次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
本当に色々と有りすぎた。
ナハトヴァールの分身と戦って、リィンフォースさんが現れて助けてくれて…後を追いかけて追いついたら正人がナハトヴァールに乗っ取られていて連れ攫われて…
この短時間でどれだけヤバイ場面に出会すんだかと嫌気がするほど味わった。
あの後私は正人がかけたバインドを強引に破って体の自由を取り戻し、他のみんなはリィンフォースさんがバインドを破壊したお陰でんな体の自由は取り戻している。
その後追いついてきたメルド団長達とも合流した。
「光輝!アリサやすずか達も無事だったか!全くいきなり飛びだしていくものだから。心配したぞ!」
「ご、ごめんなさい…その居てもたっても居られなくなって」
少し怒ってますと強面の顔つきで溜め息を溢すメルド団長にすずかが落ち込んで謝る。
それに関しては私達も反省するべき点だから致し方ないわね。
「む?そういえば正人の姿が見えんようだが…」
辺りを見渡し正人のことを心配になって先に飛び出した香織とリィンフォースさんの姿を見つけたけど正人だけいないことに不自然に思ったメルド団長は口に出すと思わず私は俯いた。
ここはどう伝えるべきか…
いらぬことを言って正人の立場を悪くしてしまうかもしれない。ここは慎重に…
「そうだ!メルドさん聞いてくれ!八坂が俺達を殺そうと…」
このバカはぁ!!!
確かに端から見たらそう見えるけど明らかに異常だったのはすぐにわかるでしょ!?
「ちょ、ちょっと待ちなさい!?光輝いくら何でも正人がそんなことするはずが…」
それに反応するのは一歩前に出てきた雫だ。慌てている表情を浮かべこのバカの話を疑い深く訪ねた。
しかし、真偽はともかく、正人が離脱もしくは裏切ったと聞けば周りがざわ付かないわけがない。
擦り切っている精神が更に追い打ちをかけてもはや発狂しそうな人物も何人か見て取れる。あのバカが滑らせた言葉は悪手としか言いようがない。
「ま、待って天之河くん!確かに正人くんが可笑しかったけど…それでも正人くんが本当に僕達を攻撃しようと思ってたとは思えないよ」
南雲も正人の豹変を受け入れられないようだけど正人を擁護していた。
「正人に一体何が……アリサとすずかもそこにいたんだったな?どういった状況だったか説明できるか?」
「いや、私が説明しよう」
「っ!リィンフォースさん」
どう説明しようか考えていると私の隣に歩み寄ってくるリィンフォースさんが代わりに説明すると言い、メルド団長もアリサ達より先に来ていたからよりわかるかと納得するとリィンフォースさんの声に耳を傾けた。
「長い話になる。他の者達の体調も考えればここで休息を取るのが良いだろう」
恐らく正人が隠していることを話すんだナハトヴァールのことや夜天の書のこととか…最早隠し通せる事態じゃないのも確かだから私達が口を挟んでいい内容ではないだろう。
「聞きたいのは山々だが…ここでは魔物が」
メルド団長の言い分は分かる。
ここで寛いでいたら間違いなく魔物がやってくるだろう。それを懸念するメルド団長だがリィンフォースさんがいれば問題ない。
「そうか…わかった」
そう二つ返事で言葉を返すとリィンフォースさんの足元に魔法陣が展開リィンフォースさんを起点に結界が拡大していきこの広間全体を覆った。
「これでこの結界内には悪しきものは入れない」
「そ、そうか…」
こうも簡単に問題を取り除かれたことにメルド団長も戸惑いの声を上げる中、魔物の気配を感じないのを確認してリィンフォースは話を語り出した。
「先ずは私のことを話さなければならないな。私の名はリィンフォース…夜天の書の元管理人格だったものだ」
「夜天の書?それに管理人格とは一体…」
「厳密に言えば、私は人間ではない…夜天の書というシステム、そのプログラムの一部と言えばわかりやすいか…」
「なっ!?」
みんなリィンフォースさんが人間ではなく。プログラムであるということに目を大きくして動揺する。
どこからどう見たって人間としか見えないのだから仕方がないといえば仕方ないのだ。私達は普通に人として接しているし問題は無い
「そして夜天の書とは…様々な世界を旅し情報を蒐集し蓄積していく魔導書……」
そういってリィンフォースさんは腕を突き出し念じると突き出した手の平の上に一つの書物が…はやての持つ夜天の書とほぼ瓜二つの魔導書が出現する。
「それが…夜天の書?」
南雲が突如として出てきた書物がリィンフォースさんがいう夜天の書ではないのかと訪ねたけどその回答にリィンフォースは首を横に振って否定した。
「違う…これは嘗て夜天の書と呼ばれていたものの残りカス…受け継がれた夜天の書はふさわしい主に託してある…この書の権限も損傷が酷すぎて、使い物にならないし…今や膨大な機能がある大型のストレージといったところだろう」
リィンフォースさんの説明通り、夜天の書に傷が付いているし表面には付いているはずの剣十字がなくて浅い窪みが見える。
正直大半の人間は何のことかわからずに付いてこれていないといったところ。
「えっと、リィンフォースさんの素性は理解できたんですけど……正人やアリサ達とはどういった関係だったんですか?3人のこと知ってる感じでしたけど」
「…3人のことを言う前にナハトのことを話さなければならない。ナハト…ナハトヴァールは私と同じ夜天の書のプログラムの一部だ。嘗ては夜天の書自己防衛プログラムだった…しかし先代のマスターの悪意により悍ましい存在へと変貌してしまったがな…」
リィンフォースさんの脳裏にはきっと7年前に私達も見たあのナハトヴァールの姿が思い浮かんでいるのだろう
「それで…どうして正人くんがそんな魔導書に関わってくるの?」
そこから言葉を詰まらせていたリィンフォースにずっと口を閉ざしていた香織が正人との関わりが何なのか問うと少し躊躇いがあったがリィンフォースさんは口を開けた。
「…夜天の書はプログラムが改悪されたことにより闇の書という呪われた魔導書と呼ばれるようになり魔導書が完成すればナハトヴァールが主を飲み込んで暴走…そして次の主の元へと向かうそんな最悪なループを繰り返し…地球の日本にに辿り着いたのだ…」
「日本…に!?」
リィンフォースさんの話を聞いてみんな顔を真っ青にする。
聞く限りでそんな危険物が地球の日本に流れ着いたのだ。無理もないわね。
「選ばれた主は先代の主達とは違い…力を求めなかった。主は魔導書と平穏な日々を過ごすことをお望みになられた。しかし闇の書はそんな主の願いも飲み込もうとした。蒐集していなかった闇の書は主の肉体を蝕み…命の危機に瀕していました。そして…夜天の書の騎士達と彼は主に内緒で独断で行動を始めた」
「まさか…彼って…」
「ああ、正人だ。正人は敵を欺くため偽りの主として戦場に出ていた」
勘づいた雫の言葉に返したリィンフォースの言葉は周囲を響めかす。無理もないだろうと私とすずかは割り切ったが周囲はそうも行かない。
少なくても正人は実戦経験があった。そう確信付けるものがリィンフォースさんの言葉には存在した。
「なるほどな…だからこそあれだけ動けるわけか…」
腕を組み何処か納得した表情を見せるメルド団長。他のみんなは自分達が住んでいる世界でそんなことがともはや頭がパンクしているように見える。
「色々と正人とは情報を共有しておきたかったのだが…まさかナハトに乗っ取られるとは迂闊だった…正人がいれば主や騎士達とも連絡を取れると思ったのだが…」
「あのリィンフォースさん、それが正人も連絡は試みてたんだけど…音信不通で…リィンフォースさんなら転移魔法で世界を飛び越えられないんですか?」
「残念だがそれは叶わない…転移を試みたことはあったがこの世界に覆われている結界のようなものに阻まれてこの世界から出ることが出来ない。連絡を取り助けを呼ぶことが出来ればと思ったがもしかすればジャミングもされている可能性は高いだろうな」
なるほど、それなら正人が必死に通信を試みて成果がないのも頷ける。
だけどそれを聞いた私とすずかも顔に陰を落とす。
次元転移も無理、通信も邪魔されて使えない。リィンフォースさんと合流できたけど、正人は復活したナハトヴァールによって体を乗っ取られて連れ攫われる始末…殆ど詰んでいる状態といって良いかもしれない。
どうすれば良いのよっと項垂れる私を他所に俯いた香織がリィンフォースさんに近づいていく。
「香織ちゃん?」
すずかも不思議がり恐る恐るで香織に訪ねたが返事は返ってこない。そのままリィンフォースさんの目の前に立ちそこで掠れた声でリィンフォースさんに話しかける。
「…どうして……巻き込んだの?」
「なに?」
「正人くんをどうして巻き込んだの…!そんな危険なことに…!」
俯いた顔を上げた香織の表情は睨みつけながらも瞳からは涙が流れていた。
そして口を開けて言った憤りを感じる一声は正人のことだった。
「香織落ち着きなさい、正人は…「いやいい」リィンフォースさん?」
「………すまない…全て私のせいだ…夜天の書が私とナハトという存在が八坂正人を戦場へと駆り立てた…それは紛れのない事実だ」
「っ!!」
「香織!?」
流石に不味いと思って水を差そうとしたけどリィンフォースさんに呼び止められ、そのまま自分の責任だと淡々と口にするリィンフォースさんに香織は胸ぐらを摑んだ。
香織らしからぬ行動に雫が声を荒げるが次に香織が口をする言葉でそれを止めることは出来なかった
「…返してよ…私の知ってる正人くん……大好きな正人くんを…返してよぉ!!!」
それは悲痛な叫びだった。
香織のその気持ちは香織の奥底で擽っていた気持ちだったのだろう。当たり前と思っていた正人と一緒にいることが崩れ去り、その気持ちが爆発したのだろう。
周りは誰も止めない…いや止められないのだ
香織の悲痛の叫びを誰も反論することはない。ただみんな…癒えない傷跡にその言葉は染みるように痛く感じた。