次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く   作:ウィングゼロ

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29話

 

 

「これより、天ノ河光輝率いるチームとアリサ・バニングス率いるチームの決闘を執り行う!」

 

メルドの一声に観戦しに来た人達の歓声が響く中、訓練所の中央にアリサチームと天ノ河チームが対面するように一列に並ぶ。

しかし、アリサは並んでいる天ノ河チームの中で雫が並んでおらずに後方に下がっている気づき、天ノ河とはあまり話したくはない気持ちを抑えながら訪ねる。

 

「ねえ……どうして雫は後ろに下がってるのかしら?」

「5対4なんて不平等じゃないか……だから雫には悪いが今回の試合には抜けてもらった。」

「ああ……そう……」

 

正々堂々と。そんなしょうも無い理由で数の利を捨てた天ノ河に、物凄くあきれながら言葉を返すアリサ。

この場に正人がいたのなら、問答無用でそのことを指摘したのは間違いないだろう。

その上で雫を抜いたのも天ノ河のミスとも言える。アリサ達のパーティは前衛1に後衛3と、後衛陣に集中している。

このことから天ノ河は一人でアリサを抑え、その隙に雫と龍太郎の二人で後衛攻めといった戦法を取ることが最も最適だった。

未だに戦いと試合の区別も付かない天ノ河では、そのことに気づくこともなかった。

 

思わぬ幸運でアリサ達に勝率が上がったと天ノ河達が知らない中、数分後には試合が始まるために、ポジションにお互い付き始める。

 

アリサ達の陣形は、前衛には唯一の前衛職のアリサ、中衛には魔法主体だが運動神経もいいすずか、後衛には香織とハジメが配置されている。

無難な配置にメルドも悪くないと呟き、続いて天ノ河達の陣形を見ると表情が固まる。

 

前衛に勇者である天ノ河、そして後衛には降霊術士と結界士の恵里と鈴、そして龍太郎

何故龍太郎が後衛にはいるんだと、何を考えている光輝と、内心で全く意図が読めない天ノ河の考えに戦慄する。

 

そんな天ノ河達の作戦というと、アリサを倒せばそれで終わりというもの。

前衛はアリサ一人であり、アリサさえ倒せば後の3人は負けを認めるしかない。つまりアリサを倒せば俺達の勝ちだ!といった物凄く浅い考え。その上2対1なんて卑怯者がすることだと、少なからず幼馴染みとして助言した雫の言葉も無視してアリサとの1対1に望む天ノ河。あくまでサポートしてくれればそれで良いとの天ノ河の言葉に龍太郎もそれに頷き、鈴や恵里は苦い笑みを浮かべながらも渋々頷く。

 

そうしてお互いの陣形も整ったことで、半ば天ノ河達にため息を溢しながらもメルドは始め!の声と共に試合の合図を出した。

 

 

「アリサちゃん!」

「すずか!」

 

先に仕掛けたのはアリサとすずかだった。

 

アリサは天ノ河と交戦せずにその場で詠唱を始め、それに呼応するようにすずかも詠唱を始め、天ノ河が動き出す前に魔法を発動する

 

「氷界!」

「火球!!」

 

すずかの氷界が天ノ河を中心に周囲を凍り付かせ、ブーツや鎧が徐々に凍結して天ノ河の動きを鈍らせるなか、特大の火球が天ノ河めがけて放たれる。

 

しかし高スペックな天ノ河は、氷界をものともしないように、火球を避けるために後ろに飛ぶと、凍り付いた地面に火球が着弾して、大量の水蒸気の煙で訓練所を覆い隠した。

 

「こ、これは……っ!」

 

周囲が水蒸気の煙により見えなくなって困惑する天ノ河に、一直線に飛び出して大剣を切りつけるアリサ。咄嗟の反射神経で攻撃を防ぎ、鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

「くっ!こんな小細工を」

「生憎ね、あんたと真っ正面から斬り合うつもりはないわよ!」

 

 

そうアリサは天ノ河に向けて言い放つと一度後方に飛び、もう一度すずかの氷界とアリサの火球を放ち、水蒸気の煙がまた発生する。

 

一方水蒸気の煙の中でアリサと天ノ河が斬り合う中、観戦している人達は殆どが困惑していた。

晴れ晴れしい勇者様の戦う様を見れるということで、騎士や使用人、貴族の子女も見に来ていていたが、それが突然水蒸気の煙で見えなくなり、剣戟だけが鳴り響く状況。

たまに空中から放たれる凍雨が降り注ぐのは見えるが、それだけではあまり盛り上がらない。

 

そんな中、優花達は他の人達より神妙な顔つきで水蒸気の煙を見ていた。

 

「アリサ達、仕掛けたわね」

「でも、どっちが押してるかこれじゃあ分からない」

 

水蒸気の煙の中で響く剣戟でアリサが天ノ河と交戦していることは優花達にも分かるが、それがどういう風に戦っているのかは検討が付かない。

 

「水蒸気の煙自体、バニングスさんや月村さんが作ったものだから、元々立てていた作戦だと思う。きっと……あの中でも動ける方法があるんだと思う」

 

そんな中、永和はアリサ達が煙を発生させたことから、何かしらの対策を取っていると考える。

そしてその永和の考えは当たっていた。

 

「(アリサちゃん、今いるところから正面5メートル先に光輝くんがいる。すずかちゃんはアリサちゃんが2回ほど斬り合った後、光輝くんのいるところを中心に凍雨で攻撃してくれるかな?こっちは後2カ所ほどしたら準備が終わるから、それまで頑張って)」

 

その言葉はアリサとすずかの二人の脳内に響き、小声で了解と小さく相槌をするアリサとすずか。

水蒸気の煙の中、ここまでアリサ達が連携を保てているのは香織の存在があったからだ。

 

香織はリンカーコアに目覚めてから、正人を助けるため強くなることに勤しんでいた。それもトータスの魔法だけではなく、正人やリィンフォースが使っているベルカやミッドの魔法も、リィンフォースから口頭の説明で教えてもらっていた。

今回、アリサ達が視界が遮られているのにその中で見事な連携ができるのは、教えてもらった一つである念話によるものだった。

 

特定の素質を持つ人物にテレパシーを送るというただそれだけの能力だが、視界が煙で遮られ、声も大きな声を出せば特定されるためあまり出せない今の状況に置いて、念話は最大限発揮された。

香織は魔力感知で味方と敵の居場所を把握し、味方であるアリサ達に的確に天ノ河の居場所を念話で教えて、アリサ達はその情報を元に煙の中迷うことなく攻撃していた。

始めは慌ただしく対応していた天ノ河は煙の中でも慣れてきたのか、最小限の対処でアリサの攻撃を防ぎ、遂には剣圧で水蒸気の煙を吹き飛ばす。

 

「アリサちゃん!!」

「っ!!一度下がるわよ!」

 

水蒸気の煙が無理矢理吹き飛ばされたことで、アリサ達は後ろに跳び、香織の元へ着地する。

 

「ごめん、ここまでみたい。で、準備は?」

「うん、ついさっき整ったよ」

 

そっか、と何とか間に合ったことにほっとするアリサの前で、天ノ河は聖剣を2回ほど振ってまだ少し漂っていた煙も払うと、剣先をアリサ達に向ける。

 

「もう小細工も終わりだね。バニングスさん達の負けだ」

「何言ってるの?まだ私達は負けたって言ってないわよ。というかあんた、私達に本気で切りかかってこないじゃないの。私達のことなめてるわけ?」

「なめてるわけじゃない。俺はただ傷つけたくないだけだ!」

「それをなめてるっていうのよ!はぁ、本当に呆れるわ。正人なら加減はされるでしょうけど、少なくとも斬り合いに応えてくれるわ」

「っ!!八坂、また八坂か!あいつは俺達を裏切ったんだ!そんな八坂より俺が負けているっていうのか!」

「なら、私達にそれを証明してみなさいよ」

「ああ、言われるまでも!」

 

そういって、アリサの口車に乗ってうおおおっ!と叫びながら一直線に突撃する天ノ河。

そんな天ノ河に、何やってるんだかと審判役のメルドもため息を溢すと、突如として天ノ河の姿が消えた。

忽然と消えたわけではなく、地面に吸い込まれるかのように天ノ河が地面へと消えていき、叫びが悲鳴へと変わり、土をおもいっきり擦る音が鳴り響く

いきなり消えたことに唖然とする観客は言葉が旨く出ず、後方に下がっている龍太郎や鈴達もいきなりのことで戸惑い、更に後ろに控えて観戦していた雫はなんとなく何が起きたのか分かったのか、なるほどと納得する。

 

「上手く挑発して、一直線に突撃してくれたおかげで上手く嵌まったわね。ナイスよ南雲!」

「あはは、どちらかというと白崎さんの魔法のおかげだと思うよ」

「ううん、そんなことないよ。錬成師の南雲くんがいなかったら、そもそもこの作戦は立てられなかったから」

天ノ河が消えたことで、この作戦の要だったハジメを賞賛するアリサと香織。ハジメは逆に自分ではなく香織こそが要だったと言うが、ハジメも香織もどちらも同じぐらいに重要な要だった。

 

お互いに賞賛する中、他のみんなが天ノ河がどこに行ったのか困惑する。その疑問に答えるのは、消えたはずの天ノ河だった。

 

「いっつ……!なんだこれは!?落とし穴!?こんなものが、どうしてこんなところにあるんだ!?」

 

天ノ河が消えたところからそんな大声が響く。

龍太郎も「光輝そこにいるのか」と聞こえるように叫ぶと、それに答えるように返事をする。

 

観客も、いなくなったわけではなく見えなくなっただけだとわかり、ほっとする中、優花がそういうことかと納得して口ずさむ。

 

「何か分かったの?優花っち。」

「あの天ノ河が消えたトリックよ。天ノ河は落とし穴っていったわよね。そんなの決闘前にはなかった。つまり決闘中に掘ったってこと」

「で、でもそんなのできるんですか?」

 

本当にそんなことがと一夏が疑問を投げるが、奈々や妙子、優花のパーティやメイドのミュゼ、ユーリはなるほどと納得した表情を見せる。

 

「アリサ達のパーティには、一人だけそれを可能とする人間がいるわ。それが南雲よ」

「南雲様は錬成師。鉱石や鍛冶に携わる職業ですが、穴を掘るということにも応用が利きますね。ですが穴は何所にも……」

「もしかして白崎の光魔法じゃねえか?」

 

優花の答えに付け足すように、ユーリがハジメの錬成師としての能力を付け足すが、落とし穴の表面が見えないことを考えると、そこの疑問を答えたのは玉井だった。

 

「ほら、白崎なら表面をカモフラージュして隠すことぐらい楽勝だろうしよ」

「そうね。玉井のいうとおりだわ。きっとアリサとすずかの作った水蒸気の煙も、その作業を隠すための一手に過ぎなかったんじゃないかしら?」

 

これは勝負あったかもねと、アリサ達の作戦が完全に上手くいき、戦況はアリサ達が有利と見る優花。

そんな中下がっていた龍太郎も、これは拙いと独断で前線へと向かう。

 

「さてと、三人で何とかしねぇぇぇぇぇっ!!!?」

 

これは天ノ河一人に任せた責任もあると、劣勢の中残った3人で何とかするかと意気込むが、踏み抜いた地面に飲み込まれるように、龍太郎も地面の中へと吸い込まれる。

あれだけアリサとすずかが天ノ河と交戦して時間を稼いだのだ。落とし穴が一つな訳がない。この訓練所には、複数の落とし穴が香織の魔法でカモフラージュされて存在していた。

その中の一つに龍太郎は嵌まった。因みに深さは7~10メートル。簡単によじ登って来れる高さではない

完全に前衛を失い、残ったのは鈴と恵里。

ど、どうすればと二人ともあたふたとするが、恵里はふと気づいた。

 

「だ、大丈夫だよ!鈴。多分至る所に落とし穴があって、あっちも身動きが取れない。なら私達は魔法で遠距離で……」

「ねえ、恵里……バニングスさん。こっちに跳んできてるよ」

「え?」

 

身動きが取れないならこっちに肉薄するつもりはないのだろうと、アリサ達の作戦を逆手に取って遠距離からの魔法攻撃を仕掛けようと鈴に向いて薦める恵里だが、アリサ達を見ていた鈴が指を指してアリサが近付いてきていると呟くと、恵里もアリサ達の居る方向を見る。

 

鈴のいうとおりアリサは近付いていた。だが、落とし穴に引っかからないように、走るのではなく火魔法を駆使して得た跳躍で、一気に鈴達の居る場所へ飛び越えてだ。

 

「あれなら落とし穴……意味ないよね……」

「…………」 

「よっと、さてと前衛二人はなくなったけど……まだやる?」

 

完全に黄昏れている鈴に言葉を失う恵里。そんな二人の目の前にアリサは着地すると、大剣の剣先を突きつけまだ戦うかと訪ねる。訪ねられた2人は言うまでもなく。

 

「「降参です」」

 

両手を挙げて降参し、アリサパーティ対天ノ河パーティの戦いはアリサ達の作戦勝ちに終わった。

 

 

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