次元世界の魔導士は最弱の錬成師と仲間達共に行く 作:ウィングゼロ
香織達がそれぞれの休日を満喫し、旅立ちを翌日に控えた夜。
魔法の力で明かりを照らす町並みの、ある宿屋に備え付けられた酒場のテーブル席で、ある三人が晩食に舌つづんでいた。
「いやぁ……ほんまあんま売れへんかったな」
「仕方あるまい。あまり知られていない鉱石などを売りに出していたんだ。奇怪に見られて売れないのは当初から分かっていたことだ」
「でもあの二人には好評だった」
長くはないがこの王都で露店を出していたことで、話の内容として売れ行きの話で談笑する三人。
しかしあまり取り扱っていない鉱石ばかりだということで売れ行きは伸びなかったが、それでもその鉱石の価値を見抜いたハジメやすずかに好評だったことを、少女が微笑んで答える。
「売れ行きに関しては仕方あるまい。あれはオルクスの誰も到達されていない下層で手に入れたものだ。一目で価値を判別することは難しいだろう」
「ほんまやな……仕入れてきたアームブラストや風帝には感謝しとかなな」
そう言いながら酒を飲む大人二人を見て、少女はふーんまあそっかと納得する。
そんな少女だが、少し目を細め腰に隠してある獲物に手を掛ける中、少し顔を後ろに向けると、そこには黒いフードコートで顔を隠している人物が立っていた。
「気配を殺して近付かないで欲しい」
「気を触ったみたいですね。そちらの二人は初めから気づいていたみたいですけど……同席、良いですか?」
「そこまで近付かれて気づかないとは、まだまだだなフィー」
「もうちょい精進しいやフィー。それと同席かまへんで氷帝」
「では失礼します」
そういって開いていた席に座る氷帝は、作業員に飲み物を頼むと、暫くして飲み物がやってきて、それを一口飲んだ後一息を吐く。
「お疲れみたいやな」
「ええ、それはもう……四六時中気が抜けない状況が続きますから」
「しかし、そのお陰で我々は怪しまれることはなかった。ステータスプレートと商売権利証の手配には感謝している」
「ほんま手際が良かったわ。苦労したんやないか?」
「ステータスプレートは隙を見て入手しましたし、登録と商売権利証に関しても、内政官に暗示を掛けて正式に認めさせましたから、怪しまれませんよ」
そこまで疲れてませんと、フードから見える表情から口を吊り上げる氷帝。
普通なら周囲に人がいる酒場でそんな話をするのは異常なことだが、周囲の人間はまるでそんな話は聞こえていないように気づくことはない。
暫く談笑する中、さてととゼノが呟くと、先程の緩んでいた目が真剣な眼差しに変わって氷帝に向けられる。
「それで、まさかそないな話するために接触してきたわけやないやんな?」
「まさか……本題はこっちです」
そういって氷帝の懐から取り出したのはUSBメモリー
それをゼノが受け取って見て良いか?と問うと、氷帝は頷いたので、持っていた小型情報端末に差し込み中にある情報を確認する。
「これは……」
「まだ骨組みだけど……大筋はこんなところだと思います」
「なるほどな……これはおもろいことになるんやないか?」
これは楽しみやなと、不敵な笑みを浮かべるゼノ。隣にいるレオも内容を見て興味を示している。
「それで……こちらに来るのはどれぐらいですか?」
「まあ、こっちに来て直ぐに王都に向かったから、無理はないわな」
「大凡1500人といったところだ。」
「……思っていたより多いですね」
「そこのところは纏め役が説得していた。その者達に感謝することだ」
人数を聞いた氷帝は、1500という数字に考えていた予想より上回る人数だったことに少し驚く中、レオが上に立つ立場の人間が説得してくれたと説明し、氷帝も内心で感謝し微笑みを浮かべる。
「所で他の選抜隊メンバーは?クロウと風帝の足取りは知っていますけど……後は神速と黒兎……」
「ああ、あの二人か……つい先日までは王都におったんやけど。先日の決闘を遠くから見てから興味が失せたみたいでな。ホルアドに向かうちゅうておらんようになったわ」
「ああ、そういうことですか」
なるほどと納得する氷帝は、行き先が分かっているなら問題ないかと二人の行動について押し黙る。
「それじゃあ、西風。本隊への連絡お願いしますね。流石に連絡しようにも遠すぎて繋がらないので」
「任せておけ」
「まあ、巻き込まれた身や。依頼主からの報酬も出してくれるんやから、問題もあらへん」
「そっちも頑張ってね」
そういって席を立つ三人は店員に金を渡すと、泊まっている二階の部屋へと階段を上っていく。氷帝もまた持っている飲み物を飲み干すと宿から出て行く。
香織達が旅立つ前夜に起きた出来事。これが何を示しているのかは……まだ彼らしか知り得ない