次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く   作:ウィングゼロ

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幕間 香織&アリササイドストーリー

 

「ん~今日も疲れたわ」

 

つい、溜まった疲れから、脱けた声を上げながら両手を上に伸ばして、体を伸ばしながら王宮の廊下を歩く。

既に外は真夜中で、廊下も壁に備え付けられている燭台によりうっすらと明るくなっているだけで、歩くだけでちょっとした恐怖感にも駆り立てられる。

廊下の往来の人の数も深夜だということで少なく、会う人が私が通ると立ち止まってお辞儀をする。

そんな畏まられる人間ではないのだが…あちらからしたらそういうことになっているために歯がゆい気持ちでしかたがない。

 

「調べ物なら南雲も連れてくるべきだったかしら」

 

彼なら正人と一緒に図書館に何度も通い詰めでいたから、あそこの勝手はわかってるはず。だけど部屋に籠もって何かやってるらしい。

詳しくは知らないけど、僕も足を引っ張らないように頑張りたいからと言って何かを作っているみたい。何故かこの頃すずかも南雲の部屋に入っていくのを見かけるけど……あの二人に限ってないわね

 

「ふっ!はあぁっ!!」

「…ん?」

 

そんなことを思いながら歩いていると、微かに聞こえてきた声に足を止め、聞こえてきた方向に顔を向けてその先にある場所を呟く。

 

「訓練所?」

 

この声の主はどうやら訓練所にいるのだろうか、こんな夜中に一体誰がいるのだろうか…

私は興味本位で訓練所の方向へ足を運ばせていく。

訓練所に近づくに連れて徐々に声はハッキリと聞こえてきて、この声の主が誰なのかも近づくに連れて直ぐにわかってきた。

そして訓練所を視界に捉えると、そこには…制服姿で舞う少女の姿。

手に持つ棒を振り回し、辺りを新体操選手顔負けの身体能力で飛び回る。

バク転や側転、宙返りなど多彩に動き回り、まるで妖精が舞っているようにも思えるその姿に見とれた後、上手く着地し一息吐くのを見計らい、私は拍手でそれを賞賛する。

その拍手の手の音で私に気付いたのかビクッ!っと体を震わせ、スカートの裾を摑んで下に抑え、恥じらいで真っ赤になった顔を向ける。

そりゃあそうよね、さっきまで全力で跳んだり跳ねたりと、誰もいないのを良いことに恥じらいを無視して動き回っていたんだから。

 

「お疲れ…こんな真夜中に何やってるのよ…香織」

「あ、アリサちゃん」

 

じと目で見つめる私を見て赤くして恥じらう香織の姿。

それから香織が落ち着いた後、手頃な場所で座り込む。

 

「香織、あんたもしかして、あれから毎日こんな遅くに密かに練習してたの」

「うん、ちょっと人前だと使えないから」

「だからってあそこまで羽目を外す?」

「うぅ…」

 

可愛い声を出しながら、顔を赤くして頰を膨らませる香織。アリサちゃんのバカ~っと愚痴も言われるけど、あまり気にしないことにする。

 

「それで?あんたはどうしてこんな夜中で練習してたの?それにあの動き、どう見たって治癒士の動きじゃないわよ」

 

本題に切り込む私に香織は少し考えた後、アリサちゃんならいっかとステータスプレートを私に見せてきて、その書かれているステータスに私は目を疑った。

 

====================================

 

白崎香織 16歳 女 レベル:8

 

天職:治癒師

 

筋力:12

 

体力:15

 

耐性:14

 

敏捷:11

 

魔力:8530

 

魔耐:250

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇]・光属性適性[+発動速度上昇]・高速魔力回復・言語理解・魔力操作・覚醒者

 

====================================

 

化けてる…

しかも後半に付け加えられている技能には物凄く身に覚えのある技能だった。

 

「このステータスに覚醒者と魔力操作ってあんたまさか」

「えへへ、うん正人くんみたいだよね」

 

驚いて訪ねる私に香織は少し正人のようだと笑って話す。

 

「気付いたのはあの後解散した後でね…久しぶりにステータスプレートを見てみたら、いつの間にか付いてたのだから気になって、アインスさんに相談してみたんだ」

≪その通りだ≫

 

経緯を話す香織が懐から取りだしたのは、正人の端末。それを起動すると通信機能が起動したままだったのか、先程の話を聞いていたアインスさんが直ぐに言葉を返してきた。

 

≪あの後直ぐに通信を入れてきてな。訳を聞いてそれがリンカーコアが覚醒しているのは直ぐにわかった。正直、正人やあの白と黒の少女達と同等の才能を持っていると言って良い≫

「……ねえ、確か地球で魔法に目覚めるのは極希なのよね?」

≪ああ、そうだ≫

「更に言えば、高魔力保持者は更に希なのよね?」

≪その通りだ≫

「どうして、海鳴にそんな希の存在が四人も居るわけ?」

≪……私に聞かれても困る≫

「まあ、そうよね」

 

やっぱり海鳴って、何か奇怪なものを呼び寄せる力でもあるのかしら。そんなことを遠目になりながら本気で思っていると、話し合っていたことを理解できた香織は乾いた笑みを浮かべていた。

 

「あははは……えっと話を戻すね。アインスさんに相談した私はね、魔導士としての戦い方をこっそりと教えてもらってたの…それで今日漸く、魔力操作の扱い方にも慣れてきたってところかな」

「そうだったの」

 

そんな密かに特訓しているとは知らなかったけど…着実に力を付けていくのは良いことだわ…いつ事態が動き出すかもわからないし、短時間で急速に実力を付けなければならない。

 

「私も頑張らないとね…同じパーティとしても親友としても」

「うん…同じパーティ…か…私、光輝くんのパーティから脱けてアリサちゃんのパーティに入ったんだもんね…」

そう星空を見上げながら、数日前のことを思い浮かべているのか目を閉じて黄昏れている香織を見て、私もあの日のことを思い浮かべる。

 

香織は天之河のパーティから正式に私達のパーティに加わった。

香織の言うように、香織がきっちりとけじめを付けて…

 

本当に鮮明に覚えてるわ…

切り出したのは勿論香織、そして口頭は…

 

 

数日前…

 

 

「光輝くん、私パーティ抜けるね」

 

直球だった。

香織のその言葉は訓練所にいた全員を凍らせた。

事情を知らない天之河達を始め、事情を知る私達まで

因みにいるのはこの場にいるのは私とすずか、天之河パーティに永山パーティ…

オルクス大迷宮に参加したメンバーの半数になってしまったが、あれだけのことがあったのだ。仕方ないと思う。

そんな中、少しは変化球で切り出してくると思ってたけど、ど真ん中ストレート…真っ向で切り出したことに、私達まで思考が固まった。

 

「か、香織…いきなりどうしたんだ……部屋から出てきてくれて嬉しいが…」

 

戸惑う天之河、やはり受け入れられないのか、勝手に自分に都合の良い解釈をしようとしているのだろう。そんな中、場の空気が凍ったことに首を傾げていた香織は、言葉足らずだと言うことを理解して言い直す。

 

「あ、ごめんね…戦いから抜けるわけじゃなくて、まさ…アリサちゃんのパーティに加わるから光輝くんのパーティから抜けるって意味だよ」

 

勘違いさせてごめんねっと訂正して謝る香織、それを聞いてほっとしていると、落ち着いた天之河は香織に向けて爽やかな笑みを浮かべる。

 

「そうだったのか…でも何故そんなことを?バニングスに頼まれたのか?それなら俺が…」

「別に私は頼んでないわよ…全部香織の意識よ」

「そんなはずが…」

「光輝くん」

 

やっぱりと思っていたけど一筋縄ではいかない。香織のことを全く理解していないのか、香織の意思を否定しようとする天之河。それを遮るように香織は声を被せると、真剣な眼差しで天之河を見る。

 

「全体的に見てもアリサちゃんのパーティは人数も少ないし、正人くんがいなくなったことで戦力も低下してる。」

「その穴は誰かが埋めなきゃ駄目だよね?」

「それはそうだが…香織がやるべきことじゃないだろ?それなら…」

「無理矢理誰かに任せたくないの…それにアリサちゃんと仲良いのはこの中で私だよ?それなら仲のいい私が行くべきだよ。」

 

理解していない天之河とは違い、譲らない香織。決意した目は一切の迷いがない…今の香織はテコでも動かないだろう。

それを見かねた雫は二回手を叩く。

 

「はいはい、光輝あんたの負けよ。」

「なっ!?雫!?香織が離れるんだぞ!?それでいいのか!?」

「良いもなにも、香織の意思を無碍にはできないわ。」

「それにここは香織の言うことが正しい」

 

雫が昨日言ったように香織を送り出すフォローをする中、それでも駄々を捏ねる天之河に、訓練所にやってきて話を聞いていたのだろうメルド団長が香織の意見に肩を持つ。

 

「光輝、いつまでも同じとは限らん。香織の言うとおり…此処で送り出すのも上に立つものとしての務めだと思うがな」

 

その言葉が決定打になったのか、未だ駄々を捏ねる天之河を他所に、香織の私達のパーティに加入する方向に進んでいき…晴れて香織をパーティとして向かえることが出来た。

 

 

そして現在…

 

「本当…良かったわ」

「うん、メルド団長もわかってて言ってくれたと思う」

 

私達のことを正人の件で結構気にしていた。

だから私達のこと少し擁護してくれたのかな

 

「…ねえ、香織…その特訓私も手伝うわ。一人で特訓するより二人の方が良いでしょ?」

「アリサちゃん…うん!」

 

私も負けられない。勝手な闘争心だが、後れを取るわけにはいかないから香織の特訓に付き合おうというと、二つ返事で笑みを浮かべて頷く。

 

私達に残された時間は思っているより少ないだろう…だからこそ備えないと

そう胸に決意すると、私は香織と共に月の光が照らす深夜の中、二人で特訓に勤しんだ。

 

 


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