。俺の腕を千切ったのは早計だったな」
「っ!!香織、みんな…!だがその力の核となるコアは体内に埋め込まれているはず…それを破壊すれば」
「いい勘と冷静な判断だな…我を忘れて飛び込んでくるかと思ったが思い違いか」
「………」
(焦るな…相手は自分のペースに持っていこうとしているだけだ。だが香織達に危機に瀕しているというのは捨て置けない。ナハトヴァールも分離して嘗ての力の片鱗しか感じられない。オリオンなしでやれるか…!)
ファイティングポーズを取りながら正人の周りには魔力でできた弾丸を4つ生成されいつでも射撃可能に持ち込むとナハトは正人が逃げることなく。戦うことを選んだことに歓喜する。
「さあ、こい八坂正人!」
ナハトのその言葉と共に正人はナハトへと向かって踏み込み。正人の周囲に浮かぶ魔力弾もナハトに目掛け飛んでいった。
「カイル、イヴァン、ベイル…くそ!」
事態は最悪の方向へと加速していた。
横たわる死体は1つだけではなく。メルド以外の騎士達は皆ナハトの分身体の餌食となり。誰も生きてはいなかった
メルドは悲痛な声で自身の部下の名前を呟き悔いる。
アランの戦死は人の死を直面した転移組はさらに混乱を招くことになった。
完全に統制が取れなくなった転移組はメルドが何とか纏めて一箇所に留めることはできたがそれまでにカイル達の命と引き替えとなってしまった。
その上厄介なのは分身体が2体ではなく4体に増えてしまっていること。
騎士団も何とか倒そうと持てる力全てを出し切ったが体の一部を切ってしまえば分裂し、魔法による攻撃もナハトの分身体は魔耐性が高いのかメルド達は疎か光輝達の攻撃もあまり意味をなさない。
不死身といっても過言ではないナハトの分身体に心身ともに疲弊していく転移組達、既に持つ無理だと諦めている生徒が殆どで未だに戦えているのはアリサとすずか…そして正人の元へと行きたいと躍起になっている香織や諦めを知らない光輝ぐらいだった。
「どうすれば…」
防戦一方の状況を耐え凌ぐアリサは荒い息づかいを少しでも息を整えながら大剣を構えるがナハトの分身体を傷つけることはできないために攻めることができない。
「みんな!諦めるな!力を合わせれば必ず倒せる!」
ここまで来ても何も変わらない光輝が相変わらずの自論を口にしているが最早誰も光輝の自論を聞いているものなど誰もいなかった。
(正人なら…こういうときどうする!?)
アリサの脳裏には本体を抑えるためにいなくなった正人ならどうするか思考する。
もしこの場に正人が居れば全員を下がらせ戦闘に支障のない広い場所まで防戦しながら後退し分裂できないほどに砲撃などで肉片を残さずに消滅させるだろう。
だがそんなこと魔導士である正人ぐらいしかできない芸当で、何も出来ない自分に苛立ちで顔を歪める。
何か打開策を模索しなければと頭の中で模索しているとアリサが応戦しているナハト分身体が右腕を肘を曲げて胴体より後ろに引っ込めるモーションを取る。
(ま、まず!)
アリサはそのモーションを取った分身体を見て血の気が引く。
次の瞬間下げていた右腕をアリサに向けて突き出すと右腕が伸びてアリサに迫っていく。
アリサ達はこの攻撃を見たのは二度目でその腕に掴まれれば最後、手の平から生える突起物により串刺し、それで騎士団の一人が頭を掴まれ死亡したのだから冷静にいられないのも無理もなかった。
(ここは横に避けて!)
真っ直ぐ後ろに後退しても恐らくはいつまでも付いてくるのだろうとアリサは手が掴まれる直前に横に避ける。
しかしそう簡単に上手くはいかなかった。
アリサがいた場所を腕は通り過ぎたが直ぐに腕が屈折して曲がり再びアリサへと向かっていく。
横に飛び避けたアリサは着地した直後で再度の回避は不可能で近づいてくる魔の手を振り払うことができない。
「アリサちゃん!!!」
アリサに迫る魔の手を見て叫びを上げる。すずかも助けに行きたいがすずかも分身体の一体を氷付けにして動きを封じ込めることしかできず動くことができない。
(ヤバイ、やられる……!)
着実に迫る死期に恐怖で顔を歪ませるアリサ。
皆、自分自身で精一杯のために助けなど来るはずもない。そんな中、迫る腕はアリサに届かず。数メートル先で止まった。
何がおきたと直ぐに理解できなかったアリサだが伸ばしている本体の状態を見て目を大きくした。
本体が盛り上がった地面により挟まっていて、何度も剣で分身体を突き刺しているあるものの姿。
アリサは思わず声を上げて名前を呼んだ。
「南雲!!」
「死ね!死ね死ね死ね死ね!!!」
ハジメだった。今のハジメは半ば狂乱状態で生きることに必死だった。
何をすれば自分は助かるそう恐怖で頭をフル回転にして思考するとアニメやゲームの知識もフル活用して考えると直ぐにあることに結論づいた。
ああいった再生する敵には核となるコアが体の何処かに存在してそれを壊さない限り何度でも再生する。
そう考えるとハジメはアリサに攻撃を集中する分身体に目を付け錬成で身動きを封じ込めると両手で持った剣で一心不乱に体を滅多刺し。
反撃を喰らうということもあるのだが既にハジメの今の状態ではそんなことすら考え付かず。今はこの状況の打破だけしか頭になかった。
「このまま、消えろぉぉぉぉぉっ!!!!」
息を荒くなりながらも剣の滅多刺しを繰り返すと体内を突き刺していた剣が途中で止まり切っ先に何か硬い物が当たると分身体がいきなり苦しみだし、ハジメはそれが分身体を形成するためのコアだと直ぐにわかると無理矢理ねじりこませると肉を抉る音の他に何が砕けた音が響き。分身体が突如悲鳴にと聞こえる声を上げながら小刻みに痙攣を起こし体が徐々に消滅していく。
「や、やった……僕があの化けものを…」
南雲も一体倒したことで狂乱状態だった精神も少しは落ち着いたのか手が震えながらナハト分身体を倒したことに未だ信じられない様子でうわごえを上げる中、光輝もまた信じられない様子で南雲を見ていた。
「南雲が……倒したのか」
今苦戦を強いられているナハト分身体を初めに倒したのが最弱であるハジメだったという事実。それは光輝にとって認めることができないことで視線を対峙するナハト分身体から目を離す程だった。
「っ!光輝!!」
目を離したのが悪手だった。
雫に注意されたが既に遅く。フリーになってしまった分身体があろうことか対峙していた光輝ではなくハジメに向かって突進。
同じ同素体がやられたのを見て真っ先に殺す標的を分身体を倒したハジメと見定めたからだ。
「南雲!逃げなさい!!!」
アリサも叫びながらハジメに向かう分身体に向かっていくが分身体の方が距離は近かった。
一体倒してしまったために腰が抜けたのかハジメは身動きが取れず。ただ迫り来る分身体の魔の手を再び襲ってきた恐怖を味わうことしかできず。ハジメは震えた声で呟いた。
「だれか…たす…けて…!」