次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
転移の感覚が治まると直ぐさま目を開きそこはもう既に俺がいた教室ではなかった。
見渡す限り何処かの大聖堂のような大理石の造り。
しかも、俺達の周りには法衣を着た恐らく司教の用なのに囲まれ、手を合わせ祈っているのが分かった。
彼らからの敵意は見られない。しかし何かを期待している視線を向けられていることに俺の中で嫌な予感が増長する。
辺りを見渡すとあの教室にいた全員が転移に巻き込まれていて、近くにはアリサとすずか、香織…ついでに天之河も近くにいた。
アリサとすずかはまだこういうことに幾分か耐性があるからまだいい。しかし香織はそんなことも知らない一般人…完全に今を認識しておらず放心状態にある。
生憎なことに闇の書事件で共に戦った愛機であるオリオンは訳あって手元になく。ある程度の魔法しか使えない。
その上あちらの戦力が分からない以上、強引な方法は取れないし全員を守り切れる保証など全くない。
先ずは相手の出方を見る。そう思い、あの集団のリーダーと思われる老人を見つめた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
イシュタルと呼ばれた教皇は好好爺とした笑みを浮かべるのであった。
それから、多少混乱が冷めない中移動を開始。
正気に戻った天之河が先導の元。大広間へとやってきた。
俺やアリサ、すずかなんかはもう平気だが多少混乱している天之河。他はまだ現実と認識できていない。
用意された椅子に座り全員が着席したことを見計らかうようにメイド達が飲み物を持ってやってくる。
地球ではあまりお目にかかれない。メイドに殆どの男子どもは釘付け。そして女子から冷たい視線を向けられる中。俺も飲み物を渡されてどうもっと会釈しただけで終わる。
他の男子達とは違いそういうのには見慣れていた…すずかの家で…
そんなことを考えていると俺に向ける視線を感じる。目線を向けるとそこには香織の姿がどうやらほっとした表情で俺と目が合うと手を軽く振っていた。
「愛されてるわね正人」
「うん本当にね」
両隣にいるアリサとすずかにそんなことを言われながらイシュタルは飲み物が行き届くのを確認すると漸く事情を説明するために口を開けた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
これから語られたイシュタルの話はあまりにもよくある話であり。身勝手すぎる話だった。
トータスのこの大陸は今3つの勢力がある。
大陸の北半分を持つ人間族、逆に南半分を持つ魔人族、そして東の樹海に潜む亜人族
そして人間族と魔人族は数百年に渡り戦争しており、人間族は数で魔人族は個々の能力で戦力は拮抗していた。
だがここに来て魔人族は魔物を大量に使役する手立てを手に入れたらしい。
それにより数の差もかなり覆り人間族が劣勢に滅亡の危機に瀕していた。
「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という救いを送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
おおよその話を聞き俺がまず最初に抱いた感想は胡散臭いだ。
どうも納得できないしなにより何故俺達であったのかということも分からない。
イシュタルはそれがエヒトの意志であると一貫するだろうしこれ以上の情報は出て来ないだろう。
その上イシュタルの表情を見るにその時の神託を受けたときのことを思い浮かべているのかトリップ状態。
俺にはとてもこの世界含めて普通では無いと理解してしまった。
「胡散臭すぎよ…」
「うん、それになんか怖い…」
両隣のアリサとすずかも同意見、気味悪いと言った感想。
しかも戦争させる気満々のイシュタルに当然抗議するのは今俺達の保護責任者である先生だろう。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
そうプンプンと愛らしく怒る畑山愛子先生、御年24才。
生徒のために疾走するが大抵空回り。生徒の中では愛ちゃんという愛称までつけられ、威厳のある先生を目指しているらしいのでその名前で呼ばれるとうがー!っと怒るのだ。
畑山先生の必死な抗議にも生徒達は愛ちゃんが頑張ってるっとほんわかな気持ちで和んでいるがイシュタルは思いもならない言葉を口にした。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
そう平然とした顔でイシュタルは言う。此処で漸く今の状況をみんな実感できたようだ。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」
畑山先生が声を荒げて抗議する。送還の定義だ。召喚される際、必ずそれらがないとこうなるのは明白だ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
脱力して椅子に座る畑山先生…この帰還不可能という…しかも訳も分からない神の気分次第という最悪なケースに打つ手がなかった。
遂に現実を認め嘆き始める生徒達、遠くに居るハジメはそんな中、至って冷静で…いや内は何処か堪えているように見える。
隣のアリサは最悪っと頭を抱え、すずかは正人くんっと俺に打つ手があるかと相づちで聞かれたが首を横に振り、無理があるというと暗く俯いた。
そんなパニック状態の中、俺はイシュタルを見た。
彼の顔はまるで信じられないという表情で捉えられる。
あそこまでトリップしていたような男だ。エヒトの意志がどれだけ偉大なのか分からない俺達とは違い。エヒトの言葉を絶対としているのだろう。
それ故に身勝手にエヒトに選ばれたということに喜ばない俺達を不思議がっているようだ。
そう考えているとバンッと机を叩く音が聞こえる。
先程の騒がしかったのも何処へやら静まり返り立ち上がっていた天之河が喋り出した。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
そうカリスマ性をフル活用して拳を握りしめ戦う決意を示す天之河、何故か奥歯がキランっと光ったような気がするが気のせいだろう。
そして、周りの不安などが嘘かのように活気と冷静さを戻す生徒達。その光景を見て俺は嫌な予感を更に強くする。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
天之河の言う言葉を予想していて、そんな天之河に付き添うことを決める坂上。
異世界に来て、今は参加するほかないと選択の余地がないことを悔しみながら、戦争に参加する雫。
そしてそんな雫に同調して香織も参加と言ってしまった。
お馴染みのメンバーが続いて参加を表明、それにより芋づる方式で生徒達は参加を表明していく。
それを見て最悪と項垂れるアリサとど、どうしようと困惑する。すずか
この流れを何としてでも止めなければと俺は立ち上がった。
「俺は戦争は反対だ」
「正人くん?」
俺の一声で湧き上がっていた声は静まり、全員が俺の方に視線を向ける。
香織も俺の方に顔を向け不思議がっている
そんな静まり返った大広間に天之河が信じられない顔で言葉を喋る。
「八坂?君は何も聞いていなかったのか?」
「聞いていたさ、だがそれがどうした。それは俺達には関係のない話だ。」
「関係ない!?八坂はこの世界の人間が滅亡するかもしれないのに関係ないって言うのか!?」
「そうだこの世界のことはこの世界の人々が解決しなければならない問題だ。俺達が介入する余地なんてない」
冷徹に徹する。例え周りからどう言われようが構わない。今、やらなければならないのは何としてもこの流れを断ち切ることだ。
仮に管理局がこの世界の事情を知っても介入しないだろう。この世界の事情だから
信じられないという罵声や理解できないという視線を一点に集中しながら俺は平然と立ち続ける。此処で折れるわけにはいかないからだ。
「八坂、落ち着くんだ。この世界に来てきっと混乱しているんだ。よく考えるんだ、この世界には俺達の力が必要だから神様は呼んだんだ。なら俺達で…「世界はいつだってこんなことじゃなかったことばっかりだ!」っ!?」
まだグチグチ言う天之河や野次を飛ばす生徒達に一喝で押し黙らせると一度息を整え、再び話し始めた。
「…俺の知り合いの言葉だ。ずっと昔から、いつだって、誰だってそうなんだ。こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは、個人の自由だ。だけど、世界の勝手な出来事に無関係な人間を巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!」
例えそれが神であったとしても
そう付け加えるとイシュタルの顔が顰めっ面になっている。
エヒトに対してどういう口の利き方かといったようなものだろう。
他は完全に黙っている。俺の一喝が効いているのだろう。
「滅ぶのもそれは世界の摂理だ。その戦争で人間族が負けたとしても滅ぶして滅んだ。ただそれだけだ」
「……人の考えじゃない……」
そんな言葉が天之河の口から聞こえた気がする。
他がどう思おうが関係ない。戦ったこともない人間に無理矢理戦わせようとする。世界が間違っているのだから
もうあんな悲劇を引き起こさないためにも此処で粘らなければならない。
「それにお前らは「そこまでで良いでしょう」っ!?」
戦争を理解しているのかを説こうとしたときにイシュタルに止められる。恐らく言えば二分するかもしれないからだ。
「これからの予定も詰まっていますので明日また言われてはどうでしょう。皆様も頭の整理もつくはずですから」
今言わなければならないが、かといって此処で強行すればどうなるか分からない。
俺は此処で押し黙り。分かりましたと頷いた。
これでどうなるか……どれだけの人に響いたのか……俺にはわからない。